Q060 定期金に関する権利はどうやって評価するか

【Question】

故人が民間の個人年金を受け取っており、その年金受給権を遺族が引き継いだような場合、この権利は『定期金に関する権利』として財産評価すると聞きました。これはどのような意味ですか?

 

【Answer】

個人年金保険や収入保障保険などは、基本的には、保険金を年金形式で受け取ります。
いっぽう、一般の死亡保険金や満期保険金は一時金で受け取るのが原則ですが、年金形式で受け取ることができる特約があらかじめ用意されていることがあります。

年金のように、ある期間にわたって定期的に金銭等の給付を受ける権利のことを『定期金に関する権利』といいます(注1)。

ところで、相続税というものは、相続発生時(被相続人の死亡時)のすべての相続財産を金銭で評価し、その評価額をもとに計算します。

『定期金に関する権利』は、相続発生時にもらえるお金ではありませんが、将来にわたって継続的にお金をもらえる権利であり、財産的な価値があるものです。 そのため、このような年金形式の保険金についても、相続が発生した時点ではいくらの価値があるのかということを計算して評価額を求めます。
このような『定期金に関する権利』については、その評価方法が相続税法に定められています。

なお、『遺族基礎年金』などの公的な遺族年金は相続財産ではなく(Q014)、相続税もかかりませんので、財産としては評価しません。

 

【Reference】

定期金のタイプごとの、定期金に関する権利の評価方法は次の通りです(相続税法24、25条)。

 

第1  定期金給付事由が発生しているもの(例:年金支給開始の60歳になった)

 

(1)有期定期金の場合

10年とか15年といった形で、期間が決まっている定期金のことです。
代表的なのは「確定年金」で、被保険者の生死にかかわらず一定期間は年金を受け取れる商品です。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×残存期間に応ずる予定利率による複利年金原価率
(複利年金原価率は、ネットで検索すれば見つかります)

 

(2)無期定期金の場合

永久に定期金の給付を受けられるもの。現実にはほとんど存在しません。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×予定利率

 

(3)終身定期金の場合

亡くなるまでの間、定期金の給付を受けられるもの。いわゆる『終身年金』の保険商品。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×平均余命に応ずる予定利率による複利年金原価率
(平均余命は、厚生労働省HPの完全生命表を利用。複利年金原価率は、ネットで検索すれば見つかります)

相続の場面では、被保険者=被相続人の場合は、保証期間がない終身定期金は評価の対象になりません(相続人は何も受け取れないので)。

 

(4)有期定期金だが、被保険者が中途で亡くなった後は支給されないもの

契約者がAさんで「被保険者であるBさんが60歳になったら10年間年金を払います。しかしBさんが亡くなった後は支給しません」という契約です。仮にAさんが亡くなってもBさんが生きている限り期間中は支給されます。

代表的な商品が「有期年金」で、被保険者の生死にかかわらず支給されるのが「確定年金」とは区別します。

この場合、(1)有期定期金の場合(3)終身定期金の場合との両方で評価し、少ない金額のほうが評価額になります。
亡くなってしまえば10年もらえないので、少ないほうで評価します。

なお、 相続の場面では、被保険者≠被相続人の場合にだけ評価の対象になります(被保険者=被相続人であれば、相続人は何ももらえないので評価の対象になりません)。

 

(5)終身定期金だが、被保険者が亡くなった後でも一定期間に限り継続して支給されるもの

いわゆる『保証期間付き終身年金』のことです。
たとえば、契約者がAさんで「Aさんが生存中はAさんに年金を払います。ただし支払開始日より一定期間内にAさんが亡くなった場合には、その一定期間のうち残存期間については、Aさんの遺族(継続受取人)に年金を払い続けます」というような契約です。もちろん被保険者≠被相続人であることもあります(例:夫が妻にかけるケース)

この場合、(1)有期定期金の場合(3)終身定期金の場合との両方で評価し、多い金額のほうが評価額になります。

 

 

第2 定期金給付事由が発生していないもの(例:年金支給開始前に死亡)

この場合には、基本的に解約返戻金をもって評価します。

 

 

おまけ:なぜ定期金に関する権利の財産評価は難しいのか

余談ですが、定期金に関する権利の財産評価は、どうしてこうも複雑なのでしょうか?
興味ない方は、以下は余談ですので無視して下さい

たとえば、あなたが、ある人から「今すぐ1000万円もらうのと、今後10年にわたって毎年100万円もらうのとどっちがいい?」と聞かれたら、「今すぐ!」と答えるのではないでしょうか?

希望すれば今すぐ1,000万円もらえるのですから、わざわざもらうのに10年かけるならば、そこそこの金利でも上乗せしてもらわなければ割があいません。

反対に、渡すほうの立場から考えると、10年かけて総額1,000万円を渡せばいいのに、あえて今すぐ全額を渡さなければならないとしたら、1,000万円全額ではなく多少割り引いてもらわないと釣り合いません。1,000万円全部をすぐに渡してしまったら、今後10年間に受け取ることができる運用利益がなくなってしまうからです。

ですから、「今後10年にわたって総額で1,000万円受け取ることができる権利」というものは、現在の時点では1,000万円の財産であると評価することはできず、現在の価値はもっと低いと考えなければおかしいことになります。

定期金に関する権利の中でも代表的な、『年金形式で受け取る保険金』についてもこれと同じことが言えます。だからこそ、年金形式よりも一括受け取りのほうが、受取総額が少なくなるわけです。

では、定期金に関する権利の『現在の』価値をどうやって計算するのでしょうか?
数学的にこれを計算することは不可能ではありませんが、その計算式は複雑です。

さいわい、一般人がそんな計算をしなくても、保険会社が計算する解約返戻金や一時金というものは、要はこの理屈をもとに計算されていますから、これらを活用して財産評価をすれば良いとされているわけです。

ただし、商品によって解約返戻金がなかったり(収入保障保険は基本的に掛け捨て)、給付期間が決まっていたり決まっていなかったりするので、どうしても定期金に関する権利の評価は難しくなってしまうのです。

定期金(おまけ)

(注1)
「定期金」とは、年金のことだけを指す言葉ではありません
たとえば、AさんがBさんに「今後20年間、毎年1月1日に100万円をあげる」という『定期贈与契約』を締結すると、Bさんが持っている権利もまた『定期金に関する権利』です。
(ちなみに、
契約した年に、有期定期金に関する権利の贈与を受けたものとして、贈与税が課税されてしまいます)

とはいえ、このような気前のいい話が、世の中にごろごろ転がっているはずがありません。 ほとんどの場合、もらうお金は、もらう前に自分で積み立てているケースが大半です。
たとえば、保険料と言う形で一定期間積み立て、一定の時期が来たら年金として受け取る『個人年金保険』が代表的です。

そのため、相続などの場面で『定期金』といえば、ほとんどの場合、このような個人年金や生命保険金等を年金形式で受け取る場合の権利のことを指します。

 

 

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2014年2月6日 | カテゴリー :