Q 先日父が亡くなりました。相続人は母・私・弟の3人です。
弟は以前から父に迷惑ばかりかけていたので、父は生前に遺言書を書いていました。
しかし、父が亡くなってから、その遺言書を弟が破り捨ててしまいました。
このような場合でも弟は相続人になるのでしょうか。
A あなたの弟さんは『相続欠格』という決まりによって、相続人になれない可能性があります。
ただし、弟さんに子供がいる場合には代襲相続となりますのでご注意ください。
相続欠格とは
本来ならば相続人となる人でも、その人に相続権を与えることが一般人の感覚として不適当な場合に、法律上当然に相続人の資格を失わせる制度のことを『相続欠格』といいます。
どのような場合に相続欠格にあたるかは民法で決まっており、これを『相続欠格事由』といいます。
この『相続欠格事由』は、大きくわけると2つのグループにわかれます。1つは故人などの生命を侵害する行為、もう1つは故人の遺言に関する不当な行為です。
相続欠格事由その1 故人などの生命を侵害する行為
被相続人などの生命を侵害するような行為をした相続人は、相続欠格事由にあたり、相続権を失います。
相続人が故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、 又は至らせようとしたために、 刑に処せられた場合 (民法891条1号)
被相続人に対する殺人や殺人未遂・殺人予備の罪で確定有罪判決を受けた場合には、相続欠格事由となり、相続権を失います。
「故意に」とされているので、過失致死罪や傷害致死罪の場合は相続欠格事由となりません(大正11年9月25日大審院判決)。 また、相続開始後に有罪判決が確定した場合には相続欠格事由に該当するという古い判例があります。
有罪の判決に執行猶予がついた場合、猶予期間を無事に終えれば刑に処せられなかったことになるので、相続欠格事由にはなりません。
被相続人だけでなく、先順位・同順位の相続人に対する殺人等の罪で有罪判決を受けた場合にも、相続欠格事由に該当します。
たとえば、亡父を相続する場合で、相続人にあたる母や他の子(殺害者のきょうだい)を殺害した者は、相続欠格事由にあたり相続権はありません。
相続人が、被相続人の殺害されたことを知って、 これを告発せず又は告訴しなかった場合(民法891条2号)
被相続人が殺害された場合に、相続人がその犯人を知っていたにもかかわらず、捜査機関に告訴・告発しなかった場合も相続欠格事由に該当します。
ただし、次の例外があります(民法891条2号但し書き)。
(1)その相続人に是非の弁別がつかないとき
(2)殺害者がその相続人の配偶者や直系血族(親や子供)であったとき
(加害者が相続人の近親者であるときは、人情的に告訴・告発を強制できないので例外とされています)
犯罪が発覚して捜査が開始された後は、 告訴・告発しなかった場合でも欠格事由にあたりません。
相続欠格事由その2 故人の遺言に関する不当な行為
被相続人の遺言に関して次のような行為があった場合、その行為をした相続人は、相続欠格事由に該当し、相続権を失います。
詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた場合 (民法891条3号)
『相続に関する遺言』とは、相続人の範囲や相続財産に影響を与える遺言のことです。
相続欠格という制度は、相続で不当な利益を得ようとしたことに対する制裁ですから、相続を自分の有利にしようとする意思がなければ相続欠格事由にはならないと考えられています。
詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、 これを取り消させ、 又はこれを変更させた場合 (民法891条4号)
相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合 (民法891条5号)
『偽造』とは、被相続人の名前で勝手に遺言書を作ることです。
『変造』とは、書き加えたり削ったりして遺言書の内容を改ざんすることです。
『破棄』とは、遺言書を破り捨てたり塗りつぶしたりすることです。
『隠匿』とは、遺言書の発見を妨げることです。
このような行為は相続欠格事由に該当し、相続権を失います。
なお、遺言書の破棄・隠匿について、破棄・隠匿する意思の他に、相続に際して不当な利益を得ようとする目的が必要かどうかという点が争われたことがあり、この点について最高裁は『必要』と判断しました(平成9年1月28日判決)
相続欠格の効果
相続欠格事由に該当した相続人は、法律上当然に相続権を失います(民法891条)。特別な手続きは必要ありません。
遺贈を受けることもできません(民法965条)。
相続欠格者が事実上遺産を相続してしまっている場合には、他の相続人は表見相続人に対する相続回復請求をすることになります(民法884条)。
相続欠格によって代襲相続が生じます(民法887条2項)。
ご相談者の場合、相続欠格者である弟さんに子供がいる場合には、相続権は弟さんを素通りしてその子(お父さんから見れば孫)に行きます。この点は間違いやすいので注意が必要です。
なお、相続欠格によって相続権を失うのは、特定の被相続人に対する関係だけに限定されます。
ご相談者の場合、父親の書いた遺言書を破棄した弟さんは、父親の相続については相続権を失う可能性がありますが、将来母親の相続が発生した場合には、母親の相続人になることはできます。
ところで、相続欠格によって当然に相続権を失うといっても戸籍にのるわけではありませんので、確定有罪判決がないケースでは客観的に証明する方法がないことになります。
そのため、不動産登記や銀行窓口などの手続きをするときに、相続欠格の事実をどのように証明するかが問題になります。
不動産登記の場合、相続欠格者自身が作成した自分が相続欠格者であることを認める書面を添付(印鑑証明書付き)することで手続きが可能となりますが、実際上の問題として相続欠格者がこのような書面を書いてくれる可能性は非常に低いと考えられます。
この場合、裁判を起こして相続欠格者に該当することを確認する判決を得て、その判決書を添付することになります。
もっとも、パターン2の遺言書に関する不当な行為がある場合には訴訟等になるケースが多いでしょうから、実際に問題になることは少ないようです。
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