Q059 亡くなった後に振り込まれた年金は相続財産?(未支給年金)

【Question】

父が6月3日に亡くなりました。遺族年金等の遺族給付には該当しません。

年金事務所に年金受給権者死亡届を提出せずにいたら、6月15日になって、父の口座に年金が振り込まれてきました。

そこで、
(1)この年金は、相続財産として遺産分割の対象になりますか?
(2)この年金は、相続税の課税対象になりますか?

 

【Answer】

(1)6月15日に振り込まれた年金は、お父様が健在だった4、5月分の年金ですから、相続財産にあたるように誤解してしまいがちですが、結論的から言えば相続財産ではなく、各年金法所定の受取人固有の財産であり、遺産分割の対象になりません

なお、年金受給権者死亡届をこのまま提出しないでいれば、6、7月分の年金が8月15日に振り込まれてしまいます。お父様は6月3日までご存命でしたから6月分は受け取れますが、7月分以降は返さなければならなくなりますので、ご注意ください。

(2)結論からいえば、相続税の対象にはなりませんが、受取人の一時所得として所得税がかかります(翌年の確定申告で納付)

 

【Reference】

公的年金をもらっている人が亡くなったら

公的年金の受給者が亡くなった場合、年金事務所に「年金受給者死亡届」を提出して、年金の受給をストップします。
そうしないと故人の口座に年金が振り込まれ続け、後で返すハメになるからです。

ところでこの死亡届は、年金事務所にある様式では複写式になっており、「未支給年金請求届」を兼ねるようになっています。
さて、この『未支給年金』とは何でしょうか?

 

未支給年金とは

国民年金や厚生年金などの公的年金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の15日に受け取ります。
受け取る年金は『後払い』です。たとえば、6月15日に受け取る年金は、前月4月と前々月5月のあわせて2ヶ月分です。

今回のご相談者のお父様は6月3日に亡くなったということですから、一見すると「4、5月の時点では健在だったのだから、これはお父様の財産であり、相続財産である」と勘違いしそうになります。

しかし、あくまでも6月15日まで待たなければ、4月分と5月分の年金をもらう権利は発生しないのです。
6月15日の時点でお父様は亡くなっていますから、この2ヶ月分の年金をもらう権利は、支給されないまま宙に浮いてしまいます。ついでに言えば、6月分の年金をもらう権利も同じです(年金は、年金を受けていた方が亡くなられた月分まで支払われるので)。

このように年金が後払いであるため、年金を受給している人が亡くなると、「支給されていない年金を誰が受け取るか」という問題が必ず発生します。これが『未支給年金』の問題です。

 

未支給年金請求権は相続財産になるのか?

このような未支給年金については、請求できる人が法律(国民年金法、厚生年金保険法等)で決まっています

未支給年金を請求できるのは、年金を受けていた方が亡くなった当時、その方と生計を同じくしていた(注1)方で、次の方々です。
(1)配偶者
(2)子
(3)父母
(4)孫
(5)祖父母
(6)兄弟姉妹
未支給年金を受け取れる順位もこのとおりと定められています(同順位者複数ならば等分)。

上記のような規定がありながらも、亡くなられた方の未支給年金が相続財産として遺産分割の対象となるのかならないのか(遺産分割の対象になるのかならないのか)については、長らく議論されていました。
しかし、平成7年11月7日最高裁判決によって明確に相続性が否定され、未支給年金請求権は受取人固有の財産であるとされました(注2)。

そのため、遺産分割協議書で未支給年金を分割対象としているケースがありますが、現在では間違いです

(注1)共済年金では、生計同一という要件は無い
(注2)判決要旨「右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。」

 

故人の口座に支給されても『未支給年金』!?

年金受給者死亡届の提出が遅れ、被相続人の口座に年金が振り込まれてしまうことも珍しくありません。

これは、単に「未支給年金がたまたま支給されてしまった」というだけの話ですから、本来それを受け取る権利があるのは、あくまでも法律で決められている上記の順番の受取人です。相続財産ではなく、遺産分割の対象にもなりません
受取人ではない人がこれを引き出したならば、本来の受取人に返す義務があります。

 

未支給年金は相続税の対象にはならない。しかし!

未支給年金については明確に相続性が否定されました。
相続性が否定されても、死亡保険金のように受取人が相続や遺贈によって取得したものとみなされると相続税の対象になる可能性があります(税法上のみなし相続財産)が、相続税法上でもこれに対応する規定はなく、相続税が課されることはありません(国税庁ホームページ質疑応答:未支給の国民年金に係る相続税の課税関係)。

しかし、受取人個人の一時所得として、所得税の対象にはなります(所得税基本通達34-2)。

一時所得は年間50万円まで非課税であり、未支給年金単独で50万円を超えることは少ないと思われます。しかし、生命保険金の満期金を受け取る等、他に一時所得に該当する所得がある場合には、これらを合算して申告をしなければなりません。

 

厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂
厂厂厂厂
厂厂厂  ©司法書士法人ひびき@埼玉八潮三郷
厂厂
厂               無断転載禁止