Q016 ローンなどの金銭債務は遺産分割協議で分けられる?

【Question】

父が2年前に亡くなりました。相続人は母、兄、私の3人です。
父の遺産は自宅の土地・建物(時価4,000万円)、アパートの土地・建物(時価8,000万円)、預貯金(2,000万円)がありましたが、アパート建築資金として銀行から借りたローンが6,000万円残っていました。
そこで、3人で遺産分割の話し合いをし、次のように遺産を分割して協議書に署名捺印しました。

母:自宅の土地・建物(時価4,000万円)
兄:アパートの土地・建物(時価8,000万円)、アパートローン(6,000万円)
私:預貯金(2,000万円)

ところが最近になって銀行から私に通知書が届き、アパートローンのうち1,500万円を支払うように求められました。
兄に確認したところ、どうやらほとんどローンの返済をしていないようです。
兄はアパートローンを引き受けることを条件にアパートの土地・建物を相続したのですから、私に支払い義務はないと思うのですが…

 

【Answer】

債務は遺産分割の対象にならないので、銀行からの請求には応じなければなりません。

遺産分割協議書でお兄様がアパートローンを引き受けることになっていても、その約束は相続人の間で有効なだけであり、銀行に対してその内容を主張することはできないのです。

このような約束を銀行に認めてもらうには、債権者である銀行も交えて、お兄様がローンを引き受けてお母様とあなたがローンから離脱する契約(免責的債務引き受け契約)を締結する必要があります。

『免責的債務引き受け契約』を銀行との間で締結していなければ、お父様が遺したローンについては法定相続分にしたがって分割した額を、各相続人が負担することになります。

そのため、銀行からの請求を拒むことはできませんが、あなたが銀行に支払った分は、遺産分割協議での約束に基づいてお兄様に求償することができます。

 

【Reference】

 

どうして債務は遺産分割の対象にならないの?

死亡により相続が開始すると、故人の債務は法律上当然に分割され、各共同相続人がその法定相続分に応じて承継するというのが一貫した判例の考え方です(詳しくは『借金も相続財産になるのか』をご覧ください)。

ご相談者のように特定の相続人が債務を引き受ける約束をしたり、法定相続分とは異なる割合で債務を相続する内容の遺産分割協議をしたりしても、債権者に対してはそれを主張することはできません

それはなぜなのでしょうか?

もしもこのような約束が債権者に対しても有効となってしまうとすれば、資力のない相続人に債務をすべて負担させ、その他の相続人がプラスの財産を相続することができてしまいます。それでは債権者はたまったものではないからです。

だからと言って、このような遺産分割協議が無効というわけではありません。遺産分割協議の中で誰かが債務を引き受けるという約束は、相続人の間では有効です。
そのため、債権者の取り立てに応じて債務を返済した相続人は、債務を引き受ける約束をした相続人に対して返してくれるように請求できます。これを『求償』といいます。

故人が多額のローンを残して亡くなった場合、そのローンを引き継ぐ相続人を決め、その代わりにその相続人がプラスの財産を多く相続することが通常です。

このような場合には債権者の承諾を得て、『免責的債務引き受け契約』を締結する必要があります。そうすれば、債権者が他の相続人に返済を求めることはできなくなります。
ただし、債務を引き受ける相続人に資力があるかどうか、債権者による審査が入ります。

 

昭和37年4月13日東京高等裁判所決定
「遺産分割の対象となるものは、被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によって分配せられるものではない」

 

住宅ローンの場合

住宅ローンの返済中に債務者が亡くなり、自宅不動産を相続することがあります。
もっとも住宅ローンの場合には、住宅ローン契約と同時に団体信用生命保険や生命保険付きローンに加入しているケースが大半です。この場合には保険金が債権者に支払われるので、住宅ローンについては相続の問題にはなりません。

もしもこのような団体信用生命保険等に加入していなければ、ご相談者と同じようにローンは各相続人に引き継がれることになります。

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