Q093 夫・妻のいる人が遺言書を作る場合に、気をつけたいこととは

【Question】

私の家族は妻・長女・長男の4人で、家族の仲は悪くありませんが、万が一にも相続争いにならないように、遺言を準備しようと考えています。

財産のリストも漏れがないように作りました。いつでも遺言を作る準備はできています。あとは何を準備すればいいでしょうか。

 

【Answer】

お連れ合いが健在な方が遺言を作る場合には、気を配るべき注意点が多く存在します。意外と、結構なボリュームになることも多いです。

できるだけ、遺言に詳しい(遺言作成の経験が浅いとダメ)司法書士や弁護士などの専門家のサポートを受けることが望ましいです。

 

(1)遺言はなるべく夫婦で作る

ご夫婦の仲が悪くないのであれば、なるべく奥様も一緒に遺言を作ることをおすすめします。

理由は2つあります。

1つめの理由は、『二次相続』の問題に配慮する必要があるからです。

奥様ご自身にあまり財産が多くないとしても、あなたに万一の事があれば、遺言に基づいて奥様があなたの財産を相続することになるでしょう(一次相続)。

そして、さらに奥様も他界したとき、2人のお子様が一切の財産を承継します(二次相続)。

この二次相続のとき、遺産の配分をどうするかを、あなたが遺言であらかじめ決めておくことはできません(後継ぎ遺贈の禁止)。二次相続の対象となる財産は「奥様のもの」だからです。

そこで、将来的に子供たちにどのように財産を承継させるか、よくご夫婦で話し合い、お二人で遺言を作るのが理想なのです。

 

2つめの理由は、奥様が先立つ可能性も十分にあるからです。
どちらが先立つか、誰にも予測はできません。

奥様自身の財産は、奥様が先立った場合には、当然その相続財産となります。
たとえば、家や土地がご夫婦共有になっていれば、その共有持分が相続の対象です。
そう考えると、ご夫婦の片方だけが遺言を書くだけでは、いかにも不十分です。

「妻の財産なんてほとんどないよ」とおっしゃるかもしれませんが、それでも預金口座の1つや2つはあるでしょう。今は無くても、これから作るかもしれません。

最近は、女性の社会進出に伴い奥様がそれなりの財産をお持ちであることが多く、やはり財産の多少にかかわらず、奥様も遺言を作成したほうが良いでしょう。

 

なお、ご夫婦で遺言を作る場合、夫・妻がそれぞれ1通作ります。
夫婦が連名で、共同名義の遺言を作ることはできません

 

(2)連れ合いが先立った場合に備えた遺言にする

これには2つの意味があります。

1つは、たとえば「妻に自宅を相続させる」という遺言を書いておいただけでは、先に妻が亡くなってしまえば、その遺言の意味がなくなってしまうので、それに備えるという意味です。

このような場合には、妻が先立った場合には代わりに誰に財産を残すのかを、遺言の中で決めておきます。これを『予備的遺言』といいます。

もちろん、妻に先立たれたあとで遺言を書きなおせば済むのですが、手間もかかりますし、そのときに自分が元気であるという保証はありませんので、予備的遺言は必ずしておくべきです。

 

もう1つは、お連れ合いが先立ったことにより相続した財産についても、可能な限り配慮する必要がある、という意味です。

これは、将来財産を引き継いでもらう対象者が2人以上いる場合には、重要な意味を持ちます。

具体例を出してみましょう。

たとえば、夫がA市に土地を、妻がB市に土地を持っているとします。

夫はその全財産を妻に相続させ、妻が先に死亡している場合には長男Xに相続させるという遺言をしました。
妻はその全財産を夫に相続させ、夫が先に死亡している場合には長女Yに相続させるという遺言をしました。

夫はその財産を将来は長男Xに継いでもらいたいと考えており、妻は長女Yに継いでもらいたいと考えているわけです。

これで妻が先立ったら、B市の土地を含む全財産を夫が相続します。そのままの状態で夫が亡くなれば、A市の土地もB市の土地もすべて長男Xに行き、長女Yには遺産が行きません。遺留分を主張できるだけです。
これではせっかく遺言を書いた妻の意思が反映されません。

不都合が生じれば遺言は書き換えることができますが、いざそうなると面倒なものです。そこで、遺言を最初に作るときに、夫婦どちらが先立っても、それぞれの気持ちを反映するような遺言を作っておくということが大切になります。

 

(3)連れ合いに遺産を残したくないケースでは

夫婦も様々ですから、「私は夫(妻)に遺産を残したくない。ある団体に全部寄付(遺贈)したい」というケースもあります。

配偶者にも遺留分がありますから、全財産を誰か特定の相続人に相続させたり、全財産をある団体に遺贈したりすることは難しいのですが、それ以前の問題として、このような遺言を作った場合にその遺言書を誰に保管してもらうのか、実際に遺贈の手続きを誰に進めてもらうのかを考えておかないと、夢物語で終わってしまいます。
もしもこのような遺言をお連れ合いが見つけたら、その遺言が闇に葬られる可能性は高いでしょう。

このような場合には、必ず、遺言の中で、信頼できる人や団体を遺言執行者に指定しておきます。そして、その遺言執行者に遺言を託すことになるでしょう。

 

 

【Reference】

遺言を作るとき、その作成時点における遺言作成者の財産だけを対象にしていることがほとんどです。専門家が関与した遺言でも、そのような内容が多いのが実情です。

しかし、遺言を作成する時点でお連れ合い(さらにはその親)が健在の場合や、遺言者の親が健在な場合などでは、それぞれ相続が発生することによって結果的に遺言作成者の財産が増加し、遺言作成時とは大きく財産状況が変化することがあります

このような事態になったら、遺言を書きなおすということが選択肢になりますが、そのときに遺言者自身が元気でいるかどうか、誰にも予測できません。そうでなくても遺言の書きなおしというのは面倒で、つい後回しにしてしまいがちです。

新しく財産を購入したり、宝くじにあたって財産が増えたりしたならば、遺言を書きなおすのは仕方がないかもしれません。しかし、配偶者や親の相続というのは、遺言作成時にあらかじめ予測できる事柄です。それならば、あらかじめ書き直さないで済むような遺言書を作っておくのがベスト、ということになります。

遺言書作成に精通した専門家なら、遺言に関係なさそうな親族についても、必ず細かに聞き出そうとするはずです。

 

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2014年5月15日 | カテゴリー :