Q022 借家権は相続されるか(公営住宅の場合)

【Question】

私は、夫の名前で借りた市営住宅に夫婦2人で25年にわたって居住していましたが、その夫が先日亡くなりました。
残された私も高齢なので今のまま住み続けたいのですが、立ち退きを求められるようなことはないのでしょうか。

 

【Answer】

市営住宅などの公営住宅法にもとづいて建てられている公営住宅については、入居者(借主)がお亡くなりになった場合には相続の対象にならず、その相続人が同じ住宅を使用する権利を当然に承継することはできません。
しかし、入居者がお亡くなりになった時に1年以上同居していた方は、収入条件をオーバーしていたり不正入居や家賃の滞納のような明け渡し事由に該当していない限り、事業主体の承認を受ければ引き続き住み続けることができるようになっています。
あなたの場合は、まず大丈夫ですよ。

 

【Reference】

公営住宅は、住宅に困っている所得の少ない方を対象として、安い賃料で住宅を提供することによって国民生活の安定と社会福祉の増進をはかることを目的とするもので、公営住宅法という法律や自治体の条例に規定があります。
(自治体の中には、比較的収入が高い層に賃貸住宅を提供しているところがありますが、こちらはここでいう『公営住宅』とは別物です)

公営住宅の入居者は法令によって決まっています。
そのため、入居者がお亡くなりになった場合には、公営住宅の使用権は被相続人の一身に専属するものと考えられ、相続の対象になりません(平成2年10月18日最高裁判決)。そのかわり、一定の条件を満たし、事業主体の承認を受ければ、住み続けることができるしくみになっています。

その一定の条件とは、次のすべての条件をクリアすることです(公営住宅法施行規則11条を簡単にしました)。

1)入居者との同居期間が1年以上あること
2)収入が一定の金額を超えないこと
3)不正入居でないこと
4)家賃を3ヶ月以上滞納していないこと
5)住宅や施設を故意に破壊していないこと
6)公営住宅法27条の義務(無断転貸の禁止など)や条例違反がないこと

なお、病気などの特別な事情があれば、これらの条件を満たしていない場合でも承認されることがあるようです(施行規則10条2項)。

 

-参考判例-
平成2年10月18日最高裁判所第一小法廷判決
「公営住宅法は 、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより 、 国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって ( 一条) 、 そのために、 公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し( 一七条) 、 政令の定める選考基準に従い 、 条例で定めるところにより、 公正な方法で選考して 、入居者を決定しなければならないものとした上( 一八条 ) 、 さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には 、 その入居年数に応じて 、 入居者については 、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨 ( 二一条の二第一項) 、事業主体の長については 、 当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨 ( 二一条の三第一項 )を規定しているのである 。 以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば 、入居者が死亡した場合には、 その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである。」

 

-参考条文-
・公営住宅法27条6項
公営住宅の入居者が死亡し、又は退去した場合において、その死亡時又は退去時に当該入居者と同居していた者は、国土交通省令で定めるところにより、事業主体の承認を受けて、引き続き、当該公営住宅に居住することができる。

・公営住宅法施行規則11条
事業主体は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、法第27条第6項 の規定による承認をしてはならない。

一  当該承認を受けようとする者が入居者と同居していた期間が一年に満たない場合(当該承認を受けようとする者が当該入居者の入居時から引き続き同居している親族(婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者その他婚姻の予約者を含む。)である場合を除く。)
二  当該承認を受けようとする者に係る当該承認の後における収入が令第9条第1項 に規定する金額を超える場合
三  当該入居者が法第32条第1項第1号 から第1号 までのいずれかに該当する者であつた場合
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