Q094 特別受益額は、いつの時点を基準にして評価するの?

【Question】

亡くなった父がまだ元気だった10年前に、相続時精算課税制度を利用して、父からマンションの贈与を受けました。

その父が、先日、他界しました。
父の遺産分割にあたって、私のもらい受けたマンションが特別受益財産にあたる、ということは理解しています。

相続時精算課税制度の届出をして申告をしたときには、このマンションは1,500万円の評価額で贈与税の申告をしました。あれから10年がたち、現在、このマンションの相続税評価額は1,000万円程度です。

相続税の計算の上で、贈与当時の評価額が相続税評価額になってしまうのは仕方がありません。
しかし、父の遺産を分割する場合にも、当時の時価1,500万円が特別受益額として持ち戻され、私の相続分から1,500万円が差し引かれるというのは納得できません。

 

【Answer】

特別受益について、その額をどのように判定するかについて明確な定めはないので、相続人間の話し合いで決めることになります。

しかし、家庭裁判所の遺産分割審判等では「相続開始時の時価」によって特別受益額を認定しています。そこで、あなたとしてはマンションを1,000万円で評価するよう主張してみると良いでしょう。

相続時精算課税制度ではあくまでも「贈与時の評価額」が相続税評価になりますが、特別受益として見た場合には結論が逆になるのです。

(なお、相続税等の『税務上の評価額』と、遺産分割の基準となる『時価』とは、必ずしも一致しません。しかし、税務上の評価額を遺産分割の基準としているケースが多いので、ここでは区別しませんでした。ご了承ください)

 

【Reference】

特別受益として持ち戻しの対象となる贈与は、期間の制限がなく、何十年前の贈与でも対象になります

すると、贈与された財産の価値が大きく変わっていたり、また、贈与財産自体がすでに失われていたりすることが考えられます。

また、現金を贈与した場合でも、インフレなどで大きく貨幣価値が変動してしまい、「ずっと前に100万円贈与されたが、相続発生時での貨幣価値に直すと、これは3,000万円相当」ということもまったくありえない話ではありません。すると、贈与時の100万円を特別受益とするのか、あるいは相続発生時の3,000万円を特別受益とするのかによって、結論が大きく違ってしまいます。

これも結局のところ相続人間での話し合いで決めるほかありませんが、判例(昭和51年3月18日最高裁判決)や家庭裁判所の審判実務では、相続開始時を基準として特別受益額を評価します。なぜなら、特別受益という制度が相続人間の不公平を解消するためのものだからです。

したがって、特別受益についての裁判所の運用では、マンションのような不動産を贈与されていた場合には、特別受益額を相続開始時の時価によって評価します。もしも火事で焼けていれば特別受益額は0円です(ただし、失火のように受贈者の行為によって滅失したり価格が減少したりしたときは、目的物が原状のままあるものとして評価します。民法904)。

また、現金を贈与されていたような場合には、消費者物価指数などの変動に応じた額を特別受益額としています(参考:新潟家審昭和41年6月9日)。 先ほどの例で、共同相続人の一人が被相続人から30年前に100万円をもらい受け、それが相続発生時での貨幣価値に直すと3,000万円相当になっている場合、その相続人の特別受益額は100万円ではなく3,000万円と評価されることになるのです。

 

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2014年5月19日 | カテゴリー :