Q108 お世話になった人に財産をのこすには(遺贈)

【Question】

私には妻も子もおらず、親族としては妹とその家族しかいません。

そこで、私が死亡したら、財産はいろいろとお世話になったAさんに残したいと考えています。どのような手続きをすれば良いのでしょうか。

 

【Answer】

次のどちらかの方法が考えられます。

(1)遺贈・・・・・遺言を作成して、Aさんに財産を遺贈する。
(2)死因贈与・・・Aさんと死因贈与契約を締結する

(1)は一人でできます。
(2)だと、相手のAさんの承諾が必要です。

今回のようなケースでは、一般的には(1)の遺贈を利用することが多いと思います。

注意点としては、必ず遺言の中で遺言執行者を指定してください。遺言で遺言執行者を定めておかないと、Aさんに遺産を渡す手続きをあなたの相続人(妹さん)が行うか、または家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう必要がでてきてしまいます。
同様に、(2)の死因贈与契約の場合でも、契約書の中で死因贈与執行者を定めておくべきです。

なお、ご相談者様の場合には遺留分は問題になりませんが(兄弟姉妹には遺留分がない)、遺留分権利者がいる場合には、その遺留分を侵害する遺贈・贈与はできない点に注意が必要です。

 

 

【Reference】

相続人ではない第三者に遺産を与えるには、『遺贈』という方法があります。

『遺贈』については本Q&Aでも何度か触れていますが、ここで整理してみます。

 

『遺贈』とは?

遺贈とは、遺言を利用して、ある人に無償で財産を与えることをいいます。

遺贈を受ける人のことを、『受遺者』と呼びます。

『遺贈』とよく似た方法に『死因贈与契約』というものがありますが、遺贈は遺言者が単独ででき(死因贈与は契約なので相手方の承諾が必要)、方法は遺言を利用しなければなりません(死因贈与は遺言ではできない)。

なお、遺贈は、個人でも法人でも誰にしてもすることができますが、相続人の遺留分を侵害することはできません(民法964条但し書き)。

 

遺贈の種類

遺言で、相続人ではない人や団体に財産を与えると書けば、それは『遺贈』になります。遺贈にも2つの方法があります。

1つは、「Aさんに遺産の2分の1(あるいは全部とか3分の1とか)を遺贈する」というように、割合で定めて一括して与える方法で、これを”包括遺贈”といいます。
包括遺贈を受けた人(包括受遺者)は、相続人と同じ権利義務を負い(民法990条)、他の相続人とともに遺産分割に参加し、遺言で定められた自己の割合を主張することになります。もめることが当然に予想されますので、他に相続人がいる場合にはあまり利用されません。
また、遺言者に借金などのマイナスの財産があれば、包括受遺者も遺贈の割合に従ってこれを負担しなければなりません。
なお、包括受遺者は相続人そのものではないので、代襲や遺留分は認められません

もう1つは、「Bさんにどこそこの家屋を遺贈する」というように具体的な財産を指定して遺贈する方法で、これを”特定遺贈”といいます。

なお、”相続人に対する遺贈”も間違いではありません。遺贈は、相続人ではない人に対しても相続人に対しても行うことができます。
もっとも、相続人に対して特定遺贈をした場合には、実質的には民法908条の遺産分割方法の指定として扱われます(ただし、不動産登記の手続きは遺贈の方式による)。

なお、受遺者に一定の義務を課す負担付遺贈という区別もあります。この負担付遺贈ついては、Q104をごらんください。

 

受遺者の要件

(a)遺言者の死亡以前に受遺者のほうが先に死亡していた場合

遺言者の死亡以前に受遺者のほうが先に死亡していた場合、遺贈は無効になります。
ただし、受遺者が死亡していた場合にどうするか、その取り扱いを別に記載しておけば、その記載に従います。詳しくは Q106 をごらんください。

(b)胎児は生まれたものとみなされる

胎児はすでに生まれたものとみなされ、受遺者になることができます(民法965条、886条)。
ただし、死産の場合には、遺贈は無効になります。

 

遺贈の承認・放棄

(a)包括遺贈の場合

包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので、遺贈を放棄するには、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内家庭裁判所に放棄の申述をする必要があります。限定承認も同様です(民法915条, Q078 )。

(b)特定遺贈の場合

受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも特定遺贈を放棄することができます(民法986条1項)。方式は定められていないので、遺贈義務者である遺贈者の相続人または遺言執行者に対し意思表示をするだけで、特定遺贈は放棄できるのです。

もっとも、期間制限が無いので、利害関係者はいつもでも不安定な立場に置かれてしまいます。そこで、相続人や遺言執行者の側から、相当の期間を定めて催告し、その期間内に回答が無い時は特定遺贈を承認したものとみなされる制度があります(民法987条)。

 

 

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2014年7月8日 | カテゴリー :