【Question】
父が昨年亡くなりました。相続人は私と、私の姉の2人です。
私は30年前就職のため上京し、今も都内に住んでいますが、姉は地元で結婚し、今も実家の近くに住んでいます。
私は今後も地元に戻るつもりはないので、姉が遺産の大半を相続することに異論はないのですが、姉から、先祖代々の墓地や仏壇は、長男である私が引き継ぐべきではないかと言われて困っています。
【Answer】
お父様が、口頭でも書面でも、墓地や仏壇を誰に承継させるかを指定していればそれに従いますが、そのような指定がなければ相続とは無関係にその地方の慣習に従います。
あなたの地元にそのような慣習が残っていればあなたが墓地や仏壇を承継することになりますが、特に慣習がなければまずはごきょうだいで話し合い、それでも解決しなければ家庭裁判所の調停や審判で定めることになります。
【Reference】
家系図や仏壇・仏具、神棚・神具、墓地・墓石など、祖先の祭祀を行うために必要な財産のことを『祭祀財産』といいます。
ときおり非常に財産的価値が高いものが含まれることもありますが、祭祀財産は相続財産には含まれません。そのため、高額な祭祀財産を承継したからといって遺産分割のときに相続分が減らされることもありません(祭祀財産を承継するとなにかとコストがかかりますので、遺産分割協議でそれを考慮するかどうかは相続人間の話し合いによります)。
相続財産ではありませんから、祭祀財産を承継するのは相続人とは限りません。内縁の妻が承継することもあります。
また、仮に家庭裁判所で相続放棄の手続きを取ったとしても、これらの祭祀財産は引き継ぐ余地があります。
祭祀財産は、原則として相続税の課税対象にもなりません(非課税財産)。墓地や仏壇に相続税をかけることは国民感情として受け入れられないと考えられているからです。
ただし、これを逆手にとって純金製の豪華な位牌を作ったり、不必要に広大な墓地を購入したりしたような場合には、投資目的や相続税逃れの目的があると考えられますので相続税の課税対象になります。
祭祀承継者の決め方
祭祀財産は相続財産に含まれませんから、祭祀財産を承継する人(祭祀を主宰すべき者、祭祀承継者)は相続とは別の考え方で決めます。
誰が祭祀承継者になるかは、次の順番で決めます(民法897条)。
第1 被相続人の意思
第2 地方の慣習
第3 家庭裁判所の決定(調停など)
まず、被相続人の意思があれば、それを優先します。
これは書面でも口頭でも良く、もちろん遺言でも有効です。
余談ですが、遺言公正証書を作成する場合、祭祀の承継に関する事項を本文に入れてしまうと公証人手数料が11,000円余計にかかるので、それとなく付言事項に盛り込んでおくようなテクニックがあります。
被相続人の意思が明確ではない場合は、地方の慣習によって祭祀承継者を決め、そのような慣習もなく相続人間の意見もまとまらなければ、家庭裁判所に調停の申立てをすることができます。調停もまとまらない場合は家庭裁判所の審判で決まります。
祭祀財産の承継は、通常の遺産分割調停・審判と異なり相続とは別問題ですから、家庭裁判所で相続放棄の手続きを取っていたとしても調停手続きの当事者となります。
遺骨・遺体について
遺骨についても、判例は祭祀承継者に帰属するものとしています(平成元年7月18日最高裁判決)。遺骨や遺体は祭祀財産ではありませんが、それに準じるものとして考えられ、所有権は祭祀承継者に帰属することになります。
もっともこのような場合、『分骨』などの方法で解決することもあります。
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