Q068 夫婦で母を療養看護。相続のときに考慮される?(寄与分)

【Question】

夫婦で母の介護をしています。

一時は老人ホームへの入居も検討しましたが、母がそれをとても嫌がり、認知症なども無いので、自宅で一人住まいをしていました。
しかし、85歳近くなってだんだん足腰が衰えてきて、日常生活に支障が出てきたので、私は思いきって会社を早期退職し、母を自宅に呼び寄せて妻とともに介護にあたってきました。

親子なのですからこれも当然とは思いますが、母に万一の際、私と妻の苦労は相続のときに考慮されるのでしょうか。

 

【Answer】

あなたご自身については、ご事情からすれば『寄与分』が認められる可能性があります。

『寄与分』がどれくらいかは相続人間で話し合って決めますが(遺産分割協議または調停)、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所に決めてもらう(審判)ことができます。
なお、療養看護の寄与分を家庭裁判所が決める場合(審判)、金額は介護保険報酬等をもとに 、1日の金額に日数をかけて計算します。家庭裁判所の審判では寄与分は遺産全体の20%を上限の目安として運用しており、ご苦労からすれば少なく感じられるかもしれません。
(※寄与分について、民法に上限はありません。また、調停はあくまでも話し合いですから、やはり上限はありません。調停が不調で審判になると、審判上の運用では、一般的に寄与分は遺産全体の20%程度が上限の目安、ということです。)

また、奥様は相続人ではないので、寄与分は認められません

幸いお母様はまだお元気なご様子ですので、機を見て遺言書を書いてもらえれば理想です。とはいえ「お金目当ての介護」と誤解されるのは避けたいところですから、お母様のお友達や福祉関係者など、どなたかお母様と親しい方から話を切りだしていただけるようにしたいところです。

 

【Reference】

 

寄与分とは

相続は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)に存在した被相続人の財産が対象になります。 そして、同一順位の相続人が2人以上いる場合には、その相続分は均等とするのが現在の法律の考え方です(均分相続)。

しかし、常に「相続分は均等です」という考え方を押し通すと、場合によっては不公平が生じる場合があります。この不公平を解消するための制度の一つが『寄与分』なのです。

寄与分とは、故人の財産の維持または増加に尽くした共同相続人(『寄与分権利者』といいます)に対し、法定相続分または指定相続分に一定の加算をすることで、 相続人間の不公平を解消する制度です(民法904条の2)。

 

寄与分権利者とは

(1)共同相続人であることが必要です。

したがって、内縁の妻や、子の妻(嫁)には寄与分はありません。ただし、子の妻(嫁)の寄与は、その配偶者である子の寄与として考慮はされます。

 

(2)故人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者でなければなりません

寄与分が認められるには、寄与は「特別の」ものである必要があります。
入院の世話をしたというような、夫婦・親子間の協力義務・扶養義務を果たしただけでは、それは「通常の」寄与でしかありません。
「特別の」寄与というためには、たとえば、介護によって施設の費用等の療養看護の費用を大幅に節約できたとか、家業を手伝って繁盛させたとか、誰が見ても経済的にプラスであったということが必要です。

逆にいえば、経済的にプラスであれば良いので、被相続人に多額の金銭的援助をしていれば寄与分が認められます (精神的サポートだけではなかなか寄与分は認められないのです)。ただし家事審判では、被相続人が所有していた株式や投資信託を相続人の一人が運用し、結果として遺産を増加させたようなケースでは、資産運用には常にリスクを伴いますので「特別の寄与」として評価してもらえることはありません。

 

寄与分はどうやって決めるのか

寄与分がいくらなのか、はじめから具体的な金額が決まっているわけではありません。
共同相続人の協議で決めるか、あるいは家庭裁判所の「裁量」によって決められます。
法定相続分や特別受益などと違い、決める基準はグレーゾーンなのです。

(1)原則は協議で決める

特別の寄与があったのか無かったのか、あったとして寄与分はどのくらいであったのか、これは原則として共同相続人全員の協議で決めます。
このように協議で決める場合には、被相続人に対して特別の寄与をした相続人がいれば、普通は遺産分割協議の中で貢献度に応じて遺産を加減するでしょうから、厳格に「寄与分はいくら」と決めることは少ないです。

ただし、寄与分を主張するならば遺産分割が終わるまでに主張しておかなければならず、遺産分割協議終了後に寄与分の請求だけをすることはできません(寄与分は相続分を修正するための制度ですから)。

(2)家庭裁判所で決めてもらうことも

話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に寄与分を定める申立てをします。これは通常、遺産分割の申立てと並行して行い、家庭裁判所の審判で決まることになります。特別受益のケースと異なり寄与分は算定が難しいので、申立てなければ審理の対象になりません。

家庭裁判所は、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、「自由に」寄与分を決定します。
これは、たとえば家業を手伝った子の寄与額が仮に1,000万円であったとしても、裁判所は500万円と評価するかもしれない、ということを意味します。遺産総額が300万円であったとすれば、寄与分は100万円としか評価してもらえないかもしれないのです。

寄与分がこのように具体的な金額で示されることもあれば、「遺産総額の7%」という基準が示されることもあります。
介護による寄与分を家裁が算定する場合、介護保険報酬などを基準にして算出されます。

なお、調停が不調に終わって家庭裁判所が審判を下す場合、寄与分は遺産全体の20%をおおよその上限の目安として運用しています(※寄与分について、民法に上限はありません。また、調停はあくまでも話し合いですから、やはり上限はありません。20%というのはあくまでも審判上の目安です)。

また、『療養看護』についての寄与分を家庭裁判所に認めてもらうには、現実的には「要介護2以上であった故人を、最低1年間、自宅で自ら介護」していないと認めてもらえないというおおよその基準が存在します。
しかも故人の家で同居していた場合には、それは「利益」としてマイナス評価されてしまいます。

 

寄与分権利者がいるときの相続分の算定

共同相続人の中に寄与分権利者がいる場合、次の方法で各相続人の相続分を求めます。

1.まず、遺産総額から寄与分額を引きます(遺贈がある場合は遺贈が優先。民法904の2 第3項)。
2.この金額に、法定相続分(または指定相続分)をかけます。
3.寄与分権利者については、2の金額に寄与分の額を加算します。

(例)遺産総額2,000万円、寄与分額200万円、寄与分権利者は子A

妻  (2,000万円-200万円) × 1/2 =900万円
子A (2,000万円-200万円) × 1/4 + 200万円 =650万円
子B (2,000万円-200万円) × 1/4 =450万円

 

2014.10.29、表現が不正確で誤解を招く部分があり、一部修正しました。

 

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2014年2月27日 | カテゴリー :