Q018 保証人の立場は相続されるのか(保証債務と相続)

【Question】

父は生前、電子部品を製造する会社の代表取締役でした。
新しい製造ラインを構築するため、3年前に会社が銀行から5,000万円を借り入れ、代表取締役であった父がその連帯保証人 になっていたのですが、その後まもなく体調不良のため代表取締役を辞任し、昨年亡くなりました。相続人は私と弟の2名です。
今のところ新社長による会社経営は順調で、借入金の返済も滞りないようです。
そこで質問ですが、
1)この保証債務は、相続税の計算上債務控除できますか?
2)もしも会社の返済が滞った場合、この連帯保証債務はどうなりますか?

【Answer】

1)原則として、保証債務の額は相続税を計算するうえで債務控除することはできません。
2)ご質問のような連帯保証債務は相続されます。連帯保証債務については相続分に従って債務を相続し、その債務の範囲内で債権者に対し連帯保証債務を負うことになります。つまり、ご兄弟それぞれが2,500万円ずつ連帯保証債務を相続し、その範囲で債権者に対し連帯保証人となります。

 

【Reference】

ひとことで保証債務と言っても、内容はさまざまです。
相続とはプラスの財産もマイナスの財産もいっさいがっさい受け継ぐことですので、一般的には保証債務も相続の対象になるのですが、身元保証や根保証については例外があります。
ここでは、これらについてひととおり説明した後、最後に少しだけ税のことについて触れます。

一般の保証債務・連帯保証債務

他人の特定の債務(借入金など)について保証人になる(=保証債務を負う)と、もしも本来の債務者が返済できなくなれば代わりに支払わなければなりません。
これが”連帯保証人”になると、連帯保証人は「先に本来の債務者に請求して下さい」と債権者に求めることができないなど、さらに責任が重くなるのですが、現実の世界では保証人を立てる場合はこちらの連帯保証である場合がほとんどです。

一般の会社が金融機関から融資を受ける際には、代表取締役が連帯保証しているケースが大半です。

一般の保証人でも連帯保証人でも、代わりに返済した部分は本来の債務者に請求できます(求償)。
けれども本来の債務者が返済できないからこそ債権者は保証人に支払いを求めたわけですから、現実的には回収は困難です。

さて、このように法律上とても重い保証人・連帯保証人の地位は、相続によって消えることはなく、原則どおり相続されます。保証人になりたくなければ家庭裁判所で相続放棄の手続きをとるほかありません。

相続人が2名以上いる場合には、保証債務は法定相続分によって分割して承継されます。
連帯保証債務も同様ですが、相続した保証債務の範囲内で債権者に対し連帯保証債務を負うことになります。

身元保証の場合

身元保証とは、ある人が会社に勤める際に、その人の行為によって雇い主が受けた損害について代わりに賠償をする約束のことで、いわば将来の債務の保証ともいえます。

このような身元保証の契約は、もしも雇われた人が会社に大損害を与えるようなことがあれば、身元保証人が支払う金額はとても高額になってしまうかもしれません。その意味では、雇われた人と身元保証人の間に強い信頼関係がないと成り立たない契約であると言えます。
そこで、過去の裁判例では、身元保証人の地位は亡くなった身元保証人に専属するもので、相続の対象にはならないとされています。

ただし、雇われた人が会社に損害を与えた後に身元保証人が死亡した場合には、すでに発生した損害賠償債務を保証する立場になっていますから、一般の保証債務と同様に相続人が引き継ぐことになります。

賃借人の保証人の場合

アパートを借りるようなときには、ほとんど保証人を求められます。
借り主が賃料を支払わなかったり、借り主の行為によってアパートに損害を与えた場合に、代わりに保証人に賠償してもらうためです。

身元保証の場合と異なり、こちらの保証人が負うことになる債務がとんでもなく高額になるとは考えにくいです。そのため賃借人の保証人の地位は原則どおり相続によって相続人に引き継がれます。

なお、最初にアパートを借りる契約をするときには保証人を求められることが多いですが、その後の更新契約のときには特に何も言われないことが多いものです。しかし、このような場合にも、特殊な事情がない限り、契約更新後も賃借人の保証人としての責任は免れないとされています(平成9年11月13日最高裁判決)ので、保証人になっていた父親が更新契約のときには判を押していなくても、相続人は保証債務を負います。

根保証の場合

根保証とは、継続的な取引関係から将来にわたって生じる不特定で増減する債務を、まとめて保証する契約です。

以前は、保証人が債務者の借り入れを金額無制限・期間無制限で保証する『包括根保証』契約も有効でしたが、商工ローン業者がこれを悪用し、社長が国会に呼ばれ大きな社会問題となりました。
そこで民法465条の2以下を追加して『貸金等根保証契約』として一定の制限をする改正が平成17年から施行され、包括根保証の禁止・限定根保証の原則化が実現しました。

この改正により、一般的な金融機関との間の取引については、ほとんどが新しい『貸金等根保証契約』による制限を受けることになりました。
その主な特徴は、
(1)書面によって極度額の定めをしないと契約自体が無効になる(金額の制限)
(2)契約で定めた5年以内(定めがなければ3年)の期間に発生した債務しか保証の範囲にしない(期間の制限)
(3)主たる債務者または保証人が死亡したら、それ以降に発生した債務は保証の範囲外とする
というものです。

もしも根保証していた方が亡くなって相続が発生した場合には、根保証人としての地位そのものが相続されるのではなく、相続開始時点で現存する債務についてだけ相続人は保証責任を負うにとどまり、相続発生後に実行された融資等については相続人は保証債務を負いません。この点が通常の相続の考え方と違います。

ただし、改正民法の『貸金等根保証契約』は、
・債務の範囲に金銭の貸渡しまたは手形割引による債務である場合で、かつ
・保証人が個人である場合
に限定されているので、このような取引に含まれないものには適用がなく包括根保証も禁止されていません。
『貸金等根保証契約』に含まれない根保証契約については、原則どおり保証人の地位を相続人が承継することになります。

保証債務と相続税

保証債務については、相続債務として控除することはできません。
なぜなら、保証債務を履行した場合には、本来の債務者に求償できるというタテマエになっているので、債務として確定できないためです。
ただし、本来の債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、本来の債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除することができます(相続税基本通達14条の3)。

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