Q 夫が二か月前に死亡し、勤めていた会社から死亡退職金が支払われてきました。
私たち夫婦の間に子はおらず、相続人は私と夫の弟だけです。
死亡退職金は夫の遺産として、義弟と分けることになるのでしょうか?
A 死亡退職金は受取人固有の財産ですので、相続財産ではなく、原則として遺産分割の対象にはなりません。
あなたが全部を取得して問題はありません。
死亡退職金は受取人固有の財産
死亡退職金は、故人が在職中に亡くなった場合に勤務先から支給されるもので、呼び方は『退職金』『功労金』など様々です。
死亡退職金は公務員の場合は法律で、会社の場合は就業規則や退職金規程などで定められた人に対して支給され、その目的は故人の遺族などが生活に困らないようにすることにあります。そのため受給権者の範囲や順位はそれぞれの決まりの中で定められていることが大半です。
たとえば、国家公務員の場合は国家公務員退職手当法第2条の2で遺族の範囲と順位が定められており、内縁の妻が受け取ることができるほか、亡くなった職員の収入によって生計を維持していた人に対し優先的に死亡手当が支給される決まりになっています。
このように、死亡退職金は故人が受け取った上で遺族に引き継がれるものではなく、受取人固有の財産と言えますので、相続財産には当たらず遺産分割の対象にはなりません(昭和55年11月27日最高裁判決)。
遺産ではありませんから、相続放棄しても受け取ることができます。
死亡退職金の受給権者に関する決まりがない場合でも、財団法人の理事長の事例で、法人が配偶者に支給した死亡退職金について「相続という関係を離れて・・・個人に支払われたもの」であるとし、相続財産性を否定した最高裁判決があります(昭和62年3月3日)。
もっとも、「退職した後に亡くなった」場合には、退職金(または退職金の請求権)は本来、退職したときには健在だった故人が受け取るべきものということになりますので、これは相続財産になります。
死亡退職金は特別受益にあたるか?
このように死亡退職金は相続財産にはあたらないわけですが、状況によっては、相続人の1人が受給権者である場合に他の相続人に対して不公平になる可能性もあります。複数の相続人が故人の収入で生計を立てていたようなケースです。
この場合、生命保険金の場合と同じように、受け取った死亡退職金を『特別受益』と同様に扱い、遺産分割においてその金額を遺産に持ち戻して遺産分割をしなければならないのではないか、という意見があります。
この点について、はっきりとした裁判例はなく、家裁の審判例でも結論は分かれます。
現実的には、故人の収入に対しどのていど生計を依存していたか、その度合いをもとに個々の事例に応じて判断されているものと考えられますが、受給権者が内縁の妻であればそもそも特別受益の問題になりようがなく(特別受益の持ち戻しは相続人間の遺産分割の際に生じます)、死亡退職金は特別受益にあたらないと考えるのが主流だと思われます。
死亡退職金と相続税
死亡退職金は相続財産にはなりませんが、故人の死亡によって遺族が財産を取得するという点では本来の相続財産と類似しているため、『みなし相続財産』として相続税の課税対象になります。
みなし相続財産として課税の対象となるのは、故人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金ですので、まず当てはまります(仮に3年を超えて支給されたら、受給者の一時所得として所得税等の課税対象)。
相続税の課税対象にはなりますが、幸いなことに相続税の基礎控除とは別枠で非課税枠が設けられており、受取人が相続人である場合には 「法定相続人の数×500万円」まで、は受け取った死亡退職金から差し引くことができます。
差し引いた後の残額と他の相続財産の価額を合計して、基礎控除の範囲内であれば相続税は0円です。
また、会社などから「弔慰金」「葬祭料」などの名目で現金を支給されることがありますが、これは通常は相続税の対象となることはありません。
しかし、このような「弔慰金」等が高額で、実質上退職手当金等に該当すると認められる部分については相続税の対象になります。
具体的には、次の金額を超える部分に相当する金額は、退職手当金等として相続税の対象となります。
(1)故人の死亡が業務上の死亡であるとき 故人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する額を超える部分
(2)故人の死亡が業務上の死亡でないとき 故人の死亡当時の普通給与の半年分に相当する額を超える部分
(注 普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。)
同族会社では、これをうまく活用すれば相続税対策になります。
厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂
厂厂厂厂
厂厂厂 ©司法書士法人ひびき@埼玉八潮三郷
厂厂 お問い合わせはこちら
厂 無断転載禁止