Q037 わけにくい遺産はどうやって分割するか(現物分割・代償分割・換価分割)

【Question】

亡くなった母の遺産は、母が住んでいた家の他にはわずかな預金しかありません。相続人は私と姉の2人だけで、母の遺言は見つかっていません。
私は年老いた母と同居して面倒を見ておりましたので、できることならばこの家を継いでいきたいと考えているのですが、他家に嫁いだ姉からは、この家を売却してその現金を分割したいと言われています。姉の言う通りにするしかないのでしょうか。

 

【Answer】

遺産分割にはいくつかの方法がありますが、実質的な相続財産が家しかない以上、お姉様が現金による分割を求めて譲らないのであれば、家を売却してその代金を分割するか、あなたが家の所有権を取得する代わりにあなたご自身の財産からお姉様にその分の現金を渡すか、どちらかの方法しかないと考えられます。

亡くなられたお母様の面倒を見ていたとのことですから、現金の分割にあたってはお姉様にその点を考慮してくれるように頼んでみてもいいかもしれません。しかし、裁判上の争いになった場合には、お母様と同居して面倒を見ていただけでは法定相続分の上乗せ(『寄与分』という法定相続分の調整)を認めてもらうことは難しいのが実情です。

 

【Reference】

相続人の誰がどのような遺産を引き継ぐかは、相続人全員が合意する限り、遺産分割協議で自由に決めることができます(Q031 法定相続分と異なる遺産分割協議はできるか)。とはいえ、上記のご相談のように遺産をそのままの形で分割することが困難な場合も多いため、現実の遺産分割では主に次の3つの方法を利用します。

(1)現物分割(げんぶつぶんかつ)

文字通り、個々の相続財産をそのままの形で分割する方法です。
ある特定の相続財産について、相続人のうちの1人が単独で取得する場合もあれば、法定相続分や遺産分割協議でまとまった相続分に応じて共有で取得する場合(共有分割)もあり、遺産分割協議で自由に決めてかまいません。

ただし、家・土地などの不動産を共有の形で分割することは、おすすめしません。権利関係がややこしくなるばかりか、一度不動産を共有名義にしてしまうとこれを単独名義に直すのはなかなか厄介で、『売買』『贈与』『共有物分割』のような形で共有持分権を譲り渡す必要があるのです。そうするとどうしても当事者間での金銭の授受やさまざまな課税、手続き費用を避けることができません。繰り返しますが、不動産の遺産分割をする場合には、共有は避けるようにしてください。

(2)代償分割(だいしょうぶんかつ)

遺産分割によって価値の高い相続財産を取得した相続人が、その他の相続人に対して、その取得した財産の価額と相続分との差額を現金などの自己の資産で支払う分割方法です。
当然のことながら、この方法を使うには、価値の高い相続財産を取得した相続人が差額を支払えるだけの自己資金があることが必要です。現金の代わりに物や権利などを給付してもかまいません。

代償分割は、 特定の相続人が事業用資産を承継する必要があるような場合に利用されることが多いです。

なお、代償金はトラブルを避けるためにも一括払いにするべきですが、分割払いにすることも可能です。ただし、高額な代償金を分割払いにすると代償金を受け取る側の相続人は不安定な立場に置かれますから、代償金の支払いを担保するために不動産担保や連帯保証人による保全措置を検討することも考えられます。

代償分割では、価値の高い相続財産を取得した相続人が支払った代償金は、当然、相続税の計算上は控除の対象とされます。ただし、取得した相続財産を将来売却し、その財産が土地などの譲渡所得を発生させる財産である場合には、譲渡所得税の金額を計算する上では取得費として控除することはできません。

(3)換価分割(かんかぶんかつ)

相続財産を第三者に売却し、現金化して相続人で分けあう方法です。
(1)の現物分割や(2)の代償分割が困難である場合や、高級車のように維持コストが高い相続財産を分割する場合に使いやすい分割方法ですが、売却に伴う仲介手数料などの諸経費や、譲渡所得に対する課税などのコストを慎重に検討する必要があります。

遺産分割協議で相続人全員が合意するならば、換価代金を必ずしも法定相続分で分配する必要はありません。遺産分割の内容をどうするかは相続人の自由ですから、法定相続分とは異なる割合で換価代金を分配しても問題はなく、それによって課税の問題も生じません。

なお、家や土地などの不動産を売却して換価分割する場合には、次のような注意点があります。


(a)不動産登記の決まりによって、
被相続人名義のままでは不動産を売却することができません!

売却する前提として、いったん相続登記をする必要があります。相続登記の方法は次のいずれかの方法によります。

①法定相続分とは異なる割合で換価代金を配分することが遺産分割協議で決まっている場合
→この場合、換価代金の配分割合で共有による相続登記をするのが原則

②法定相続分に応じて換価代金を配分することが遺産分割協議で決まっている場合
→この場合、法定相続分で共有による相続登記をするのが原則

③換価代金の配分については、売却後に決める場合
→この場合、法定相続分で共有による相続登記をするのが原則

④上記①②③いずれの場合でも、便宜的に共同相続人のうち1人の名義としてもかまわない
→共有名義にすると、売却の際の契約や残金決済について共有者全員が関与しなければならず、手続きが面倒です。
そのため、とりあえず共同相続人の1人名義とし、売却に伴う手続きをその相続人だけで執り行わせることができます。
対価を伴わずに不動産の名義変更をすると贈与税の問題が生じるのが一般的ですが、共同相続人ののうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものであり、その代金が、分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはありません国税庁質疑応答事例「遺産の換価のための相続登記と贈与税」)。

なお、便宜的に共同相続人のうち1人の名義とした場合、その人だけに譲渡所得税が課税されます。
また、便宜的に共同相続人の1人の名義とするにも、相続登記の際には遺産分割協議書をつけることになりますが、あくまでも『便宜的に』1人の名義にしたという形にしないと税務署から贈与税を指摘されるおそれがあります。遺産分割協議書の記載内容については登記を専門とする司法書士にご相談ください。

 

(b)換価分割では税理士にも相談を!

不動産の換価分割では、売却に際し必ず譲渡所得税の問題が発生します。
もしも相続税がかかる場合には、まず相続財産の評価額で相続税が課税され、次いで売却について譲渡所得税の問題となります(二重課税になりますが、『相続税の取得費加算』によって調整される)。
換価分割は課税関係が複雑であり、譲渡や遺産分割のタイミングによって大きな差が生じる可能性があります。換価分割を行う場合には税理士の支援が不可欠です。

 

(c)小規模宅地特例を受ける場合には、相続税の申告期限まで居住・所有することが要件です!

相続税の申告を要する場合、小規模宅地特例を利用して不動産の評価減を受けることが多いと思います。
この特例を受けるには、相続税の申告期限まで居住・事業継続し、かつ、継続所有することが要件です(配偶者を除く)。
そのため、相続税の申告期限(10ヶ月)を経過するまでは売却できません。

 

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