Q009 浪費家の息子に相続させたくない場合は(推定相続人の廃除)

Q 長男は、私たち夫婦にひんぱんに暴力を振るいます。
ギャンブル好きで浪費も激しく、嫁は孫を連れて出て行ってしまいました。
どうせ浪費されてしまうとわかっているので、長男には私たちの財産を遺すつもりはありません。
けれども、長男の子である孫には遺してあげたいのです。
なにかいい方法はないでしょうか。

 

A 推定相続人の廃除の請求を家庭裁判所で行う方法がありますが、ご長男に知られると報復される危険がありますので、遺言を作り、遺言の中で廃除の意思表示を行うことをおすすめします

遺言で廃除の意思表示をせず、「長男に遺産は渡さない」という遺言を書くだけでは、ご長男にも遺留分があるので遺産の一部が渡ってしまいます。必ず廃除の意思表示を遺言に残すようにしてください。

遺言で廃除の意思表示をしておけば、あなた方に万一の事があったら、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をします。これが家庭裁判所によって認められれば、ご長男は遺留分も剥奪され、遺産がご長男に行くことはありません。

 ご長男が相続人から廃除された場合には代襲相続となり、お孫さんが代襲相続人になります。せっかく遺言を作るのですから、遺言で他のご子息やお孫さんへの遺産の配分を指定しておいてはいかがでしょうか。

なお、廃除を家庭裁判所が認めるハードルは、結構高いです。暴力の内容や日時など非行の形跡をメモし、第三者の証言やけがをしたときの診断書など証拠となるものは押えておく必要があります。また、廃除の理由については遺言書に書くのは簡潔にとどめ、詳しい内容は公証役場の宣誓認証を活用します。

 

推定相続人の廃除とは

将来のあなたの相続人となる人(『推定相続人』といいます)の中に、自分の遺産を相続させたくない者がいる場合には、家庭裁判所に請求して相続権を剥奪することができる制度です(生前廃除、民法892条)。

廃除は遺言ですることもできます(民法893条)。この場合、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をします。

なぜ「廃除」で「排除」ではないのか、という質問をされることがありますが、単なる法律用語です。理由は私も知りません・・・

 

廃除の要件

(1)廃除の対象になる人

廃除の対象になるのは、遺留分を有する推定相続人に限られます。
言い換えれば、兄弟姉妹以外の推定相続人に限られます。
兄弟姉妹が推定相続人となる場合、兄弟姉妹には遺留分がないので、相続させたくない人には遺言でその相続分を0にしたり、全財産を第三者に遺贈したりすることができるので、廃除の対象になりません。

遺留分放棄をした人も廃除の対象になりません。

 

(2)廃除事由

廃除をするためには、下記の事由のどれかにあてはまらなければなりません。

(a)推定相続人が被相続人に対して虐待をしたこと
(b)推定相続人が被相続人に対して重大な侮辱をしたこと
(c)推定相続人にその他の著しい非行があったこと

ただし、これらの事由に該当する場合でも、そもそもの原因を被相続人が作り出したような場合や、一時の激情に駆られたような場合には、判例は廃除請求を認めていません。
また単なる素行不良や浪費といった事実だけでも判例は廃除の請求を認めません。
家庭裁判所における廃除のハードルは、結構高いのです。
廃除の請求を行う場合には、弁護士や司法書士に必ず相談するようにしてください。

ご参考 平成4年12月11日東京高等裁判所決定
「民法第892条にいう虐待又は重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものをも含むものと解すべきである。」

 

廃除の効力

廃除の審判の確定によって、その相続人はただちに相続権を失います。
遺言による廃除等の場合には、廃除は被相続人の死亡の時にさかのぼって相続権を失います。

ただし、相続欠格と異なり、遺贈を受けることはできます。

廃除の効果は、廃除された人と被相続人との間の相続に限って生じます。廃除されても他の被相続人との関係では相続権を失いません。
ご相談者の事例では、ご夫婦ともに廃除の意思表示をしておく必要があります。

また、廃除によって代襲相続が生じます(民法887条2項)。
ご相談者の場合、ご長男に子供がいるようですので、相続権はご長男を素通りしてお孫さんに行きます。この点は間違いやすいので注意が必要です。

廃除の審判が確定すれば、市町村役場に戸籍の届出を提出し、推定相続人から廃除された旨が記載されます。
従いまして、廃除の事実は戸籍謄本によって証明することが可能です。

 

廃除の取り消し

廃除を取り消したいときには、いつでも家庭裁判所に廃除の取り消しを請求できます(民法894条)。
廃除の取り消しの意思表示も遺言ですることができます。

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2013年10月11日 | カテゴリー :