Q024 遺言に書くことができる内容とは?

【Question】

遺言は法律で形式が決まっていると聞きましたが、どのような内容を書くことができるのでしょう?家族への気持ちのようなことを書いてはいけないのですか?

 

【Answer】

遺言の内容は基本的に自由にですが、相手方の承諾を必要としないために、書くことができる内容は自然と法律によって認められたものに限られてきます

もっとも、法律に定められたものではないことを記載しても遺言自体が無効になるということはありません。たとえば「私の亡きあとも兄弟仲良く暮らしてください」と書いてもかまいません。これを『付言事項(ふげんじこう)』といいます。
当事務所では、遺言を作成される方には必ず付言事項を加えることをお勧めしています

なお、遺言に書くことで法律上の効力を生じさせることができる事項(遺言事項)は、次のとおりです。
単なる法律用語の羅列ですし、中には理解が難しいものもありますが、気にしないでください。

第1 遺言でしかできない行為
(1)相続分の指定・指定の委託(民法902条)
(2)遺産分割方法の指定、指定の委託(民法908条)
(3)遺産分割の禁止(同)
(4)遺産分割における共同相続人間の担保責任の定め(民法914条)
(5)遺言執行者の指定・指定の委託(民法1006条1項)
(6)複数の遺贈がある場合の、遺贈の減殺割合の指定(民法1034条但書)
(7)未成年者の後見人・後見監督人の指定(民法839条,848条)

第2 遺言によっても生前行為によっても、どちらでもできる行為
(1)遺贈  (民法964条。ただし、生前行為の場合は”贈与契約”となり、相手方の承諾が必要)
(2)財団法人設立のための寄付行為(民法41条2項)
(3)信託の設定(信託法3条2号)
(4)認知(民法781条2項)
(5)推定相続人の廃除・廃除の取消し(民法893条,894条2項)
(6)特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
(7)祖先の祭祀主宰者の指定(民法897条1項)
(8)生命保険金受取人の指定・変更(保険法44条)

 

【Reference】

上記の『遺言事項』は法律用語の羅列ですし、中にはほとんど利用されることがない事項もあります。
ここでは、重要なポイントだけを少し説明します。

 

・遺言に書く『財産の分け方』は、基本的に2つの方法がある

相続人に対して遺言で財産の分け方を指定するには、基本的に2つの方法があり、どちらの方法も必ず遺言で指定しなければいけません。

1つは、法定相続分と違った割合で、相続の割合を定める方法で、これが民法902条の”相続分の指定”です。
たとえば、長女に3分の2、次女に3分の1を相続させるというようなものです。
具体的な財産については指定していませんから、指定された相続分に基づいて遺産分割協議を行う必要があります。

もう1つは、ある程度財産を特定して財産の分け方を指定する方法で、これが民法908条の”遺産分割方法の指定”です。
遺産の目録を作ってそれぞれの取得者を指定する厳格なやり方もあれば、「預金は全部、妻に相続させる」というような、内容が不明確でない程度ならば大まかな指定でもかまいません。
「家と田畑は長男に、その他の財産は長女に」という指定も有効です。

 

・『遺贈』にも、2つのやり方がある

遺言で、相続人ではない人や団体に財産を与えると書けば、それは『遺贈』になります。遺贈にも2つの方法があります。

1つは、「Aさんに遺産の2分の1(あるいは全部とか3分の1とか)を遺贈する」というように、割合で定めて一括して与える方法で、これを”包括遺贈”といいます。
包括遺贈を受けた人(包括受贈者)は、相続人と同じ権利義務を負い、他の相続人とともに遺産分割に参加し、遺言で定められた自己の割合を主張することになります。もめることが当然に予想されますので、他に相続人がいる場合にはあまり利用されません。
また、遺言者に借金などのマイナスの財産があれば、包括受遺者も遺贈の割合に従ってこれを負担しなければなりません。

もう1つは、「Bさんにどこそこの家屋を遺贈する」というように具体的な財産を指定して遺贈する方法で、これを”特定遺贈”といいます。

なお、”相続人に対する遺贈”も間違いではありません。遺贈は、相続人ではない人に対しても相続人に対しても行うことができます。
もっとも、相続人に対して特定遺贈をした場合には、実質的には民法908条の遺産分割方法の指定として扱われます(ただし、不動産登記の手続きは遺贈の方式による)。

 

・付言事項はとても大切!

『遺言書』そのものは、遺産の配分をあなた自身で決めるための法律文書ですので、どちらかというと堅苦しい文書です。
しかし、内容や形式が法律上有効な遺言であれば、財産に関すること以外の内容を盛り込むことができます。これを『付言事項(ふげんじこう)』といいます。

たとえば、
・家族への気持ちや感謝の言葉
・遺言書を書いた理由や、財産配分の理由
・財産以外のことについて、頼んでおきたいこと
このような内容を盛り込んでおくことで、遺言者の想いを残された方々に伝えることができます。

想いが込められた付言事項があれば、残された方もきっと遺言者の気持ちを真摯に受け止めることでしょう。
財産の配分に不満があっても理解してくれる可能性がずっと高まり、それがひいては円満な相続を実現することになるのです。

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2013年11月17日 | カテゴリー :

Q023 遺言のメリットとデメリットは?

【Question】

定年退職した会社のOB会に出席したときに、同期の友人が「遺言書を作ったので、とても安心しているよ」と話していました。遺言書を作ることにはどのような意味があるのですか?

 

【Answer】

『遺言』は、いつやってくるかわからない自分の万一のときに備えて、財産の分け方や認知などの身分事項について自分の希望が実現できるように、民法の決まりにしたがって作成しておくものです。

自分の心情を書き記しておく”遺書”とはちがい、遺言に書き記したことが法律的に有効になって、遺族や第三者が遺言書の内容に拘束されます。

具体的には、次のようなメリットがあります。
1) 家族の実情にふさわしい財産の配分ができる
2) お世話になった人や団体に、財産を分け与えることができる
3) 残された家族・親族の手続き上の負担を軽くすることができる

ただし、遺言は法律上の形式に従って適切に作成しなければ、かえってデメリットを生み出すこともあります。
たとえば、
1) 遺言の記載があいまいだったことが原因で、かえって争いの元になってしまうことがあります。
2) 法律の決まりに従って書かれていないと、希望どおりにならないことがあります。
3) いくら自分の希望が優先するといっても、あまりに実情を無視した内容では大きな紛争を引き起こします。

なお、余計なことかもしれませんが、法律家は『遺言』を『いごん』、『遺言書』を『いごんしょ』と呼びます。一般の方は『ゆいごん』『ゆいごんしょ』と呼ばれることが多いと思いますが、もちろん決して間違いではありません。ちなみに筆者は、専門用語が大キライなので、一般の方と同じく『ゆいごん』『ゆいごんしょ』と呼んでいます。

 

【Reference】

遺言を書いておくことの利点を、もう少しくわしく見てみましょう。

 

・家族の実情にふさわしい財産の配分ができる

「自宅は妻に残して生活の場を確保しておきたい」
「経営している会社の株式は、後継者である長男にすべて与えたい」
「介護に尽くしてくれた長女に財産を多く残したい」
「障がいのある子には、生活できるだけの資産を残したい」

このような希望を実現するための方法の1つが、『遺言』です。

万一のことがあったとき、故人が遺言をのこしていなければ、遺産は法定相続人全員による話し合いで、だれがどのように引き継ぐかを決めます。これが『遺産分割協議』です。
遺産分割協議には、すでに天国にいる故人が口をはさむことは、もちろんできません。

遺言をのこしておけば、基本的には遺言の記載内容が優先され、遺言の内容によっては遺産分割協議そのものが省略されることになり、遺言を作った人の希望が達成されるのです。

また、遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所での調停・審判となり、家族の間で骨肉の争いになることもあります。
適切な遺言書を残して財産の分割方法を指定しておけば、このような相続争いを防いで円満な家族関係を保つことができるという効用もあります。

 

・お世話になった人や団体に、財産を分け与えることができる

「苦労して世話をしてくれた息子の嫁にも財産をのこしたい」
「内縁の妻にも遺産を渡したい」

遺言がなければ、故人の財産はすべて相続人が承継することになりますが、遺言があれば、遺言者の意思にもとづいて相続人ではない人に財産を残す(遺贈)ことができます。
遺贈の場合は、生前贈与に比べて税負担などのコストが大幅に少なくなることもメリットになります。

また、団体に対して財産を残すことも可能ですので、「遺産を寄付して世の中に役立てたい」という希望もかなえることができます(ただしもらった法人には法人税、あげた遺贈者にはみなし譲渡所得課税の問題があります)。

 

・相続人の負担を軽減できる

相続手続きを経験されたことがある方でしたら、遺産分割とは大変面倒で、相当な量の事務作業を必要とするものであると痛感されたのではないでしょうか。

遺産を分割するには、まず前提として故人の遺産を調査してまとめ、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を揃えて相続人を確定するという作業を行う必要があります。遺産分割協議が成立するまでの間、故人の銀行口座は凍結され、自由に引き出すこともできません。

ところが、法的に間違いのない遺言書があれば、相続人が行うこのような作業を大幅に軽減することができます(公正証書遺言の場合)。
たとえば戸籍謄本については、故人の死亡記載のある最終の戸籍謄本と、実際に財産を引き継ぐ相続人の方の戸籍謄本があれば足り、預金口座についてもすぐに凍結を解除することが可能になります。

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2013年11月16日 | カテゴリー :