Q064 相続財産から控除できる債務とは

【Question】

亡くなった父が死亡した年の所得について、先日、準確定申告を済ませて所得税を納付しました。
現在、父の遺産について遺産分割協議の準備をしているのですが、どうやら相続税の申告が必要になりそうです。

準確定申告によって納めた所得税が、生前の父の収入に対して納めるべきものであるとすれば、納めた所得税額は相続税の課税対象から控除されるような気がするのですが、どうなのでしょうか。

 

【Answer】

そのとおりです。準確定申告によって納付した所得税額は、相続財産から控除できます。

 

【Reference】

第1 相続財産から控除できる債務とは

1.原則

借入金や未払い金などのことを『債務』といいます。
日本の相続制度では、プラスの相続財産だけでなく、債務のようなマイナスの相続財産も相続人に承継されます(Q015)。

そうなると、相続税を計算するうえでも、その点を考慮しなければ釣り合わなくなります。
そこで、相続人等が相続や遺贈で取得した財産の価額から、負担する債務の額を控除することになっています。これが『債務控除』です。

一般的な相続の場合、相続財産から控除できる債務や葬式費用の範囲は下記の2つです(相続税法13条)。

(a)被相続人の債務で相続開始時において存在するもの(公租公課を含む。)
(b)被相続人の葬儀に係る費用

今回は(a)の相続債務について触れます。

ご参考:Q016 ローンなどの金銭債務は遺産分割協議で分けられる?

 

2.未納の税金(公租公課)

被相続人の死亡の時点で納めなければならないことが確定している税(公租公課)は、相続財産から控除されます。
さらに、被相続人の死亡後に相続人が納付したり徴収されたりすることとなった被相続人の公租公課も、控除対象になります(相続税法14条2項、相続税法施行令3条)。

そのため、今回のご質問のように、被相続人の死亡した年の所得について行う準確定申告によって納付する所得税は、相続税の債務控除の対象になります。

また、住民税や固定資産税・自動車税等は、1月1日時点(賦課期日という)での住民登録がある方や所有者を対象として課せられますので、納税義務者がその後に死亡して相続が発生した場合、その年の住民税等は、未納の公租公課として相続税の債務控除の対象になりますのでご注意ください。

 

3.金額がはっきりしない被相続人の債務は?

相続開始時において存在する被相続人の債務は控除できますが、それは確実と認められるものに限ります(相続税法14条1項)。

ただし、債務が確実かどうかについては、必ずしも書面の証拠は必要ありません。
また、債務の金額が確定していない場合には、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額についてだけ控除することができます(相続税基本通達14-1)

 

4.連帯債務について

連帯債務とは、たとえば、1,000万円の連帯債務をAとBの2名が負っていたとします。
この場合、債権者はAにもBにも1,000万円全額を請求することができ、AまたはBのどちらかが1,000万円支払えば債務は消滅します。
ここでAが1,000万円支払った場合、AはBに一定の金額を支払うよう求めることができ、これを『負担部分』と言います。負担部分は、AとBの間で取り決めが無ければ平等の割合になりますので、AはBに対し「1,000万円払っておいたから、君の負担部分である500万円をよこしなさい」と言えるわけです(『求償』と言います)。

もしも相続財産に連帯債務がある場合、まずはこの『負担部分』が債務控除の対象になります。
1,000万円の連帯債務をAとBの2名が負っていて、Aが死亡した場合には、相続人はAの負担部分500万円を相続財産から控除することができます。

しかし、Bに資力が無く支払い不能の状態で、Bに求償しても支払いを受ける見込みがなく、Aが事実上Bの負担部分をも負担しなければならないと認められる場合に限っては、Bの負担部分500万円についても控除することができます。

なお、連帯『債務』と言葉は似ていますが、連帯『保証』の場合は保証債務ですので、次の第2の1の取り扱いになります。

 

第2 相続財産から控除できない債務とは

1.保証債務

保証債務は、原則として控除できません。支払うことが確定していないからです。

ただし、主たる債務者が弁済不能であるために保証債務者が代わって債務を履行し、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額については控除することができます(同通達14-3)

ご参考:Q018 保証人の立場は相続されるのか(保証債務と相続)

 

2.消滅時効の完成した債務

相続開始時点(被相続人の死亡時点)で、すでに消滅時効の完成(時効期間経過)した債務は、控除できません(同通達14-4)。
消滅時効が「完成」した債務については、債務者が時効を「援用」することによって消滅させることができるためです(民法145条)。債務者が死亡していればその相続人が時効を 援用します。

 

3.非課税財産を取得するための借入金や未払い金について

被相続人が生前に墓碑を買い入れ、その代金が未払いであるような場合の未払い金債務や、被相続人が生前に墓地や仏壇・仏具を購入するため、金銭を借りた場合の借入金債務については、相続税の債務控除の対象にはなりません(相続税法13条3項、相続税基本通達13-6)。
墓碑や墓地、仏壇・仏具が非課税財産(Q053)として課税されないのに、それを購入するための借入金等が債務として控除されるのでは、おかしくなってしまうからです。

 

4.相続財産に関する費用

被相続人の死亡から、遺産分割協議等によって財産を引き継ぐ人が決まるまでの間、相続財産を維持・管理するにはさまざまな費用がかかります。たとえば、不動産なら固定資産税や火災保険料がかかります。

相続財産の維持・管理に関する費用は、法律上は遺産の中から支出することになっています(民法885条。ご参考 Q034 遺産の管理や清算のためにかかった諸費用はどうするか)。

しかし、この費用は、相続開始時に存在していた債務ではなく、相続が開始した後に発生するものです。そのため、相続財産の維持・管理に関する費用は、相続税の控除対象にはなりません(相続税基本通達13-2)。
遺言の執行に関する費用(民法1021条)についても同様に考えられます。

 

厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂
厂厂厂厂
厂厂厂  ©司法書士法人ひびき@埼玉八潮三郷
厂厂
厂               無断転載禁止

2014年2月18日 | カテゴリー :