Q089 未成年者はどうやって相続放棄するの?

【Question】

先日、夫が他界しました。
相続人は、妻である私の他に子供が一人いるだけですが、子供は16歳です。

遺産相続については、債務(マイナスの遺産)が資産(プラスの遺産)より多いので、次の二つの方法を検討しています。

(1)私も子供も二人で相続放棄する
(2)私が一人で資産も負債も相続し、子供だけ相続放棄させる

それぞれどのように手続きをすすめればいいのでしょうか。

 

【Answer】

(1)の場合、あなたが未成年の子の唯一の法定代理人(親権者)ですから、あなたご自身と未成年のお子様の相続放棄の手続きは、あなたおひとりですべて行うことができます。

(2)の場合お子様のみが相続放棄をすることによって、あなたご自身の相続分が増加する(お子様が0人になるので、あなたの法定相続分が3分の2、夫の両親が3分の1となる)という関係にあります。
このような関係にある状態でお子様の相続放棄手続きをすると『利益相反行為』(民法826条1項)にあたってしまうため、相続放棄をする前提として特別代理人の選任を家庭裁判所に求め、そこで選任された特別代理人が未成年者の相続放棄をすることになります。

 

【Reference】

未成年者の相続放棄手続きと熟慮期間

未成年者が家庭裁判所の相続放棄手続きを利用する場合、一般的には法定代理人(親権者、未成年後見人)が、未成年者を代理して相続放棄の申述をします。

この場合、未成年者のために相続の開始があったことを、その法定代理人が知った時から、相続放棄することができる3ヶ月の熟慮期間がスタートします(民法917条)。
通常、熟慮期間は”本人”が知った時からスタートしますが、未成年者の場合はその法定代理人に十分な検討期間を与える必要があるため、例外が設けられているのです。

 

利益相反行為と特別代理人

前記のように、未成年の子の相続放棄の手続きは親が代理して行うことになるわけですが、親(親権者)が子に相続放棄をさせつつ自分自身は相続を承認するような場合、形式上は親側の相続分が増加することになります。

(たとえば本件のご相談では、相談者(妻)が相続を承認し、未成年の子だけ相続放棄をさせたならば、その子ははじめから相続人でなかったことになります。
すると、夫の直系尊属(父母等)が第2順位の相続人となり、妻と共同して相続人となります。この場合の法定相続分は直系尊属が3分の1、妻が3分の2です。妻と子が相続人である場合の法定相続分は各2分の1ですから、妻の相続分は2分の1から3分の2に増えることになるわけです。)

そうすると、相続を承認する妻としての立場と、相続を放棄する子の立場が衝突してしまいます。このような状態で子の代わりに相続放棄手続きをすると『利益相反行為』にあたるため、民法826条1項の『特別代理人』を選任する必要があり、この特別代理人が親権者になりかわって、未成年者の相続放棄の手続きをすることになります。

利益相反行為に当たるかどうかは、親権者の意図は考慮せずに判断します。
たとえば、親権者が故人のローンをすべて引き受け、未成年の子供には負担をかけたくないという意図で子供だけ相続放棄させようとする場合でも、形式的には利益相反行為となるため、特別代理人の選任が必要とされています。

 

また、未成年の子が2人以上いる場合でも、(親権者自身が相続放棄するならば)未成年の子「全員」を代理して相続放棄手続きをすることは可能ですが、一部の子だけ相続を承認し、一部の子だけ相続放棄するということになると、未成年の子の間で相続分の増減が発生してしまうので、この場合も『利益相反行為』にあたり、『特別代理人』を選任する必要があります(この場合の民法上の根拠は、826条1項ではなく、同条2項)。

 

逆に、次のような場合には利益相反行為となりません。
特別代理人を選任しないで、法定代理人が子を代理して相続放棄の手続きをすることが可能です。

(a)未成年の子全員と同時に、親権者も一緒に相続放棄の申述をするケース
(b)親権者自身が先に相続放棄した後に、未成年の子全員が相続放棄するケース

 

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