Q097 遺言を書くべき人、書いたほうがいい人

【Question】

私は、ずっと遺言書はお金持ちのためのものだと思っておりましたが、 先日、保険会社主催の相続セミナーに参加して、財産があまり多くない場合でも相続争いになることがあると聞いて、遺言を書くかどうか迷っています。

家族は、妻の他に子供が二人おり、息子は、結婚後も私たちが住む家の近くに別の家を買って住んでいます。いっぽう、娘は他家に嫁いで、離れた所で暮らしています。

財産としては、自宅のほかには、預金が人並みにあるくらいです。

息子も娘も、孫を連れて時折帰ってきますし、ありがたいことに家族の仲は悪くないと思います。それでも遺言はのこすべきでしょうか。

 

【Answer】

息子さんも娘さんも実家を出て、それぞれ自分たちの家をお持ちということですから、個人的な意見ですが、必ずしも遺言はのこさなくてもいいと思います。

法律を飯のタネにしている専門家の大半は、ここで「それでも遺言書は必要です!」と力説するのでしょうが、私は変わり者なので、このようなケースでは遺言をおすすめしません。

ただし、遺言が必要ないのは、「ご夫婦ともに、二人のお子様を平等に扱っており、今後もそうである場合」です。
ご夫婦のどちらかが、たとえば次のように考えていらっしゃるならば、遺言によって手当てをしておいたほうがいいでしょう。
1)どちらかの子供に、自宅を継いでほしいと考えている
2)どちらかの子供に、老後の面倒を見てもらいたいと考えている
3)片方の子供にだけ家を買った時に資金援助した、というように、二人のお子様が平等に扱われていない

 

【Reference】

このご相談のケースでは、
(a)子供たちが二人とも実家から独立していて、戻る予定もない。
(b)家族の仲が良い。
(c)不動産が自宅のみで、収益物件や田畑・事業用地がない。
(d)家を継いでほしいとは思わない。自分たちが先立ったら、売却して良い。
…ということで、遺言作成をおすすめしませんでした。

このようなケースで遺言をのこすと、かえって良好な家族関係が崩れる可能性があると考えます。
最近では、両親が二人とも他界した暁には、実家は売却してその代金をきょうだいで等分するというケースが多いように思います。

 

絶対に遺言を書くべき人とは

一般的に、次のような方は、絶対に遺言を書くべきです。

(1)推定相続人の人数や、財産の種類・数が多い方

このような場合には、遺産をめぐって話し合い(遺産分割協議)が長引きがちです。
だれが何を取得するかについて明確にしておけば、紛争防止になります。

 

(2)子供がいない方

子供がいない場合、相続人はお連れ合い(配偶者)とあなたの両親(直系尊属)、あるいはお連れ合い(配偶者)とあなたの兄弟姉妹となります(Q003)。
親子間での相続と異なり、遺産分割協議は、なかなか円満に進みません。

 

(3)再婚をしている方

先妻の子供がいる場合、後妻・後妻の子供とトラブルになりがちです。

 

(4)病弱あるいは障害者の家族がいる方

生活弱者に対しては、経済的に困らないような配慮が必要です。
場合によっては、『信託』という仕組みを活用することがあります。

 

(5)個人企業の経営者、農業経営者

相続によって事業用資産が分散すると、事業を承継できません。

 

(6)推定相続人の中に、行方不明者や浪費家がいる方

財産を渡せない・渡したくない相続人がいる場合には、遺言を活用すべきです。

ただし、『遺留分』に対する配慮は必要です。

 

(7)推定相続人ではない人に、財産を残したい方

息子の嫁や、特別に看護にあたってくれた人などに財産を残すには、遺言(遺贈)か死因贈与という方法があります。遺言(遺贈)のほうが拘束が少なく使いやすいと思います。

 

(8)事実婚の方

入籍していないお連れ合いは、遺言がないと相続権自体がありません。

 
(9)死後は自治体・公益団体に財産を寄付したいとお考えの方

慈善団体やNPO法人などへ、死後に財産を寄付したい方。
 

(10)推定相続人がいない方

身寄りのない方の財産は、遺言がない場合には、原則として国庫に帰属してしまいます。

 

 

 

遺言を書いたほうが良いケース

次に、「どちらかというと遺言を書いたほうが良いケース」です。
遺言以外の方法を採用する場合もあります。

(1)相続財産を均等に分けない(または均等に分けることが難しい)場合

現在の民法では、均分相続という考え方が採用されており、同順位の相続人が複数いる場合、その相続分は均等です。
たとえば子が複数いる場合、 それぞれの子の相続分は、原則として均等です。

そのため、子が複数いるのに「家は長男に継いでほしい」というように、相続財産を均等に分けない(または均等に分けることが難しい)場合には、遺言を活用するケースが多いです。

多少、『遺留分』に対する配慮は必要です。

 

(2)親元に同居の子と、別居の子がいる場合

この場合、同居の子が老親の世話をしたり介護にあたったりすることが多いと思います。お墓などの祭祀を引き継ぐことも多いでしょう。
このようなケースでは、遺言によってあらかじめ財産を割り振っておいたほうがいいでしょう。

 

(3)特定の子に対してだけ、生前贈与等が多い場合

きょうだいの間に不公平があると、遺産分けのときに、「特別受益」をめぐって争いになることが多いです。
遺言で「持ち戻し免除の意思表示」をするのも、ひとつの方法です。

 

 

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2014年5月30日 | カテゴリー :

お客様の声46 S様

お客様の声46 S様

昨年父が亡くなり、実家の不動産と預貯金の相続手続きをどうしようかと悩んでいました。被相続人の本籍地が離れている所にあるため、戸籍一つ取るのにも手間がかかり、手続きも良く分からなかったので、専門の事務所にお願いするのが間違いないと考え、インターネットで検索しました。そこで見つけたのがひびき事務所です。司法書士がいいのか行政書士がいいのかも分からなかったのですが、ここは相続手続きを一括代行してくれる事務所で、しかもメールや郵送でやり取りをするので手軽にできそうだと思い、すぐにメールで資料を請求しました。
メールでのやり取りは分かりやすく、安心して手続きを任せることができました。金融機関の手続きはこれから自分で行う必要がありますが、手続の手間は十分に軽減されたと実感しています。
本当にありがとうございました。

 

S様、どうもありがとうございました。

 

(預貯金については、銀行等が当事務所からも遠方でした。そのため、銀行担当者と綿密に電話で打ち合わせを行い、書類の手配・セッティングを当事務所で行い、最後にお客様に出向いていただく形で対応しました。
本事案では、不動産登記は司法書士業務として、預貯金については行政書士業務としてお引き受けしましたが、通常は、相続人の皆様全員から、司法書士法に基づく任意相続財産管理業務(相続丸ごと代行プラン)をご依頼いただき、そのうえで手続きを進めます)

 

Q096 遺言書はいつ書くか?

【Question】

遺言を書いたら、すぐに死んでしまいそうで、どうも気が進みません。
遺言を書くのは、どのくらいの年齢の人が多いのですか?
どういうタイミングで作成するのがおすすめですか?

 

【Answer】

遺言は、退職のような人生の節目の時期に作る方や、古希や喜寿のようなご長寿のお祝いをきっかけに作る方が多く、ある程度お年を召された方が多いのは確かです。

しかし、遺言は15歳以上であれば誰でも作れますので、中にはお若い方もいらっしゃいます。
実例を下のReferenceでご紹介します

 

『遺言』とは、死期が間近な人が書くものであるというイメージが強く、なかなか気が向かないのはよくわかります。
また、自分の財産も増えたり減ったりしますから、なるべく間際になってから書きたいというお気持ちもわかります。

しかし、人の寿命はわかりません。
ぎりぎりになってからでは、遺言書を書こうにも書けないほど急に病気が悪化するかもしれませんし、不慮の事故に出遭うかもしれません。

ぎりぎり遺言をのこせたとしても、遺言の内容に不服がある相続人が、死亡直前に作成された故人の遺言は、すでに正常な判断能力を失った状態で書かれたものであるので、無効である」と主張して、争いになるケースが多いのです。

無理に今すぐ遺言を書きましょうとは申しませんが、もし遺言を書くならば、元気なうちに、思い立った時に書くのが、タイミングとしては最善だと思います。

 

なお、遺言は、
(1)一度書いても、何度でも書きなおしができます

また、
(2)遺言を書いても、あなたの財産はあなたの自由にしてかまいません
たとえば、「A市B町の土地を長男Xに相続させる」という遺言を書いたからと言って、その土地を絶対にご長男に残さなければいけないということはありません。
あなたの財産なのですから、他人に売ってしまっても、まったく問題はありません。

 

 

【Reference】

 

ある若いご夫婦の『遺言書』

以前、ある手続きで、お二人とも30歳に届かない若いご夫婦から、自宅マンションの権利証をお預かりしたときのことです。

権利証の中に2枚の紙が挟まっていました。
普通の便箋の半分くらいの、小さな紙でした。

2通ともタイトルは『遺言書』となっていて、1通はご主人が、もう1通は奥様が書いたものでした。
そして、その内容は、どちらも「私は、自分の全財産を妻(夫)に相続させる」という内容だったのです。
メモ用紙のような小さな紙で、封もされていませんでしたが、法律上の自筆証書遺言の要件をみたした、正真正銘の『遺言書』でした。

我々のような専門家から見れば、内容的には不十分な遺言かもしれません。
しかし、このような遺言があるということによって、万一のことがあっても、お連れ合いの法律上の立場がより強く安定したものになることは、間違いありません

 

遺言をあまり重く考えすぎず、この若いご夫婦のように、『道具』として考える

それくらいが、遺言の作り方としては「ちょうどいい」のかもしれません。

 

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2014年5月27日 | カテゴリー :

Q095 判断能力が落ちていても遺言は書けるか

【Question】

このごろ母は物忘れ・置き忘れなどが多く、もしかして初期の認知症なのではないかと、私(長女)は心配しています。

私の末の弟(二男)は、母とも私たち姉兄とも、かなり以前から交流を絶っています。
そんなこともあって、私は、母に遺言を書いてくれるよう、以前から頼んでいました。

しかし、もしも母が認知症であると診断されたならば、遺言を書くことはできないのでしょうか。

 

【Answer】

仮にお母様が初期の認知症であるとしても、まったく遺言を書けないわけではありません。
物事にたいする一応の判断能力(意思能力)があるのならば、自筆で遺言書を書いてもただちに無効になるわけではありません。また、公証人も公正証書遺言作成に応じてくれます。

問題は、お母様が亡くなった後で、「遺言作成者は、遺言作成当時すでに認知症であり、意思能力のない状態で作成された遺言なので無効である」と主張して、遺言の効力を争ってくる相続人が現れてくることです。
お母様が認知症であるとすれば、遺言が有効か無効か、争いになる可能性は決して低くはありません。

そこで、できるだけ認知症の専門医にかかって診断をしてもらい、認知症かどうか診断をしてもらうべきです。
かかりつけのお医者さんでもいいのですが、専門医のほうが、紛争になったときの証拠力は高いです。

 

認知症ではないと診断されたならば、問題はありません。お元気なうちに遺言を作成するべきです。
この場合、なるべく公正証書遺言にすることをおすすめします。公証人と2名の証人が関与しますので、意思能力について争いになる可能性が低くなります。その際、診断書を公証人に提出しておけば、後日の証拠になるのでベストです。

 

もしも認知症であると診断されても、軽度であって意思能力があるならば、遺言を作れます。
こちらの場合には、自筆証書遺言は避け、必ず公正証書遺言にするべきです。自筆証書遺言では遺言者の意思能力を証明できません。公正証書遺言ならば公証人と2名の証人がいます。

また、認知症の方の遺言書は、内容を簡潔にするしかないでしょう。
たとえば、あるていど認知症が進行しているにもかかわらず、「土地をAに、○○銀行の預金をBに、それぞれ相続させる」という内容の遺言を作ったら、これは無効になる可能性が高くなります。このような内容の遺言は、「全ての財産をAに相続させる」というような単純な内容よりも、高度な意思能力が必要であると考えられるからです。

そのほか様々な手法で、意思能力があったという証拠を残しておく必要があります。
遺言を作れるかどうかは、結局は意思能力次第です。診断書を取ったうえで司法書士にご相談ください。

 

【Reference】

遺言を作成するためのハードルは低い

遺言は、ある人の最後の意思表示ですから、可能な限り尊重されなければなりません。

そこで民法の上では、
(1)未成年者でも15歳に達した者は、遺言をすることができる(民法961条。つまり親権者の同意は不要)。
(2)成年被後見人でも、事理を弁識する能力を一時回復した時には、2人以上の医師の立会いのもと、遺言をすることができる(民法973条)
とされているだけで、遺言を書く人がこれらにあてはまらなければ、法律上の制限はありません。

たとえ遺言者に保佐人・補助人がついていたとしても、その同意等は必要がありません(民法962条)。

 

意思能力だけは必要

しかし、遺言も意思表示の一つですから、事物に対する一応の判断能力意思能力)が必要であることはもちろんです。

意思能力がないのに書かれた遺言は、さすがに無効です。

認知症でも意思能力があると認められれば、公証人も公正証書遺言の作成を拒むことはできません。
さらに公正証書遺言の場合には証人も2人必要ですから、意思能力について争いになる可能性は、自筆証書遺言よりも公正証書遺言のほうがずっと低いことは間違いありません。

 

意思能力があるかどうかの基準は

認知症患者が激増し、2013年度に462万人を突破したとの厚生労働省の発表がありました。
遺言作成時の意思能力についての争いが、今後増加していくことは確実です。

遺言作成時の意思能力を客観的に判断するのはなかなか難しい問題ですが、よく裁判で引き合いに出されるのが、『長谷川式認知症スケール(HDS-R)』です。

認知症であるかどうかを診断するために行われるテストの一つで、30点満点中20点以下の場合に認知症の疑いがあるとされているものです。

長谷川式スケールは認知症の有無を判別する基準の一つにすぎず、得点による重症度の分類はしません。
しかし、点数が低いほど症状の重い傾向があることから、遺言作成時の意思能力が争いになった場合、それに近い時点で長谷川式スケールの検査を受けていれば、その検査結果が裁判において重要な資料のひとつになっていることは間違いありません。もしも10点以下ならば、遺言能力が認められる可能性は、非常にきびしくなります。

とはいえ、長谷川式スケールのようなスクリーニングテストの点数がすべてではありません。遺言作成時の状況や経緯、遺言の内容等を吟味したうえで結論が出されます。そのため、遺言の効力を争われるおそれがある場合には、意思能力があったことを証明するための資料を残しておくことが大切です。

(なお、長谷川式認知症スケールは、医師や臨床心理士等が使うか、あるいはその指導によって利用されるものとされています。一般人が利用しても正確さは期待できませんので、ご注意ください)

 

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2014年5月23日 | カテゴリー :

お客様の声45 K様

お客様の声45 K様

郵送とメールのみで対応していただき、忙しく時間のない当方には非常に便利でありがたく感じました。また、案内の書類は分かり易くメールも毎回丁寧にいただき、面識がなくても不安を感じませんでした。

今回、インターネットのおかげで運良く利用することが出来ましたが、貴事務所の様な所が、更に増えて、身近になることを業界に期待します。

今回は大変お世話になりました。

 

K様、どうもありがとうございました。

Q094 特別受益額は、いつの時点を基準にして評価するの?

【Question】

亡くなった父がまだ元気だった10年前に、相続時精算課税制度を利用して、父からマンションの贈与を受けました。

その父が、先日、他界しました。
父の遺産分割にあたって、私のもらい受けたマンションが特別受益財産にあたる、ということは理解しています。

相続時精算課税制度の届出をして申告をしたときには、このマンションは1,500万円の評価額で贈与税の申告をしました。あれから10年がたち、現在、このマンションの相続税評価額は1,000万円程度です。

相続税の計算の上で、贈与当時の評価額が相続税評価額になってしまうのは仕方がありません。
しかし、父の遺産を分割する場合にも、当時の時価1,500万円が特別受益額として持ち戻され、私の相続分から1,500万円が差し引かれるというのは納得できません。

 

【Answer】

特別受益について、その額をどのように判定するかについて明確な定めはないので、相続人間の話し合いで決めることになります。

しかし、家庭裁判所の遺産分割審判等では「相続開始時の時価」によって特別受益額を認定しています。そこで、あなたとしてはマンションを1,000万円で評価するよう主張してみると良いでしょう。

相続時精算課税制度ではあくまでも「贈与時の評価額」が相続税評価になりますが、特別受益として見た場合には結論が逆になるのです。

(なお、相続税等の『税務上の評価額』と、遺産分割の基準となる『時価』とは、必ずしも一致しません。しかし、税務上の評価額を遺産分割の基準としているケースが多いので、ここでは区別しませんでした。ご了承ください)

 

【Reference】

特別受益として持ち戻しの対象となる贈与は、期間の制限がなく、何十年前の贈与でも対象になります

すると、贈与された財産の価値が大きく変わっていたり、また、贈与財産自体がすでに失われていたりすることが考えられます。

また、現金を贈与した場合でも、インフレなどで大きく貨幣価値が変動してしまい、「ずっと前に100万円贈与されたが、相続発生時での貨幣価値に直すと、これは3,000万円相当」ということもまったくありえない話ではありません。すると、贈与時の100万円を特別受益とするのか、あるいは相続発生時の3,000万円を特別受益とするのかによって、結論が大きく違ってしまいます。

これも結局のところ相続人間での話し合いで決めるほかありませんが、判例(昭和51年3月18日最高裁判決)や家庭裁判所の審判実務では、相続開始時を基準として特別受益額を評価します。なぜなら、特別受益という制度が相続人間の不公平を解消するためのものだからです。

したがって、特別受益についての裁判所の運用では、マンションのような不動産を贈与されていた場合には、特別受益額を相続開始時の時価によって評価します。もしも火事で焼けていれば特別受益額は0円です(ただし、失火のように受贈者の行為によって滅失したり価格が減少したりしたときは、目的物が原状のままあるものとして評価します。民法904)。

また、現金を贈与されていたような場合には、消費者物価指数などの変動に応じた額を特別受益額としています(参考:新潟家審昭和41年6月9日)。 先ほどの例で、共同相続人の一人が被相続人から30年前に100万円をもらい受け、それが相続発生時での貨幣価値に直すと3,000万円相当になっている場合、その相続人の特別受益額は100万円ではなく3,000万円と評価されることになるのです。

 

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2014年5月19日 | カテゴリー :

Q093 夫・妻のいる人が遺言書を作る場合に、気をつけたいこととは

【Question】

私の家族は妻・長女・長男の4人で、家族の仲は悪くありませんが、万が一にも相続争いにならないように、遺言を準備しようと考えています。

財産のリストも漏れがないように作りました。いつでも遺言を作る準備はできています。あとは何を準備すればいいでしょうか。

 

【Answer】

お連れ合いが健在な方が遺言を作る場合には、気を配るべき注意点が多く存在します。意外と、結構なボリュームになることも多いです。

できるだけ、遺言に詳しい(遺言作成の経験が浅いとダメ)司法書士や弁護士などの専門家のサポートを受けることが望ましいです。

 

(1)遺言はなるべく夫婦で作る

ご夫婦の仲が悪くないのであれば、なるべく奥様も一緒に遺言を作ることをおすすめします。

理由は2つあります。

1つめの理由は、『二次相続』の問題に配慮する必要があるからです。

奥様ご自身にあまり財産が多くないとしても、あなたに万一の事があれば、遺言に基づいて奥様があなたの財産を相続することになるでしょう(一次相続)。

そして、さらに奥様も他界したとき、2人のお子様が一切の財産を承継します(二次相続)。

この二次相続のとき、遺産の配分をどうするかを、あなたが遺言であらかじめ決めておくことはできません(後継ぎ遺贈の禁止)。二次相続の対象となる財産は「奥様のもの」だからです。

そこで、将来的に子供たちにどのように財産を承継させるか、よくご夫婦で話し合い、お二人で遺言を作るのが理想なのです。

 

2つめの理由は、奥様が先立つ可能性も十分にあるからです。
どちらが先立つか、誰にも予測はできません。

奥様自身の財産は、奥様が先立った場合には、当然その相続財産となります。
たとえば、家や土地がご夫婦共有になっていれば、その共有持分が相続の対象です。
そう考えると、ご夫婦の片方だけが遺言を書くだけでは、いかにも不十分です。

「妻の財産なんてほとんどないよ」とおっしゃるかもしれませんが、それでも預金口座の1つや2つはあるでしょう。今は無くても、これから作るかもしれません。

最近は、女性の社会進出に伴い奥様がそれなりの財産をお持ちであることが多く、やはり財産の多少にかかわらず、奥様も遺言を作成したほうが良いでしょう。

 

なお、ご夫婦で遺言を作る場合、夫・妻がそれぞれ1通作ります。
夫婦が連名で、共同名義の遺言を作ることはできません

 

(2)連れ合いが先立った場合に備えた遺言にする

これには2つの意味があります。

1つは、たとえば「妻に自宅を相続させる」という遺言を書いておいただけでは、先に妻が亡くなってしまえば、その遺言の意味がなくなってしまうので、それに備えるという意味です。

このような場合には、妻が先立った場合には代わりに誰に財産を残すのかを、遺言の中で決めておきます。これを『予備的遺言』といいます。

もちろん、妻に先立たれたあとで遺言を書きなおせば済むのですが、手間もかかりますし、そのときに自分が元気であるという保証はありませんので、予備的遺言は必ずしておくべきです。

 

もう1つは、お連れ合いが先立ったことにより相続した財産についても、可能な限り配慮する必要がある、という意味です。

これは、将来財産を引き継いでもらう対象者が2人以上いる場合には、重要な意味を持ちます。

具体例を出してみましょう。

たとえば、夫がA市に土地を、妻がB市に土地を持っているとします。

夫はその全財産を妻に相続させ、妻が先に死亡している場合には長男Xに相続させるという遺言をしました。
妻はその全財産を夫に相続させ、夫が先に死亡している場合には長女Yに相続させるという遺言をしました。

夫はその財産を将来は長男Xに継いでもらいたいと考えており、妻は長女Yに継いでもらいたいと考えているわけです。

これで妻が先立ったら、B市の土地を含む全財産を夫が相続します。そのままの状態で夫が亡くなれば、A市の土地もB市の土地もすべて長男Xに行き、長女Yには遺産が行きません。遺留分を主張できるだけです。
これではせっかく遺言を書いた妻の意思が反映されません。

不都合が生じれば遺言は書き換えることができますが、いざそうなると面倒なものです。そこで、遺言を最初に作るときに、夫婦どちらが先立っても、それぞれの気持ちを反映するような遺言を作っておくということが大切になります。

 

(3)連れ合いに遺産を残したくないケースでは

夫婦も様々ですから、「私は夫(妻)に遺産を残したくない。ある団体に全部寄付(遺贈)したい」というケースもあります。

配偶者にも遺留分がありますから、全財産を誰か特定の相続人に相続させたり、全財産をある団体に遺贈したりすることは難しいのですが、それ以前の問題として、このような遺言を作った場合にその遺言書を誰に保管してもらうのか、実際に遺贈の手続きを誰に進めてもらうのかを考えておかないと、夢物語で終わってしまいます。
もしもこのような遺言をお連れ合いが見つけたら、その遺言が闇に葬られる可能性は高いでしょう。

このような場合には、必ず、遺言の中で、信頼できる人や団体を遺言執行者に指定しておきます。そして、その遺言執行者に遺言を託すことになるでしょう。

 

 

【Reference】

遺言を作るとき、その作成時点における遺言作成者の財産だけを対象にしていることがほとんどです。専門家が関与した遺言でも、そのような内容が多いのが実情です。

しかし、遺言を作成する時点でお連れ合い(さらにはその親)が健在の場合や、遺言者の親が健在な場合などでは、それぞれ相続が発生することによって結果的に遺言作成者の財産が増加し、遺言作成時とは大きく財産状況が変化することがあります

このような事態になったら、遺言を書きなおすということが選択肢になりますが、そのときに遺言者自身が元気でいるかどうか、誰にも予測できません。そうでなくても遺言の書きなおしというのは面倒で、つい後回しにしてしまいがちです。

新しく財産を購入したり、宝くじにあたって財産が増えたりしたならば、遺言を書きなおすのは仕方がないかもしれません。しかし、配偶者や親の相続というのは、遺言作成時にあらかじめ予測できる事柄です。それならば、あらかじめ書き直さないで済むような遺言書を作っておくのがベスト、ということになります。

遺言書作成に精通した専門家なら、遺言に関係なさそうな親族についても、必ず細かに聞き出そうとするはずです。

 

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2014年5月15日 | カテゴリー :

お客様の声44 E様

お客様の声44 E様

ごていねいな対応に感謝します。
ありがとうございました。

E様、どうもありがとうございました。

Q092 遺言を書くにはどうすればいいの?

【Question】

子供が3人おりますが、長女から、「弟や妹と相続で争いたくないので、遺言を書いてほしい」と言われています。

家族の仲は良いほうだと思うので、遺言が必要だとは思わないのですが、もしも遺言を書くとしたらどうすれば良いのでしょうか。

 

【Answer】

一般的に利用される遺言は、大きく分けて2種類あります。
公証人に作ってもらうもの公正証書遺言)」と、「自筆で書くもの自筆証書遺言)」との2種類です。

遺言を作成する方法は、民法に細かい決まりがあり、形式違反があると無効になります。
公正証書遺言ならば、公証人が作成するので非常に安心です。
公正証書遺言には他にもさまざまなメリットがあり、遺言を作成するならばできるだけ公正証書遺言の利用をおすすめします。

ただし、公証人に作ってもらうのですから、多少費用がかかります。

いっぽう、自筆証書遺言は、自分で作るものなので費用はほとんどかかりません。

ただし、前記のとおり形式違反があると無効になってしまいますから、ある程度自分で勉強をする必要があります。
紛失や破損のおそれがあり、家庭裁判所の検認手続きが必要になるなどの問題点もあります。
自筆証書遺言をご利用される場合は、デメリットの面に十分ご注意いただきたいと思います。

なお、公正証書遺言も自筆証書遺言も、いつでも何度でも書き換えは可能です。

蛇足ですが、仲の良いきょうだいでも、相続をきっかけに関係が冷え込んでしまったという事例は、数多くあります。
「遺言書さえ残しておいていただければ・・・」といったケースを、私たちも数多く目にしてきました。
ご長女さんの懸念を解消するために、遺言を作成されてみてはいかがでしょうか。

 

【Reference】

公正証書遺言とは

要するに、各地の公証役場にいる『公証人』が”清書”してくれるタイプの遺言書だ、とお考えください。

公証人の仕事はあくまでも”清書”ですから、(下書きまでは必要ありませんが)依頼する側が内容をある程度決めておく必要があります。
公証人は数が少なく非常に多忙なので、きめ細かいアドバイスは期待しないほうが良いでしょう。なお、そのようなアドバイスは、私たちのような司法書士の役割になります。

公正証書遺言の作成に当たっては、2人の証人が必要になります。
遺言者の家族等は、利害関係がからんでしまうので、証人になることはできません。
ご友人等に証人を依頼するのも手ですが、プライバシーをさらけ出すことになりますから、おすすめはしません。司法書士などにアドバイスを受けた場合は、その人に証人になってくれるよう依頼してみても良いと思います。なお、証人になってくれる人を手配してくれる公証役場もあります。

作成する遺言の内容を公証人に伝え、公証人のほうで清書の準備が整ったら、指定された日時に公証役場に行きます(日当・交通費を出せば出張してもらうことも可能)。2人の証人も同席します。

作成当日は、通常、次の手順で進みます。

1)遺言者が、公証人に、遺言内容を伝達する。
2)公証人が内容を筆記して(実際は、事前の打ち合わせで原稿はすでにできあがっていますが)、これを遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させる
3)筆記が正確であることを承認した遺言者と証人が、公正証書の原本に署名押印
4)費用を支払って、公正証書の正本と謄本を受領

 

公正証書遺言のメリット

・形式不備で無効になる可能性はほとんどゼロ。安心度が高い。

・公正証書の原本は遺言者が120歳になるまでは保管されていて、近い将来に電子化される予定。
遺言者が受け取った正本や謄本を紛失しても、手数料を払えば再発行してもらえるので、紛失や破損のおそれがない

・公証人が関与しているので、遺言が適切に成立したかどうかについて、相続人間で争いになる可能性は低い。

・自筆証書遺言とは違って家庭裁判所の検認手続きが不要。すみやかに財産の名義変更や預金の解約ができる。

 

公正証書遺言のデメリット

公証人に支払う手数料が必要。財産の額や内容、財産を渡す相手の人数にもよるが、通常は3~8万円程度必要。

・公証人によるきめ細かなアドバイスは期待できない。

・戸籍謄本等の提出が必要。不動産があれば登記事項証明書(登記簿謄本)も提出する。そのため、手間がかかる。

 

自筆証書遺言とは

遺言者が内容の「全文」と「日付」・「氏名」を自筆で書き、印を押して作成するタイプの遺言書です。
パソコンで作ってプリンターで出力したものではダメです。

書き方や訂正の仕方は、民法に細かい定めがあります。

用紙は、はがきでも便箋でもチラシの裏でもなんでも良く、印は三文判でもかまいません。

 

自筆証書遺言のメリット

・ほとんど費用がかからない

・公証人や証人が関与しないので、完全に内容を秘密にできる

 

自筆証書遺言のデメリット

民法上の要件を満たしていないと遺言が無効になる。

あいまいな内容表現や不正確な記述によって、遺言としての効力が認められないケースが、大変多い

遺言の成立について、争いになる可能性が高い
(たとえば、「遺言者の自筆ではない」とか「誰かによって無理やり書かされたものだ」など)

・紛失や破損のおそれがあるので、保存方法に頭を悩ませる

・何者かによって破棄・変造・隠匿される危険性がある

・遺言者が死亡した後、家庭裁判所の検認手続きが必要検認を受けないと財産の名義変更や預金の解約ができない
⇒ 検認とは、遺言の偽造・変造を防ぎ、遺言書を確実に保全するための手続き。遺言をあるがままの状態で保存しておくことが目的なので、遺言が有効か無効かを判定する手続きではない
⇒ 検認は、戸籍謄本などを全部そろえて家庭裁判所に検認を申立て、相続人全員が家庭裁判所に呼び出されて行う

 

秘密証書遺言について

『自筆証書遺言』『公正証書遺言』の他に、『秘密証書遺言』という方式があります。

自己または第三者が作成した遺言内容を記した証書に遺言者が署名・捺印の上、封筒に入れて封印しこの封書を公証人1人証人2人以上の前に提出し、「これは私の遺言書です」と申述する(遺言の内容には触れなくてよい)方式です。

遺言者が署名捺印さえすれば、内容自体は第三者が書いてもパソコンで作成してもかまわないという点や、内容を完全に秘密にできるという点に特徴があります。

しかし、
・結局、公証人の世話にならなければならない。
・にもかかわらず秘密証書遺言は公証役場で保管してくれないので、保管場所に悩まなければいけない。
・家庭裁判所の検認は、やはり必要
・・・ということで、自筆証書遺言のデメリットが解消されておらず、ほとんど利用されていません。

 

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2014年5月12日 | カテゴリー :

5月17日(土曜日)、越谷で相続・遺言無料相談会

5月相談会

相続あんしん相談室(八潮・三郷相談室)のホームページにお越しいただきまして、どうもありがとうございます。

さて、下記のとおり、弁護士・税理士・社会保険労務士・土地家屋調査士・司法書士らの国家資格者による第4回相続・遺言無料相談会を、埼玉県越谷市にて開催いたしますので、ご案内いたします。

日時:5月17日(土曜日)午前10時~12時
場所:越谷市中央市民会館

「『誰に相談したらいいのかわからない』を解消します」をモットーに、さまざまな国家資格者が、合同で皆様のご相談に応じる相談会ですので、遺産相続や相続対策に関するどのようなご質問にも、柔軟に対応できます。

この相談会は、今回が4回目になります。
今まで開催が不定期でしたが、ご好評をいただいているため、今月から毎月第三土曜日に定期的に開催することになりました。

ご予約は、南越谷法律事務所 048(940)0662 にお電話をいただくか(平日のみ)、または本相談室のメールフォームをご利用いただき、お問い合わせ欄に「越谷相談会参加希望」とご記入ください。

ご予約にはまだ余裕がございます。どうぞご予約をお待ち申し上げます。