Q130 相続登記の申請が2件以上になる場合とは

【Question】

(1)父の遺産として、A市とB市に単独所有の土地があり、どちらも私の名義にするために相続登記(名義変更)をします。A市の物件とB市の物件は、1回でまとめて登記申請できますか。

(2)C市にも父名義の土地建物があり、土地は父の単独所有で、建物は父母で共有になっていました。こちらは妹の名義にします。この土地建物は、1回でまとめて相続登記できますか。

 

【Answer】

(1)市区町村が違う場合でも、法務局(登記所)の管轄が同じであれば、一括して相続登記を申請できる可能性があります。管轄が違えばできません。

(2)法律の条文からすれば、一括して相続登記することはできませんが、一括して相続登記できるという有力な見解もあります。ただし、この見解は法務省による公式な登記先例ではなく、すべての法務局で通用するわけではありません。

 

【Reference】

2個以上の不動産について登記申請する場合、次のすべてが同一ならば、1回でまとめて申請することが認められています(不動産登記令4条)。これを一括申請といいます。

1)管轄登記所
2)登記の目的
3)登記原因およびその日付
4)当事者(申請人)・・・条文には明記されないが、当然とされる

これらがすべて同一ならば、物件が50個でも100個でも、一括申請できます。

登記申請の件数は、司法書士に支払う報酬に影響します。
当事務所では、できるだけ申請件数が少なくなるように配慮しています。

(なお、法律の世界では「土地」と「建物」は別の物と考え、原則として登記簿も別々になっています(敷地権付きマンションは例外)。そこで、単純に『家』の名義変更をするというケースでも、建物とその敷地の両方とも名義変更をするならば、一括申請できるかどうか検討する余地があるのです。)

 

事例1 市区町村が異なる場合

一括申請1

このように市区町村が異なる不動産については、他の条件をクリアしていたとしても、原則として一括して相続登記はできません。申請する先の法務局(登記所)が違うからです。
ただし、申請する登記所が同一ならば、一括してできます。法務局の統合が進んでいるので、ホームページで登記所の管轄を確認してみましょう。

 

事例2 申請人が異なる場合

一括申請2

この場合、建物については妻Yさん、敷地については子Zさんが申請人となって相続登記を行います。当事者(申請人)が異なる場合には一括申請できませんので、申請は2件になります。
建物を妻Yさんの単独所有、敷地を妻Yさんと子Zさんの共有にする場合も同じです。

 

事例3 共有持分の相続が混在する場合

一括申請3一括申請4

このように、申請人が同じでも、単独名義の物件と同時に『共有持分』を相続するというケースが少なくありません。
この場合は、不動産登記の申請のときに、『登記の目的』を「所有権移転」と「共有者X持分全部移転」とに分けます。すると、『登記の目的』が異なる場合は一括申請できませんから、申請が2件に分かれることになります。

ただし、専門家向けの雑誌の中で「一括申請できる」という見解が出されたことがあり、実際にこれが通用したケースもあります。しかし、この見解は公式な登記通達(先例)として出されたものではなく、すべての登記所で通用するものではありません。

このようなケースでは、法解釈の基本原則に戻って、条文の文理解釈により「一括申請できない」いうのが原則です(登記官と折衝する余地はありますが)。

 

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2014年10月22日 | カテゴリー :

Q048 絶対に相続税を支払いたくないのですが (相続税の納税義務者)

【Question】

今後、私に万一のことがあった場合でも、絶対に、子供たちに相続税を納めさせたくありません。
なにか良い方法はありませんか?

 

【Answer】

さまざまな相続税対策を活用して、相続財産の価格を基礎控除額以下に減らすことができれば、相続税を納める必要はなくなります。
しかし、2015年1月1日以降に生じた相続については基礎控除額を引き下げることがすでに決まっており、今後もさらに引き下げられるかもしれません。相続税対策に『絶対』はありません。

それでも絶対に相続税は納めたくない・・それには”相続税の納税義務者ではなくなってしまう”のが一番確実です。しかし・・・

 

【Reference】

タイトルを見て「何だこれは?」と思われたかもしれませんが、これはネタです。
もちろん、本当にこのようなご質問をいただいたわけではありません(笑)

初めに申し上げておきますが、この記事をお読みになっている時点ですでにお身内が亡くなっていて、あなたご自身が日本に住所がある相続人の1人であるならば、残念ですがここからの記事はまったく役に立ちません。ご注意ください!

 

ところで、2014年現在で世界一の借金国である日本国ですが、今後、個人所得や法人所得が飛躍的に増加し、それにともなって所得税・法人税の税収が大幅アップして、みごとに国の財政を立て直すという可能性は、ハイパーインフレでも引き起こさない限り、ほとんどないと言えるでしょう。
むしろ、国際競争力を高めるために、法人税率を下げようとする動きがあるくらいです。

そこで、政府はなんとか税収を確保しようと、消費税などの間接税の引き上げを狙っています。
さらに、ご存じのとおり、相続税などの資産に対する課税を強化する動きもますます強まっています。

富裕層の一部では、海外投資をして国外に資産を移すことによって、円通貨の信認低下や日本国の財政破綻から資産を防衛しようとする動きがあります(注1)。
国外に資産を移すことによって日本国による課税を回避したいという思惑があるのかもしれません。

対する国税当局は、富裕層が持つ海外資産の把握に力を入れています。罰則付きの国外財産調書制度(注2)が導入されたのは記憶に新しいところです。

海外に個人資産を隠すのは、しょせん『脱税』であり、犯罪です。
しかし、相続税法1条の3に定められている『相続税の納税義務者』でなくなれば、合法的に日本国に相続税を納める必要はなくなります。

 

相続税の納税義務者とは

日本の法律が適用になるケースでは、基本的に、(1)相続 (2)遺贈 (3)死因贈与 (4)相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した個人は、どのような人でも相続税の納税義務者となります。ただし一定の場合にはこれが制限されます(相続税基本通達1の3・1の4共-3)。

 

(1)居住無制限納税義務者
ある人が亡くなって相続・遺贈・死因贈与が生じ、亡くなった時点で日本国内に住所(注3)がある人が財産を引き継いだ場合は、日本国籍であろうとなかろうと、『居住無制限納税義務者』となります。
この場合には、取得した財産が国内にあっても国外にあっても、取得した財産の全部に対して相続税の納税義務を負います。

 

(2)非居住無制限納税義務者
ある人が亡くなって相続・遺贈・死因贈与が生じ、亡くなった時点で日本国内に住所がない人が財産を引き継いだ場合は、次の条件のすべてにあてはまるならば『非居住無制限納税義務者』となります。
(a)財産を引き継いだ人が、日本国籍を有している
(b)故人か、または財産を引き継いだ人のどちらかが、相続開始前5年以内に日本国内に住所を有したことがある
(a)(b)両方にあてはまる場合には、(1)と同様、取得した財産が国内にあっても国外にあっても、取得した財産の全部に対して相続税の納税義務を負います。

 

(3)制限納税義務者
・ある人が亡くなって相続・遺贈・死因贈与が生じ、亡くなった時点で日本国内に住所がなく日本国籍も有しない人が財産を引き継いだ場合には、『制限納税義務者』となります。
・ある人が亡くなって相続・遺贈・死因贈与が生じ、亡くなった時点で日本国内に住所がないが日本国籍は持っている人が財産を引き継いだ場合で、しかも故人と財産を引き継いだ人の両方とも相続開始前5年以内に日本国内に住所を有したことが無いならば、やはり『制限納税義務者』となります。

このような『制限納税義務者』に当てはまるならば、日本国内にある財産に対してだけ相続税の納税義務があります。

 

相続税を合法的に納めなくても良くなるには?

税法や通達の表現が非常に難解でわかりにくいですが、早い話が、相続税の納税義務者ではなくなりさえすれば、合法的に相続税を納めなくて良くなります。
それには、次のどちらかのどちらかのパターンしかありません。

パターン(1)
・財産を引き継ぐ予定の人が、日本国外に住所を移す
・加えて、財産を引き継ぐ予定の人が、日本国籍を失う(海外に帰化する)
・引き継ぐ財産は、海外の財産とする

パターン(2)
・財産を引き継ぐ予定の人が、日本国外に住所を移す。国籍は日本国籍のまま。
・引き継ぐ財産は、海外の財産とする
・亡くなる予定の人(?)は、日本国外に住所を移し、最後まで帰ってこない。5年間は健在でいて下さい。
・財産を引き継ぐ予定の人も、相続が発生するまで帰ってきてはいけません。

・・・さて、いかがでしょう?
日本人として生まれた私達が日本の国税当局の追及を合法的に免れるには、きわめてハードルが高いことがわかります。
以前はもう少しハードルが低かったのですが、国税当局が最近になってハードルを上げたのです。

それに、日本国籍を離脱してまで相続税を納めたくないのなら、スウェーデンのように相続税の制度が無い国に行かないと、意味がありませんね。

 

(注1)
海外投資をして国外に資産を移す場合、『為替リスク』『政治リスク』については良く知られている。しかし、資産の持ち主である個人が死亡した場合の『相続リスク』についてはあまり触れられることが無い。
海外資産で相続が発生すれば、現地の言語はもちろん、日本国内の法律・税法に関する知識と、現地の法律・税法に関する知識の両方が必要となる(「どちらの国の準拠法に従うか」などという簡単な問題ではないのが現実の世界だ)。これを専門家に任せるとなれば、相当なコストがかかることも覚悟しなければならない。遺族への負担も大きく、最悪の場合、投資を回収できなくなるおそれもある。
『相続リスク』は、いつか必ず発生する確率100%のリスクであるから、これに対するリスクヘッジを考えずに海外投資を行うのは危険きわまりない。それができないのならば、国内の証券会社が取り扱う海外の金融商品で我慢したほうが良い。
「海外投資をすれば、利益も上がって資産も安全」というささやきには、くれぐれも用心すべきである。

(注2)国外財産調書制度
12月31日現在で5,000万円を超える国外財産を有している人は、確定申告をしない人でも『国外財産調書』を翌年の3月15日までに提出することが義務づけられた。
2013年(平成25年)12月31日時点の国外資産が初めての対象になるため、2014年(平成26年)3月に最初の国外財産調書を提出することになる。
なお、初年度は罰則が無いが、2015年1月1日以降に提出すべき国外財産調書を出さなかったり、虚偽の記載をしたりすると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。

(注3)住所
相続税法における住所とは、生活の本拠のことをいう。生活の本拠がどこかは、客観的な事実で判定される(相続税基本通達1の3・1の4共-6)。住民票のような形式的なもので決まるわけではない。

 

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2014年1月10日 | カテゴリー :