Q035 お香典は遺産に含まれるの?

【Question】

父の葬儀で、長男である私が喪主を務めました。
参列者の方からいただいたお香典を葬儀費用にあてようと考えていましたが、きょうだいから「お香典は亡くなった父が頂いたものだから、遺産に含まれ、きょうだいで分けるのではないか」と言われました。葬儀費用の支払いをしなければならないので、どうすればいいか困っています。

 

【Answer】

香典は法的にも税務的にも喪主に贈与されたものと考えられています。遺産に入れ戻す必要はなく、したがって遺産分割の対象にする必要はありません。
なお、香典は喪主に贈与されたものですが、贈与税の非課税財産となっておりますので、原則として課税されません。

 

【Reference】

現在の日本では、仏式等の葬儀の際には、金銭で香典を霊前に供えることが多いと思います。 この香典は、法的には、被相続人の葬儀に関連する出費に充当する事を主たる目的として、葬儀の主宰者(喪主)に対してなされた贈与の性質を有する金銭で、遺産には属さないものと考えられています( 香典の本来の意味は故人に供物を捧げるということにありますが、これが金銭で行われるようになったのは、葬儀を行う家に対する経済的援助という意味を含むようになったからなのでしょう)。

そのため、香典は、香典返しはもちろんのこと葬儀費用そのものにあてることができ、むしろそうすることが当然、ということになります(注1)。

葬儀代を差し引いて残った香典がある場合には、儀式の主宰者(喪主)のものとなります。相続財産に入れ戻したり、相続人に分配したりする必要はありません。

反対に、香典等を葬儀費用に充当してもなお不足している場合や、そもそも金銭による香典をいただかない葬儀の場合に、その不足している葬儀費用を誰が負担するかについては、はっきりした決まりがありません。
葬儀の主宰者(喪主)が支払うとする見解や、まず遺産から支払うとする見解、相続人各自が負担するとする見解など様々です。この点については次のQ036で検討します。もっとも、執り行われた葬儀が身分不相応に費用をかけたような場合には、不足分は喪主が負担することになります。

香典は、葬儀の主宰者に対してなされた『贈与』ではありますが、贈与税の非課税財産とされています。 それは、上記のような意味がある以上、香典に課税するというのは社会通念に反するから、と説明されています。

ただし、贈与税が非課税とされるのは、あくまでも社会通念上適正な香典である場合です。香典というのが名目に過ぎず、その額が高額である場合には、贈与税の課税について検討する必要があるでしょう。

また、故人の勤務先から、勤続年数や死亡時の賃金に応じて『弔慰金』が支給された場合には、これは香典ではなく実質的には死亡退職金ですから、会社の内規に従って決められた受取人固有の財産です(Q013)ので、葬儀費用に充てることはできません。

 

(注1)以前、次のような相談を受けたことがあります。
「弟が、勤務先の人々から香典を集めてきたのだが、『自分で香典返しをするから』と言ってその香典を持ち帰ってしまった」というものです。これでは香典を葬儀費用に充当することができませんから、弟さんの主張はまったく擁護できるものではありません。

 

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