Q111 故人の預金口座の取引経過は、相続人の1人から開示請求できるか

【Question】

実家の父が亡くなり、一番上の兄が遺産を管理しています。
その兄から、遺産のうち預金については、A銀行・B銀行・C信用金庫の3行に口座があると聞きました。しかし私の記憶では、D銀行とも取引があったはずです。

父がD銀行に口座を持っていたかどうか、兄が調べようとしない場合には、兄や他のきょうだいの協力なしに、私一人でD銀行に照会することはできますか。

 

【Answer】

預金について、残高証明の請求や取引経過の開示請求については、共同相続人の1人からでも可能です。
これについては最高裁の判決もありますので、今では相続人全員で請求するように指示されることは少ないと思いますが、万が一そのようなことを窓口で言われても、あきらめることはありません。どうしても埒が明かなければ、専門家にご相談ください。

 

【Reference】

預金口座の取引経過は相続人の1人から開示請求できる

遺産相続にあたっては、被相続人が有していた預貯金の残高や取引経過を正確に把握しないと、適切に処理できない場合があります。
たとえば、被相続人が亡くなる直前に、葬儀代等にあてるため近親者によって預金が引き出されることはよくありますし、特別受益にあたる生前贈与が確認できることもあります。

そのため、被相続人の預金口座等について、相続人から残高証明の請求取引経過の開示請求をする必要が生じることがあります。

これらは預金者のプライバシーに関わることなので、金融機関が開示に慎重であることは当然なのですが、相続が発生した場合に共同相続人の1人からこれらを請求できるのか、それとも共同相続人全員で請求する必要があるのか、以前は対応がわかれていました。

これについては平成21年1月22日最高裁判決で、「預金者の共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる」という結論が下され、一応の決着を見ました。

従いまして、相続人の1人からでも、戸籍謄本等によって被相続人の相続人であることを証明し、印鑑証明書や身分証明書によって本人確認ができれば、金融機関は請求に応じて残高証明や取引履歴を発行してくれるはずです。万一応じてくれない場合でも、専門の部署に問い合わせたり、専門家を通じて話をしたりすれば、まず開示してくれるでしょう。

ただし、開示請求の態様や、開示を求める対象範囲等によっては、預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用にあたるとされ、拒絶される場合があります。

 

参考 平成21年1月22日最高裁判決(民集 第63巻1号228頁)

「預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。」

 

厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂
厂厂厂厂
厂厂厂  ©司法書士法人ひびき@埼玉八潮三郷
厂厂
厂               無断転載禁止