Q126 代償分割の注意点は

【Question】

昨年、母が亡くなりました。
母の遺産は主に自宅の土地・建物だけで、現金預金はほとんどありません。
父は5年前に死去しており、相続人は私と妹の2人だけです。

自宅を売却して妹と売却代金を分けてもいいのですが、現在、この家には私が住んでおりますので、妹には金銭を渡し、自宅不動産を私が相続するという解決がもっとも理想的です。

このような場合、私にお金があれば『代償分割』という方法があることを知りましたが、私には妹が納得するような十分な金銭はありません。
ただ、私には父が死亡した時に相続した別の土地があり、妹もこの土地を欲しがっているので、現金の代わりにこの土地を差し出しても良いと考えています。このような遺産分割は可能ですか?また、税金等はどうなりますか?

 

【Answer】

遺産分割にはいくつかの方法がありますが(Q037)、ある遺産を相続する代わりに自己が所有する財産を他の相続人に交付する方法のことを代償分割といいます。

代償として代わりに渡す財産(代償財産)は現金であることが多いですが、相続人間で合意すれば現金以外の物や権利でもかまいません。もちろん土地でもOKです。

ただし、以下の点に注意してください。

(1)遺産分割協議書には、代償分割の内容を必ず明記する。

(2)代償財産が土地や株式のような譲渡所得を生じうる財産である場合、これらを時価で売却したものとみなされ、計算上利益が出る場合には、あなたはこの利益に対し譲渡所得税住民税を納める必要があります。

(3)代償財産が不動産(土地や建物)である場合には、取得した妹様に不動産取得税がかかります。また、登記手続きで登録免許税がかかりますが、通常の相続登記と異なり税率が高いです(固定資産税評価額の2%)。

(4)相続税がかかる場合、代償財産を受けとった相続人はそのぶんだけ相続税の課税価格が上がり、代償財産を差し出した相続人はそのぶんだけ相続税の課税価格が下がります。

 

 

【Reference】

代償分割とは

相続財産がたとえば自宅だけしかなく、相続人が二人以上いると、これを均等に配分することは事実上不可能です。

たとえば、相続人がAとBの二人だとして、Aが自宅を相続すればBには何も残りません。
だからといって、AとBとで共有にしたところで、Aがこの自宅に居住しBが居住しないならば、Bには何にもメリットがありません。さらにこの状態でAまたはBが死亡してしまうと、その相続によってそれぞれの子や配偶者が共有者となり、権利関係が複雑になります。一度共有にしてしまうと、これを単独所有にするには相当の時間多額の費用が必要になるのです。共有にして良いのは、すぐに売却するケースくらいなものです。

このような共有相続を回避する方法の一つが代償分割です。
代償分割とは、遺産分割によって価値の高い相続財産を取得した相続人が、その他の相続人に対して現金などの自己の資産を交付する遺産分割の方法です。
そして、代わりに提供する自己の資産のことを、代償財産とか代償交付財産といいます。

代償分割は、相続財産に農地や事業用不動産、同族会社の株式等が含まれる場合に細分化・共有化を避ける手段として、しばしば利用されます。

 

遺産分割協議書の書き方に注意!

代償分割を内容とした遺産分割をすることで相続人間に合意が成立したならば、遺産分割協議書には必ず代償交付の内容をはっきりと記載しておくことが大切です。

例えば、代償財産が現金であれば、「相続人Aは、取得した上記相続財産の代償として、相続人Bに金X万円を支払う」というように記載しておけば、誰が見ても「ああ、これは代償分割なんだな」と分かります。

このように明確に記載しておかないと、代償分割であることがわからないので、相続人間で単純な贈与が行われたものとして贈与税がかかるおそれがあります。

 

土地や株式を代償交付しても良い。しかし…

代償財産は現金であることが多いですが、土地・建物のような不動産や各種債権(株式、債券など)でも良く、譲渡が禁止されているものでなければ代償財産とすることができます。

しかし、現金以外の資産を代償財産にすると、このような資産はたいてい譲渡所得税の対象資産ですから、税務上はみなし譲渡所得の適用があります。つまり、代償交付を履行した時点において時価で売却したのと同様に取り扱われ、取得価額等を差し引いて利益が出ている場合には、その利益分に対して譲渡所得税住民税がかかります。
ちなみに、代償財産が譲渡所得税の特例を受けられるような『居住用不動産』であれば、譲渡所得の金額が3,000万円以下ならば事実上免税となると思われます。このような特例がなければ、長期または短期の区分に応じて譲渡所得税が課税されます。

なお、代償財産を取得した相続人については、その履行時点の時価によりその資産を取得したことになります。

 

代償財産が土地・建物である場合には

代償財産が土地建物のような『不動産』である場合、受け取った側に不動産取得税が課せられます。
また、代償不動産について「遺産分割による贈与」という登記原因で所有権移転登記を行うことになり、この場合、登記の際に納付する登録免許税は、固定資産税評価額の2%となります。故人の名義から相続人に「相続」を登記原因として所有権移転登記を行う場合には0.4%ですから、それと比べると5倍です。

 

代償分割の場合の相続税

相続税がかかる場合(相続税の基礎控除額を超えている場合)には、代償分割によってどのような影響が出るのでしょうか。

代償分割によって相続財産の全部または一部の分割が行われた場合、次のように相続税の課税価格を加減します(相続税基本通達11の2-9)。当然と言えば当然ではありますが。

  • 代償財産の交付を受けた相続人の課税価格:
    相続または遺贈により取得した現物の財産の価額+交付を受けた代償財産の価額
  • 代償財産を交付した相続人の課税価格:
    相続または遺贈により取得した現物の財産の価額-交付した代償財産の価額

 

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