Q119 「死因贈与」と「遺贈」。生前に不動産登記できるのは?

【Question】

父が所有している土地について相談です。

父はS市に土地を所有しており、私は自分の事業のために、この土地を無償で借りています。

「生前に贈与するつもりはないが、相続の時に家族でもめないように『遺言』を書いてもかまわない」と、父は私に言ってくれます。しかし、確実に私のものになるように、できれば登記手続きをしたいのです。何か方法はありませんか。

 

【Answer】

遺言の中で、不動産を誰が相続するか定めていたり、遺贈したりする内容が書かれていたとしても、それを遺言者の存命中に、あらかじめ登記しておくことはできません
これらの内容は相続が発生しないと効力が確定しない(たとえば遺言はいつでも撤回できるほか、受け取る側が先に死亡する可能性もある)ため、生前に登記することが認められていないのです。

しかし、お父様との間で『死因贈与契約』を締結しておけば、始期付き所有権移転『仮』登記が可能になります。
これは、現段階では所有権を移さないものの、お父様にもしものことがあったときには所有権が移転するという仮の登記です(仮登記をするかしないかは自由です)。※注1

この仮登記をしておけば、たとえばお父様がこの不動産をあなたに知らせずに売却してしまうということは事実上困難になり、将来的にあなたのものになる確度が向上します。

 

なお、死因贈与契約においては、次の点にご注意ください。

(1)不動産を目的とする死因贈与契約の締結は、できるだけ公正証書で行う。 ※注2

(2)死因贈与契約の中で死因贈与契約執行者を定めておく。受贈者を執行者にしておくと良い

これらをしておかないと、相続発生後の登記手続き(本登記)において、贈与者の相続人全員の協力が必要(!!)になり、非常にやっかいです!

また、コストの問題もあります。

(3)死因贈与契約で不動産を取得した場合には、遺言による場合と異なり、受贈者が贈与者の相続人であっても不動産取得税がかかるほか、登記の際の登録免許税も高い(税率は固定資産税評価額の2%)。

 

※注1 この仮登記は基本的には贈与者と受贈者の共同で申請しますが、死因贈与契約を公正証書にしておくと登記の承諾条項が盛り込まれるため、受贈者が単独で登記申請可能になります(昭和54年7月19日民三4170)。

※注2 死因贈与契約書が公正証書ではなく私署証書である場合には、その効力発生時には贈与者が死亡しているため、契約が真正なものであるのか判明しません。そこで、このような死因贈与契約書を添付して死因贈与執行者によって所有権移転登記を申請する場合には、死因贈与者の印鑑証明書を添付する必要があり、それが無理ならばその相続人全員の印鑑証明書を付した承諾書を添付する扱いです(参考 登記研究486・21、566・131、566・132)。

 

 

【Reference】

死因贈与とは

自分の死後、財産をどうするかあらかじめ決めておく方法としては、遺言(遺贈等)という方法ががもっともポピュラーな方法です。
『遺言』は、相手の承諾を必要としないので、比較的自由に内容を決められる一方、財産を受け取る側に義務はなく、放棄の自由が認められている(Q108)等、拘束力は必ずしも強くありません。

同じような効果を発生させる方法として、死因贈与という方法もあります。
死因贈与は、贈与者の存命中に「私が死んだらこの財産をあげる」という約束だけをしておき、贈与者が死亡してはじめて効力が生じる贈与契約のことを言います。贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)との間で契約をするので、遺言に比べるとやや拘束力が強くなります。

 

死因贈与と遺贈の違い

死因贈与は遺贈とよく似ているため遺贈の規定が準用されます(民法554条)。
ただし、次の点を除きます

 

(1)契約の方式は、贈与者と受贈者が合意すれば自由(遺言の方式はとらない)

なお、死因贈与契約は、効力が生じた時点で当事者の片方(贈与者)が死亡しているという特性があるので、紛争防止のために公正証書にすることが多く、私たちも公正証書にするようにおすすめしておりますが、その場合でも遺言のように証人を立てる必要はありません。

(2)未成年者や行為能力制限者は、法定代理人の関与が必要

遺言は、満15歳で作成でき、行為能力が不十分でも作成できます(Q095)が、死因贈与は契約なので、法定代理人の関与が不可欠です。

(3)契約を遺言によって撤回できるが、制限がある

契約というものは相手方との約束なので、これを撤回・解除するには、普通は相手方の同意が必要になります。

しかし、死因贈与契約は遺言の規定を準用するとされているため、遺言の方式によって撤回することが認められています(民法544条が1022条・1023条を準用、昭和47年5月25日最高裁判決)。つまり、新しい遺言を書くことによって、既存の死因贈与契約を撤回することができてしまいます。

ただし、一定の場合には、撤回が認められないケースもあります。
たとえば、死因贈与契約に「親の面倒をみる」というような『条件』が付されていることがあります。このような契約を負担付き死因贈与契約というのですが、もらう側(受贈者)がこの条件をきちんと負担しているような場合には、贈与者が遺言によって一方的に契約を撤回することはできません( 昭和57年4月30日最高裁判決)。

条件だけ負担させておいて「あげないよ」というだまし討ちは認められないのです。

 

(参考)昭和47年5月25日最高裁判決より

「死因贈与については、遺言の取消に関する民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。けだし、死因贈与は贈与者の死亡によつて贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによつて決するのを相当とするからである。」

 

(参考)昭和57年4月30日最高裁判決より

「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重するの余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから、右贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法一〇二二条、一〇二三条の各規定を準用するのは相当でないと解すべきである。」

 

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2014年8月25日 | カテゴリー :

Q118 会社に遺贈する場合、税金はどうなる?

【Question】

私は、自分が経営している会社に、工場用地を貸しています。

遺言で、この工場用地を会社に遺贈したいと考えていますが、どのような税負担が発生することになるのでしょうか。

 

【Answer】

遺言で会社や法人に財産を遺贈することについて、法律上の制限は何もありません。

ただし、次のような点に注意が必要です。

1)もらった会社・あげた人の両方に、課税される可能性があります。
さらに、同族会社の場合には、他の株主課税が発生することもあります。

2)不動産の名義変更があるので、登記申請時に登録免許税も課せられます。会社への遺贈の場合には、相続人への遺贈の場合と異なり軽減措置がないため、不動産を会社に遺贈した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の2%となります。
さらに、不動産を相続人以外の第三者が遺贈によって取得する場合には、地方税として不動産取得税がかかります。
これらのコストは受遺者である会社の負担となりますので、注意が必要です。

3)税金とは別の話になりますが、遺留分を侵害するような遺贈は、受遺者と相続人との間で紛争化する危険があります。

このように、 会社に遺贈すると思わぬ税金がかかることがありますので、遺言作成の際にはくれぐれもご注意を。

 

【Reference】

個人から個人への遺贈の場合には、受遺者(もらった人)に相続税がかかります。

いっぽう、個人から会社・法人への遺贈の場合には、『相続税』こそかかりませんが、次のように課税のトリプルパンチを食らうおそれがあります。

もらった会社法人・・・・・・・法人税・住民税等(時価を益金算入)
あげた人・・・・・・・・・・・譲渡所得税(みなし譲渡所得課税)・住民税
同族会社の場合の他の株主・・・相続税

ただし、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。これは一般的には「寄付」と呼ばれます。

 

(1)もらった法人への課税

法人・法人が個人から遺贈を受けた場合、もらった会社・法人のほうでは、そのときの時価受贈益として収益に計上します(法人税法22条2項)。

そして、他の事業収益と通算して、法人税や住民税・事業税の対象になります。もっとも、法人税の繰越欠損金があるなら、受贈益が繰越欠損金以内の金額であれば、法人税は課税されずにすみます。

なお、遺贈の内容が不動産であるならば、もらった会社・法人は、不動産登記時の登録免許税や地方税である不動産取得税を負担しなければなりません。こちらは赤字会社でも必ず発生するコストです。

 

(2)あげた個人への課税

みなし譲渡所得課税』が適用されます。

個人が、土地や建物などの資産を会社・法人に遺贈した場合には、これらの資産は遺贈の効力発生時(相続開始時)の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から相続開始時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。これに伴い住民税も課税されます。

もっとも、遺贈した当の本人は死亡していますから、納付の手続きは相続人がすることになります。
具体的には、相続人が被相続人の所得について準確定申告(相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内)を行い、申告期限までに譲渡所得税を納税します(所得税法124条)。この所得税は被相続人の債務となりますから、相続税の計算においては、被相続人の相続財産から控除することができます

譲渡所得税は他の所得とは区分して申告分離課税となり、長期譲渡所得の場合、所得税は15%、住民税は5%となります。

タダで財産をあげたのに税金も支払わなければならないとは、なんとも納得がいかない話ですが、これは法人を利用した税金逃れを防止するために、財産を移転するときには含み益の部分を精算するという税法上の考え方によるものなのです。

時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合も同様に、みなし譲渡所得課税が行われます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。

もちろん、みなし譲渡所得課税が適用されるのは『含み益がある財産』ですから、含み益がない財産(含み損がある資産や現金資産)には譲渡所得税はかかりません。

なお、、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。いわゆる「寄付」のことです。

 

(3)同族会社の場合、他の株主に課税される

同族会社とは、簡単にいえば、株式の大半を親族によって保有されている会社のことです。

ある株主が同族会社に資産を遺贈すると、株価が上がります。
すると、上がった株価の分だけ、同族会社の他の株主はトクをします。これは見方を変えれば、財産を同族会社にあげた人は、他の株主に対しても、上昇した株価の分だけ財産を遺贈したのと同じことです。

そこで、株価の上昇分に相当する金額について遺贈により取得したものとして、同族会社の他の株主に相続税がかかることがあるのです(相続税法9条、相続税基本通達9-2)。

 
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2014年8月19日 | カテゴリー :

Q117 会社・法人に生前贈与するときの注意点は

【Question】

相続対策の一環として、私が創業した会社に、今のうちに事業用地を生前贈与しておきたいと考えています。どのような問題があるでしょうか。

 

【Answer】

贈与契約を締結して会社・法人に財産を生前贈与することは、法律上は可能です。

ただし、次のような点に注意が必要です。法人が贈与の当事者になる場合には、慎重のうえにも慎重を重ねる必要があります

1)もらった会社・あげた人の両方に、課税される可能性があります。
さらに、同族会社の場合には、他の株主課税が発生することもあります。

2)遺留分を侵害するような生前贈与は、相続発生後に紛争化する危険があります。

3)不動産の名義変更があるので、登記申請時に登録免許税も課せられます。軽減措置がないため、不動産を生前贈与した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の2%であり、これはコストとしては大きいものです。また、不動産の贈与ですから不動産取得税もかかります。

 

 

【Reference】

個人から個人への生前贈与の場合には、受贈者(もらった人)に贈与税がかかります。

いっぽう、個人から会社・法人への生前贈与の場合には、『贈与税』こそかかりませんが、次のように課税のトリプルパンチを食らうおそれがあります。

もらった会社法人・・・・・・・法人税・住民税等(時価を益金算入)
あげた人・・・・・・・・・・・譲渡所得税(みなし譲渡所得課税)・住民税
同族会社の場合の他の株主・・・贈与税

ただし、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。これは一般的には「寄付」と呼ばれます。

 

(1)もらった法人への課税

法人が個人から生前贈与を受けた場合、もらった法人のほうでは、そのときの時価受贈益として収益に計上します(法人税法22条2項)。

そして、他の事業収益と通算して、法人税や住民税・事業税の対象になります。

 

(2)あげた個人への課税

みなし譲渡所得課税』が適用されます。

個人が、土地や建物などの資産を会社・法人に生前贈与した場合には、これらの資産は贈与時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から贈与時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。これに伴い住民税も課税されます。

他の所得とは区分して申告分離課税となり、長期譲渡所得の場合、所得税は15%、住民税は5%となります。

タダで財産をあげたのに税金も支払わなければならないとは、なんとも納得がいかない話ですが、これは法人を利用した税金逃れを防止するために、財産を移転するときには含み益の部分を精算するという税法上の考え方によるものなのです。

時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合も同様に、みなし譲渡所得課税が行われます(同2号、所得税法施行令169条)。

もちろん、みなし譲渡所得課税が適用されるのは『含み益がある財産』ですから、含み益がない財産(含み損がある資産や現金資産)には譲渡所得税はかかりません。

なお、、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。いわゆる「寄付」のことです。

 

(3)同族会社の場合、他の株主に課税される

同族会社とは、簡単にいえば、株式の大半を親族によって保有されている会社のことです。

ある株主が同族会社に資産を生前贈与すると、株価が上がります。
すると、上がった株価の分だけ、同族会社の他の株主はトクをします。これは見方を変えれば、財産を同族会社にあげた人は、他の株主に対しても、上昇した株価の分だけ財産をあげたのと同じことです。

そこで、株価の上昇分に相当する金額について贈与により取得したものとして、同族会社の他の株主に贈与税がかかることがあるのです(相続税基本通達9-2)。

これに似たようなケースは、非常によくあります。
資産を会社・法人に贈与する場合だけではなく、会社・法人に対する貸付金を放棄(債権放棄)した場合や、増資を行う場合には、必ず株価が上下しますので、他の株主との関係で贈与税に注意する必要があります。

 

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2014年8月7日 | カテゴリー :

Q116 贈与税の税率は何パーセント?(暦年課税)

【Question】

生前贈与を受ける予定です。贈与税がかかると思いますが、税率は何パーセントですか?

 

【Answer】

相続時精算課税制度などの特例を利用しない場合には、基礎控除額:年110万円を超える贈与を受けた場合には、贈与税の申告をする義務があります(暦年課税制度)。

暦年課税制度による贈与税の申告をする場合、まず、 1年間に贈与によってもらい受けた財産の価格を合計します(課税価額)。
このとき、土地のように価格がわかりにくいものについては、通常は相続税評価額を利用して価格を出します。

課税価額から基礎控除110万円を差し引き、これに贈与税の速算表の税率を掛けあわせることによって贈与税額を求めることができます。
基本的に、贈与額が大きくなればなるほど税額が上がる『累進課税』です。

贈与税の速算表等、くわしくは下記をご覧ください。
なお、2015年1月以降の贈与については税制の改正があります

 

【Reference】

暦年課税制度による贈与の場合、課税価額を計算した上で速算表にあてはめれば計算することができます。

 

(1)課税価額を計算する

贈与を受けた年の1月1日から12月31日までの1年間に、贈与によってもらった財産の価額を合計します。これが課税価額です(千円未満切り捨て)。

複数の人から贈与によってもらった財産があれば、すべて合計する点に注意してください。
たとえば、父親から2月1日に200万円、さらに9月1日に200万円、母親から11月20日に300万円もらったならば、200万+200万+300万=700万円が課税価額となります。

なお、贈与によってもらった財産が金銭でない場合、相続税評価額で評価して課税価額を算出します。たとえば市街化区域の土地ならば路線価によります。

 

(2)贈与税額を計算する

課税価額を計算したならば、次に贈与税額の計算に移ります。

まず、基礎控除110万円をマイナスします(相続税法21条の5、租税特別措置法70条の2の3)。
1年間に複数の人から贈与を受けた場合でも、控除できる基礎控除額は贈与した人の人数に関わりなく110万円のみです。ご注意ください。
前記(1)の例では、700万円-110万円=590万円となります。

これを贈与税の速算表にあてはめます。
まず速算表の税率を掛けあわせ、速算表の控除額をマイナスすれば、贈与税額が計算できます(税額は百円未満切り捨て)。
計算式(贈与税)

贈与税の速算表は次のとおりです。ただし、2015年1月1日以後になされた贈与については、新しい速算表を使用してください。
贈与税速算表2014まで

 

贈与税2015から一般贈与税2015から直系尊属型

上記(1)の、700万円贈与を受けた事例で計算してみましょう。
まず、課税価額700万円から基礎控除額110万円を引くと、590万円。
これを上記の表にあてはめます。

2014.12.31まで
590万円×30%-65万円=112万円

2015.1.1から
a)原則
590万円×30%-65万円=112万円で変わらず。
b)20歳以上の者への直系尊属からの贈与の場合
590万円×20%-30万円=88万円

この例からわかることは、2015年からは、「20歳以上の者への直系尊属からの贈与」については、税額が下がるということです。
これは、消費することが少ない比較的ご年配の方から、消費することが多い現役世代に資産を移転することをうながし、経済を活性化させようという政府の狙いがあるためです。

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2014年8月5日 | カテゴリー :

Q115 相場より低い価格で息子に土地を譲ったら(低額譲渡・親族間)

【Question】

相続対策の一環で、私が所有している土地の一部(時価5,000万円相当、路線価4,000万円相当)を、息子に譲ろうと考えています。

タダで譲ると贈与税が高いので、息子には2,000万円でこの土地を売却しようと思いますが、問題はありますか。

 

【Answer】

まず、贈与税の問題があります。

この取引によって息子さんは、時価5,000万円の土地を2,000万円で買うわけですから、実質3,000万円のトクをすることになります。
取引そのものは「売買」であって「贈与」ではありませんが、この3,000万円は贈与されたものとみなされて、贈与税が課税されるおそれがあるわけです。

また、相続対策としても不十分です。

相続対策としてこのような低額譲渡を息子さんとの間で行うと、他の相続人との関係では、時価との差額については贈与されたのと同じことですから、これが特別受益とされてしまい、相続の際に息子さんの取り分が少なくなる可能性があります。これを防ぐには、遺言を作成するか、または「持ち戻し免除の意思表示」をしておくべきです。
なお、低額譲渡も実質的には贈与である以上、遺留分減殺の対象になる可能性があり、こちらにも注意が必要です。

 

【Reference】

本件のご相談者の場合は、確かにこの土地をタダで「贈与」すれば、路線価が4,000万円とのことですから、これに対して贈与税が課税されます(時価が5,000万円でも、贈与税の計算上は相続税評価額を利用します)。

だからと言って、タダで「贈与」するのではなく、時価5,000万円の土地を2,000万円で「売買」したとしても、息子さんは実質的に差額3,000万円のトクをしたものとして、 贈与税を納めなければなりません。

このように、取引内容そのものは「売買」であって「贈与」ではない場合でも、実質的に贈与を受けたのと同じ利益がある場合には、贈与があったとみなされて贈与税が課税される仕組みが『みなし贈与課税』です。低額譲渡はその典型的なものの一つです(注)。

一般の贈与の場合には、当事者が贈与であるということを認識しているので、特に問題なく贈与税の申告をするのが通常だと思います。
ところが、低額譲渡の場合は、当事者は「売買」であると認識していますから、税務署からみなし贈与と指摘されて初めて気づくことが多いものです。
低額譲渡の際は、贈与税にくれぐれもご注意下さい。

 

なお、贈与税額を計算する際の財産評価は、通常は相続税評価の方法で行いますが、低額譲渡の対象となった不動産や上場株式については、通常の取引価額(時価)で評価することになっているので要注意です。

 

(注)資力を喪失して債務を弁済することが困難な人が、その債務を返済するために扶養義務者から低額で買った財産については、特別に贈与とはみなされないとされています(相続税法7条)。

 

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2014年7月25日 | カテゴリー :

Q114 贈与税の意味と、贈与税の基本的な仕組みとは

【Question】

自分が元気なうちに財産を家族に無償で与えると、受け取った家族が多額の贈与税を負担しなければならないと知りました。

そもそも、どうして、財産をタダでもらうと高い税金を払わなければいけないのでしょうか。また、贈与税の基本的な仕組みを教えて下さい。

 

【Answer】

贈与税の目的は、「相続税逃れを防ぐこと」にあるとされています。

亡くなった人の財産を受け継ぐときには、『相続税』がかかります。
あるていど資産がある方が亡くなった場合には、その資産に応じて税金を課す仕組みになっています。

もしも『相続税』の仕組みだけがあって『贈与税』の仕組みがなければ、生前にすべての財産を誰かにあげてしまえば、税金をまったく払わずに済んでしまいます。これでは相続税という仕組みを作った意味がありません。

そこで、相続税逃れを防ぐために、贈与税という仕組みが設けられているのです。
そのため、贈与税は『相続税法』という法律の中に定めがあり、『贈与税法』という法律は存在しません。

(もちろん、「タダでもらったのだから、税金を課してもいいだろう」という考え方に基づいていることを否定はしません。もし、仮に相続税が廃止されたとしても、贈与税が廃止されることはないでしょうから。)

 

贈与税については、贈与された物の価額が1年間で110万円を超える場合には、贈与税の申告をする義務があります。

贈与税は原則として、贈与で受け取ったすべての財産にかかります。対象となるのは、現金・不動産・有価証券・貸付金など、現金に換算できるものすべてです。

 

【Reference】

贈与税の申告義務がある人

個人から個人が、年間110万円の基礎控除額を超える財産をもらったときに、財産をもらった人は国に贈与税を納める義務があります。

年間110万円を超える財産をもらった人は、贈与税の申告をしなければなりません。

なお、土地のように財産の価格がはっきりしないものについては、相続税評価額で評価して税額を計算するのが原則です(負担付贈与等については例外がある)。

また、『死因贈与』『遺贈』については相続税の対象となり、贈与税の対象ではありません。

 

贈与税についての注意点

 

(1)当事者間で「あげます」「もらいます」という合意がなければ贈与にならない

たとえば、子供のために、内緒で子供名義の預金をしていても、それは贈与にならず、子供から名義を借りているだけの自分の預金です(『名義預金』といいます)

 

(2)1月1日から12月31日までの1年間でもらったものすべての金額を合計して、110万円を超えれば贈与税を申告

たとえば、Aさんが、父親から、2月1日に100万円、5月15日に100万円をもらったならば、年間で110万円を超えるので贈与税の申告をしなければなりません。

また、Aさんが、ある年に父親から100万円を、同じ年に母親から100万円をもらった場合、二人からもらった金額の合計が110万を超えるため、贈与税の申告が必要です。

 

(3)贈与者・受贈者ともに贈与と認識していなくても、贈与税がかかる場合がある

当事者が贈与ではないと考えていても、次のような場合には実質的に贈与であるとみなされ、贈与税の課税対象になります(みなし贈与)。
(例)
・有償だが、時価よりもいちじるしく低い金額で、財産を譲り受けた場合(低額譲渡
・債務の免除を受けた場合
・生命保険や損害保険で、他人が保険料を負担していた場合に、保険金を受け取った場合
(ただし、相続人が死亡保険金を受け取った場合はみなし相続税として相続税の対象)
・個人年金保険などの定期金について、他人が掛金を負担していた場合に、年金を受け取った場合
(夫が妻の個人年金保険の掛金を負担し、妻が年金を受け取った場合など)

 

(4)反対に、贈与であっても課税されない財産がある

社会通念から見て贈与税を課すのが適当でない場合には、贈与税が課税されません(贈与税の非課税財産)。

 

(5)贈与税が課されるのは個人から個人への贈与

『個人から会社』への贈与の場合はもらった会社に法人税等がかかり、あげた人に譲渡所得税がかかります(Q117)。
『会社から個人への贈与』の場合は、所得税がかかります。

 

贈与税の申告と納付

 

申告する人:財産をもらった人(受贈者)
申告期限:贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日
納税期限:申告期限と同じ
申告場所:受贈者の住所地を管轄する税務署
提出書類:贈与税の申告書

贈与税の納税義務者

 

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2014年8月1日 | カテゴリー :

Q113 贈与の種類と税金の関係は

【Question】

相続税が上がると聞き、私の財産は、自分が元気なうちに息子たちに分け与えておこうと考えています。

契約書などは作らず、息子たちには内緒で財産の名義だけを変えておくことは可能でしょうか。また、税金はどうなるのでしょうか。

 

【Answer】

お元気なうちに財産を無償で息子さんたちに与えるならば、これは『贈与生前贈与』)にあたります。

贈与は、民法上は『契約』とされており、「あげます」「もらいます」と当事者間で合意しなければ成立しません。そのため、息子さんたちが知らないうちに内緒で財産を与えただけでは、法律上は贈与が成立しません。贈与が成立しなければ、あなたに万が一のことがあれば、財産は遺産の一部として遺産分割の対象になります。
生前贈与によって不動産の名義変更をするにも、もらう人の協力が不可欠です。

税金については、個人間で財産の無償譲渡を行った場合には、もらった人に贈与税がかかります。

贈与税の税率は相続税よりもずっと高く設定されているので、ある程度まとまった財産を生前贈与する場合には、相続時精算課税制度等の特例を利用するのが一般的です。

なお、相続による紛争を防止するためにあらかじめ特定の財産を生前贈与しても、特別受益の持ち戻しや遺留分減殺請求の対象にはなります。ご注意ください。

 

【Reference】

贈与とは

贈与とは、当事者の一方(贈与者)が、財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し、相手方(受贈者)がこれを承諾することによって成立する契約です。

したがって、当事者間で「あげます」「もらいます」という合意がなければ贈与になりません。たとえば、子供のために、内緒で子供名義の預金をしていても、それは贈与にならず、子供から名義を借りているだけの自分の預金として、万一の際には相続税の対象になってしまいます(このような預金を『名義預金』といいます)。

なお、法律上、贈与契約を書面によって行う必要はありません。いわゆる口約束でも贈与契約は成立します。

ただし、後日の紛争を防止するために、書面によらない贈与は(履行前ならば)いつでも取り消しできるとされていますし、贈与が成立したかどうかについて税務当局の誤解を招かないためにも、きちんと贈与契約書を作成しておくべきです。

 

贈与の種類

贈与契約は、一般的には『生前贈与』『死因贈与』『負担付贈与』と分類できます。

(1)生前贈与

贈与者が生存しており、受贈者側になんらの負担も求めていない場合の贈与契約です。

通常「贈与」といえば、この生前贈与のことを指します

個人間の生前贈与の場合には、贈与税の対象になります。
贈与税については別のQ&Aで触れていきますが、年間で贈与された一切のものの価格の合計が110万円を超えた人は、贈与税の申告をする義務があります。

土地のように財産の価格がはっきりしないものについては、相続税評価額で評価して税額を計算します。

 

(2)死因贈与

贈与者が生存中に贈与契約をするものの、贈与者が死亡することによってはじめて贈与の効果が生じる契約のことを、『死因贈与』といいます。

遺言で自分自身の財産を一方的に処分する「遺贈」と似ていますが、死因贈与は生前贈与と同様に贈与者・受贈者の合意が必要であり、より強い効力があります。ただし贈与者が死亡することによって効力が生じると言う点では同じですから、法律の上では遺贈の規定が数多く準用されています。

また、税金の上でも、死因贈与は遺贈に準じて相続税の対象になります。
名前こそ死因「贈与」ですが、贈与税ではなく相続税なのです。
相続税の対象である以上、受贈者が、被相続人の配偶者及び一親等の血族(代襲相続人を含む)以外の人である場合には、相続税額が2割加算されます。

 

(3)負担付贈与

受贈者が一定の義務を負担することを条件にして財産が贈与されることを『負担付贈与』といいます。たとえば「老後の面倒をみてくれるなら財産を与える」というようなものです。

税金については(1)の生前贈与・(2)の死因贈与と同じように考えます。
つまり、個人から負担付生前贈与を受けた人(個人)には贈与税が、負担付死因贈与を受けた人には相続税がかかります。

ただし、単純な生前贈与・死因贈与の場合と異なり、負担付贈与の場合には、土地のように財産のはっきりしないものについては、相続税評価額ではなく通常の取引価額(時価)で評価するという点が大きく異なります。
これは、かつて横行した節税テクニックを防止するためなのですが、これについても別項目で具体例をあげて説明します。

 

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2014年7月30日 | カテゴリー :

Q112 税理士に相続税申告を依頼したら、費用はどのくらい?

【Question】

父が亡くなりました。
遺産総額が相続税の基礎控除を超える ので、相続税の申告を税理士さんにお願いしようと考えています。どのくらい費用がかかるものなのでしょうか。

 

【Answer】

税理士報酬については、今では司法書士や弁護士などと同じく報酬基準が廃止されており、事務所によって費用はまちまちです。

そのためあくまでも参考でしかありませんが、相続税について、廃止される前の税理士報酬基準を、下のReferenceにご紹介するにとどめます。

こちらをご覧いただくとお分かりになると思いますが、相続税申告を税理士に依頼した場合、支払う報酬は決して安くはありません。
すべての遺産を現金におきかえた場合の遺産総額が一億円程度であったとして、ちょっとした軽自動車が買えるくらいはかかります
遺産を適正に評価した上で法定期限内に申告しなければならないのですから、やはり専門家の費用はそれなりに高いのです。
今は報酬が自由化されていますから、とても安く引き受ける事務所もあるかもしれませんが、なぜ安いのかについては注意する必要があります。

なお、税理士の先生が全員、相続税に精通しているわけではありません。司法書士や弁護士と同様、税理士の先生も専門分化が進んでいます(注)。そのため、税理士の先生にいっさいをお任せするのであれば、実績のある事務所に依頼するのが安心です。

また、これはどんな商売についても言えることですが、派手な広告宣伝や、危機感をあおるような誘い文句には、くれぐれもご注意ください

 

(注)平成24年分の相続税申告書提出件数は全国で約5万2千件(国税庁発表)、同時期の税理士数は全国で約7万3千人(日本税理士会連合会発表)ですから、年間に一度も相続税申告をしていない税理士の先生もたくさんいます。

 

 

【Reference】

旧税理士報酬規定(東京地方税理士会)の一部です。
なお、この規定は平成14年に廃止されており、税理士報酬は現在では自由化されています。ここから先はあくまでも『参考』でしかありません。

なお、消費税は別です。

 

第2 税務代理報酬

5.相続税

基本報酬額100,000円に、次の基準による報酬額を加算する。

【遺産の総額】 【加算額】
 5,000万円未満    200,000円
 7,000万円 〃    350,000円
     1億円 〃    600,000円
     3億円 〃    850,000円
     5億円 〃  1,100,000円
     7億円 〃  1,350,000円
    10億円 〃  1,700,000円
 10億円以上  1,800,000円
 1億円増すごとに  100,000円を加算

【加算報酬】

(1)「遺産の総額」に係る報酬額については、共同相続人(受遺者を含む。)1人増すごとに10%相当額を加算する。

(注:共同相続人が妻・子・子の3人ならば、30%加算される)

 

(2)財産の評価等の事務が著しく複雑なときは、基本報酬額を除き、100%相当額を限度として加算することができる。

 

 

第5 税務相談報酬

1.口頭によるもの 1時間以内 20,000円
【加算報酬】
1時間を越えたときは、1時間につき10,000円を加算する。

2.書面によるもの 125,000円

(注:相談してみた結果、相続税が発生しない場合には、こちらの相談報酬だけ)

 

 

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2014年7月23日 | カテゴリー :

Q111 故人の預金口座の取引経過は、相続人の1人から開示請求できるか

【Question】

実家の父が亡くなり、一番上の兄が遺産を管理しています。
その兄から、遺産のうち預金については、A銀行・B銀行・C信用金庫の3行に口座があると聞きました。しかし私の記憶では、D銀行とも取引があったはずです。

父がD銀行に口座を持っていたかどうか、兄が調べようとしない場合には、兄や他のきょうだいの協力なしに、私一人でD銀行に照会することはできますか。

 

【Answer】

預金について、残高証明の請求や取引経過の開示請求については、共同相続人の1人からでも可能です。
これについては最高裁の判決もありますので、今では相続人全員で請求するように指示されることは少ないと思いますが、万が一そのようなことを窓口で言われても、あきらめることはありません。どうしても埒が明かなければ、専門家にご相談ください。

 

【Reference】

預金口座の取引経過は相続人の1人から開示請求できる

遺産相続にあたっては、被相続人が有していた預貯金の残高や取引経過を正確に把握しないと、適切に処理できない場合があります。
たとえば、被相続人が亡くなる直前に、葬儀代等にあてるため近親者によって預金が引き出されることはよくありますし、特別受益にあたる生前贈与が確認できることもあります。

そのため、被相続人の預金口座等について、相続人から残高証明の請求取引経過の開示請求をする必要が生じることがあります。

これらは預金者のプライバシーに関わることなので、金融機関が開示に慎重であることは当然なのですが、相続が発生した場合に共同相続人の1人からこれらを請求できるのか、それとも共同相続人全員で請求する必要があるのか、以前は対応がわかれていました。

これについては平成21年1月22日最高裁判決で、「預金者の共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる」という結論が下され、一応の決着を見ました。

従いまして、相続人の1人からでも、戸籍謄本等によって被相続人の相続人であることを証明し、印鑑証明書や身分証明書によって本人確認ができれば、金融機関は請求に応じて残高証明や取引履歴を発行してくれるはずです。万一応じてくれない場合でも、専門の部署に問い合わせたり、専門家を通じて話をしたりすれば、まず開示してくれるでしょう。

ただし、開示請求の態様や、開示を求める対象範囲等によっては、預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用にあたるとされ、拒絶される場合があります。

 

参考 平成21年1月22日最高裁判決(民集 第63巻1号228頁)

「預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。」

 

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Q110 「相続分がないことの証明書」「特別受益証明書」とは

【Question】

半年前に父がなくなりました。
父の遺産を一番上の兄が相続することに、私としては異議がないのですが、その兄から「相続分がないことの証明書」というものが郵送されてきました。

兄の話では、これに署名して実印を押し、印鑑証明書を添付して送り返してほしいということですが、書類の意味が良く分からず、署名捺印するべきか悩んでいます。

 

【Answer】

その書類は、あなたがお父様から生前に前倒しで財産をもらいうけていて(生前贈与)、その生前贈与財産の価値が本来の相続分を超えてしまっているので、今回の相続については取り分が残っていないことを認めます、という書類です。

法定相続分を超えるような生前贈与を受けていたのが事実であれば問題ありませんが、そのような事実がないのであれば、事実に反する書類に署名捺印することには、やはり問題があります。

遺産を相続するおつもりがないとのことですし、お兄様にも悪意はないのだろうと推察しますが、トラブルを防ぐためにも『遺産分割協議書』等の正当な書類に替えてもらうように働きかけてみてください。

また、遺産の中に債務(負債)が多いようなら、『家庭裁判所での相続放棄』手続きを検討すべきです。

 

 

【Reference】

故人から相続人へ土地や建物の名義変更(相続登記)をする目的で、相続人の一人が他の相続人に、『相続分がないことの証明書』とか『特別受益証明書』という書類に署名捺印するように求めることがあります。

この書類があれば、家庭裁判所の相続放棄手続きや遺産分割協議を省略して、相続による不動産の名義変更ができてしまいます
そこで、手続きを簡単にするという目的のために利用されているケースが少なくありません。

しかし、その書類の内容を大まかにいえば、「(故人の)生前に相続分を超える財産の贈与を受けていたので、相続分はありません」というものです。これは何を意味しているのでしょうか。

民法には、生前贈与を遺産の前渡しとする考え方があり、これを特別受益といいます。

この特別受益について、民法903条2項では、「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」と定められており、遺産の前渡しとして生前贈与された財産が本来の相続分よりも多ければ、当然ながら相続の際に取り分は残っていないということになります。

『相続分がないことの証明書』・『特別受益証明書』は、この仕組みを利用しているわけです。

実際に相続分を超えるような生前贈与を受けているならば別ですが、贈与を受けていないのに贈与を受けたとして署名捺印することには、相続人間のトラブルや、相続債権者からの取り立てを受ける等のリスクを伴います。

痛くもない腹を探られないためにも、正式な遺産分割(または家庭裁判所の相続放棄)の手続きをとることをおすすめします。

 

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