Q034 遺産の管理や清算のためにかかった諸費用はどうするか

【Question】

遺産分割協議までに時間がかかり、その間に様々な費用がかかっています。
たとえば家の固定資産税や火災保険料、戸籍や残高証明の取り寄せの費用や、財産目録の作成を専門家に依頼した費用などがあります。
全部合わせると結構な金額になるのですが、これらは遺産から支出してもかまわないのでしょうか。

 

【Answer】

遺産の管理や清算にかかった費用は、遺産の中から支出してかまいません。
ただし、領収書をきちんと整理し、多額の出費をする場合には他の相続人の同意を得ておくことが重要です。

 

【Reference】

相続財産の維持・管理や清算のための手続きには、いろいろと費用がかかります。
たとえば一般的な不動産では固定資産税や借地料、水道光熱費、火災保険料などが、金融関係では口座維持管理料や貸金庫料などがかかります。

また、登記簿謄本や残高証明書などを取り寄せたり、戸籍謄本などを集めたりするのにも、積み重ねると結構な費用がかかっていることがあります。
財産目録や遺産分割協議書の作成を専門家に依頼すれば、その費用もかかっていることでしょう。

これらのうち、故人の生前にすでに発生していた固定資産税などの費用については、『相続債務』として相続財産に含まれます。

反対に、遺産分割協議がまとまって、個々の財産の取得者が決まった後に発生した費用については、財産を取得した人が負担することになりますから、問題になりません。

問題になるのは、『被相続人の死亡から、遺産分割協議が成立するまでに発生した費用を、誰が負担するのか』という点です。

 

遺産の管理・清算に関する費用は、遺産から支出しても良い

もちろん、これらの費用を「私が払うよ」と言ってくれる相続人がいれば、それはそれでかまいませんが、「諸費用は相続人みんなで負担しよう」というケースが多いと思います。

一応、法律上は、遺産の管理や清算のために使った費用は、遺産の中から支出することになっています(民法885条1項)。
遺産に現金があればそこから支出してもかまいませんし、相続人全員で合意して預貯金を解約し、そこから支払ってもかまいません。 相続人の中の誰かが立て替えて支払っておき、遺産分割の際に精算してもかまいません。
トラブルを防ぐため、きちんと領収書は残しておくことと、多額の出費をする場合には相続人全員の了解を取ることが大切です(注1)。

最終的にどのように精算するか、その方法については見解がわかれていて、決まった方法があるわけではありません(いかにも日本的で、あいまいです)。
現実的には、次のいずれかの方法が取られることが多いです。

(1)プラスの相続財産から、これらの諸費用を差し引いた上で、残りを遺産分割で分ける
(2)遺産分割協議の中で、費用の負担者や負担割合を決める
(3)遺産分割協議書では特に明記しないが、別途、相続人間で費用の負担者や負担割合を決める(金融資産を多く取得した人が、暗黙のうちに負担することも多い)

ただし、たとえば相続財産の中に被相続人の自宅があって、相続人の中の一人がそこに住み続けている場合、遺産分割が成立するまでの間はその自宅は相続人全員の共同財産ですから、そこに住み続けている相続人は、他の相続人からタダで借りているのと同じことになります。
タダで借りることを、法律用語で『使用貸借』といいますが、この場合、必要経費はタダで借りている人が負担するのが原則ですので、自宅に関する固定資産税や火災保険料は、そこに住み続けている相続人が負担するべきでしょう。

なお、相続人が不注意であったために必要となってしまった費用は、その相続人が負担しなければならなくなります(民法885条2項)。
また、遺留分減殺請求によって取り戻した財産からは、遺産の管理や清算のために使った費用を支出する必要はありません(同3項)。

 

遺産の中から支出できる費用、できない費用

遺産の管理や清算のために使った費用として遺産の中から支出できる費用には、以下のようなものがありますが、ここに含まれないものでも遺産の管理や清算に関する費用は、ほとんど一切が含まれます(参考 昭和61年1月28日東京地裁判決)。諸手続きのための交通費なども含まれると考えてよいでしょう。

(1)管理人の選任費用
(2)遺産分割の前提として必要となる、遺産の保存に必要な費用(例:建物の表題登記や保存登記など)
(3)鑑定・換価・弁済などの清算に必要な費用
(4)財産目録の調製に必要な費用
(5)管理・清算のための訴訟費用
(6)遺留分減殺請求によって生じた費用
(7)破産管財人が遺産についてなすべき管理処分に必要な費用、など。

ただし、相続税は、日本では遺産を取得した人が負担する制度になっているため、管理の費用として遺産から差し引くことはできません(参考 昭和58年6月20日大阪高裁決定)。
また、上記のような費用は、遺産から支出することはかまいませんが、相続税を計算する上で必要経費として控除することもできません

 

葬儀費用は遺産の中から支出できるか

葬儀費用を、民法885条にいう『相続財産に関する費用』ということができるかどうか、見解はバラバラです。 この点については、あらためて別の機会に記事を書きます。

 

(注1)相続に関する諸費用がトラブルになる原因の大半は、「領収書が残っていないので信用できない」パターンか、「相談もなく多額の出費をされた」パターンかの、どちらかです。ここでもめてしまうと、最悪の場合には民事訴訟の場で決着をつけるほかありません。どうしてもまとまらなければ、相続債務に準じて、相続分に応じて負担する形になるでしょう。

 

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