Q079 死亡後3ヶ月を過ぎても、相続放棄できるか

【Question】

1年前に死亡した父のことで相談します。

父は母と20年前に離婚して家を出ていき、私とはそれ以来ずっと音信不通でした。
昨年父が亡くなったと聞きました。相続人は私一人だけです。
遺産は時価800万円にも満たない中古マンションくらいで、同居していた女性にそのマンションを遺贈するという遺言があったのでそのとおりにし、遺留分なども請求しませんでした。

ところが先週、ある金融機関から内容証明が届きました。それによると、父は古くからの友人が金銭の借り入れをするときに保証人になっていたとのことで、借主が返済できなくなったので、保証人の相続人である私に1,300万円を支払えというものでした。

今からでも相続放棄したいのですが、できるでしょうか。

 

【Answer】

できる可能性はあります。まずはあきらめずに家庭裁判所に相続放棄を申し立ててみてください。
もしも却下されたら、高等裁判所に即時抗告してみてください。あきらめるのはまだ早いです。

 

【Reference】

相続放棄は、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条1項)。この期間のことを『熟慮期間』と呼んでいます(『考慮期間』ともいいます)。

3ヶ月以内にしないと故人の負債を相続人がまるまる引き継ぐことになります(法定単純承認。民法921条2項)。
そこで、「自己のために相続の開始があったことを知った時」がいつの時点なのかが大きなポイントになります。

原則は、『故人の死亡』と『自分が相続人であること』を、両方とも知った時

この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、次の両方の事実を知った時からスタートします(一般的な相続の場合)。
(1)故人(被相続人)が死亡した事実
(2)自分が相続人であるという事実

すると、家族が集まって故人を看取ったような場合には、その亡くなった日から熟慮期間がスタートすることになります。
昔は、このように厳格に解釈されていました。

しかしこれでは、今回のご相談のように、後になってから相続人が知らない多額の借入金や保証債務が出てきたときに、どうしようもなくなってしまいます。債権者の中には熟慮期間が過ぎるのを待って、それから相続人に督促をかける悪質な金融業者も存在したので、このような厳しい法律の運用は、強く批判されていました。

 

最高裁が例外を認めた

批判を受けて最高裁は、熟慮期間に関する解釈をゆるめる判決を出しました(昭和59年4月27日)。

次の条件すべてをクリアした場合には、「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき」から熟慮期間がスタートするという基準を出したのです。

(a)相続人が、相続財産がまったく存在しないと信じたこと
(b)被相続人と相続人が長い間音信不通であった等、相続財産の調査がいちじるしく困難だったために、(a)のように信じる相当の理由がある場合

 

ご相談の事例では

ご相談の事例では、最高裁の基準を満たしていれば内容証明を受け取った時から熟慮期間がスタートすると言えそうですが、ご相談者は相続財産として中古マンションがあることを知っていますから、前記(a)の条件を満たしていません。
しかし、債務の存在を知らなかったために相続放棄することができなかった(知っていたら相続放棄していただろう)という点では変わりがありません。

この点で、上記の最高裁判決の後、各地の裁判所ではさらに基準を緩める判断がなされています。相続財産の一部を知っていた場合でも、すべての相続財産を他の相続人が取得するとの合意が生前からあって自分が相続する財産が無いと信じていたというようなケースでは相続放棄が認められたことがあります。

したがいまして、ご相談のようなケースでも、相続放棄の申立てをしてみる価値は十分にあります。

 

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