Q117 会社・法人に生前贈与するときの注意点は

【Question】

相続対策の一環として、私が創業した会社に、今のうちに事業用地を生前贈与しておきたいと考えています。どのような問題があるでしょうか。

 

【Answer】

贈与契約を締結して会社・法人に財産を生前贈与することは、法律上は可能です。

ただし、次のような点に注意が必要です。法人が贈与の当事者になる場合には、慎重のうえにも慎重を重ねる必要があります

1)もらった会社・あげた人の両方に、課税される可能性があります。
さらに、同族会社の場合には、他の株主課税が発生することもあります。

2)遺留分を侵害するような生前贈与は、相続発生後に紛争化する危険があります。

3)不動産の名義変更があるので、登記申請時に登録免許税も課せられます。軽減措置がないため、不動産を生前贈与した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の2%であり、これはコストとしては大きいものです。また、不動産の贈与ですから不動産取得税もかかります。

 

 

【Reference】

個人から個人への生前贈与の場合には、受贈者(もらった人)に贈与税がかかります。

いっぽう、個人から会社・法人への生前贈与の場合には、『贈与税』こそかかりませんが、次のように課税のトリプルパンチを食らうおそれがあります。

もらった会社法人・・・・・・・法人税・住民税等(時価を益金算入)
あげた人・・・・・・・・・・・譲渡所得税(みなし譲渡所得課税)・住民税
同族会社の場合の他の株主・・・贈与税

ただし、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。これは一般的には「寄付」と呼ばれます。

 

(1)もらった法人への課税

法人が個人から生前贈与を受けた場合、もらった法人のほうでは、そのときの時価受贈益として収益に計上します(法人税法22条2項)。

そして、他の事業収益と通算して、法人税や住民税・事業税の対象になります。

 

(2)あげた個人への課税

みなし譲渡所得課税』が適用されます。

個人が、土地や建物などの資産を会社・法人に生前贈与した場合には、これらの資産は贈与時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から贈与時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。これに伴い住民税も課税されます。

他の所得とは区分して申告分離課税となり、長期譲渡所得の場合、所得税は15%、住民税は5%となります。

タダで財産をあげたのに税金も支払わなければならないとは、なんとも納得がいかない話ですが、これは法人を利用した税金逃れを防止するために、財産を移転するときには含み益の部分を精算するという税法上の考え方によるものなのです。

時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合も同様に、みなし譲渡所得課税が行われます(同2号、所得税法施行令169条)。

もちろん、みなし譲渡所得課税が適用されるのは『含み益がある財産』ですから、含み益がない財産(含み損がある資産や現金資産)には譲渡所得税はかかりません。

なお、、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。いわゆる「寄付」のことです。

 

(3)同族会社の場合、他の株主に課税される

同族会社とは、簡単にいえば、株式の大半を親族によって保有されている会社のことです。

ある株主が同族会社に資産を生前贈与すると、株価が上がります。
すると、上がった株価の分だけ、同族会社の他の株主はトクをします。これは見方を変えれば、財産を同族会社にあげた人は、他の株主に対しても、上昇した株価の分だけ財産をあげたのと同じことです。

そこで、株価の上昇分に相当する金額について贈与により取得したものとして、同族会社の他の株主に贈与税がかかることがあるのです(相続税基本通達9-2)。

これに似たようなケースは、非常によくあります。
資産を会社・法人に贈与する場合だけではなく、会社・法人に対する貸付金を放棄(債権放棄)した場合や、増資を行う場合には、必ず株価が上下しますので、他の株主との関係で贈与税に注意する必要があります。

 

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2014年8月7日 | カテゴリー :