Q094 特別受益額は、いつの時点を基準にして評価するの?

【Question】

亡くなった父がまだ元気だった10年前に、相続時精算課税制度を利用して、父からマンションの贈与を受けました。

その父が、先日、他界しました。
父の遺産分割にあたって、私のもらい受けたマンションが特別受益財産にあたる、ということは理解しています。

相続時精算課税制度の届出をして申告をしたときには、このマンションは1,500万円の評価額で贈与税の申告をしました。あれから10年がたち、現在、このマンションの相続税評価額は1,000万円程度です。

相続税の計算の上で、贈与当時の評価額が相続税評価額になってしまうのは仕方がありません。
しかし、父の遺産を分割する場合にも、当時の時価1,500万円が特別受益額として持ち戻され、私の相続分から1,500万円が差し引かれるというのは納得できません。

 

【Answer】

特別受益について、その額をどのように判定するかについて明確な定めはないので、相続人間の話し合いで決めることになります。

しかし、家庭裁判所の遺産分割審判等では「相続開始時の時価」によって特別受益額を認定しています。そこで、あなたとしてはマンションを1,000万円で評価するよう主張してみると良いでしょう。

相続時精算課税制度ではあくまでも「贈与時の評価額」が相続税評価になりますが、特別受益として見た場合には結論が逆になるのです。

(なお、相続税等の『税務上の評価額』と、遺産分割の基準となる『時価』とは、必ずしも一致しません。しかし、税務上の評価額を遺産分割の基準としているケースが多いので、ここでは区別しませんでした。ご了承ください)

 

【Reference】

特別受益として持ち戻しの対象となる贈与は、期間の制限がなく、何十年前の贈与でも対象になります

すると、贈与された財産の価値が大きく変わっていたり、また、贈与財産自体がすでに失われていたりすることが考えられます。

また、現金を贈与した場合でも、インフレなどで大きく貨幣価値が変動してしまい、「ずっと前に100万円贈与されたが、相続発生時での貨幣価値に直すと、これは3,000万円相当」ということもまったくありえない話ではありません。すると、贈与時の100万円を特別受益とするのか、あるいは相続発生時の3,000万円を特別受益とするのかによって、結論が大きく違ってしまいます。

これも結局のところ相続人間での話し合いで決めるほかありませんが、判例(昭和51年3月18日最高裁判決)や家庭裁判所の審判実務では、相続開始時を基準として特別受益額を評価します。なぜなら、特別受益という制度が相続人間の不公平を解消するためのものだからです。

したがって、特別受益についての裁判所の運用では、マンションのような不動産を贈与されていた場合には、特別受益額を相続開始時の時価によって評価します。もしも火事で焼けていれば特別受益額は0円です(ただし、失火のように受贈者の行為によって滅失したり価格が減少したりしたときは、目的物が原状のままあるものとして評価します。民法904)。

また、現金を贈与されていたような場合には、消費者物価指数などの変動に応じた額を特別受益額としています(参考:新潟家審昭和41年6月9日)。 先ほどの例で、共同相続人の一人が被相続人から30年前に100万円をもらい受け、それが相続発生時での貨幣価値に直すと3,000万円相当になっている場合、その相続人の特別受益額は100万円ではなく3,000万円と評価されることになるのです。

 

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2014年5月19日 | カテゴリー :

Q068 夫婦で母を療養看護。相続のときに考慮される?(寄与分)

【Question】

夫婦で母の介護をしています。

一時は老人ホームへの入居も検討しましたが、母がそれをとても嫌がり、認知症なども無いので、自宅で一人住まいをしていました。
しかし、85歳近くなってだんだん足腰が衰えてきて、日常生活に支障が出てきたので、私は思いきって会社を早期退職し、母を自宅に呼び寄せて妻とともに介護にあたってきました。

親子なのですからこれも当然とは思いますが、母に万一の際、私と妻の苦労は相続のときに考慮されるのでしょうか。

 

【Answer】

あなたご自身については、ご事情からすれば『寄与分』が認められる可能性があります。

『寄与分』がどれくらいかは相続人間で話し合って決めますが(遺産分割協議または調停)、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所に決めてもらう(審判)ことができます。
なお、療養看護の寄与分を家庭裁判所が決める場合(審判)、金額は介護保険報酬等をもとに 、1日の金額に日数をかけて計算します。家庭裁判所の審判では寄与分は遺産全体の20%を上限の目安として運用しており、ご苦労からすれば少なく感じられるかもしれません。
(※寄与分について、民法に上限はありません。また、調停はあくまでも話し合いですから、やはり上限はありません。調停が不調で審判になると、審判上の運用では、一般的に寄与分は遺産全体の20%程度が上限の目安、ということです。)

また、奥様は相続人ではないので、寄与分は認められません

幸いお母様はまだお元気なご様子ですので、機を見て遺言書を書いてもらえれば理想です。とはいえ「お金目当ての介護」と誤解されるのは避けたいところですから、お母様のお友達や福祉関係者など、どなたかお母様と親しい方から話を切りだしていただけるようにしたいところです。

 

【Reference】

 

寄与分とは

相続は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)に存在した被相続人の財産が対象になります。 そして、同一順位の相続人が2人以上いる場合には、その相続分は均等とするのが現在の法律の考え方です(均分相続)。

しかし、常に「相続分は均等です」という考え方を押し通すと、場合によっては不公平が生じる場合があります。この不公平を解消するための制度の一つが『寄与分』なのです。

寄与分とは、故人の財産の維持または増加に尽くした共同相続人(『寄与分権利者』といいます)に対し、法定相続分または指定相続分に一定の加算をすることで、 相続人間の不公平を解消する制度です(民法904条の2)。

 

寄与分権利者とは

(1)共同相続人であることが必要です。

したがって、内縁の妻や、子の妻(嫁)には寄与分はありません。ただし、子の妻(嫁)の寄与は、その配偶者である子の寄与として考慮はされます。

 

(2)故人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者でなければなりません

寄与分が認められるには、寄与は「特別の」ものである必要があります。
入院の世話をしたというような、夫婦・親子間の協力義務・扶養義務を果たしただけでは、それは「通常の」寄与でしかありません。
「特別の」寄与というためには、たとえば、介護によって施設の費用等の療養看護の費用を大幅に節約できたとか、家業を手伝って繁盛させたとか、誰が見ても経済的にプラスであったということが必要です。

逆にいえば、経済的にプラスであれば良いので、被相続人に多額の金銭的援助をしていれば寄与分が認められます (精神的サポートだけではなかなか寄与分は認められないのです)。ただし家事審判では、被相続人が所有していた株式や投資信託を相続人の一人が運用し、結果として遺産を増加させたようなケースでは、資産運用には常にリスクを伴いますので「特別の寄与」として評価してもらえることはありません。

 

寄与分はどうやって決めるのか

寄与分がいくらなのか、はじめから具体的な金額が決まっているわけではありません。
共同相続人の協議で決めるか、あるいは家庭裁判所の「裁量」によって決められます。
法定相続分や特別受益などと違い、決める基準はグレーゾーンなのです。

(1)原則は協議で決める

特別の寄与があったのか無かったのか、あったとして寄与分はどのくらいであったのか、これは原則として共同相続人全員の協議で決めます。
このように協議で決める場合には、被相続人に対して特別の寄与をした相続人がいれば、普通は遺産分割協議の中で貢献度に応じて遺産を加減するでしょうから、厳格に「寄与分はいくら」と決めることは少ないです。

ただし、寄与分を主張するならば遺産分割が終わるまでに主張しておかなければならず、遺産分割協議終了後に寄与分の請求だけをすることはできません(寄与分は相続分を修正するための制度ですから)。

(2)家庭裁判所で決めてもらうことも

話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に寄与分を定める申立てをします。これは通常、遺産分割の申立てと並行して行い、家庭裁判所の審判で決まることになります。特別受益のケースと異なり寄与分は算定が難しいので、申立てなければ審理の対象になりません。

家庭裁判所は、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、「自由に」寄与分を決定します。
これは、たとえば家業を手伝った子の寄与額が仮に1,000万円であったとしても、裁判所は500万円と評価するかもしれない、ということを意味します。遺産総額が300万円であったとすれば、寄与分は100万円としか評価してもらえないかもしれないのです。

寄与分がこのように具体的な金額で示されることもあれば、「遺産総額の7%」という基準が示されることもあります。
介護による寄与分を家裁が算定する場合、介護保険報酬などを基準にして算出されます。

なお、調停が不調に終わって家庭裁判所が審判を下す場合、寄与分は遺産全体の20%をおおよその上限の目安として運用しています(※寄与分について、民法に上限はありません。また、調停はあくまでも話し合いですから、やはり上限はありません。20%というのはあくまでも審判上の目安です)。

また、『療養看護』についての寄与分を家庭裁判所に認めてもらうには、現実的には「要介護2以上であった故人を、最低1年間、自宅で自ら介護」していないと認めてもらえないというおおよその基準が存在します。
しかも故人の家で同居していた場合には、それは「利益」としてマイナス評価されてしまいます。

 

寄与分権利者がいるときの相続分の算定

共同相続人の中に寄与分権利者がいる場合、次の方法で各相続人の相続分を求めます。

1.まず、遺産総額から寄与分額を引きます(遺贈がある場合は遺贈が優先。民法904の2 第3項)。
2.この金額に、法定相続分(または指定相続分)をかけます。
3.寄与分権利者については、2の金額に寄与分の額を加算します。

(例)遺産総額2,000万円、寄与分額200万円、寄与分権利者は子A

妻  (2,000万円-200万円) × 1/2 =900万円
子A (2,000万円-200万円) × 1/4 + 200万円 =650万円
子B (2,000万円-200万円) × 1/4 =450万円

 

2014.10.29、表現が不正確で誤解を招く部分があり、一部修正しました。

 

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2014年2月27日 | カテゴリー :

Q067 死亡保険金は特別受益にあたるのか

【Question】

父が亡くなりました。母と兄、それに私が相続人です。
父の遺産は総額で5,000万円ですが、それとは別に、被保険者=父、受取人=私となっている死亡保険が1,000万円ありました。私が病弱なので、父が特別に気をつかってくれたのだと思います。

死亡保険金は父の遺産ではないと聞いていたので、私が受け取る保険金とは別に、母の相続分は2,500万円、私たち兄弟の相続分は平等にそれぞれ1,250万円になるのだと考えていました。

ところが兄は、私は1,000万円の保険金を受け取っているのだからそれも含めて計算すると、母の相続分は3,000万円、兄の相続分は1,500万円、私の相続分は500万円(1,500万円から受け取り済みの保険金1,000万円を差し引いた残り)だと言います。

兄の考え方と私の考え方の、どちらが正しいのでしょうか?

 

【Answer】

過去の裁判例からすれば、あなたの考え方のように、受け取った死亡保険金は遺産に戻して計算しないというのが通例です。
ただし、遺産の中で死亡保険金の占める割合が高いなどの特段の事情がある場合には、お兄様の計算のように、死亡保険金を『特別受益』として相続財産に持ち戻すことがあります。

あなたの場合、遺産総額5,000万円に対し、死亡保険金が1,000万円であり、これは遺産総額の20%に相当しています。保険金額が遺産総額の50%を超えるとほぼ確実に特別受益として持ち戻しの対象になりますが、20%であれば「絶対ではないが、たぶん大丈夫」という水準です。
まずは、死亡保険金は特別受益にあたらないと主張してみてください。

 

【Reference】

死亡保険金が特別受益になるかならないかによって結果は大違い

法定相続分または指定相続分を絶対的なものとしてそのまま適用すると、共同相続人間に不公平が生ずる可能性があります。
たとえば、相続人のうちで被相続人から生前贈与や遺贈を受け取っている人がいるにもかかわらず、その人が遺産分割の際にも他の共同相続人と同様、均等に遺産の配分を受けることができるとしたら、「それはちょっとどうなのか」という意見が出てきてもおかしくありません。

そこで、生前贈与や遺贈によって財産を受け取った相続人がいる場合には、それは相続分を前渡しされたものとみなし、この贈与財産の『価額』を相続財産に加えたうえで遺産を分割することで、不公平感を解消します。これが『特別受益』という制度です(詳しくはQ066)。

ならば、死亡保険金についても『特別受益』といえるのではないか、という意見が昔からありました。
死亡保険金は相続財産ではないので遺産分割の対象にならない(Q012)としても、保険金が特別受益にあたるとするならば、自己の相続分を前取りしたのと同じことになり、遺産分割の際には実質的に自己の取り分が少なくなることになります。
反対に保険金が特別受益にあたらないとすれば、相続人間の不公平感が強くなります。

たとえば、自宅マンション1,000万円相当と預金1000万円とを持っている人が亡くなり、その相続人が長女と二女の2人だとします。
この人が何もせずに亡くなれば、当然、長女と二女はそれぞれ1,000万円相当の遺産を相続することになります。

そこで、「死亡保険金が特別受益にあたらない」とすれば、どうなるでしょうか?
この人が、1,000万円の預金全額を一時払い掛金として二女を受取人とする生命保険に入れば、二女は遺産分割によらずして1,000万円の保険金を手にしたうえ、さらに残りの相続財産である自宅マンションについても長女と均等の相続権があることになり、これではどうしても長女にとって不公平感が強いです。

そんなわけで、法律業界でもなかなか意見がまとまらなかったのです。

 

最高裁が出した結論

死亡保険金が特別受益として持ち戻しの対象になるかどうか、平成16年10月29日の最高裁判決が、次のような結論を出しました。

a)原則として生命保険金は特別受益の持ち戻しの対象とならない。

b)例外的に、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる

この最高裁の判決では、原則として生命保険金が民法903条の特別受益の持ち戻しの対象にならないとしています。
なぜかというと、まず903条の条文からすれば、 死亡保険金は受取人固有の財産であって贈与や遺贈で受け取る財産ではないので、特別受益として同視するのは無理があります。また実質的にも、保険金額は払い込んだ保険料と等しいわけではなく、被保険者が生きていたら得られたであろう収入に見合うものでもありません。そのため、遺産として持ち戻す対象になりえないのです。

しかし、このままでは不公平感が解消できません。

そこで、相続人間の不公平を無視できないほどの「特段の事情」があれば、死亡保険金も特別受益として持ち戻しの対象になることになりました。
先の例でいわば、長女の不公平感を無視できないほどの「特段の事情」があるならば、遺産分割に際しては、すでに死亡保険金1,000万円を受け取っている二女はもはや取り分が無く、長女がマンションを相続することになります。

 

死亡保険金が特別受益として持ち戻しの対象となる「特段の事情」

そこで、どのような場合が「特段の事情」にあたるかが焦点になります。

最高裁判決後の裁判所審判例をみると、まず保険金額と遺産総額の比率を基本として、これに同居の有無等の諸事情をあわせて考慮することによって、特別受益にあたるかあたらないかの判断をしているようです。
そして、情報を整理すると、保険金の額が(他の)遺産総額の45%~50%を超えると、特別受益として認定される可能性が非常に高いと言えそうです。
たとえば遺産の総額が5,000万円のときに、他に死亡保険金が2,500万円を超えて存在するならば、この死亡保険金はまず特別受益と認定されることになるでしょう
しかし同じ2,500万円の死亡保険金でも、遺産総額が2億円もあるケースであれば、特別受益と認定される可能性はずっと低くなるでしょう(保険金の額が遺産総額の12.5%)。

上記の最高裁判決は、次のような事例でした。
不動産の評価額 1,149万円
不動産以外の遺産 約5,250万円
保険金総額 約792万円
・・・保険金総額は遺産総額の12%強
そしてこの場合、死亡保険金は特別受益とならないとされました。

 

反対に、死亡保険金が特別受益となり、持ち戻しの対象となるとされた事例には次のようなものがあります。

妻が取得する死亡保険金等の合計額が約5200万円とかなり高額で、相続開始時の遺産価額の61%を占め、被相続人と妻との婚姻期間が3年5ヶ月程度であった事例(平成18年3月27日名古屋高裁決定)

 

もっとも、常に保険金額と遺産総額との割合だけで決まるわけではありません。保険金を受け取った相続人が被相続人を献身的に介護していたような場合ならば、そうでない場合に比べると、多少なりとも高額の死亡保険金を受け取ったとしても不公平だとは言えないでしょう。裁判所ではこのあたりも判断材料にしています。

 

なお、生命保険金は遺留分算定の基礎にも含まれません(平成14年11月5日最高裁判決)。

 

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2014年2月25日 | カテゴリー :

Q066 故人が生前に優遇していた子と、それ以外の子の相続分は均等?(特別受益)

【Question】

私は、四人きょうだいの一番上です。
父は生前、一番下の子である三男を特にかわいがっており、他の子供たちには内緒でマンションまで贈与していたようです。三男以外の私たちきょうだいは、そのようなことは何もしてもらっていません。
それでも亡き父の相続にあたっては、私たちの相続分は均等なのでしょうか。

 

【Answer】

共同相続人の中で、被相続人から遺贈や生前贈与を受けて特別な利益を受けていた相続人がいる場合には、その受益分の『価値』を相続財産に戻した上で、それぞれの相続分を求めます。これが『特別受益』の制度です。具体的にどのように計算するかは、下記の【Reference】をごらんください。

ただし、亡くなったお父様が反対の意思表示(「生前贈与は考慮するな」という意思表示)をされている場合には、遺留分に反しない限り、生前贈与が相続財産に加えられることはありません。

 

【Reference】

特別受益とは

相続は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)に存在した被相続人の財産が対象になります。
そして、同一順位の相続人が2人以上いる場合には、その相続分は均等とするのが現在の法律の考え方です(均分相続)。

しかし、常に「相続分は均等です」という考え方を押し通すと、場合によっては不公平が生じる場合があります。この不公平を解消するための制度の一つが『特別受益』なのです。

『特別受益』とは、被相続人から遺贈を受けたり、財産の前渡しと見られるような生前贈与などを受けたりした相続人(”特別受益者”といいます)がいる場合に、そうでない相続人と公平になるように、法定相続分や指定相続分を調整する制度です(民法903条、904条)。

 

どのようなものが特別受益にあたるの?

特別受益にあたるのは、以下のものです。
(1)遺贈
(2)婚姻や養子縁組のため、もしくは生計の資本としてなされた贈与

(2)のほうでは3つの例があげられていますが、不動産のようにある程度高額な財産の贈与であれば、原則として特別受益にあたると考えてよいでしょう。価値のある財産を贈与するということは、「遺産の前渡し」とも考えられるからです。

もちろん扶養の範囲に属するようなものは特別受益には含まれないのですが、生前贈与のうちどこまでが特別受益に含まれ、どこから特別受益に含まれないのか、厳密な線引きはありません。そのため、特別受益をどのように認定するかは、結局のところ相続人間の話し合い次第ということになります。どうしても白黒をはっきりつけたければ、裁判所で遺産分割審判を受けることになるでしょう。

 

問題になりやすいのは以下のような場合です。

(1)大学の授業料のような学資

通常は特別受益に当たらないと考えられています。学資負担は、被相続人の資産や社会的地位等から判断して扶養の範囲内と言えることが多いためです。扶養の範囲を超えるほどの学資負担であるならば、特別受益に認定される可能性はゼロではありませんが、きわめて低いでしょう。「私立に行った」「留学した」というようなことを、いちいち考慮していたらキリがないからです。

 

(2)挙式の費用

これも特別受益に当たらないと考えられています。結婚式の費用を親が出すということは、親の社会的な体面を保つという側面があるためです。「婚姻や養子縁組のための贈与」に含まれるのは、持参金や支度金、結婚支度の品などです。

 

(3)相続人の借金の尻拭い

親が子の借金を尻拭いしても特別受益に当たらないと考えられています。これは「生計の資本としての贈与」とは言えないからです。たしかにこれが「遺産の前渡し」であると考えるのは無理があるように思います。

 

【重要】特別受益となる贈与は、期間の制限がなく、何十年前の贈与でも対象になります。
この点は、相続税の課税対象となる財産に含まれる贈与財産が、相続発生前3年以内の贈与に限られることと大きく違います。混同している方が多いので特にご注意ください。

 

 

どうやって計算するの?

特別受益者がいる場合、具体的な相続分は次のように計算します。

特別受益者の相続分の算定方法

つまり、特別受益者が生計の資本等として生前贈与で得た財産の価格を特別受益として相続財産に組み入れ(これを”特別受益額の持ち戻し”といいます。上図の紫色部分)、これをベースにして各相続人の具体的な相続分を算出します。
特別受益者の相続分は、その相続分から特別受益額を差し引いた残額となります。

持ち戻すのはあくまでも贈与を受けた「価額」であって、贈与された物そのものではないことに注意してください。たとえばマンションを特別受益として贈与されていたとすれば、相続財産に持ち戻すのはそのマンションそのものではなく、そのマンションの「価額」です。
もらいうけたマンションを返す必要はありませんし、他の相続人がその贈与を不公平だと思ったとしても、贈与自体を取り消させることは、原則としてはできません(贈与契約自体に無効事由・取消事由があれば別ですが)。

なお、計算の結果、特別受益者が相続分より多い贈与等を受けていた場合には、相続によって新たに取得する財産は無いことになりますが、逆に「もらいすぎ」の場合には、他の相続人の遺留分を侵害しない限り、返す必要はありません。

 

事例に合わせて計算してみましょう

ご相談の事例で計算してみましょう。

父親の配偶者はすでに死亡していて、相続人は長男・長女・二男・三男の4人とします。
父親の相続財産価額が2,700万円、父が三男に与えたマンションの価額が1,300万とします。

マンションの価額を特別受益として持ち戻すと、遺産総額は4,000万円とみなすことができます。
法定相続分は子供たちの間では均等ですから、三男の具体的相続分は特別受益額を差し引くと

(2,700万円 + 1,300万円) × 1/4  – 1,300万円 = マイナス300万円

となります。

三男はすでに1,300万円相当のマンションを生前贈与されていますから、今回の相続にあたっては遺産の配分がないわけです。
300万円オーバーしていますが、これは他の相続人に返す必要はありません。

三男以外のきょうだいの相続分ですが、三男の具体的相続分はありませんので、2,700万円の相続財産を長男・長女・二男の3人で均等に分け、その具体的相続分は各900万円となります。

 

特別受益額は、いつの時点を基準にして評価するの?

Q094をごらんください。

 

 

持ち戻し免除の意思表示とは?

たとえば、故人が「三男に与えたマンションは、特別受益に算入しない」という遺言をのこしていれば、特別受益額の持ち戻し計算をする必要はありません。これを『持ち戻しの免除』といいます。
共同相続人間の公平よりも、被相続人の意思を尊重すべきとされているためです。

なお、持ち戻しの免除は、遺言でなされることが多いですが、その方式は問いません

ただし、持ち戻しの免除によって遺留分を侵害された相続人は、特別受益者に対し減殺請求権を行使することができます。

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2014年2月21日 | カテゴリー :

Q028 兄弟姉妹が相続する場合で、腹違いの兄弟姉妹がいる場合の相続分

【Question】

相続人 兄弟姉妹姉が事故で急逝しました。
姉は結婚していたのですが、姉夫婦に子供がいないので、きょうだいである自分も相続人になります。
実は私達には腹違いの兄がいるので、相続人は3名になります。

この場合、姉の夫が4分の3、私と義理の兄が4分の1を半分に分けてそれぞれ8分の1の相続分になると考えるのでしょうか。

【Answer】

亡くなったお姉様のご主人が4分の3、という部分は、そのとおりです(法定相続分)。
しかし、父母の片方だけが同じ兄弟姉妹の相続分は、父母の両方が同じ兄弟姉妹の半分とされています。
そのため、正しくは以下のとおりになります。
・お姉様のご主人:4分の3 =12分の9
・義理のお兄様 :4分の1×3分の1=12分の1
・相談者ご自身 :4分の1×3分の2=12分の2

もちろん、遺言があって相続分が指定されていれば、それが優先します(遺言による相続分の指定)。

 

【Reference】

兄弟姉妹が相続人となる場合、父母のどちらか一方だけが同じである兄弟姉妹の相続分は、父母の両方とも同じ兄弟姉妹の半分となります(民法900条4項但書後)。

分数の計算がややこしいですが、次のように計算すれば簡単です。
1)分子:父母のどちらか一方だけが同じである兄弟姉妹は1、父母の両方とも同じ兄弟姉妹は2とする
2)分母:父母のどちらか一方だけが同じである兄弟姉妹は1、父母の両方とも同じ兄弟姉妹は2として、人数分、合計する
3)故人に配偶者がいる場合には、1)2)で出した分数に4分の1をかける(分母に4をかける)

例:父母のどちらか一方だけが同じである兄弟姉妹が2名、父母の両方とも同じ兄弟姉妹が3名の場合で、故人に配偶者がいる場合

分数の分母は、(1+1+2+2+2)×4=32

よって、
父母のどちらか一方だけが同じである兄弟姉妹の相続分:各32分の1
父母の両方とも同じ兄弟姉妹の相続分:各32分の2

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2013年11月25日 | カテゴリー :

Q027 代襲相続の場合、相続分はどうなる?

【Question】

代襲相続事例2

祖父が先日亡くなりました。
本来は相続人であるはずの私の父は、10年前に死亡しており、相続人は私のおばのほか、父の代襲相続人として兄と私がおり、合計3名です。

この場合の相続分は、次のどちらになるのでしょうか?
(1)おば・兄・私、各3分の1
(2)おば2分の1、兄と私が各4分の1

【Answer】

(2)が正解です。

ただし、遺言で相続分が指定されていれば、それが優先します(遺言による相続分の指定)。

 

【Reference】

代襲相続についてはこちらをご参照ください。

代襲相続人の相続分は、その人数に関係なく、代襲される相続人の相続分と同じです。
言い換えると、本来ならば相続人となるはずだった人が受けるはずであった相続分を代襲相続人がそのまま受け継ぎます。
代襲相続人が何人かいる場合には、代襲相続人どうしの割合は法定相続分によって決まります(民法901)

今となっては当たり前のような気がしますが、これは現在の民法では「被相続人の子は、代襲して相続人となる」とされているからなのです。
1962年(昭和37年)民法改正までは「被相続人の直系卑属は、相続人となる」となっていて、孫にも固有の相続権が認められていたため、ご相談のような事案では各3分の1で均等に相続分がありました。
海外の相続法では、こちらの考え方を採用している国も少なくありません。

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2013年11月23日 | カテゴリー :

Q026 法定相続分とは

【Question】

私たち夫婦には子供がいません。
夫に万一のことがあったら、すでに夫の両親は他界しておりますので、私と義理の弟が相続人になることまではわかります。
その場合、相続の割合は私と義理の弟とで半分ずつになるのでしょうか。

 

【Answer】

ご主人が遺言を書いていないならば、法律上の相続分(法定相続分)は、奥様が4分の3、義理の弟様が4分の1になります。
もっとも、実際に遺産を分割するときには、この法定相続分にしばられることなく、話し合いで自由に遺産を分割してかまいません。

 

【Reference】

相続人が何人かいる場合には、相続の発生(被相続人の死亡)によって、被相続人の財産を相続人全員が共有で相続します。
共有の相続財産を各相続人の単独所有にするには、相続人全員で『遺産分割協議』を行い、誰がどの財産を相続するか決めていかなければなりません。

遺言が残っていないならば、遺産分割協議を行うにあたって、遺産の中の何を誰にどのように配分するかは、話し合いで自由に決めることができます
誰か一人がすべての財産を承継し、他の相続人は何も相続しないと決めても問題ありません。

しかし、遺産分割は自由、といっても、「分け方に何か基準がほしい」という場合もあるでしょう。
そのような場合には、民法で定められている『法定相続分』を基準にします。

法定相続分

法定相続分

・法定相続人が誰になるかによって、法定相続分は左の図のように決まっています。

・同じ順位に相続人が2人以上いる場合には、その人数で等分します。
(例)妻と子3人の場合
→ 妻は1/2 子は1/2×1/3=1/6

・兄弟姉妹が相続人となる場合、父母の片方だけが同じ兄弟姉妹の相続分は、父母の両方が同じ兄弟姉妹の2分の1になります。

・遺言がある場合には、そこに記載されている相続分の指定、あるいは遺産分割方法の指定が優先します。

 

法定相続分が活用される場面

1)遺産分割調停などの裁判手続き

遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所で遺産分割調停の手続きをした場合には、この法定相続分を基準として調停手続きが進められることになります。

もしも相続人が譲歩せず、調停がととのわなければ、審判分割になります。
現物を分割をすることもできず、代償分割(特定の相続人が財産を受け継ぎ、代わりにその相続人自身の財産を他の相続人に配分すること)をすることもできなければ、共有状態の相続財産を売却するように中間審判が下され、売却後に、その売却代金を”相続分に応じて”分割しなさいという最終審判が下されます(換価分割の審判)。

 

2)相続人の中に未成年者や成年被後見人等がいる場合

相続人の中に未成年者や成年被後見人などがいる場合には、法律上、これらの人たちは自分で遺産分割に参加することができません。

このような人たちが参加する遺産分割協議には、その法定代理人(親権者や成年後見人、特別代理人など)が代理して参加することになりますが、意思を表示することができない本人の権利を擁護する義務がありますので、その法定相続分を確保しなければなりません。
代理人が、勝手に本人の相続分をゼロにしてしまうような遺産分割を成立させてしまってはいけないのです。

 

3)債務・負債の場合

相続財産の中に、借金や保証債務などのマイナスの財産がある場合には、たとえば相続人の一人が全ての債務を承継するような遺産分割協議を成立させたとしても、その内容を債権者に主張することはできません。

このような債務・負債は、各相続人の”法定相続分に応じて”分割して承継されるものとされているので、このような協議内容を債権者に認めてもらうには、債権者の承諾が必要になります。

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2013年11月20日 | カテゴリー :