Q091 受理された相続放棄がひっくり返ることはないのか

【Question】

弊社は一年前、X氏に対し350万円を貸し付けました。

ところが分割返済が始まって間もなく、半年前にX氏は亡くなってしまいました。

そこで、X氏の子ら相続人に対し、電話や郵便などによって貸付金の返済を求めていたのですが、つい先週、相続放棄が家庭裁判所で受理されたとの文書が送られてきました。受理されたのは最近の日付になっています。

X氏の相続人に対して弊社から継続的に支払いを請求していたにもかかわらず、亡くなってから半年もたって相続放棄が受理されたのは、納得がいきません。しかし、家庭裁判所が受理した以上、相続放棄について今から争うことはできないのでしょうか。

 

【Answer】

相続放棄の申述を家庭裁判所が受理したとしても、その相続放棄が法律上の要件を満たした適切なものであるかどうか、確定したわけではありません。3ヶ月の熟慮期間が経過していることや法定単純承認にあたる事実が存在することを、民事訴訟を提起して争うことは可能です。

訴訟の結果、受理された相続放棄が無効になることもあるのです

(訴訟を提起するかどうかは、相続人の熟慮期間を伸長する審判があったのかどうか、御社の請求の態様、次順位の相続人から回収できる可能性や訴訟を提起した場合のコストなど、総合的に判断して決めることになるでしょう)

 

【Reference】

相続放棄の申述がなされた場合、家庭裁判所はこれをすぐに受理するわけではありません。申述の形式が法律に沿ったものかどうか、申述が相続人の真意に基づいているか、申述が熟慮期間内になされているか、法定単純承認事由に該当しないか等、一通り家庭裁判所が審理したうえで、相続放棄申述の受理・不受理について審判をします。

相続放棄の受理・不受理にあたって家庭裁判所が行う審理は厳密なものではなく、一応の審理で足りるとされています。なぜかというと、もしも相続放棄の『不受理』が確定してしまうと相続人の不利益が非常に大きいので、却下すべきことが明らかでないかぎり、広く相続放棄の申述を受理する方向で家庭裁判所が運用しているからです。

その代わり、債権者等の利害関係人が、相続放棄が無効であるとして別の訴訟手続きの中で争うことは自由です。家庭裁判所が相続人による相続放棄の申述を受理したからと言って、それが絶対的な効力を持つわけではないのです。

 
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Q090 成年被後見人や被保佐人は、どうやって相続放棄するの?

【Question】

先日、父が他界しました。
相続人は、配偶者である私の母の他、長男である私だけなのですが、母は認知症の症状が進み、私が母の成年後見人です。

遺産相続については、債務(マイナスの遺産)が資産(プラスの遺産)より多いので、次の二つの方法を検討しています。

(1)私も母も二人で相続放棄する
(2)私が一人で資産も負債も相続し、母だけ相続放棄させる

それぞれどのように手続きをすすめればいいのでしょうか。

 

【Answer】

(1)の場合、あなたがお母様の法定代理人(成年後見人)ですから、あなたご自身とお母様の相続放棄の手続きは、あなたおひとりですべて行うことができます。

(2)の場合、被後見人であるお母様が相続放棄をすることによって、後見人であるあなたご自身の相続分が増加するという関係にあります。 このような関係にある状態でお母様の相続放棄手続きをすると『利益相反行為』(民法860条・826条1項)にあたってしまいます。
利益相反関係にない後見監督人がいるならば、その後見監督人が被後見人の相続放棄をすることができますが、後見監督人が選任されていないならば、前提として特別代理人の選任を家庭裁判所に求め、そこで選任された特別代理人がお母様の相続放棄をすることになります。

 

【Reference】

成年被後見人・被保佐人・被補助人の相続放棄手続きと熟慮期間

成年後見制度を利用している本人が家庭裁判所の相続放棄手続きを利用する場合、次のような形で相続放棄の申述をします。

(a)被後見人の場合:法定代理人である成年後見人が本人を代理して相続放棄の申述をします。

(b)被保佐人の場合:被保佐人自身が相続放棄の申述をすることができるが、その際に保佐人の同意を必要とします(民法13条)。
保佐人に代理権が付与されている場合には、この限りではありません

(c)被補助人の場合:被補助人自身が単独で相続放棄の申述をすることができます。
被補助人に同意権や代理権が付与されている場合には、この限りではありません

(a)の場合(つまり成年被後見人が相続放棄する場合)、被後見人のために相続の開始があったことを、その成年後見人が知った時から、相続放棄することができる3ヶ月の熟慮期間がスタートします(民法917条)。 通常、熟慮期間は”本人”が知った時からスタートしますが、被後見人の場合はその法定代理人に十分な検討期間を与える必要があるため、例外が設けられているのです。

ただし、この例外があるのは(a)の場合だけで、(b)の被保佐人や(c)の被補助人には適用がありませんのでご注意ください。

 

利益相反行為と特別代理人

前記のように、成年被後見人の相続放棄の手続きは成年後見人が代理して行うことになるわけですが、親族が成年後見人になっていると、今回のご相談のように被後見人と後見人とが共同で相続人になるケースが少なくありません。
この状態で、もしも成年後見人が被後見人に相続放棄をさせつつ自分自身は相続を承認するような場合、形式上は成年後見人側の相続分が増加することになります。

このような状態で被後見人だけの相続放棄手続きをすると、これは『利益相反行為』にあたるため、次のどちらかの方法で成年被後見人の相続放棄手続きをすることになります。
(1)利益相反関係にない後見監督人がいる場合、その関与によって相続放棄をする。
(2)民法860条・826条1項の『特別代理人』を選任し、その関与によって相続放棄をする。

利益相反行為に当たるかどうかは、成年後見人の意図は考慮せずに判断します。 たとえば、成年後見人が故人のローンをすべて引き受け、被後見人には負担をかけたくないという意図で被後見人だけ相続放棄させようとする場合でも、形式的には利益相反行為となるため、後見監督人または特別代理人の関与が必要とされています。

なお、本人と被保佐人とが利益相反関係にある場合には、保佐監督人または臨時保佐人の関与が必要となります。
補助の場合でも、相続放棄についての代理権または同意権が補助人に与えられていて、本人と被補助人とが利益相反関係にある場合には、補助監督人または臨時補助人の関与が必要です。

 

逆に、次のような場合には、被後見人と後見人とが共同相続人である場合でも利益相反行為となりません。 特別代理人を選任しないで、成年後見人が被後見人を代理して相続放棄の手続きをすることが可能です(昭和53年2月24日最高裁判決)。

(a)被後見人と同時に、成年後見人も一緒に相続放棄の申述をするケース
(b)成年後見人自身が先に相続放棄した後に、被後見人が相続放棄するケース

 

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Q089 未成年者はどうやって相続放棄するの?

【Question】

先日、夫が他界しました。
相続人は、妻である私の他に子供が一人いるだけですが、子供は16歳です。

遺産相続については、債務(マイナスの遺産)が資産(プラスの遺産)より多いので、次の二つの方法を検討しています。

(1)私も子供も二人で相続放棄する
(2)私が一人で資産も負債も相続し、子供だけ相続放棄させる

それぞれどのように手続きをすすめればいいのでしょうか。

 

【Answer】

(1)の場合、あなたが未成年の子の唯一の法定代理人(親権者)ですから、あなたご自身と未成年のお子様の相続放棄の手続きは、あなたおひとりですべて行うことができます。

(2)の場合お子様のみが相続放棄をすることによって、あなたご自身の相続分が増加する(お子様が0人になるので、あなたの法定相続分が3分の2、夫の両親が3分の1となる)という関係にあります。
このような関係にある状態でお子様の相続放棄手続きをすると『利益相反行為』(民法826条1項)にあたってしまうため、相続放棄をする前提として特別代理人の選任を家庭裁判所に求め、そこで選任された特別代理人が未成年者の相続放棄をすることになります。

 

【Reference】

未成年者の相続放棄手続きと熟慮期間

未成年者が家庭裁判所の相続放棄手続きを利用する場合、一般的には法定代理人(親権者、未成年後見人)が、未成年者を代理して相続放棄の申述をします。

この場合、未成年者のために相続の開始があったことを、その法定代理人が知った時から、相続放棄することができる3ヶ月の熟慮期間がスタートします(民法917条)。
通常、熟慮期間は”本人”が知った時からスタートしますが、未成年者の場合はその法定代理人に十分な検討期間を与える必要があるため、例外が設けられているのです。

 

利益相反行為と特別代理人

前記のように、未成年の子の相続放棄の手続きは親が代理して行うことになるわけですが、親(親権者)が子に相続放棄をさせつつ自分自身は相続を承認するような場合、形式上は親側の相続分が増加することになります。

(たとえば本件のご相談では、相談者(妻)が相続を承認し、未成年の子だけ相続放棄をさせたならば、その子ははじめから相続人でなかったことになります。
すると、夫の直系尊属(父母等)が第2順位の相続人となり、妻と共同して相続人となります。この場合の法定相続分は直系尊属が3分の1、妻が3分の2です。妻と子が相続人である場合の法定相続分は各2分の1ですから、妻の相続分は2分の1から3分の2に増えることになるわけです。)

そうすると、相続を承認する妻としての立場と、相続を放棄する子の立場が衝突してしまいます。このような状態で子の代わりに相続放棄手続きをすると『利益相反行為』にあたるため、民法826条1項の『特別代理人』を選任する必要があり、この特別代理人が親権者になりかわって、未成年者の相続放棄の手続きをすることになります。

利益相反行為に当たるかどうかは、親権者の意図は考慮せずに判断します。
たとえば、親権者が故人のローンをすべて引き受け、未成年の子供には負担をかけたくないという意図で子供だけ相続放棄させようとする場合でも、形式的には利益相反行為となるため、特別代理人の選任が必要とされています。

 

また、未成年の子が2人以上いる場合でも、(親権者自身が相続放棄するならば)未成年の子「全員」を代理して相続放棄手続きをすることは可能ですが、一部の子だけ相続を承認し、一部の子だけ相続放棄するということになると、未成年の子の間で相続分の増減が発生してしまうので、この場合も『利益相反行為』にあたり、『特別代理人』を選任する必要があります(この場合の民法上の根拠は、826条1項ではなく、同条2項)。

 

逆に、次のような場合には利益相反行為となりません。
特別代理人を選任しないで、法定代理人が子を代理して相続放棄の手続きをすることが可能です。

(a)未成年の子全員と同時に、親権者も一緒に相続放棄の申述をするケース
(b)親権者自身が先に相続放棄した後に、未成年の子全員が相続放棄するケース

 

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Q088 相続放棄を、取り消し(撤回)できるか

【Question】

父が昨年死亡しました。

葬儀が終わってまもなく兄から電話があり、父には多額の借金があるので、至急、家庭裁判所で相続放棄の手続きをするように言われました。
3ヶ月以内にしなければならないとのことで、大あわてで相続放棄の手続きをし、受理されました。

ところが、父に多額の借金があるという話は、兄のまったくのデタラメでした。それならば私も遺産を相続したいと思いますが、どうすればよいでしょうか。

 

【Answer】

だまされた、すなわち第三者の詐欺によって相続放棄をした場合、相続放棄をした時と同じ家庭裁判所で『相続放棄の取り消しの申述』をして、これが受理されれば相続放棄の効力が失われ、遺産を相続することができます。

ただし、このような相続放棄の取り消しの申述は、することができる期間が制限されています。追認することができる時(ご相談の例でいえば「だまされたことに気づいた時」)から6ヶ月以内に取り消しの申述をしないと時効によって取り消せなくなります。また、相続放棄の時から10年を経過した場合も取り消せなくなります。

取り消しができるのは、だまされたことに気づいてから6ヶ月以内と大変短いので、急いで手続きを取りましょう。

 

【Reference】

受理される前なら取り下げればOK

一度は相続放棄しようと思ったものの、やはり相続しようと思い直した場合、家庭裁判所が相続放棄を受理する前ならば、申し立てを取り下げるだけで大丈夫です。

相続放棄は、申述書を提出してから受理されるまで、多少時間がかかります。申述書が申請人の本意にもとづいて提出されたものかどうか、家庭裁判所で意思確認をするためです。すぐに受理されるわけではありません。
受理された場合にはじめて、相続開始時にさかのぼって相続放棄の効果が生じるというのが実際の取り扱いです。

そのため、相続放棄の申述をしたけれどもこれを取下げたいならば、家庭裁判所は認めてくれます。

 

受理された相続放棄は、撤回が禁止されている

それでは、家庭裁判所で受理された相続放棄を後になって撤回することはできるのかというと、「相続の承認及び放棄は、民法第915条第1項の期間内(=熟慮期間内)でも、撤回することができない」と民法919条1項に規定され、いったんおこなった相続放棄の撤回を完全に禁止しています。承認も同じです。

安易な撤回を認めると、債権者や他の相続人に迷惑がかかり、相続による財産関係がいつまでも安定しないからです。

裏を返せば、相続放棄をする場合は、慎重な判断を求められているのです。

 

詐欺等による取り消しは可能

とはいえ、ご相談事例のように第三者にだまされた詐欺)場合やおどされた強迫といいます。民法では「脅迫」とは書かないのです)場合でも、いったん受理された相続放棄を取り消せないというのでは、フェアではありません。

そこで一定の場合に限り、受理された相続放棄等(等には限定承認も含みます)の取り消しが認められています(民法919条2項)。それは次のような場合です。

①詐欺や強迫によってなされた相続放棄等(民法96条)
②未成年者が法定代理人の同意を得ずにおこなった相続放棄等(同5条)
③成年被後見人がおこなった相続放棄等(同9条)
④被保佐人が保佐人の同意を得ずにおこなった相続放棄等(同13条)
⑤後見監督人がいるのに、その同意を得ずに後見人が本人を代理しておこなった相続放棄等(同864・865条)

受理された相続放棄を取り消すには、家庭裁判所で『相続放棄の取り消しの申述』をします(民法919条4項)。
管轄裁判所は、相続放棄の申述と同じく相続開始地の家庭裁判所です(家事事件手続法201条1項)。

これが受理されれば、相続放棄の効力が失われます。

ただし、相続放棄等の取り消しができる期間は、非常に短く制限されています(民法919条3項)。
(1)追認をすることができる時から6ヶ月以内
(2)相続放棄等の時から10年以内
このどちらかの期間を過ぎると、受理された相続放棄等を取り消せなくなります。

家庭裁判所で『相続放棄の取り消しの申述』をすると、ひととおりの審査の後、通常は受理されます。
がしかし、この受理は利害関係人の意見を聞かずに行われるので、取り消しの審判に不満な利害関係人が、別の民事訴訟を提起して取り消しの効力を争うのはまったくの自由です。これは相続放棄の申述が受理された場合と同様です。

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Q087 生前の相続放棄や、生前の遺産分割協議はできるか

【Question】

妻とは10年前に死別しましたが、近いうちに再婚したいと考えています。

しかし、前妻との間に生まれた長男が、
「再婚相手にはお父さんを相続する資格があるから、相手が相続権を放棄することを再婚の条件にしてほしい」
と言われました。

長男が言う事も理解できないわけではありませんが、再婚相手に相続権を放棄してもらうにはどうすればいいのでしょうか。

 

【Answer】

まず、家庭裁判所で手続きをする『相続放棄』の申し立ては、相続があったことを知った時から3ヶ月以内にするものとされており、相続開始前に申し立てることはできません。

また、たとえば「相続権を放棄します」という内容の念書を書かせたとしても、法律上は無効であり、何も効力はありません。
財産の持ち主が亡くなったわけでもないのに、あらかじめ推定相続人が集まって遺産分割協議をすることも、やはりできません。

遺言や死因贈与契約を活用することによって相続財産が再婚のお相手に渡らないようにするのが、一番お望みに近いと思います。ただし、遺留分はどうしようもありません。

 

【Reference】

生前の相続放棄はできない

まず、家庭裁判所での『相続放棄』手続きは、相続開始前にすることはできません

相続放棄の手続きは、相続ガあったことを知った時から3ヶ月以内にするものとされており(Q078)、相続開始前に申し立てることはできない仕組みになっているからです。

これは、相続開始前の相続放棄を認めてしまうと、たとえば親が特定の子に圧力をかけて相続放棄を強制するような弊害が予想されるので、それを防ぐために相続開始前の相続放棄手続きをいっさい認めていないのです(例:東京家審昭和52年9月8日家月30巻3号88頁)。

 

遺産放棄の事前約束や、生前の遺産分割協議も無効

家庭裁判所の手続きを使わずにあらかじめ遺産相続を放棄する約束を取り付けていたとしても、やはりそれは無効であり、いっさい効力を持ちません。

また、本来であれば相続が開始した後に作成するべき遺産分割協議書を相続開始前に作成しておき、あらかじめ署名捺印しておいたとしてもなんら効力はありません

これらは、生前の相続放棄が認められないのと同じく、強制される弊害があるからです。
そもそもある人がまだ生きているのに、その人の権利や義務を周囲が勝手にどうにかするなどということが、たとえその人の家族であろうと許されていいわけがないのです。

また、遺産の範囲は相続の開始によってはじめて確定するのですから、相続に関する約束や協議は、相続が開始した後に各相続人の意思によって行われるのが本当の姿です。
対象となる財産が定まってもいない段階では、遺産放棄の約束や分割協議をしても意味がありません(次の日に宝くじが大当たりするかもしれないではないですか)。

 

次善の策は遺言や死因贈与

結局のところ、ある人が自分の万一の場合に備えてあらかじめ財産の行方を決めておく方法としては、遺言か死因贈与契約が一般的なものであると言えます。

その場合でも遺留分の問題は避けられません。
ただし、遺留分については相続放棄と異なり、家庭裁判所の許可を受ければ相続が開始する前でも遺留分は放棄できます

しかし、遺留分放棄の代償がきちんと支払われているかどうかなど、一定の条件をクリアしないと家庭裁判所は相続開始前の遺留分放棄を許可しません(詳しくはQ076)。

 

 

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Q086 相続放棄したら死亡事故の損害賠償金は受け取れないのか

【Question】

父が交通事故で死亡しました。
家族にとっては良き父親でしたが、事業を営んでいた関係で借入金が多く、相続に関しては家庭裁判所で相続放棄の手続きをすることを検討しています。

もし相続放棄をしたならば,交通事故に関して、加害者からの損害賠償は一切受けられないのでしょうか?

 

【Answer】

交通死亡事故によって発生する不法行為に基づく損害賠償請求権は,次の二通りに区別できます。一つは(a)亡くなったお父様ご自身の損害賠償請求権、もう一つは(b)遺族であるあなたご自身が持つ損害賠償請求権です。(ご参考:Q085 交通死亡事故の損害賠償金は相続されるの?

 

(a)亡くなったお父様ご自身の損害賠償請求権の例

治療費

②死亡による逸失利益
(生きていれば得られたはずの将来の収入等のことです)

③死亡に対する慰謝料
(精神的損害に対する賠償金のことです。たとえ即死であっても、被害者自身が精神的損害を受けたものとして慰謝料を請求する権利が発生します)

 

(b)遺族であるあなたご自身が持つ損害賠償請求権の例

①遺族固有の慰謝料
(家族を失うという精神的苦痛について、加害者に請求できる賠償金)

②扶養利益喪失による損害賠償
(交通死亡事故の被害者から扶養されていた内縁の妻は、扶養請求権を侵害されたものとして、被害者の逸失利益の50%を賠償請求できると判示した裁判例があります。平成12年9月7日最高裁判決)

 

(a)の亡くなったお父様ご自身の損害賠償請求権は、相続財産に含まれるため、家庭裁判所で相続放棄の申述をすれば受け取ることができません

いっぽう、(b)の遺族であるあなたご自身が持つ損害賠償請求権は、死亡保険金と同様に遺族固有の財産であり、相続放棄の手続きをしても受け取ることが可能です。

 

ただし、交通死亡事故による損害賠償の額については、保険会社の基準と裁判所の基準とで、大きな差が生じる場合があります。相続放棄をしないで裁判を通して損害賠償を請求したほうが、手元に残るものが多いかもしれません。保険会社から提示された賠償金をそのまま信じるのではなく、交通事故を得意とする弁護士に相談し、相続放棄をしなかった場合に受け取れる賠償金総額と故人が残した相続債務の額を十分に比較検討の上、相続放棄するかしないかの結論を出すようにしてください。

 

【Reference】

家庭裁判所の相続放棄と交通死亡事故の損害賠償金についての考え方は、基本的には上記【answer】の通りです。
しかし、保険金請求との関係で複雑な点もありますので、若干補足します。

 

 自賠責と相続放棄

自賠責保険(共済)は、交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することを目的とする強制保険です。原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務付けられています。補償対象は人身損害だけです。

自動車保険は通常、加害者が被保険者で、被害者は被保険者ではありません。したがって保険会社に保険金を請求できるのは、原則として被保険者である加害者のみです。
「加害者が被害者に損害賠償金を支払い、加害者自身が払えない部分については保険会社に補てんしてもらう。」
これが自動車保険の本来の姿です。

しかし、自賠責保険は、被害者救済を目的とした強制保険です。そこで、加害者が任意保険に加入していない等、十分な賠償を受けることができない場合に、最低限の賠償を被害者自ら加害者が加入している自賠責に請求する制度が設けられています。これが被害者請求です(自動車損害賠償保障法第16条)。

さて、この被害者請求をした場合、これが単純承認とみなされて相続放棄できなくなるのかどうか、という問題点があります。

これについては、「自動車損害賠償保障法第16条1項による自賠責保険金請求権は相続財産であり、相続人がこれを行使して保険金を受領したことは法定単純承認にあたる」とした事例もあります(京都地判昭和53年9月18日交民集11巻5号1345頁)。
治療費や逸失利益等もまとめて請求すれば、相続を承認したとみなされても仕方がありません。

しかし、自賠責は支払い基準が定型・定額化されていて、死亡による損害の中には「遺族の慰謝料」が決められています。
遺族(請求権者)1人 : 550万円
遺族(請求権者)2人 : 650万円
遺族(請求権者)3人以上 : 750万円
被害者に被扶養者がいる場合は、上記金額に200万円を加算(以上、平成26年4月時点)

これは遺族固有の権利ですので、相続放棄した場合でも受け取ることができます(参考:最高裁平成12年03月09日民集54巻3号960頁。この裁判の事例では、相続放棄した妻子が遺族の慰謝料を自賠責から受け取っています)。

 

搭乗していた自動車の保険から死亡保険金が下りた場合(搭傷・自損)

搭乗していた自動車の保険から死亡保険金が下りる場合があります。代表的なのは搭乗者傷害保険や自損事故保険です。

 

搭乗者傷害保険とは、保険契約対象の自動車に搭乗中の人(運転者も含む)が、自動車事故により事故の発生日から180日以内に死傷した場合に、死亡保険金や後遺障害保険金、医療保険金等が支払われるものです。

自損事故保険とは、保険契約対象の自動車に搭乗中の人が、ガードレールへの衝突のような自損事故で死傷した場合で、自賠責保険から保険金が支払われない場合に(死傷した人が運転者や自動車の所有者である場合など)、この保険から死亡保険金、後遺障害保険金、医療保険金等が支払われるものです。

 

上記の損害保険契約によって『死亡保険金』が支払われる場合保険金受取人は「相続人」となっていることがほとんどだと思います。搭乗者傷害保険にしろ自損事故保険にしろ、被保険者は「契約自動車に搭乗中の人すべて」ですから、生命保険の死亡保険金のようにあらかじめ特定の人を受取人に指定しておくことはできないからです。

「法定相続人が受け取るものだから、相続放棄したら受け取れないのではないか?」と考えてしまいそうになりますが、これら損害保険契約による『死亡保険金』は、相続人固有の権利として、相続放棄しても受け取ることができるものです(搭乗者傷害保険につき、平成4年8月17日名古屋地裁判決)

これは生命保険契約のケースと考え方は同じです。Q080 生命保険金を受け取ったら相続放棄できないのかをご覧ください。

ただし、受傷者自身に支払われるべき『後遺障害保険金』や『医療保険金』を、相続放棄した者が請求してしまうと、相続を承認したことになって相続放棄できませんのでご注意ください。

 

人身傷害保険は?

人身傷害保険とは、保険契約対象の自動車や他の自動車に乗車中の自動車事故で本人(被保険者)等や同乗者が死亡・後遺障害・傷害を受けた際に、死亡保険金や後遺障害保険金、医療保険金等が支払われるものです。
乗車中の事故だけでなく、歩行中の自動車事故でも保険金がおります(乗車中に限定した商品もある)。

事故の相手方から十分な賠償を得られない場合に加入する、いわば自衛のための保険です(ただし、実際に受け取る金額は、逸失利益等を保険会社の基準で計算するので、1億の人身傷害に加入していても1億受け取れるわけではありません)。

この人身傷害保険も、死亡保険金の受取人が「相続人」である点で搭乗者傷害保険に類似しており、受取人固有の権利として相続放棄しても受け取れるものと考えられますが、今のところ裁判例は明確になっておらず、グレーゾーンです。

 

 

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Q084 相続放棄後に遺産を持ち出したら(法定単純承認5)

【Question】

個人的に金銭を貸し付けていた、取引先の社長が亡くなりました。
そこでご遺族に借金を返済するよう求めたのですが、ご遺族の話では、財産よりも負債のほうが多かったので相続人全員が相続放棄したとのことで、家庭裁判所が発行した証明書も確かに見せてもらいました。

しかし、生前の彼は派手好きで、スーツや靴などは高級なものを身につけていましたし、輸入品のガラス器も大切にしていました。また、絵画やヴィンテージワインを集める趣味もありました。これらのほとんどは、相続放棄後に一部の遺族の方が形見分けと称して持ち出したようです。

確かに彼は借金も多かったようですが、価値のありそうな遺品の大半を持ち出した遺族が相続放棄できて、債権者である私は何も請求できないというのは釈然としません。

 

【Answer】

故人を偲ぶ程度の遺品を相続人間で分け合う『形見分け』については、民法921条1号の「相続財産の処分」にあたらず、それが相続放棄の後になされた場合でも同3号の「相続財産の隠匿」等にあたらないとされています。通常の形見分けによって単純承認したものとみなされることはありません

しかし、たとえば遺品に新品同様の衣服・靴等が多数含まれている場合や高価な宝石などは、一定の財産的価値を有している以上、これを勝手に持ち出す行為は通常の形見分けの範囲を超えています。そもそも相続放棄した遺族には、その放棄によって相続人となる者のために相続財産を管理する義務があるのです(民法940条)。

相続放棄した後であっても、相続財産を持ち出し、被相続人の債権者に損害を与えるような背信的行為をした相続人に対して、相続放棄によるメリットを与えるべきではありません。

そこで、利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識しながら相続財産を隠した場合には、民法921条3号の「相続財産の全部または一部または隠匿」にあたり、制裁的に相続を単純承認したものとみなされる可能性があります

なお、相続人が、相続放棄の申述を受理された後、故人のスーツ・毛皮コート・靴・絨毯等一定の財産的価値を有する遺品のほとんどすべてを自宅に持ち帰った行為が、いわゆる形見分けを超えるものであって「相続財産の隠匿」にあたるとした地裁判例があります(東京地判平成12年3月21日家月53巻9号45頁)。

 

【Reference】

 

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。 ・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

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Q083 故人の入院費を支払った。相続放棄できる?(法定単純承認4)

【Question】

先だって兄が他界しました。兄は独り者で子供がおらず、妹の私が相続人になっています。

預金などの相続財産よりも債務のほうが多いことがわかり、家裁で相続放棄しようと考えています。

そこで質問ですが、
(1)生前の入院費を私自身の預金をおろして支払ったら、相続を承認したことになるのですか?
(2)兄の預金を解約して生前の入院費に当てた場合はどうですか?

 

【Answer】

生前の入院費は、本来であれば亡くなったお兄様が支払うはずのものですから、相続債務として相続財産となります(Q011)。
法律上は、相続放棄するのであれば相続人が支払う必要はないのですが、それでもお世話になった病院には支払っておきたいと考えるのが人情でしょう。

(1)については、 相続債務の弁済(支払い)を相続人ご自身の財産でするわけですから、その行為は、当然民法921条1号の相続財産を処分したことにはなりません。相続放棄手続きにあたって支障をきたすことはないでしょう。
相続人固有の財産である死亡保険金で相続債務を弁済した事案で、この行為が相続財産の一部を処分したことにならないことは明らかであると示した控訴審決定があります(福岡高宮崎支決平成10年12月22日家月51巻5号49頁)。

 

しかし、(2)については微妙なところがあります。

民法921条1号では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときには、単純承認したものとみなされてしまいます。これは、相続の承認・放棄の態度を明確にする前に相続財産を処分したときには単純承認の意思があると考えるのが普通だからです。

そのため、被相続人名義の預貯金を解約してこれを被相続人の債務に充当した場合には、相続財産の処分にあたり、この行為を行った相続人は相続を承認したことになり、もはや相続放棄することはできない。これが原則です。

しかし、そもそも相続人は、限定承認または相続放棄するまでの間、その固有財産(自分自身の財産)を扱うのと同じ注意を払って相続財産を管理しなければならないという義務があります(民法918条1項)。そのため、相続財産の価値を維持する行為(保存行為)は、法定単純承認となる「相続財産の処分」からは除外されています(民法921条1号ただし書)。
支払期限の到来した債務を返済するということは、現金は減りますが返済義務も減ることになるので、全体でみればプラスマイナスゼロです。そう考えれば、相続財産で相続債務を返済する行為は保存行為であって民法921条1号の「相続財産の処分」にはあたらず、相続を承認したとみなされることはないとも、一応は言えるかもしれません。

とはいえ、「これが入院費でなく銀行借入金だったらどうか」「期限が来ていないのに繰り上げ返済してしまったらどうか」など、いろいろなケースを考えると危なっかしいのも事実です。

結論としては、家裁で相続放棄をするならば
・相続財産を相続債務の支払いにあてるのは避ける
・入院費などを払うならば、相続人が自分の財産で払うようにする。
・けっきょく、遺産には手を触れないのが一番
ということが言えます。
そもそも入院費は、身内の方が保証人になっているケースが多いと思いますが。

ついでに、家裁で相続放棄をするならば
入院費だからといって、故人が加入していた「医療保険金」を請求してはいけません!
これはまさに相続財産ですから、法定単純承認になってしまいます。
(詳しくはQ080をごらんください。なお、「死亡保険金」は大丈夫です)。

「高額療養費」の請求にも注意が必要です!
高額療養費は、故人が受給権者であるときは、請求してはいけません。
故人が世帯主(国保)・被保険者(健保の場合)には、還付される高額療養費は相続財産になってしまいます。相続放棄するならば請求できません。 なお、故人が世帯主や被保険者ではないならば、高額療養費を請求しても相続放棄できます。

 

【Reference】

 

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。 ・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

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Q082 葬儀費用を払ってしまったが、相続放棄できるか(法定単純承認3)

【Question】

1ヶ月前に父が亡くなりました。

取り急ぎ父名義の郵便貯金302万円を解約して葬儀費用273万円にあてました。残金は墓石・仏壇の購入にあてようと思っておりました。
ところが昨日、A信用保証協会から、父に対する多額の求償債権が残っているという通知書が送られてきました。

家庭裁判所で相続放棄の手続きをしたいと思いますが、
(1)葬儀費用のために父の貯金を引き出したことは、法定単純承認になって相続放棄できないのですか?
(2)このまま墓石・仏壇を購入するのは、問題がありますか?

 

【Answer】

まず(1)の葬儀費用については、身分に相応しい程度の葬儀であれば、その費用を相続財産から支払う行為は「道義上必然」として、法定単純承認(現行民法921条1号)となる「相続財産の処分」にあたらないとした古い判決があります(東京控判昭和11年9月21日新聞4059号13頁)。

比較的最近では、家裁で相続放棄の申述をしたところ却下の審判がなされたために即時抗告をした事例の抗告審決定の中で、葬儀費用の支出については社会的儀式として必要性が高く、その時期を予測することは困難であり、葬儀を執り行うためには必ず相当額の支出を伴うものであるから、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」にあたらないとしたものがあります(大阪高決平成14年7月3日家月55巻1号82頁)。

被相続人の預貯金を解約したこと自体が「相続財産の処分」ですから、絶対に相続放棄できるとは断言できません。
しかし、葬儀費用が妥当な額であるならば、葬儀代を相続財産から支払っても相続放棄申述は受理されるものと考えていいと思います。受理されなければ即時抗告をして争うことになるでしょう。

 

いっぽう(2)の墓石・仏壇購入費用について、上記と同じ大阪高裁の決定はニュアンスが異なります。

同決定では、墓石や仏壇の購入は葬儀費用の支出とは事情が異なる面もあるとした上で、社会的にみて不相当に高額ではなく、不足分を相続人が自分で負担している等の事情がある場合には、相続財産の一部である貯金を解約して墓石・仏壇を購入したとしても「明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」に当たるとは断定できない」とし、相続放棄の申述は受理するのが相当であるとしました。
墓石・仏壇の購入が、法定単純承認たる「相続財産の処分」に当たるとも言い切ってなければ、当たらないとも認めていない点に注意が必要です。

高裁としては、家庭裁判所での相続放棄申述については、はっきりと要件を満たしていないと断定できない限りは受理すべきだとしただけです。
墓石や仏壇の購入が「処分」にあたるかどうかは、結局のところ債権者との民事訴訟の中で白黒つけましょうね、と言っているにすぎません。
訴訟の中で債務者や相続人の経済状況等を具体的に突き詰めた結果、墓石・仏壇が不相当に高額と認定されて、「相続財産の処分にあたる」→「相続放棄の受理審判を取り消す」と結論付けられる可能性もあるわけです。

従いまして、相続財産から支出して墓石や仏壇を購入する行為は、不相当に高額でない等の事情があればセーフとなる可能性がありますが、100%大丈夫というわけではありません。結論的には「やめておいたほうが無難」です。

 

【Reference】

 

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます。 ・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

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Q081 遺産を早く売却して、故人の借金を清算したい(法定単純承認2)

【Question】

先週、父が他界しました。
母はすでに亡くなっており、相続人は私一人だけです。

父は事業をしていたので、その結果かかえた負債を分割して支払っていました。
父の居宅を売却すれば負債の大半を一気に清算することができるので、名義変更をして売却したいと思います。
不動産の相続登記をしないと売却できないと聞いたので、大至急、相続登記をお願いしたいのですが。

なお、私は親元からは自立しているので、実家がなくなっても困ることはありません。

 

【Answer】

お父様の居宅を売却して借金返済にあて、それでも負債が残るくらいであれば、家庭裁判所での相続放棄手続きをすることをおすすめします。
家裁で相続放棄するだけで、お父様の借金はもちろん、遺産の売却などの様々な義務からさっぱり免れることができます。固定資産税や譲渡所得税もいっさい支払う必要はありません。

もしも遺産を売却してしまうと相続を承認したことになり、相続放棄できません。

なお、あなたが相続放棄すれば、初めからあなたは相続人でなかったことになり、お父様のご両親が相続人に繰り上がります
お父様のご両親がすでに他界されていれば、お父様のごきょうだいが相続人に繰り上がります(Q078をご参照ください)。

そのため、あなたが相続放棄が家庭裁判所で受理されたら、繰り上がった相続人にすみやかに相続放棄の手続きをするようにうながすといいでしょう。

 

【Reference】

法定単純承認 ~相続を承認したものとみなされてしまうケース~

自分から「相続を承認します」という意思を明らかにしなくても、他人から見たら相続を承認したような事実があれば、相続人は単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といい、次のような場合がこれにあてはまります(民法921条)。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

・「処分」には、相続財産の事実上の処分(例:取り壊し)と、法律上の処分(例:譲渡)の両方を含みます(したがって、遺産を売却すると相続を承認したとみなされます)。
・単に建物の修理のような遺産の値打ちを維持するだけの行為や、短期の賃貸借契約(たとえば土地なら5年、建物なら2年以内の期間の賃貸借契約)は除きます。

(2)相続人が相続放棄や限定承認の手続きを取らず、3ヶ月の熟慮期間Q079を過ぎたとき

(3)たとえ相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を、(a)隠したり、(b)債権者に隠れてこっそり消費したり、(c)隠すつもりで限定承認をしたときに作成する財産目録に載せなかったりしたとき

このようなケースにあてはまって法定単純承認が成立すれば、もはやその後に相続放棄することはできません。 たとえ熟慮期間中であったとしても、法定単純承認を生じさせた行為を撤回することは原則としてできず(民法919条1項)、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。

 

 

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