Q084 相続放棄後に遺産を持ち出したら(法定単純承認5)

【Question】

個人的に金銭を貸し付けていた、取引先の社長が亡くなりました。
そこでご遺族に借金を返済するよう求めたのですが、ご遺族の話では、財産よりも負債のほうが多かったので相続人全員が相続放棄したとのことで、家庭裁判所が発行した証明書も確かに見せてもらいました。

しかし、生前の彼は派手好きで、スーツや靴などは高級なものを身につけていましたし、輸入品のガラス器も大切にしていました。また、絵画やヴィンテージワインを集める趣味もありました。これらのほとんどは、相続放棄後に一部の遺族の方が形見分けと称して持ち出したようです。

確かに彼は借金も多かったようですが、価値のありそうな遺品の大半を持ち出した遺族が相続放棄できて、債権者である私は何も請求できないというのは釈然としません。

 

【Answer】

故人を偲ぶ程度の遺品を相続人間で分け合う『形見分け』については、民法921条1号の「相続財産の処分」にあたらず、それが相続放棄の後になされた場合でも同3号の「相続財産の隠匿」等にあたらないとされています。通常の形見分けによって単純承認したものとみなされることはありません

しかし、たとえば遺品に新品同様の衣服・靴等が多数含まれている場合や高価な宝石などは、一定の財産的価値を有している以上、これを勝手に持ち出す行為は通常の形見分けの範囲を超えています。そもそも相続放棄した遺族には、その放棄によって相続人となる者のために相続財産を管理する義務があるのです(民法940条)。

相続放棄した後であっても、相続財産を持ち出し、被相続人の債権者に損害を与えるような背信的行為をした相続人に対して、相続放棄によるメリットを与えるべきではありません。

そこで、利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識しながら相続財産を隠した場合には、民法921条3号の「相続財産の全部または一部または隠匿」にあたり、制裁的に相続を単純承認したものとみなされる可能性があります

なお、相続人が、相続放棄の申述を受理された後、故人のスーツ・毛皮コート・靴・絨毯等一定の財産的価値を有する遺品のほとんどすべてを自宅に持ち帰った行為が、いわゆる形見分けを超えるものであって「相続財産の隠匿」にあたるとした地裁判例があります(東京地判平成12年3月21日家月53巻9号45頁)。

 

【Reference】

 

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。 ・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

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Q083 故人の入院費を支払った。相続放棄できる?(法定単純承認4)

【Question】

先だって兄が他界しました。兄は独り者で子供がおらず、妹の私が相続人になっています。

預金などの相続財産よりも債務のほうが多いことがわかり、家裁で相続放棄しようと考えています。

そこで質問ですが、
(1)生前の入院費を私自身の預金をおろして支払ったら、相続を承認したことになるのですか?
(2)兄の預金を解約して生前の入院費に当てた場合はどうですか?

 

【Answer】

生前の入院費は、本来であれば亡くなったお兄様が支払うはずのものですから、相続債務として相続財産となります(Q011)。
法律上は、相続放棄するのであれば相続人が支払う必要はないのですが、それでもお世話になった病院には支払っておきたいと考えるのが人情でしょう。

(1)については、 相続債務の弁済(支払い)を相続人ご自身の財産でするわけですから、その行為は、当然民法921条1号の相続財産を処分したことにはなりません。相続放棄手続きにあたって支障をきたすことはないでしょう。
相続人固有の財産である死亡保険金で相続債務を弁済した事案で、この行為が相続財産の一部を処分したことにならないことは明らかであると示した控訴審決定があります(福岡高宮崎支決平成10年12月22日家月51巻5号49頁)。

 

しかし、(2)については微妙なところがあります。

民法921条1号では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときには、単純承認したものとみなされてしまいます。これは、相続の承認・放棄の態度を明確にする前に相続財産を処分したときには単純承認の意思があると考えるのが普通だからです。

そのため、被相続人名義の預貯金を解約してこれを被相続人の債務に充当した場合には、相続財産の処分にあたり、この行為を行った相続人は相続を承認したことになり、もはや相続放棄することはできない。これが原則です。

しかし、そもそも相続人は、限定承認または相続放棄するまでの間、その固有財産(自分自身の財産)を扱うのと同じ注意を払って相続財産を管理しなければならないという義務があります(民法918条1項)。そのため、相続財産の価値を維持する行為(保存行為)は、法定単純承認となる「相続財産の処分」からは除外されています(民法921条1号ただし書)。
支払期限の到来した債務を返済するということは、現金は減りますが返済義務も減ることになるので、全体でみればプラスマイナスゼロです。そう考えれば、相続財産で相続債務を返済する行為は保存行為であって民法921条1号の「相続財産の処分」にはあたらず、相続を承認したとみなされることはないとも、一応は言えるかもしれません。

とはいえ、「これが入院費でなく銀行借入金だったらどうか」「期限が来ていないのに繰り上げ返済してしまったらどうか」など、いろいろなケースを考えると危なっかしいのも事実です。

結論としては、家裁で相続放棄をするならば
・相続財産を相続債務の支払いにあてるのは避ける
・入院費などを払うならば、相続人が自分の財産で払うようにする。
・けっきょく、遺産には手を触れないのが一番
ということが言えます。
そもそも入院費は、身内の方が保証人になっているケースが多いと思いますが。

ついでに、家裁で相続放棄をするならば
入院費だからといって、故人が加入していた「医療保険金」を請求してはいけません!
これはまさに相続財産ですから、法定単純承認になってしまいます。
(詳しくはQ080をごらんください。なお、「死亡保険金」は大丈夫です)。

「高額療養費」の請求にも注意が必要です!
高額療養費は、故人が受給権者であるときは、請求してはいけません。
故人が世帯主(国保)・被保険者(健保の場合)には、還付される高額療養費は相続財産になってしまいます。相続放棄するならば請求できません。 なお、故人が世帯主や被保険者ではないならば、高額療養費を請求しても相続放棄できます。

 

【Reference】

 

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。 ・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

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お客様の声41 I様

お客様の声41 I様

以前、母親の関係で銀行関係の手続は理解していましたが、不動産となるとかいもくけんとうもつかず、インターネットで検索しましたところこちらのサイトを見つけ、自分の休みが土日で役所関連の事務処理に不便を感じていたので、すぐに問合せをしたところ手続も全て会わずに出来るところが気に入り申込をしました。多辺たすかりました。

I様、どうもありがとうございました。

Q082 葬儀費用を払ってしまったが、相続放棄できるか(法定単純承認3)

【Question】

1ヶ月前に父が亡くなりました。

取り急ぎ父名義の郵便貯金302万円を解約して葬儀費用273万円にあてました。残金は墓石・仏壇の購入にあてようと思っておりました。
ところが昨日、A信用保証協会から、父に対する多額の求償債権が残っているという通知書が送られてきました。

家庭裁判所で相続放棄の手続きをしたいと思いますが、
(1)葬儀費用のために父の貯金を引き出したことは、法定単純承認になって相続放棄できないのですか?
(2)このまま墓石・仏壇を購入するのは、問題がありますか?

 

【Answer】

まず(1)の葬儀費用については、身分に相応しい程度の葬儀であれば、その費用を相続財産から支払う行為は「道義上必然」として、法定単純承認(現行民法921条1号)となる「相続財産の処分」にあたらないとした古い判決があります(東京控判昭和11年9月21日新聞4059号13頁)。

比較的最近では、家裁で相続放棄の申述をしたところ却下の審判がなされたために即時抗告をした事例の抗告審決定の中で、葬儀費用の支出については社会的儀式として必要性が高く、その時期を予測することは困難であり、葬儀を執り行うためには必ず相当額の支出を伴うものであるから、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」にあたらないとしたものがあります(大阪高決平成14年7月3日家月55巻1号82頁)。

被相続人の預貯金を解約したこと自体が「相続財産の処分」ですから、絶対に相続放棄できるとは断言できません。
しかし、葬儀費用が妥当な額であるならば、葬儀代を相続財産から支払っても相続放棄申述は受理されるものと考えていいと思います。受理されなければ即時抗告をして争うことになるでしょう。

 

いっぽう(2)の墓石・仏壇購入費用について、上記と同じ大阪高裁の決定はニュアンスが異なります。

同決定では、墓石や仏壇の購入は葬儀費用の支出とは事情が異なる面もあるとした上で、社会的にみて不相当に高額ではなく、不足分を相続人が自分で負担している等の事情がある場合には、相続財産の一部である貯金を解約して墓石・仏壇を購入したとしても「明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」に当たるとは断定できない」とし、相続放棄の申述は受理するのが相当であるとしました。
墓石・仏壇の購入が、法定単純承認たる「相続財産の処分」に当たるとも言い切ってなければ、当たらないとも認めていない点に注意が必要です。

高裁としては、家庭裁判所での相続放棄申述については、はっきりと要件を満たしていないと断定できない限りは受理すべきだとしただけです。
墓石や仏壇の購入が「処分」にあたるかどうかは、結局のところ債権者との民事訴訟の中で白黒つけましょうね、と言っているにすぎません。
訴訟の中で債務者や相続人の経済状況等を具体的に突き詰めた結果、墓石・仏壇が不相当に高額と認定されて、「相続財産の処分にあたる」→「相続放棄の受理審判を取り消す」と結論付けられる可能性もあるわけです。

従いまして、相続財産から支出して墓石や仏壇を購入する行為は、不相当に高額でない等の事情があればセーフとなる可能性がありますが、100%大丈夫というわけではありません。結論的には「やめておいたほうが無難」です。

 

【Reference】

 

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。 ・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

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4月30日(水)越谷総合相談センターにて相談会

当ホームページにお越しいただき、誠にありがとうございます。

さて、来る4月30日(水)午後1時から4時まで、埼玉司法書士会越谷総合相談センターの相談員を、当事務所の司法書士が担当いたします。

毎回、すぐにご予約がいっぱいになってしまう無料相談会です。
(追加情報 今回の枠はすべてご予約をいただきました。どうもありがとうございました(4/17))

連休の谷間ではございますが、どうぞご参加をお待ち申し上げます。

 

完全予約制です(先着順)!

ご予約は下記まで、おかけ間違いのないようにお願い致します。
埼玉司法書士会総合相談センター(予約受付時間:平日午前10時から午後4時)
番号:048-838-7472

越谷相談センターの場所はこちら

 

 

Q081 遺産を早く売却して、故人の借金を清算したい(法定単純承認2)

【Question】

先週、父が他界しました。
母はすでに亡くなっており、相続人は私一人だけです。

父は事業をしていたので、その結果かかえた負債を分割して支払っていました。
父の居宅を売却すれば負債の大半を一気に清算することができるので、名義変更をして売却したいと思います。
不動産の相続登記をしないと売却できないと聞いたので、大至急、相続登記をお願いしたいのですが。

なお、私は親元からは自立しているので、実家がなくなっても困ることはありません。

 

【Answer】

お父様の居宅を売却して借金返済にあて、それでも負債が残るくらいであれば、家庭裁判所での相続放棄手続きをすることをおすすめします。
家裁で相続放棄するだけで、お父様の借金はもちろん、遺産の売却などの様々な義務からさっぱり免れることができます。固定資産税や譲渡所得税もいっさい支払う必要はありません。

もしも遺産を売却してしまうと相続を承認したことになり、相続放棄できません。

なお、あなたが相続放棄すれば、初めからあなたは相続人でなかったことになり、お父様のご両親が相続人に繰り上がります
お父様のご両親がすでに他界されていれば、お父様のごきょうだいが相続人に繰り上がります(Q078をご参照ください)。

そのため、あなたが相続放棄が家庭裁判所で受理されたら、繰り上がった相続人にすみやかに相続放棄の手続きをするようにうながすといいでしょう。

 

【Reference】

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます(したがって、遺産を売却すると相続を承認したとみなされます)。
・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

 

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お客様の声40 M様

お客様の声40 M様

初めての相続手続きでしたが、メールでのやりとりは、手軽で、良かったと思います。
又、当方で作成した分割協議書にもメールで添削していただき、ありがたかったです。
ありがとうございました。

M様、どうもありがとうございました。

Q080 生命保険金を受け取ったら相続放棄できないのか(法定単純承認1)

【Question】

先月夫が亡くなりました。
夫は、自分に万一があったときの事を考えて、妻である私を受取人とする郵便局の簡易保険(死亡保険)に加入していました。

夫が亡きあとの日々の生活費に不安があったので、葬儀後さっそく郵便局で保険金を請求し、受け取った保険金200万円の一部を生活費に充ててしまいました。

ところが、夫はこれと言った遺産も残さなかったのに、総額で600万円もの債務を負っていたことがわかりました。急いで相続放棄の手続きをしたいと考えていますが、遺産を使ってしまうと相続放棄できないと聞き、とても不安です。

 

【Answer】

保険契約の内容からすれば、この保険金はご主人の遺産(相続財産)ではなく、あなた自身の財産です。
そのため、保険金を受け取って一部を使ってしまったとしても、相続放棄の手続きをすることが可能です。

 

【Reference】

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。
・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。
たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

生命保険金を受け取って使ってしまった場合

生命保険金を受け取って使ってしまったケースでは、まず保険契約の内容を確認し、受取人が誰かを確認します。
そして、受け取った保険金が相続財産になるかどうかで、法定単純承認が成立するかどうかを判断します。
(『Q012 死亡保険金は相続財産として遺産分割の対象となるのか』もあわせてご覧ください)

(1)故人が受取人になっている場合

この場合には保険金は相続財産の一部になります。このタイプの保険金を相続人が受け取ると相続を承認したものとみなされて相続放棄することはできません。逆にいえば、相続放棄した場合には、このタイプの保険金を受け取ることはできません。

医療保険の入院・通院給付金、後遺障害保険金などが、このタイプの保険金に該当します。

 

(2)保険金受取人が『特定の人』になっている場合

この場合には保険金は相続財産にならず、受取人固有の財産となります。このタイプの保険金を相続人が受け取った場合でも、相続放棄をすることができます。逆にいえば、相続放棄した場合でも、このタイプの保険金を受け取ることができます。

いわゆる『死亡保険金』は、最近ではこのような契約になっています。

 

(3)保険金受取人が単に『相続人』となっている場合

この場合にも保険金は相続財産にならず、各相続人が固有の保険金請求権を持つことになりますので、(2)と同じになります。

 

結局、遺産になるかならないかで判断する

生命保険金以外にも、受け取った金銭等が相続財産を構成せず、受取人固有の財産になるものがあります。
たとえば『死亡退職金』『弔慰金』『公的遺族年金』がこれに該当します。

これらを受け取ったとしても相続を承認したとみなされることはなく、相続放棄することが可能です。逆にいえば、相続放棄したとしてもこれらを受け取ることができます

 

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お客様の声39 I様

お客様の声39 I様

この度はいろいろとご丁寧かつ迅速に対応頂きまして、ありがとうございました。
メールでの各種打診から、こちらの要望にてお時間頂いた面談まで懇切丁寧に対応して頂いたおかげで、迷う事なく、気持ち良く手続きを進める事ができました。お礼申し上げます。 メールと郵便をベースにした手続きは時間の制約のある人間には大変便利であり、今後ますます需要が増える事と思います。

また何かお願いする事もあるかと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。

 

I様、どうもありがとうございました。

Q079 死亡後3ヶ月を過ぎても、相続放棄できるか

【Question】

1年前に死亡した父のことで相談します。

父は母と20年前に離婚して家を出ていき、私とはそれ以来ずっと音信不通でした。
昨年父が亡くなったと聞きました。相続人は私一人だけです。
遺産は時価800万円にも満たない中古マンションくらいで、同居していた女性にそのマンションを遺贈するという遺言があったのでそのとおりにし、遺留分なども請求しませんでした。

ところが先週、ある金融機関から内容証明が届きました。それによると、父は古くからの友人が金銭の借り入れをするときに保証人になっていたとのことで、借主が返済できなくなったので、保証人の相続人である私に1,300万円を支払えというものでした。

今からでも相続放棄したいのですが、できるでしょうか。

 

【Answer】

できる可能性はあります。まずはあきらめずに家庭裁判所に相続放棄を申し立ててみてください。
もしも却下されたら、高等裁判所に即時抗告してみてください。あきらめるのはまだ早いです。

 

【Reference】

相続放棄は、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条1項)。この期間のことを『熟慮期間』と呼んでいます(『考慮期間』ともいいます)。

3ヶ月以内にしないと故人の負債を相続人がまるまる引き継ぐことになります(法定単純承認。民法921条2項)。
そこで、「自己のために相続の開始があったことを知った時」がいつの時点なのかが大きなポイントになります。

原則は、『故人の死亡』と『自分が相続人であること』を、両方とも知った時

この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、次の両方の事実を知った時からスタートします(一般的な相続の場合)。
(1)故人(被相続人)が死亡した事実
(2)自分が相続人であるという事実

すると、家族が集まって故人を看取ったような場合には、その亡くなった日から熟慮期間がスタートすることになります。
昔は、このように厳格に解釈されていました。

しかしこれでは、今回のご相談のように、後になってから相続人が知らない多額の借入金や保証債務が出てきたときに、どうしようもなくなってしまいます。債権者の中には熟慮期間が過ぎるのを待って、それから相続人に督促をかける悪質な金融業者も存在したので、このような厳しい法律の運用は、強く批判されていました。

 

最高裁が例外を認めた

批判を受けて最高裁は、熟慮期間に関する解釈をゆるめる判決を出しました(昭和59年4月27日)。

次の条件すべてをクリアした場合には、「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき」から熟慮期間がスタートするという基準を出したのです。

(a)相続人が、相続財産がまったく存在しないと信じたこと
(b)被相続人と相続人が長い間音信不通であった等、相続財産の調査がいちじるしく困難だったために、(a)のように信じる相当の理由がある場合

 

ご相談の事例では

ご相談の事例では、最高裁の基準を満たしていれば内容証明を受け取った時から熟慮期間がスタートすると言えそうですが、ご相談者は相続財産として中古マンションがあることを知っていますから、前記(a)の条件を満たしていません。
しかし、債務の存在を知らなかったために相続放棄することができなかった(知っていたら相続放棄していただろう)という点では変わりがありません。

この点で、上記の最高裁判決の後、各地の裁判所ではさらに基準を緩める判断がなされています。相続財産の一部を知っていた場合でも、すべての相続財産を他の相続人が取得するとの合意が生前からあって自分が相続する財産が無いと信じていたというようなケースでは相続放棄が認められたことがあります。

したがいまして、ご相談のようなケースでも、相続放棄の申立てをしてみる価値は十分にあります。

 

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