【Question】
今のうちに妻に家を生前贈与しておけば、私が死亡した際の『相続対策』になりますか?
【Answer】
まず、ご質問の主旨が「『争続』対策になるか」という意味であるならば、次のような回答になります。
「妻に家を生前贈与して登記まで済ませておけば、将来相続が発生して揉めたとしても、妻は家を確保できるのではないか」
・・・このようにお考えだとすれば、確かに何もしないよりは、生前贈与しておいたほうが、はるかに安全です。
なにより、奥様にとって「家が自分の名義になった」という安心感は、何物にも代えがたいものがあります。
ただし、奥様に贈与した自宅不動産は特別受益財産にあたり、遺留分減殺請求の対象となるため、できるだけ他の相続人の遺留分を侵害しないようにしなければいけません。つまり、遺留分を有する他の相続人に対しても、別途、生前贈与や遺贈等によって遺留分に相当する財産を残しておくように、配慮しておく必要があるのです。
そうしておかないと、他の相続人が遺留分減殺請求をしてきた場合に、奥様が自己資金で遺留分相当額を支払うとか(価額賠償)、不動産自体を共有で登記し直すとか、厄介な問題を引き起こしかねないのです。
『生前贈与』も、遺留分に対する配慮が必要であると言う点では、相続対策の定番である『遺言』とあまり変わりないのです。
また、このケースでは、奥様の特別受益について持ち戻し計算を免除するならば、「持ち戻し免除の意思表示」もしておくべきです。
次に、ご質問の主旨が「(妻に対する家の生前贈与が)相続『税』対策になるか」という意味であるならば、ケースバイケースではあるものの、どちらかといえば対策にならない可能性が高いと言えるでしょう。
『夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除』を利用して、税務上有利に生前贈与すること自体は可能です。
しかし、生前贈与することなくそのまま相続した場合でも、相続税のほうの配偶者控除が非常に大きく、自宅については小規模宅地特例の適用を受けられるケースも多いので、配偶者には相続税がかからないケースが多いと思います。相続税がそもそも0円であるなら、コストをかけて対策をする意味がありません。
また、配偶者が亡くなって二次相続になると、今度は配偶者控除が無いので、自宅不動産が相続財産になることでかえって相続税が大きくなるかもしれません。
もっとも、奥様のほうが先にお亡くなりになって奥様から子へ家が相続されれば、先に家を贈与しておいた分だけあなたの財産が減るので、トータルで相続税を軽減できる可能性があります(結果論ですが)。また、将来は相続税のほうの配偶者控除が縮小されるという可能性もあるので、相続税対策にならないとも言い切れません。
【Reference】
妻や子への生前贈与は特別受益。遺留分にも注意!
配偶者や子に家(不動産)を生前贈与する行為は、あらかじめ遺産を前渡ししたものと考えることができ、特別受益にあたると考えられます。したがって、贈与者が死亡した後の遺産分割協議では、受贈者(家の生前贈与を受けた人)はすでに遺産を前渡しされたものとして、他の遺産に対する取り分が少なくなります。このような扱いを避けたい場合には、遺言等で「持ち戻し免除の意思表示」をしておく必要があります。
さらに、遺留分の問題があります。家の生前贈与によって他の相続人の遺留分が侵害されている場合には、遺留分減殺請求の対象になります。特別受益にあたる贈与財産は遺留分算定の基礎財産に含まれ、減殺の対象となるからです(Q074、平成10年3月24日最高裁判決)。
以上を総合すると、遺産を巡って争いになる可能性が高い場合には、他の相続人の遺留分を侵害することが確実な生前贈与や遺贈をすることは、かえって紛争の火種となるので極力避けるべきです。もちろん、贈与した家以外にも十分な財産があり、これを分け与えることによって他の相続人の遺留分を侵害しないならば良いのですが。
夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
たとえ相手が配偶者であっても、贈与税の基礎控除額(年間110万円)を超える生前贈与をすると、通常は贈与税がかかります。
しかし、居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭を、配偶者に生前贈与した場合には、一定の条件下で最高2,000万円(贈与された居住用不動産等の価格が上限)までを控除することができます。これが贈与税の配偶者控除です。基礎控除額110万円とあわせて2,110万円相当までは、贈与税がかかることなく配偶者に贈与できます。
夫から妻でも、妻から夫でも、どちらでも適用を受けることができます。
この特例を利用できるのは、同一配偶者からは1回限りです。
「相続税の配偶者控除」とは関係がありません。混同しないようにしてください。
【適用要件】
(1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
(戸籍上の婚姻期間を指します。内縁の期間は含みません)
(2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭であること
(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
(4) 同じ配偶者からの贈与について、過去にこの特例の適用を受けていないこと(注)
(5) 一定の書類を添付の上、贈与税の申告をすること
(注) 同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。
【注意点】
(1)3年以内に亡くなっても、相続税の対象にならない
生前贈与の後、3年以内に贈与者が亡くなった場合には、通常は贈与財産の価額が相続財産に加算され、贈与税ではなく相続税の対象になります(Q052)。
しかし、この特例を利用した贈与については、その後3年以内に贈与者が亡くなっても、相続財産に加算されません。
つまり、相続税評価で2,000万円以下ならば、贈与税も相続税も課税されずに移転できます。
(2)コストがかかる
たしかに相続税評価額で2,000万円まで贈与税はかからないのですが、次の税金はかかります。
・不動産取得税(地方税。納付書で納める)
・登録免許税(登記の際にかかる)
既に所有している居住用不動産を贈与するような場合には、不動産取得税も登録免許税も特例がないため、結構な額の税金を納めること(数十万円)になります。
なお、既存不動産を贈与するのではなく、資金を贈与して新築住宅を購入すれば(夫婦共有でも良い)、これらの税金についても特例があるほか、マイホーム購入に認められている各種の税制特例も活用することができます。
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