【Question】
1年近く前に、兄が他界しています。
先週、ある消費者金融から私に、他界した兄が残した借金を支払ってほしいという内容の督促状が届きました。
びっくりして兄の子である甥に電話したところ、めぼしい遺産が無く多額の借金を残していたので、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしていたとのことでした。
私は兄の借金を肩代わりしないといけないのでしょうか。
【Answer】
あなたもすぐに家庭裁判所で相続放棄の手続きをすれば、借金を負わずに済みます。
なお、手続きをする裁判所は、甥っ子さんが手続きをした所と同じ家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)になります。遠方の場合には郵送でも手続きができますので、お近くの司法書士にご相談ください。
【Reference】
相続放棄の手続きと『熟慮期間』
ご相談者の事例のように遺産が借金しかない場合や、プラスの相続財産よりマイナスの相続財産が多い場合には、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所で『相続放棄』の手続きをし、これを受理する審判を得ることによって、その相続については初めから相続人とならなかったものとみなされ、支払い義務を免れることができます。
債権者に『相続放棄します』という内容証明を送っても効果はありません。必ず家庭裁判所の手続きが必要ですのでご注意ください。
相続放棄をするかしないかは、他に共同相続人がいたとしても、各自が自由に決めることができます。
そのため単独で手続きをすることができます。
相続放棄は相手方である債権者(本事例では消費者金融会社)に与える影響が大きいので、手続きをすることができる期間に制限があり、自己のために相続があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続を承認するのかそれとも相続放棄するのかを決めなければなりません(この3ヶ月の期間を『熟慮期間』とか『考慮期間』といいます)。
もし3ヶ月以内に決断できない事情があれば期間延長の申立てをする方法があり、また3ヶ月経過してしまっても事情によっては相続放棄を受理される可能性もあります。司法書士に相談してみてください。
注意点としては、相続放棄の手続きをする場合は、他の相続財産には手をつけないようにしてください。
相続放棄をする前に遺産の一部を処分(たとえば預金の解約や遺産の売却)すると相続を承認したことになり、相続放棄ができなくなります(法定単純承認、民法921条1項)。
相続放棄の効力
(1)相続放棄が認められると、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
たとえば、次のケースで考えてみましょう。
この場合、通常は配偶者に2分の1、長女と長男にそれぞれ4分の1の法定相続分があります。
ここで長女が相続放棄の手続きをしたら、相続開始時から配偶者と長男だけが相続人だったことになります。法定相続分は配偶者が2分の1、長男が2分の1になります。
また、長女と長男の両方が相続放棄の手続きをしたら、配偶者だけが相続人となるのではありません。相続開始時から子がいなかったものとみなされ、第2順位の相続人である故人の父母(直系尊属)が、配偶者とともに相続人となります。法定相続分は配偶者が3分の2、故人の父母(直系尊属)が3分の1です。(相続人・相続順位についてはQ003)。
(2)相続放棄をすると、初めから相続人でなかったとみなされるため、手続きをした人に子がいる場合でも代襲相続にはなりません(Q005)。
(3)『死亡保険金』『死亡退職金』『遺族年金』『香典』は、相続人固有の財産ですので、相続放棄しても受け取ることができます。
事例にあてはめてみると・・・
今回の事例では、お兄様が亡くなってから1年近く経過しています。
熟慮期間の3ヶ月はとうに過ぎているようにも見えます。それでも相続放棄をできるのでしょうか?
お兄様には子がいるので、弟であるご相談者の方は、そもそも相続人ではありませんでした。
第一順位の相続人(故人の子)全員が家庭裁判所で相続放棄をしたことによって、第三順位の相続人である兄弟姉妹が相続人に繰り上げ当選したと考えられます(第二順位の直系尊属はすでに死亡していたため)。
熟慮期間は、『自己のために相続があったことを知った時』からカウントされますから、ご相談者の熟慮期間は消費者金融からの督促状を受け取った日からスタートし、この日から3ヶ月以内に相続放棄の手続きをすればセーフです。
督促状を受け取ったのが先週ですから、まだ大丈夫です。
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