Q062 個人年金の受給開始後に、被保険者や受取人が死亡した場合の課税は?

【Question】

個人年金保険の年金を受給していた夫が亡くなりました。

65歳から年金支給が開始される10年確定年金で、3年分を受け取った時点で死亡しました。
保険契約者=被保険者=年金受取人はいずれも夫でした。なお、継続受取人は妻である私に指定されています。

この年金についての税金はどうなるのでしょうか。
また、年金形式で受け取る場合と一時金で受け取る場合とで、違いはあるのでしょうか?

 

【Answer】

10年確定年金とのことですので、あなたはあと7年間分の年金を受け取る権利を得たことになります。

まず、継続受取人の指定があれば、民法上は、一般の死亡保険と同じく本来の相続財産には含まれず、遺産分割の対象にならないと考えられます。

 

次に税金の点ですが、年金形式で受け取るか一時金で受け取るかによって違いがあります。

年金で受け取る場合には、最初にご主人が亡くなった時点で、「年金受給権の評価額」が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(Q060 定期金に関する権利の評価方法)。ただし、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません
さらに、年金形式で受け取ると、毎年受け取る年金の一部が雑所得として所得税の課税対象になります。雑所得は総合課税ですから、受取人の住民税や国民健康保険料等に影響が及びます。
いっぽう、受け取ることができる総額は、一時金受け取りの場合よりも増えます(利息相当額が上乗せされるので)。

これに対し一時金で受け取った場合には、受け取った一時金が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります。こちらの場合も、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません。
課税については相続税だけで完結しますが、受け取ることができる総額は年金形式の場合よりも少なくなります。

 

 

【Reference】

 

個人年金保険の特徴

個人年金保険は、公的年金に加えて老後の生活資金を確保するために利用され、被保険者が契約時に定めた年齢に到達すると年金を受け取ることができる生命保険商品です。

運用の成果にかかわらず支給される「基本年金」に加え、支給開始前の積立配当金によって増額される「増額年金」を受け取ります。支給開始後にも配当金がある場合には、「増加年金」を受け取ることができる場合もあります。

個人年金保険には、保険金を受け取ることができる期間によって、以下のようなものがあります。

(a)終身年金

年金受給開始後、被保険者が生存している限り受給できる年金。
被保険者が死亡した場合には契約は終了し、遺族等に対し支給されるものは無い。

(b)保証期間付き終身年金

基本的には終身年金fだが、年金受給開始後の一定期間は、被保険者が死亡しても年金を受け取れることを保証した年金。
被保険者が死亡した場合、契約で定めていた継続受取人が年金形式または一時金で受け取るものが多い。

(c)確定年金

被保険者の生死にかかわらず、一定期間受給できる年金。
被保険者が死亡した場合、契約で定めていた継続受取人が年金形式または一時金で受け取るものが多い。

(d)有期年金

年金受給開始後、被保険者が生存していることを条件に、一定期間受給できる年金。
被保険者が死亡した場合には契約は終了し、遺族等に対し支給されるものは無い。

(e)保証期間付き有期年金

基本的には有期年金だが、年金受給開始後の一定期間は、被保険者が死亡しても年金を受け取れることを保証した年金。
被保険者が死亡した場合、契約で定めていた継続受取人が年金形式または一時金で受け取るものが多い。

 

(派生商品として「変額個人年金保険」という商品もあり、これは保険会社が保険金を株式や債券などで運用し、その運用結果によって年金額が決まる商品です。投資リスクがあり、保険料も通常は一時払いになっています。)

ここから、代表的な事例で課税関係を見ていきます。
贈与税がかかってくるようなパターンもありますが、事例としては少ないと思いますので割愛しています。

 

 

第1 『契約者=被保険者=受取人』が死亡した場合の課税関係

年金保険と相続1

今回のご質問のケースです。夫Aが契約者となって保険料を負担し、被保険者である夫Aが受給年齢に達したため年金を受給していたところ、亡くなってしまったという場合です。

この場合、上記(a)~(e)のうち、(a)終身保険と(d)有期保険は、被保険者である夫Aの死亡によって終了してしまいます。
そこで、課税の問題が生じるのは(b)保証期間付き終身年金、(c)確定年金、(e)保証期間付き有期年金で、期間が完了していないものが課税の対象になります。

 

1.年金形式で受け取る場合

(1)相続時

妻Bが残りの期間にわたって年金を受給することができます。
「妻Bが残りの期間、年金を受け取る権利」、すなわち夫Aが亡くなった時点での「年金受給権の評価額」が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。
(b)(c)(e)のどの商品でも残りの期間は確定していますので、Q060 定期金に関する権利の評価方法のうち、第1(1)の「有期定期金の場合」で評価します。

ただし、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません(相続税法3条1項1号の死亡保険金は、同法12条1項5号によって一定額が非課税とされている。これに対し個人年金保険の年金受給権は同法3条1項5号の定期金に関する権利であり、これに対応する非課税規定は存在しない)。

 

(2)年金受給時

雑所得として所得税の対象になります。
(注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です)

以前は年金形式で受け取った保険金について、各年の年金収入全額が所得税の課税対象でした。 しかし、平成22年7月6日の最高裁で「相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならない」という判決が出て大きなニュースとなり、これを受けて平成22年10月から国税庁も取り扱いを変更しました。すなわち、相続税または贈与税と、所得税は「二重に課税の対象としない」ということになったのです。

この取り扱い変更により、年金形式で受け取る保険金については、所得税の課税部分と非課税部分に振り分けたうえで、課税部分の所得金額だけが所得税・住民税の課税対象となります。

年金受け取りの1年目は全額非課税とし、2年目以降は課税部分が階段状に増加していく方法によって計算しますが、具体的には国税庁のホームページをご参照ください(国税庁 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係)。

 

2.一時金で受け取る場合

一時金で受け取った場合には、受け取った一時金が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。こちらの場合も、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません。

 

 

第2 『契約者=受取人(被保険者が異なる)』で、被保険者が死亡したとき

年金保険と相続2

こちらも、(a)終身保険と(d)有期保険は、被保険者である妻Bの死亡によって終了してしまいます。
前記第1と同様に、課税の問題が生じるのは(b)保証期間付き終身年金、(c)確定年金、(e)保証期間付き有期年金で、期間が完了していないものが課税の対象になります。

 

1.年金形式で受け取る場合

(1)相続時

妻Bが亡くなっても、夫Aの年金受給に関する権利は誰にも移動しませんから、被保険者Bの死亡時には何も課税はありません。

(2)年金受給時

雑所得として所得税の対象になります (注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です).

 

2.一時金で受け取る場合

一時金で受け取った場合、一時所得として所得税の対象になります。

 

 

第3 『契約者=受取人(被保険者が異なる)』で、受取人が死亡したとき

年金保険と相続3

たとえばAさんが「妻Bさんが65歳になったら年金を受け取れる」という個人年金保険に加入していて、それをAさんが受給していたところ、Aさんが亡くなってしまい、妻Bさんが継続受取人になっていたというケースです。

被保険者である妻のBさんは健在ですから、支給期間中ならば、(a)~(e)すべてのタイプにおいて課税の問題が生じます。

 

1.年金形式で受け取る場合

(1)相続時

妻Bが引き続き年金を受給することができます。
「妻Bが年金を受け取る権利」、すなわち夫Aが亡くなった時点での「年金受給権の評価額」が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。Q060 定期金に関する権利の評価方法のうち、各商品にあてはまる評価方法で評価します。

ただし、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません(相続税法3条1項1号の死亡保険金は、同法12条1項5号によって一定額が非課税とされている。これに対し個人年金保険の年金受給権は同法3条1項5号の定期金に関する権利であり、これに対応する非課税規定は存在しない)。

 

(2)年金受給時

雑所得として所得税の対象になります。
(注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です)

以前は年金形式で受け取った保険金について、各年の年金収入全額が所得税の課税対象でした。 しかし、平成22年7月6日の最高裁で「相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならない」という判決が出て大きなニュースとなり、これを受けて平成22年10月から国税庁も取り扱いを変更しました。すなわち、相続税または贈与税と、所得税は「二重に課税の対象としない」ということになったのです。

この取り扱い変更により、年金形式で受け取る保険金については、所得税の課税部分と非課税部分に振り分けたうえで、課税部分の所得金額だけが所得税・住民税の課税対象となります。

年金受け取りの1年目は全額非課税とし、2年目以降は課税部分が階段状に増加していく方法によって計算しますが、具体的には国税庁のホームページをご参照ください(国税庁 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係)。

 

2.一時金で受け取る場合

一時金で受け取った場合には、受け取った一時金が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。こちらの場合も、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません。

 

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2014年2月12日 | カテゴリー :

Q061 保険金を年金形式で受給した場合の税金(収入保障保険を例として)

【Question】

父が亡くなり、父が加入していた収入保障保険の死亡保険金を受け取ることになりました(保険料負担者=被保険者:父)。

保険会社の説明では、収入保障保険の保険金は保険期間が満了するまで年金形式で受け取るのが通常ですが、一括受け取りにすることもでき、ただし一括受け取りの場合には、年金受け取りの場合よりも受取総額が少なくなるということでした。

年金受け取りと一括受け取りと、どちらが得なのでしょうか。

 

【Answer】

収入保障保険も生命保険契約のひとつに違いはありません。
あなたの場合は、保険料負担者=被保険者:父、保険金受取人:子、ということですから、受け取った保険金は相続税の対象となり、一定の非課税枠があります(Q054)。これは年金受け取りでも一括受け取りでも、違いはありません。

収入保障保険の保険金を一括で受け取る場合、課税については相続税だけで済みますが、受け取ることができる保険金総額は年金形式の場合よりも少なくなります。

反対に、収入保障保険の保険金を年金形式で受け取る場合、将来受け取ることになる年金については相続開始時点での年金受給権評価に対し相続税がかかる他、毎年受け取る年金は雑所得となり、一定のルールに従って所得税がかかります。雑所得は総合課税ですから、受取人の住民税や国民健康保険料等に影響が及びます。
いっぽう、受け取ることができる保険金総額は、一括受け取りの場合よりも増えます(利息相当額が上乗せされるので)。

一括で受け取るか年金で受け取るかについては、どちらが得かはケース・バイ・ケースです。 また、どちらがより望ましいかという点についても、お考え方は人それぞれだと思います。 ただし一般的には、受取人の方が他にも所得があって所得税率が高い等、受取人の所得を増やすことが望ましくない場合には、一括受け取りを選択することが有利にはなります。

 

【Reference】

 

収入保障保険の特徴

収入保障保険は、毎年、保障金額が自動的に減少していくタイプの生命保険商品です。

一般の家庭では、子供が小さいうちは万一に備えて大きな保障が必要ですが、子供が成長していくにつれ、保障金額は少なくても済むようになっていきます。

生命保険の代表的な商品である定期保険だと、保険期間中は保障金額が変わりません。定期保険では、保障金額をライフステージにあわせて引き下げるには、そのための手続きが必要です。 その点で、ライフステージにあわせて保障金額が自動的に下がっていく収入保障保険は、とても合理的な保険であるといえます。

収入保障保険は定期保険の進化型であると言われ、原則として掛け捨てである点など、定期保険との共通点が多くあります。

しかし保険金を受け取る際には、大きく違いが出ます。 定期保険では原則として一括受け取りであり、特約がある場合など保険会社によっては例外的に年金受け取りにすることができます。
これに対し収入保障保険では、家庭の収入減を補うという意味が強いため年金受け取りが基本です。もっとも受取人が望めば一括受け取りにすることも可能です。

 

収入保障保険の死亡保険金を一括受け取りにした場合の課税

収入保障保険の保険金を一括で受給した場合は、一般の生命保険とまったく変わりありませんので、受給した一時金に対し、契約形態によって相続税または所得税(一時所得)もしくは贈与税がかかります。詳しくは「Q054 死亡保険金にかかる税とは?」をご覧ください。

 

収入保障保険の死亡保険金を年金受け取りにした場合の課税

死亡時の課税と年金受給時の課税を別々に考えます。

第1 死亡時の課税

(1)契約者と被保険者が同一人の場合

相続税がかかる、という点は一括受け取りの場合と同じ。
受取人が相続人であれば「500万円×法定相続人の数」を限度として非課税となる点も同じ。
ただし、年金として受け取る保険金については、死亡時における年金受給権評価額Q060 定期金に関する権利の評価方法)で評価します。

 

(2)契約者と受取人が同一人の場合(被保険者が違う)

被保険者の死亡によって保険金支払い事由が発生しただけで、年金受給権に関する権利は誰にも移動しませんから、被保険者の死亡時には何も課税はありません。

 

(3)契約者・被保険者・受取人がそれぞれ別人の場合

贈与税がかかる、という点は一括受け取りの場合と同じ。
ただし、年金として受け取る保険金については、死亡時における年金受給権評価額Q060 定期金に関する権利の評価方法)で評価します。

 

第2 年金受給時の課税

雑所得として所得税の対象になります。
(注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です)

以前は年金形式で受け取った保険金について、各年の年金収入全額が所得税の課税対象でした。
しかし、平成22年7月6日の最高裁で「相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならない」という判決が出て大きなニュースとなり、これを受けて平成22年10月から国税庁も取り扱いを変更しました。すなわち、相続税または贈与税と、所得税は「二重に課税の対象としない」ということになったのです。

この取り扱い変更により、年金形式で受け取る保険金については、所得税の課税部分と非課税部分に振り分けたうえで、課税部分の所得金額だけが所得税・住民税の課税対象となります。

年金受け取りの1年目は全額非課税とし、2年目以降は課税部分が階段状に増加していく方法によって計算しますが、具体的には国税庁のホームページをご参照ください(国税庁 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係)。

 

一般の死亡保険金を年金受け取りにする場合の注意

定期保険や終身保険については、ここまで述べてきた収入保障保険と異なり、一括受け取りが原則です。
もしも契約者が生前に年金受け取り特約を申し込んでおけば、課税形態は上記の収入保障保険と同じです。

しかし、死亡日以降になってから受取人側から年金受け取りにしたいと申し出た場合には、死亡日にいったん死亡保険金が支給されたのと同じ扱いになり、「死亡保険金額」に対して相続税または贈与税が課される(定期金による評価減を受けることができない)ので、ご注意ください。
年金受給時にも雑所得として所得税の対象になりますが、所得税を計算する際の必要経費は、死亡保険金をもとに計算します。

 

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2014年2月10日 | カテゴリー :

お客様の声27 T様

お客様の声27 T様

今度は大層お世話になりましてありがとうございます。心より御礼申し上げます。
書類を送っても余りに反応が遅くて呆れられた事と思います。何もかも投げ出したい、何もやりたくないと云う心境で簡単な事がなかなか出来なくて、早くしなくてはとアセリはするものの日を重ねるの繰り返しでした。 法律の世界は未知の分野、さっぱりわからず、でも何とかしなければならず、しかしどこに依頼してよいやら、費用も払えるのかどうか、etc、悩むばかり。その時子供がネットで貴所をみつけ、パンフレットの内容が共感出来て、特に法律が素人に理解出来にくく、独立でどうにかしようと思っても難かしい。これは良い事ではないかと良心的と思われて、直ぐお願いしました。私の行動力の無さにも嫌な顔も?せずおつき会い下さいました。又、働いている者にとっては、事務所まで出向かなくても良いと云う事は大変助かる事でした。まだ残務整理が残っていて、早く済ませて穏やかな生活を送りたいと思っているのですが・・・私が直接お願いした件で無い事までご親切に対応して下さった事にも改めて御礼申し上げます。寒い日が続いております。ご自愛くださいませ。

T様、どうもありがとうございました。

Q060 定期金に関する権利はどうやって評価するか

【Question】

故人が民間の個人年金を受け取っており、その年金受給権を遺族が引き継いだような場合、この権利は『定期金に関する権利』として財産評価すると聞きました。これはどのような意味ですか?

 

【Answer】

個人年金保険や収入保障保険などは、基本的には、保険金を年金形式で受け取ります。
いっぽう、一般の死亡保険金や満期保険金は一時金で受け取るのが原則ですが、年金形式で受け取ることができる特約があらかじめ用意されていることがあります。

年金のように、ある期間にわたって定期的に金銭等の給付を受ける権利のことを『定期金に関する権利』といいます(注1)。

ところで、相続税というものは、相続発生時(被相続人の死亡時)のすべての相続財産を金銭で評価し、その評価額をもとに計算します。

『定期金に関する権利』は、相続発生時にもらえるお金ではありませんが、将来にわたって継続的にお金をもらえる権利であり、財産的な価値があるものです。 そのため、このような年金形式の保険金についても、相続が発生した時点ではいくらの価値があるのかということを計算して評価額を求めます。
このような『定期金に関する権利』については、その評価方法が相続税法に定められています。

なお、『遺族基礎年金』などの公的な遺族年金は相続財産ではなく(Q014)、相続税もかかりませんので、財産としては評価しません。

 

【Reference】

定期金のタイプごとの、定期金に関する権利の評価方法は次の通りです(相続税法24、25条)。

 

第1  定期金給付事由が発生しているもの(例:年金支給開始の60歳になった)

 

(1)有期定期金の場合

10年とか15年といった形で、期間が決まっている定期金のことです。
代表的なのは「確定年金」で、被保険者の生死にかかわらず一定期間は年金を受け取れる商品です。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×残存期間に応ずる予定利率による複利年金原価率
(複利年金原価率は、ネットで検索すれば見つかります)

 

(2)無期定期金の場合

永久に定期金の給付を受けられるもの。現実にはほとんど存在しません。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×予定利率

 

(3)終身定期金の場合

亡くなるまでの間、定期金の給付を受けられるもの。いわゆる『終身年金』の保険商品。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×平均余命に応ずる予定利率による複利年金原価率
(平均余命は、厚生労働省HPの完全生命表を利用。複利年金原価率は、ネットで検索すれば見つかります)

相続の場面では、被保険者=被相続人の場合は、保証期間がない終身定期金は評価の対象になりません(相続人は何も受け取れないので)。

 

(4)有期定期金だが、被保険者が中途で亡くなった後は支給されないもの

契約者がAさんで「被保険者であるBさんが60歳になったら10年間年金を払います。しかしBさんが亡くなった後は支給しません」という契約です。仮にAさんが亡くなってもBさんが生きている限り期間中は支給されます。

代表的な商品が「有期年金」で、被保険者の生死にかかわらず支給されるのが「確定年金」とは区別します。

この場合、(1)有期定期金の場合(3)終身定期金の場合との両方で評価し、少ない金額のほうが評価額になります。
亡くなってしまえば10年もらえないので、少ないほうで評価します。

なお、 相続の場面では、被保険者≠被相続人の場合にだけ評価の対象になります(被保険者=被相続人であれば、相続人は何ももらえないので評価の対象になりません)。

 

(5)終身定期金だが、被保険者が亡くなった後でも一定期間に限り継続して支給されるもの

いわゆる『保証期間付き終身年金』のことです。
たとえば、契約者がAさんで「Aさんが生存中はAさんに年金を払います。ただし支払開始日より一定期間内にAさんが亡くなった場合には、その一定期間のうち残存期間については、Aさんの遺族(継続受取人)に年金を払い続けます」というような契約です。もちろん被保険者≠被相続人であることもあります(例:夫が妻にかけるケース)

この場合、(1)有期定期金の場合(3)終身定期金の場合との両方で評価し、多い金額のほうが評価額になります。

 

 

第2 定期金給付事由が発生していないもの(例:年金支給開始前に死亡)

この場合には、基本的に解約返戻金をもって評価します。

 

 

おまけ:なぜ定期金に関する権利の財産評価は難しいのか

余談ですが、定期金に関する権利の財産評価は、どうしてこうも複雑なのでしょうか?
興味ない方は、以下は余談ですので無視して下さい

たとえば、あなたが、ある人から「今すぐ1000万円もらうのと、今後10年にわたって毎年100万円もらうのとどっちがいい?」と聞かれたら、「今すぐ!」と答えるのではないでしょうか?

希望すれば今すぐ1,000万円もらえるのですから、わざわざもらうのに10年かけるならば、そこそこの金利でも上乗せしてもらわなければ割があいません。

反対に、渡すほうの立場から考えると、10年かけて総額1,000万円を渡せばいいのに、あえて今すぐ全額を渡さなければならないとしたら、1,000万円全額ではなく多少割り引いてもらわないと釣り合いません。1,000万円全部をすぐに渡してしまったら、今後10年間に受け取ることができる運用利益がなくなってしまうからです。

ですから、「今後10年にわたって総額で1,000万円受け取ることができる権利」というものは、現在の時点では1,000万円の財産であると評価することはできず、現在の価値はもっと低いと考えなければおかしいことになります。

定期金に関する権利の中でも代表的な、『年金形式で受け取る保険金』についてもこれと同じことが言えます。だからこそ、年金形式よりも一括受け取りのほうが、受取総額が少なくなるわけです。

では、定期金に関する権利の『現在の』価値をどうやって計算するのでしょうか?
数学的にこれを計算することは不可能ではありませんが、その計算式は複雑です。

さいわい、一般人がそんな計算をしなくても、保険会社が計算する解約返戻金や一時金というものは、要はこの理屈をもとに計算されていますから、これらを活用して財産評価をすれば良いとされているわけです。

ただし、商品によって解約返戻金がなかったり(収入保障保険は基本的に掛け捨て)、給付期間が決まっていたり決まっていなかったりするので、どうしても定期金に関する権利の評価は難しくなってしまうのです。

定期金(おまけ)

(注1)
「定期金」とは、年金のことだけを指す言葉ではありません
たとえば、AさんがBさんに「今後20年間、毎年1月1日に100万円をあげる」という『定期贈与契約』を締結すると、Bさんが持っている権利もまた『定期金に関する権利』です。
(ちなみに、
契約した年に、有期定期金に関する権利の贈与を受けたものとして、贈与税が課税されてしまいます)

とはいえ、このような気前のいい話が、世の中にごろごろ転がっているはずがありません。 ほとんどの場合、もらうお金は、もらう前に自分で積み立てているケースが大半です。
たとえば、保険料と言う形で一定期間積み立て、一定の時期が来たら年金として受け取る『個人年金保険』が代表的です。

そのため、相続などの場面で『定期金』といえば、ほとんどの場合、このような個人年金や生命保険金等を年金形式で受け取る場合の権利のことを指します。

 

 

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2014年2月6日 | カテゴリー :

Q059 亡くなった後に振り込まれた年金は相続財産?(未支給年金)

【Question】

父が6月3日に亡くなりました。遺族年金等の遺族給付には該当しません。

年金事務所に年金受給権者死亡届を提出せずにいたら、6月15日になって、父の口座に年金が振り込まれてきました。

そこで、
(1)この年金は、相続財産として遺産分割の対象になりますか?
(2)この年金は、相続税の課税対象になりますか?

 

【Answer】

(1)6月15日に振り込まれた年金は、お父様が健在だった4、5月分の年金ですから、相続財産にあたるように誤解してしまいがちですが、結論的から言えば相続財産ではなく、各年金法所定の受取人固有の財産であり、遺産分割の対象になりません

なお、年金受給権者死亡届をこのまま提出しないでいれば、6、7月分の年金が8月15日に振り込まれてしまいます。お父様は6月3日までご存命でしたから6月分は受け取れますが、7月分以降は返さなければならなくなりますので、ご注意ください。

(2)結論からいえば、相続税の対象にはなりませんが、受取人の一時所得として所得税がかかります(翌年の確定申告で納付)

 

【Reference】

公的年金をもらっている人が亡くなったら

公的年金の受給者が亡くなった場合、年金事務所に「年金受給者死亡届」を提出して、年金の受給をストップします。
そうしないと故人の口座に年金が振り込まれ続け、後で返すハメになるからです。

ところでこの死亡届は、年金事務所にある様式では複写式になっており、「未支給年金請求届」を兼ねるようになっています。
さて、この『未支給年金』とは何でしょうか?

 

未支給年金とは

国民年金や厚生年金などの公的年金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の15日に受け取ります。
受け取る年金は『後払い』です。たとえば、6月15日に受け取る年金は、前月4月と前々月5月のあわせて2ヶ月分です。

今回のご相談者のお父様は6月3日に亡くなったということですから、一見すると「4、5月の時点では健在だったのだから、これはお父様の財産であり、相続財産である」と勘違いしそうになります。

しかし、あくまでも6月15日まで待たなければ、4月分と5月分の年金をもらう権利は発生しないのです。
6月15日の時点でお父様は亡くなっていますから、この2ヶ月分の年金をもらう権利は、支給されないまま宙に浮いてしまいます。ついでに言えば、6月分の年金をもらう権利も同じです(年金は、年金を受けていた方が亡くなられた月分まで支払われるので)。

このように年金が後払いであるため、年金を受給している人が亡くなると、「支給されていない年金を誰が受け取るか」という問題が必ず発生します。これが『未支給年金』の問題です。

 

未支給年金請求権は相続財産になるのか?

このような未支給年金については、請求できる人が法律(国民年金法、厚生年金保険法等)で決まっています

未支給年金を請求できるのは、年金を受けていた方が亡くなった当時、その方と生計を同じくしていた(注1)方で、次の方々です。
(1)配偶者
(2)子
(3)父母
(4)孫
(5)祖父母
(6)兄弟姉妹
未支給年金を受け取れる順位もこのとおりと定められています(同順位者複数ならば等分)。

上記のような規定がありながらも、亡くなられた方の未支給年金が相続財産として遺産分割の対象となるのかならないのか(遺産分割の対象になるのかならないのか)については、長らく議論されていました。
しかし、平成7年11月7日最高裁判決によって明確に相続性が否定され、未支給年金請求権は受取人固有の財産であるとされました(注2)。

そのため、遺産分割協議書で未支給年金を分割対象としているケースがありますが、現在では間違いです

(注1)共済年金では、生計同一という要件は無い
(注2)判決要旨「右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。」

 

故人の口座に支給されても『未支給年金』!?

年金受給者死亡届の提出が遅れ、被相続人の口座に年金が振り込まれてしまうことも珍しくありません。

これは、単に「未支給年金がたまたま支給されてしまった」というだけの話ですから、本来それを受け取る権利があるのは、あくまでも法律で決められている上記の順番の受取人です。相続財産ではなく、遺産分割の対象にもなりません
受取人ではない人がこれを引き出したならば、本来の受取人に返す義務があります。

 

未支給年金は相続税の対象にはならない。しかし!

未支給年金については明確に相続性が否定されました。
相続性が否定されても、死亡保険金のように受取人が相続や遺贈によって取得したものとみなされると相続税の対象になる可能性があります(税法上のみなし相続財産)が、相続税法上でもこれに対応する規定はなく、相続税が課されることはありません(国税庁ホームページ質疑応答:未支給の国民年金に係る相続税の課税関係)。

しかし、受取人個人の一時所得として、所得税の対象にはなります(所得税基本通達34-2)。

一時所得は年間50万円まで非課税であり、未支給年金単独で50万円を超えることは少ないと思われます。しかし、生命保険金の満期金を受け取る等、他に一時所得に該当する所得がある場合には、これらを合算して申告をしなければなりません。

 

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Q058 生前贈与なのに相続税?

【Question】

相続税対策になるからという理由で、父は私に、贈与税の基礎控除額以内で毎年財産を贈与してきました。
ところが、父に相続が起きた場合に、生前贈与された財産も相続税がかかることがあると聞きました。これはどのような意味ですか?

 

【Answer】

相続税対策をする上で、連年贈与の活用はとても有効です。

ただし、相続開始前3年以内の贈与については、贈与税を払っていても払っていなくても、相続税の課税対象として加算することになっています。逆にいえば、3年より前の生前贈与は相続税の対象に加算しません。

従いまして、連年贈与で相続税対策をするならば、早ければ早いほど効果が大きくなります。

 

【Reference】

死亡前3年以内に贈与されていた財産は、贈与税でなく相続税

被相続人が亡くなった時点ですでに生前贈与されていた財産は、当然、もらいうけた人の財産であって故人の遺産(相続財産)ではありません。

ところが、亡くなる前の3年以内に被相続人が贈与した財産については、”相続税”がかかる場合があります。 どのような場合かと言うと、生前贈与を受けた人が、贈与した人の相続人(包括受遺者を含む)でもある場合です。

「贈与税の間違いじゃないの?」と思われるかもしれません。ごもっともです。
どうして生前贈与なのに、贈与税ではなく相続税がかかるのでしょうか?

もしも相続税という制度だけがあって贈与税という制度がなければ、相続税を逃れるためにはバンバン生前贈与してしまえばいいことになります。 このような相続税逃れを防ぐために、贈与税という仕組みを用意し、あえて相続税より高い税率にしているのです。
しかし何でもかんでも高い贈与税がかかるのでは納税者もたまりませんから、毎年110万円までの贈与ならば、贈与税は非課税とされています(暦年課税)。ここがポイントです。

もしも、余命わずかと宣告された後に、この毎年110万円の贈与非課税枠をフル活用して駆け込み的に生前贈与すれば、それによって遺産が少なくなりますから、意図的に相続税を減らすことができてしまいます。 反対に、高い贈与税を払って財産をもらいうけたのに、その後まもなく贈与者が亡くなってしまったならば、「亡くなるまで待って相続でもらっていれば、税金が生前贈与よりも安かったのに・・・」ということで不公平感が強くなってしまいます。

そこで、相続人となる人が、被相続人が亡くなる前の3年以内に遺産とは別に生前贈与を受けていた場合には、贈与税を払っているかどうかに関わりなく、すべて相続税の対象にすることにしました。 また、もし生前贈与を受けた時に納付した贈与税があればこれを相続税から差し引くことができるようにし、さらに納付済みの贈与税が相続税額よりも大きければ差額を還付することができるようにして、不公平を解消することにしたのです。

ただし、一つ例外があります。
居住用不動産にかかる贈与税の配偶者控除』を受けた財産の場合には、あげた人(贈与者)がその後3年以内に亡くなった場合でも相続税の対象にはなりません
この制度は、20年間連れ添った配偶者に居住用財産を贈与する場合には、一定額まで無税とすることで内助の功に報いるための制度です。そのため、贈与者がその後まもなく亡くなったからといって「やっぱり相続税を払ってください」とは、さすがの税務署も言えないわけです。

 

生前贈与の相続税加算をするときの注意点

死亡前3年以内の贈与財産を相続税の対象に加える場合、いくつか注意点があります。

(1)被相続人からの贈与財産のみが相続税の対象になる(相続税法19条)

被相続人以外からの贈与は対象になりません。
たとえば、毎年、父と母の双方から贈与を受けていた人がいて、ある時、父が亡くなった場合には、亡くなる前3年以内に父から受けていた贈与だけが対象になり、母からの贈与は対象になりません。

 

(2)対象になるのは『贈与の時における価額』(相続税基本通達19-1)

相続税に贈与財産を加算する場合には、相続発生時ではなく贈与時の時価を加算します。
たとえば、贈与時には価額が500万円だったが、相続時には600万円に値上がりしていた贈与財産については、相続税の対象として加算するのはあくまでも贈与時の500万円です。

 

(3)「相続開始前3年以内」とは、亡くなった日から3年前の同じ日以降を指す(相続税基本通達19-2)

たとえば、平成26年1月30日に亡くなった場合、平成23年1月30日以降の贈与が対象になります。

 

(4)被相続人から相続や遺贈で相続財産やみなし相続財産(死亡保険金等)を受け取らなかった者への贈与は、対象にしない(相続税基本通達19-3)

たとえば、父が子に贈与し、その後3年以内に父が亡くなった場合でも、子が家庭裁判所で相続放棄の手続きをするなどしてまったく相続財産を受け取らなければ、相続税の対象にはなりません。贈与税だけで完結してしまえばいい話だからです。

 

相続時精算課税制度によって贈与された財産は相続税の対象

相続時精算課税制度の届出をしていた贈与財産は、そもそも相続税で贈与税を精算することを予定していたものですので、相続税の課税対象になります。
ただし、亡くなった日の時価ではなく、生前贈与した時の時価で評価します。

 

 

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2014年2月3日 | カテゴリー :

Q057 父が母に生命保険をかけていたが、父のほうが先に亡くなったら(生命保険に関する権利)

【Question】

母に万一の事があったときに備えて、父が母に生命保険をかけていました。
保険契約の内容は平成3年に加入した積立型終身保険で、母を被保険者とし、父が契約者かつ保険金受取人となっている生命保険で、保険料はずっと父が支払っていました。

ところが、先日、父が死亡してしまいました。遺言はありません。
母が死亡したわけではないので保険金はまったくおりていませんが、保険会社からは契約者を変更するように求められています。このような場合、誰が契約を引き継ぐかを決めるのは、遺産分割協議なのでしょうか。

 

【Answer】

はい。被保険者ではない保険契約者が先に死亡した場合、掛け捨てではない生命保険契約には財産的価値があるので相続財産にあたります。
したがって、遺言が無ければ、誰が引き継ぐのかは相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めることになります。
もちろん、相続税の計算の上でも課税対象になります。

 

【Reference】

生命保険の被保険者が亡くなった場合には、死亡保険金が支払われます。これは受取人固有の財産であって相続財産ではなく、遺産分割の対象ではありません。

いっぽう、受取人が生命保険の被保険者(上記の事例では『母』)よりも契約者(同じく『父』)が先に死亡した場合、保険金の支払事由が発生したわけではないので1円も受け取れません。

しかし、この生命保険契約には財産的価値があります(掛け捨て保険を除く)。
例えば、契約者はいつでも契約を解約して解約返戻金を受けとる権利を持っています。保険契約の内容によっては、満期保険金を受け取る権利がある場合もあります。もちろん、将来、保険金支払事由が発生すれば保険金を受けとる権利もあります。
このような生命保険契約にそなわる様々な権利のことをひっくるめて、『生命保険契約に関する権利』と呼びます(ずいぶんセンスのない呼び方ですが、昔からこうなっておりますので仕方ありません)。

契約者(保険料負担者)がなくなったときには、この『生命保険契約に関する権利』にも財産的価値がある以上、相続財産のひとつに違いはありません。従いまして遺産分割の対象となり、遺言がなければ相続人全員の話し合いで権利承継者を決めることになります。

相続税の計算をする場合も、これを”本来の相続財産”として課税対象にします。

生命保険に関する権利1

 

『生命保険契約に関する権利』はどうやって評価する?

さて、このような『生命保険契約に関する権利』も相続財産であり、相続税の対象になるならば、財産評価して価値を算出しなければなりません。では、どうやって価値を算出するのでしょうか。

答えは簡単です。契約者が亡くなった日時点の、解約返戻金の額で評価します。
これは、現在では相続税評価の場合も同じです(財産評価基本通達214条)。裏を返せば、解約返戻金の無い掛け捨て保険は評価対象になりません。

契約者はいつでも保険契約を解約して解約返戻金を受け取ることができるわけですから、「保険会社に貯金しているのと同じ」と考えることができるからです。

 

契約者と保険料負担者が違う場合

上記の例は、契約者と保険料負担者が同じ人(夫)の場合でした。

しかし、「保険契約は妻の名前で契約するけれども、保険料は夫の口座から引き落とし」というケースが多々あります。
つまり、契約者と保険料負担者が違う場合です。
生命保険に関する権利(みなし相続財産)

この場合、生命保険契約それ自体は受取人だけを変更すればよく、契約そのものに変動はありません。

しかし「税法」上は、相続税法3条1項3号のケースに該当することになり、1項本文の規定により、契約者(妻)が相続または遺贈によって生命保険契約に関する権利を取得したものとみなされて、解約返戻金相当額が相続税の対象になります(注1)。
なお、夫が負担していた保険料が一部だけなら、負担割合に応じた額になります。

いっぽう、「民法」的には、保険料の支払い時に保険料負担者と保険契約者との間で贈与契約が成立していると解釈できる場合を除き、夫の本来の相続財産に該当すると考える他にないのではないかと思います(私見です)。生命保険金を受け取る場合と異なり、原則として遺留分算定の基礎となると考えられます(これも私見です)。

(注1)考え方としては「保険料相当額が夫から妻に贈与されたものとみなして、保険料負担時に贈与税を課税する」という考え方もあるが、相続税法3条1項3号があることによって、税法上はこの考え方を採用していないと解される。

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埼玉司法書士会主催 八潮駅前出張相談会【要予約】【日曜】【無料】

当ホームページをご覧いただきまして、どうもありがとうございます。

さて、つくばエクスプレス八潮駅前にて、埼玉司法書士会による出張相談会を開催いたします。

下記の日程で、計3回、行います。
当事務所の司法書士も参加しますが、どこの回を担当するかはまだ決まっておりませんので、ご承知おきくださいませ。
(私共の無料相談をご希望の方は、直接、当事務所までお問い合わせください)

日時:
第一回:2014年2月16日() 午後1時30分~午後4時30分
第二回:2014年3月16日() 午後1時30分~午後4時30分
第三回:2014年4月20日() 午後1時30分~午後4時30分

※相談時間は、おひとり様あたり1時間となります。
※参加費は無料です。

場所:
八潮市民文化会館駅前分館(つくばエクスプレス八潮駅前の、八潮メセナ・アネックス)
1階 多目的ホールC

完全予約制です(先着順)!
ご予約は下記まで、おかけ間違いのないようにお願い致します。
埼玉司法書士会総合相談センター(予約受付時間:平日午前10時から午後4時)
番号:048-838-7472

クリックで拡大します

日曜出張相談会パンフ1

日曜出張相談会パンフ2

 

Q056 弔慰金や花輪代には相続税がかかるのか

【Question】

会社を経営していた父が、病気で亡くなりました。
役員死亡退職金については、退職金規程にもとづいて、役員会の決議後に5,000万円が支給されました。
しかし、そのほかに会社から『弔慰金』として600万円が支給され、『花輪代』も100万円支給されています。
会社の説明によれば、弔慰金は会社の弔慰金規程に基づいて支給したもので、役員会などの決議は必要ないとのことでした。
会社の人の話では、「最後の給料が月額100万円だったのでそうなりました」という説明でした。

死亡退職金がみなし相続財産として相続税の対象になることはわかりますが、これらの弔慰金や花輪代はどのように考えるのでしょうか。

 

【Answer】

退職手当等とは別に、弔慰金や花輪代を受け取った場合、その一部については非課税とされます。
業務外の死亡であれば死亡時の普通給与の6ヶ月分までは非課税となります。
最終給与が月額100万円ならば、100万円×6ヶ月=600万円は非課税です。
支給された弔慰金がちょうどこの金額になっているということは、きっとこの非課税枠を意識しているのでしょう。
ただし、この非課税枠を超えた金額については、退職手当金として相続税の対象になります。花輪代の100万円は、相続税の計算上は退職手当金等に含めて計算することになるでしょう。

 

【Reference】

役員や従業員が死亡した場合に会社から支給される金銭(現物支給含む)には、名目上は『死亡退職金』『退職手当金』『弔慰金』『花輪代』『葬祭料』などいろいろありますが、名目がどうであれ、実質的に被相続人の退職金であれば相続税の対象になります(相続税基本通達3-18)。

しかし、会社の役員などが死亡すると、死亡退職金を支給するには株主総会や取締役会の決議が必要になります。
そこで『弔慰金』などという名目で、退職金とは別に金品を支給することがあります(規則があれば、弔慰金の支給には原則として決議不要)。

このような弔慰金や花輪代には、遺族への見舞いという側面があります。一般的にお香典は贈与税が非課税とされていますから、弔慰金や花輪代もある程度は非課税としても良いのではないか・・・とも考えられます。もっとも、どこで区別するのか、現実的には難しい部分があります。

そこで、相続税での取り扱いについては、次のようになりました(相続税基本通達3-20)

弔慰金・花輪代・葬祭料等、退職手当金とは別に支給されたものについて、
1.実質的に退職金ならば、それは相続税の対象にする。
2.実質的に退職金ではないものについては、次に掲げる金額を上限として、相続税の対象にしない。 その金額を超える部分に相当する金額は、退職手当金等として相続税の対象とする。
(1) 業務上の死亡の場合 :被相続人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する額
(2) 業務外の死亡 の場合:被相続人の死亡当時の普通給与の6ヶ月分に相当する額
(注 普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。)

 

税法上の退職手当金等に該当しない弔慰金など

なお、ご質問とは関係ありませんが、以下の法律等の規定により遺族が受ける弔慰金等については、相続税の課税対象には含めません(相続税基本通達3-23)。

(1) 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第12条の8第1項第4号及び第5号((業務災害に関する保険給付))に掲げる遺族補償給付及び葬祭料並びに同法第21条第4号及び第5号((通勤災害に関する保険給付))に掲げる遺族給付及び葬祭給付

(2) 国家公務員災害補償法(昭和26年法律第191号)第15条((遺族補償))及び第18条((葬祭補償))に規定する遺族補償及び葬祭補償

(3) 労働基準法(昭和22年法律第49号)第79条((遺族補償))及び第80条((葬祭料))に規定する遺族補償及び葬祭料

(4) 国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)第63条((埋葬料及び家族埋葬料))、第64条及び第70条((弔慰金及び家族弔慰金))に規定する埋葬料及び弔慰金

(5) 地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)第65条((埋葬料及び家族埋葬料))、第66条及び第72条((弔慰金及び家族弔慰金))に規定する埋葬料及び弔慰金

(6) 私立学校教職員共済法(昭和28年法律第245号)第25条((国家公務員共済組合法の準用))の規定において準用する国家公務員共済組合法第63条、第64条及び第70条に規定する埋葬料及び弔慰金

(7) 健康保険法(大正11年法律第70号)第100条((埋葬料))に規定する埋葬料

(8) 船員保険法(昭和14年法律第73号)第72条((葬祭料))に規定する葬祭料

(9) 船員法(昭和22年法律第100号)第93条((遺族手当))及び第94条((葬祭料))に規定する遺族手当及び葬祭料

(10) 国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律(昭和22年法律第80号)第12条((弔慰金))及び第12条の2((特別弔慰金))に規定する弔慰金及び特別弔慰金

(11) 地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)第31条((遺族補償))及び第42条((葬祭補償))に規定する遺族補償及び葬祭補償

(12) 消防組織法(昭和22年法律第226号)第24条((非常勤消防団員に対する公務災害補償))の規定に基づく条例の定めにより支給される消防団員の公務災害補償

(13) 従業員(役員を除く。以下この(13)において同じ。)の業務上の死亡に伴い、雇用主から当該従業員の遺族に支給された退職手当金等のほかに、労働協約、就業規則等に基づき支給される災害補償金、遺族見舞金、その他の弔慰金等の遺族給付金(当該従業員に支給されるべきであった退職手当金等に代えて支給される部分を除く。)で、(1)から(12)までに掲げる弔慰金等に準ずるもの

 

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2014年1月28日 | カテゴリー :

Q055 死亡退職金にかかる相続税とは(みなし相続財産その2)

【Question】

夫が亡くなりました。相続人は妻である私と子供2名です。

夫の勤務先の社内規定で、死亡退職金について第一順位の受取人が配偶者となっていたため、妻である私が夫の退職金2,000万円を受け取りました。

この場合、私のほうで退職所得として確定申告をすればいいのでしょうか。

 

【Answer】

いいえ、死亡退職金は通常の退職金と異なり、『相続税』が課税される可能性があります。
確定申告ではなく、相続税がかかる場合には相続発生から10ヶ月以内に相続税申告をします。

なお、死亡退職金を相続人が受け取る場合には、遺族の生活保障という目的があるため、相続税について一定の金額が非課税になっています。
死亡退職金の非課税限度枠は『500万円×法定相続人の数』で、あなたの場合は法定相続人が3人ですから、受け取った2,000万円のうち1,500万円(500万円×法定相続人3人)が非課税となります。

非課税の1,500万円を超える500万円については、死亡退職金以外の財産と合算して相続税の課税対象となります。
合算した結果、相続税の基礎控除額を下回るならば、相続税の申告をする必要はありません。

 

 

【Reference】

故人が在職中に亡くなった場合に勤務先から支給されるお金が死亡退職金です。
死亡退職金は受取人固有の財産とされ、本来は相続財産に含まず、遺産分割の対象にもなりません(受取人が指定されている場合)。

しかし、故人の死亡によって遺族が財産を取得するという点では本来の相続財産と類似しているため、『みなし相続財産』として相続税の課税対象になってしまいます。
死亡退職金は家庭裁判所で相続放棄の手続きをしても受け取れますが、その場合でも死亡退職金を受け取ったら相続税がかかる可能性があるのです。

厳密には、被相続人の死亡によって、被相続人(亡くなった人)に支給されるべきであった死亡退職金(注1)を遺族が受給する場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の対象となります(仮に3年を超えて支給されたら、受給者の一時所得として所得税・住民税の課税対象)。

ただし、死亡退職金を受け取ったのが相続人であるかないかによって、税務上の扱いが違います。

 

(1)死亡退職金を相続人が受け取った場合

相続人が死亡退職金を受け取った場合

死亡退職金を被相続人の『相続人』が受け取った場合には、相続税の対象となります。

相続人が受け取る死亡退職金には、故人に近い遺族の生活を保障するという重要な目的があります。そこで相続税について一定の金額が非課税になっています。

死亡退職金の非課税限度枠 : 500万円×法定相続人の数

※受け取ったすべての死亡退職金を合計して、その受け取った金額が非課税限度枠を超えた場合に、その超過額が他の相続財産と合算されて相続税の対象となります。

※非課税限度枠を計算する際には、受取人となっていない法定相続人もその人数に含みます。

基礎控除と同様、家裁で相続放棄した人も法定相続人の数に入れてかまいません。養子の数え方も同じです。

 

(2)相続人以外の個人が受け取った場合

死亡退職金を相続人以外の個人が受け取る場合

死亡退職金を故人の『相続人以外の個人』が受け取った場合でも、相続税の対象となります。遺贈によってもらったものとみなされるからです。

ただし、(a)の相続人が受け取る場合と違い、非課税枠はありません。相続人が受け取る場合に比べると税法上不利です。

なお、家庭裁判所で相続放棄の申述をした人や相続欠格等によって相続権を失った人は、相続権はありませんが死亡退職金を受け取ることは可能です(受取人固有の財産なので)。ただし、退職金を受け取る以上相続税がかかり、しかも相続人でないために非課税枠はありませんので注意が必要です。

 

(注1)税法上は『退職手当金等』と言います。実際の呼び方は『退職手当』『功労金』等さまざまでも、実質的に被相続人の死亡退職金として支給されるお金等のことを総称して『退職手当金等』と呼びます。したがって、現物で支給された場合も含まれます。なお、この記事の上では、なじみやすい『死亡退職金』と表現しています。

 

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2014年1月27日 | カテゴリー :