Q036 葬儀費用は誰が負担するのか

【Question】

父の葬儀を、長男である私が喪主となって、執り行いました。行った葬儀はごく一般的で、華美なものではありません。
葬儀費用についてですが、
(1)香典から香典返しを引いた残りを、葬儀費用にあててもかまいませんか。
(2)香典の残りで葬儀費用を払いきれない場合、他のきょうだいに請求できますか。
(3)亡くなった父の預金を引き出して、葬儀費用を支払ってもいいですか。

【Answer】

(1)については、香典を葬儀費用にあててもかまいません

(2)についてですが、高裁レベルでの最近の判例では、通夜や告別式のような死者の追悼儀式に要する費用については原則として儀式を主宰した者(喪主)が負担するものであり、埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものという見解が出ています。
とはいえ、このような見解に異論が無いわけではなく、葬儀費用について誰が負担すべきかについては法律専門家の中でも様々な意見があります。上記の高裁判例でも、相続人の合意があれば別であるとしています。

そのため、葬儀費用の負担を他の相続人にも求める必要があるならば、事前に葬儀の規模や費用の見積もりなどをきちんと開示・説明し、その費用をどこから支出するかについて了解を得て、さらに領収書や費用明細をきちんと残しておくという段取りが最低限必要だと思われます。そこまでやっても、上記のような判例がある以上、結局喪主が負担することになる可能性もあります。

(3)についてはかなり微妙で、支出する金額が社会通念上妥当なもので、相続人全員の承諾を得れば、遺産から支払うことも止むをえない場合もあります。
しかし、葬儀費用は喪主が負担するべきという(2)の判例のような考え方に立てば、結局のところ喪主から遺産に戻さなければならなくなる可能性があります。遺産から葬儀費用を支出する場合には(2)にも増して慎重な対応が必要です。

 

【Reference】

葬儀費用を誰が負担するかについて、法律上の規定はありません
理由はよくわかりませんが、葬儀については、宗教や地方の慣習などによって左右されるからなのでしょう。
香典をひとつ考えてみても、そもそも金銭で香典を渡さないことだってあります。

法律上の規定がないために、葬儀費用の負担については裁判所の見解も分かれ、学者や法律専門家の間でもさまざまな考え方があり、実務的には結局のところ「ケース・バイ・ケース」になっています。

しかし、我が国では、葬儀費用は決して安いものではありません。そのため、葬儀費用をめぐってトラブルとなり、それが原因となって遺産分割までもが暗礁に乗り上げてしまうことが多々あります。

そこで、異論があるかもしれませんが、葬儀費用についてのオーソドックスな考え方を整理してみます。

 

香典は、もともと葬儀費用にあてるべきもの

香典については、『Q035 お香典は遺産に含まれるの?』をご参照ください。

 

葬儀費用は、基本的には儀式を主宰した者(喪主)が負担する

そもそも葬儀費用は、相続の発生(故人の死亡)よりも後に発生するものですから、法律上は相続債務として相続財産に含めることができません(税法上は控除できる)。

葬儀費用はなんらかの形で相続人が共同で支払うものという考え方も強くありますが、平成24年3月29日名古屋高裁判決は、下記のように明確に葬儀費用は儀式の主宰者(喪主)が負担すべきものであると判示しました。少々長いですが、引用します。

『ところで,葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。
なぜならば,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するものであるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり,他方,遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。』

この判決の考え方によれば、葬儀費用がいくらになろうとも、原則として儀式の主宰者が負担すべきであるということになります。その結果、葬儀費用は遺産分割の対象とならず、遺産分割や遺留分の計算で控除されることもありません。
儀式の主宰者は香典を受け取っていることも多く、妥当な結論といえるでしょう。

いっぽう、重要な例外として、同判決は次の2点をあげています。
(1)亡くなった者が、あらかじめ自らの葬儀に関する契約の締結などをしている場合(いわゆる生前予約)
(2)相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がある場合
このような場合には、儀式の主宰者が、葬儀を行うかどうかやその規模・予算などについて決定する立場にありませんから、応分の負担を相続人一同に求めることができるということになります。

現時点では、本判決の見解がもっともオーソドックスな考え方であると言えるのではないでしょうか。

なお、(2)のケースでは、一般的には「香典を差し引いた残額をどうするか」という形で合意することになるでしょうけれども、あくまで『合意』が求められています。儀式の主宰者は、他の相続人に対していねいに情報を提供し、見積書・領収書などの証拠をきちんと開示して、合意を形成していくことが求められます。
(後日の紛争を防止するため合意を文書にしておくことが望ましいですが、時間のない中であまり現実的ではないかもしれません。)

 

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2013年12月10日 | カテゴリー :