Q132 遺産としての土地はどうやって評価するのか

【Question】

母の遺産を、姉と私の2人で分割します。
相続人は私たち2人しかおらず、相続税もかからないので、なるべく等しくなるように分けようと話しています。
ただ、遺産の中に土地があります。土地の価格はどうやって求めればいいのでしょうか。

 

【Answer】

土地の価格については、実勢価格、公示価格、相続税評価額(路線価方式・倍率方式)、固定資産税評価額等、いろいろあります。

お二人で話し合いができるのであれば、これらの価格のうちどれかを使ってもかまいません。
また、これらを参考にして、お二人で話し合って決めていただいても結構です。

 

【Reference】

「遺産相続イコール路線価」という誤解

上のAnswerを見て、意外に思われたかもしれません。
「遺産相続イコール路線価」と誤解されている方が、大勢いらっしゃるので…

路線価が利用されるのは、相続”税”に関して、申告が必要かどうかの判定や税額の算出を行うために過ぎません。本来、遺産は”時価”で評価するのです。「いつの時点の時価なのか」いう点に違いはあっても、時価であるという点に争いはありません。

実は、相続”税”の法律でも、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により…」と規定されており(相続税法22条)、時価で評価することが明記されています。路線価を使いなさい、とは書かれていません。

そもそも路線価方式・倍率方式は、税務署の職員が仕事をしやすくなるように作られたものです。誰かが亡くなって相続が起きるたびに遺産の時価を調べていては、税務署の職員は大変です。基準がなければ、時価がいくらかをめぐって税務署と納税者との間でトラブルが続発するでしょう。そこで、税務署の職員がいろいろな財産を簡単かつ画一的に評価できるように、中央官庁(国税庁)が出したのが『財産評価基本通達』です。これは税務署の職員向けのマニュアルみたいなもので、その中で土地評価の指針として、路線価方式・倍率方式が示されているのです。

相続税申告で路線価方式等が使われることが多いのは、税務署が土地評価の指針として使っている以上、納税者にとって無難だからです。また、路線価方式で求めた価格は実際の取引価格を下回っていることが多く、相続税の納税者にとって有利だったという側面もあります(右肩上がりに地価が上昇していた時代は、特にそうでした)。

相続税の申告は、相続人による自己申告であり、相続人みずからが遺産を時価評価するのが『本来の』姿です。相続人が土地を時価評価した結果、それが路線価方式による評価額よりも低くても、税務署に対して合理的に説明できるかぎり、その時価で堂々と相続税申告をしてかまわないわけです。

あくまでも、遺産は時価で評価するのです。

 

時価は結局『合意』で決まる

故人が遺した財産の中に、土地のような「いくらであるかがはっきりしない財産」が含まれていたとしても、遺産総額が相続税の基礎控除額を大幅に下回ることが確実であり、かつ、ある一人の相続人がすべての遺産を承継するような場合には、面倒な財産評価を行う実益は、ほとんどありません。

しかし、上記Questionのように、二人以上の相続人が遺産をあるていど公平にわけようとするケースでは、相続税の申告があるとないとにかかわらず、「いくらであるかがはっきりしない財産」を、何らかの形で時価評価する必要がでてきます。
それでは、どのように時価を求めるのでしょうか?

土地について言えば、不動産業者に査定してもらう、ということがまず頭に浮かびます。『時価』というコトバからすれば、不動産市場の取引価格がもっともイメージに近いからです(実際、このように実勢価格を基準として、公示価格等を参考にしながら時価を算定するのが本来の姿です)。

しかし、この方法にはいくつか問題があります。
まず、実際に売りに出さないことには、査定額が適切なのかどうか検証できません。査定額が2,000万円であっても、実際には1,500万円でしか売れないかもしれません。
また、売却の予定がないならば、査定額で評価することが適切なのか、という点も問題です。
加えて、そもそも売却の意思もないならば、不動産業者に査定を依頼しずらいという難点もあります。不動産業者は売買を成立させて手数料を得るのですから、売る気もない客など、内心は迷惑に思われているかもしれません。

裁判によらず話し合いによって遺産分割を成立させようとするならば、相続人全員が合意した価格をもって『時価』と考えるしかありません。土地の場合、査定額でも路線価でも固定資産税評価額でも、合意さえ整えばそれで行くほかなく、合意できなければ裁判手続きしか道はないのです。。

では、「不動産鑑定士」という専門家に鑑定料を支払って、鑑定評価額を出してもらったらどうでしょうか。
不動産鑑定士は国家資格者ですから、その鑑定評価は税務署も裁判所も尊重します。
しかし、遺産分割協議の段階では、相続人の一人が「その鑑定評価額は安すぎる」と言い出せば、やはり話し合いはまとまりません。
この場合でも、結局は相続人全員が鑑定評価額を採用することに『合意』しなければ、土地の価格は決まらない、と言う点では同じなのです(もっとも、鑑定評価額に論理的な反論をするのは難しいと思いますが)。

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Q111 故人の預金口座の取引経過は、相続人の1人から開示請求できるか

【Question】

実家の父が亡くなり、一番上の兄が遺産を管理しています。
その兄から、遺産のうち預金については、A銀行・B銀行・C信用金庫の3行に口座があると聞きました。しかし私の記憶では、D銀行とも取引があったはずです。

父がD銀行に口座を持っていたかどうか、兄が調べようとしない場合には、兄や他のきょうだいの協力なしに、私一人でD銀行に照会することはできますか。

 

【Answer】

預金について、残高証明の請求や取引経過の開示請求については、共同相続人の1人からでも可能です。
これについては最高裁の判決もありますので、今では相続人全員で請求するように指示されることは少ないと思いますが、万が一そのようなことを窓口で言われても、あきらめることはありません。どうしても埒が明かなければ、専門家にご相談ください。

 

【Reference】

預金口座の取引経過は相続人の1人から開示請求できる

遺産相続にあたっては、被相続人が有していた預貯金の残高や取引経過を正確に把握しないと、適切に処理できない場合があります。
たとえば、被相続人が亡くなる直前に、葬儀代等にあてるため近親者によって預金が引き出されることはよくありますし、特別受益にあたる生前贈与が確認できることもあります。

そのため、被相続人の預金口座等について、相続人から残高証明の請求取引経過の開示請求をする必要が生じることがあります。

これらは預金者のプライバシーに関わることなので、金融機関が開示に慎重であることは当然なのですが、相続が発生した場合に共同相続人の1人からこれらを請求できるのか、それとも共同相続人全員で請求する必要があるのか、以前は対応がわかれていました。

これについては平成21年1月22日最高裁判決で、「預金者の共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる」という結論が下され、一応の決着を見ました。

従いまして、相続人の1人からでも、戸籍謄本等によって被相続人の相続人であることを証明し、印鑑証明書や身分証明書によって本人確認ができれば、金融機関は請求に応じて残高証明や取引履歴を発行してくれるはずです。万一応じてくれない場合でも、専門の部署に問い合わせたり、専門家を通じて話をしたりすれば、まず開示してくれるでしょう。

ただし、開示請求の態様や、開示を求める対象範囲等によっては、預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用にあたるとされ、拒絶される場合があります。

 

参考 平成21年1月22日最高裁判決(民集 第63巻1号228頁)

「預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。」

 

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Q085 交通死亡事故の損害賠償金は相続されるの?

【Question】

夫を交通事故で亡くしました。おなかの中に子供がおり、将来が不安です。

これから損害賠償をどうするか考えますが、そもそもわからないところがあるので質問します。

(1)被害者である夫が死亡しているので、その損害賠償を請求する権利は私が相続することになるのでしょうか。
それとも、すでに受け取っている死亡保険金のように、私自身の固有の財産になるのでしょうか。

(2)損害賠償を請求する権利が相続されるものだとしたら、やはり相続税の対象になるのでしょうか。

(3)父親を失ったおなかの中の子供のために、慰謝料を請求できますか。

 

【Answer】

(1)死亡事故による損害賠償請求権には、相続するものと、あなた自身に固有のものと、両方あります

まず、死亡した被害者自身が生きていたら請求するであろう損害の賠償については、相続の対象となります。
たとえば、次のようなものが考えられます。
治療費  ②死亡による逸失利益  ③死亡に対する慰謝料 など

この他、あなた自身も事故によって精神的に傷つけられていますから、
①あなた自身の固有の慰謝料
も、同時に請求する事ができます。

なお、交通事故については、専門の弁護士に相談してみることをおすすめします。保険会社の基準よりも大きい損害賠償を引き出せる可能性があります。

(2)死亡事故による損害賠償金には、相続税も所得税も課されません

(3)死亡事故のような「不法行為に基づく損害賠償請求権」では、胎児も生まれたものとみなされます(民法721条)。
したがって、おなかの中のお子様も亡くなった父親の損害賠償請求権を相続することはもちろん、胎児にも固有の慰謝料請求権があります。

ただし、胎児である今の時点では請求できません。生まれた後、法定代理人(母親)であるあなたが代わりに請求することになります。

 

【Reference】

不法行為に基づく損害賠償請求権は、相続財産

交通事故(人身事故)があった場合、その加害者は被害者に対し、原則として『不法行為責任』という責任を負います。

そして、被害者の方は、加害者に対して不法行為責任を追求して損害賠償を請求する権利を取得します。この権利のことを『不法行為に基づく損害賠償請求権』と呼んでいます。

この 『不法行為に基づく損害賠償請求権』は、被害者が生存していれば当然その被害者が請求します。
では、被害者が死亡してしまっている死亡事故の場合はどうなのかというと、死亡した被害者が『不法行為による損害賠償請求権』を取得し、それを相続人が相続するという考え方で、裁判所などの法律の実務に争いはありません(学者の世界ではいろいろとありますが)。

交通死亡事故で、遺族が請求できる損害賠償の内容は、次のようなものが考えられます。
治療費
葬儀関係の費用
③死亡による逸失利益・・・生きていれば得られたはずの将来の収入等のことです
④死亡に対する慰謝料・・・精神的損害に対する賠償金のことです。たとえ即死であっても、被害者自身が精神的損害を受けたものとして慰謝料を請求する権利が発生します。
⑤弁護士費用     など

なお、慰謝料とは精神的損害に対する賠償金ですから、被害者自身のものばかりではなく遺族固有の慰謝料もあわせて請求することができます。こちらは相続財産ではありません。

 

損害賠償金には相続税も所得税もかからない

被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません

いっぽう、前記のとおり損害賠償金には遺族の所得になる部分もあるわけですが、遺族に所得税はかかるのでしょうか?
結論からいえば、所得税もかかりません。非課税規定があるからです(所得税法9条1項17号など)。

『相続税』のほうは、損害賠償金がどうして非課税になるのか、何度条文・通達を読んでも根拠がわかりません。
いろいろと考えてみたのですが、死亡事故による損害賠償金は、前記のとおり「相続する部分」と「遺族固有の部分」があるものの、これを厳密に区分するのが困難であるという形式面の事情と、死亡事故の遺族に支払われる賠償金に税金を課すのは、やはり心情的に許されない、という実質面の事情とがあるからだと思われます。

ただし、損害賠償金を受け取ることが被害者の生存中に決まっていたのに、それを受け取らないうちに死亡してしまった場合には、その損害賠償金を受け取る権利が相続財産となって、相続税の対象となります。

 

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Q059 亡くなった後に振り込まれた年金は相続財産?(未支給年金)

【Question】

父が6月3日に亡くなりました。遺族年金等の遺族給付には該当しません。

年金事務所に年金受給権者死亡届を提出せずにいたら、6月15日になって、父の口座に年金が振り込まれてきました。

そこで、
(1)この年金は、相続財産として遺産分割の対象になりますか?
(2)この年金は、相続税の課税対象になりますか?

 

【Answer】

(1)6月15日に振り込まれた年金は、お父様が健在だった4、5月分の年金ですから、相続財産にあたるように誤解してしまいがちですが、結論的から言えば相続財産ではなく、各年金法所定の受取人固有の財産であり、遺産分割の対象になりません

なお、年金受給権者死亡届をこのまま提出しないでいれば、6、7月分の年金が8月15日に振り込まれてしまいます。お父様は6月3日までご存命でしたから6月分は受け取れますが、7月分以降は返さなければならなくなりますので、ご注意ください。

(2)結論からいえば、相続税の対象にはなりませんが、受取人の一時所得として所得税がかかります(翌年の確定申告で納付)

 

【Reference】

公的年金をもらっている人が亡くなったら

公的年金の受給者が亡くなった場合、年金事務所に「年金受給者死亡届」を提出して、年金の受給をストップします。
そうしないと故人の口座に年金が振り込まれ続け、後で返すハメになるからです。

ところでこの死亡届は、年金事務所にある様式では複写式になっており、「未支給年金請求届」を兼ねるようになっています。
さて、この『未支給年金』とは何でしょうか?

 

未支給年金とは

国民年金や厚生年金などの公的年金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の15日に受け取ります。
受け取る年金は『後払い』です。たとえば、6月15日に受け取る年金は、前月4月と前々月5月のあわせて2ヶ月分です。

今回のご相談者のお父様は6月3日に亡くなったということですから、一見すると「4、5月の時点では健在だったのだから、これはお父様の財産であり、相続財産である」と勘違いしそうになります。

しかし、あくまでも6月15日まで待たなければ、4月分と5月分の年金をもらう権利は発生しないのです。
6月15日の時点でお父様は亡くなっていますから、この2ヶ月分の年金をもらう権利は、支給されないまま宙に浮いてしまいます。ついでに言えば、6月分の年金をもらう権利も同じです(年金は、年金を受けていた方が亡くなられた月分まで支払われるので)。

このように年金が後払いであるため、年金を受給している人が亡くなると、「支給されていない年金を誰が受け取るか」という問題が必ず発生します。これが『未支給年金』の問題です。

 

未支給年金請求権は相続財産になるのか?

このような未支給年金については、請求できる人が法律(国民年金法、厚生年金保険法等)で決まっています

未支給年金を請求できるのは、年金を受けていた方が亡くなった当時、その方と生計を同じくしていた(注1)方で、次の方々です。
(1)配偶者
(2)子
(3)父母
(4)孫
(5)祖父母
(6)兄弟姉妹
未支給年金を受け取れる順位もこのとおりと定められています(同順位者複数ならば等分)。

上記のような規定がありながらも、亡くなられた方の未支給年金が相続財産として遺産分割の対象となるのかならないのか(遺産分割の対象になるのかならないのか)については、長らく議論されていました。
しかし、平成7年11月7日最高裁判決によって明確に相続性が否定され、未支給年金請求権は受取人固有の財産であるとされました(注2)。

そのため、遺産分割協議書で未支給年金を分割対象としているケースがありますが、現在では間違いです

(注1)共済年金では、生計同一という要件は無い
(注2)判決要旨「右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。」

 

故人の口座に支給されても『未支給年金』!?

年金受給者死亡届の提出が遅れ、被相続人の口座に年金が振り込まれてしまうことも珍しくありません。

これは、単に「未支給年金がたまたま支給されてしまった」というだけの話ですから、本来それを受け取る権利があるのは、あくまでも法律で決められている上記の順番の受取人です。相続財産ではなく、遺産分割の対象にもなりません
受取人ではない人がこれを引き出したならば、本来の受取人に返す義務があります。

 

未支給年金は相続税の対象にはならない。しかし!

未支給年金については明確に相続性が否定されました。
相続性が否定されても、死亡保険金のように受取人が相続や遺贈によって取得したものとみなされると相続税の対象になる可能性があります(税法上のみなし相続財産)が、相続税法上でもこれに対応する規定はなく、相続税が課されることはありません(国税庁ホームページ質疑応答:未支給の国民年金に係る相続税の課税関係)。

しかし、受取人個人の一時所得として、所得税の対象にはなります(所得税基本通達34-2)。

一時所得は年間50万円まで非課税であり、未支給年金単独で50万円を超えることは少ないと思われます。しかし、生命保険金の満期金を受け取る等、他に一時所得に該当する所得がある場合には、これらを合算して申告をしなければなりません。

 

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Q057 父が母に生命保険をかけていたが、父のほうが先に亡くなったら(生命保険に関する権利)

【Question】

母に万一の事があったときに備えて、父が母に生命保険をかけていました。
保険契約の内容は平成3年に加入した積立型終身保険で、母を被保険者とし、父が契約者かつ保険金受取人となっている生命保険で、保険料はずっと父が支払っていました。

ところが、先日、父が死亡してしまいました。遺言はありません。
母が死亡したわけではないので保険金はまったくおりていませんが、保険会社からは契約者を変更するように求められています。このような場合、誰が契約を引き継ぐかを決めるのは、遺産分割協議なのでしょうか。

 

【Answer】

はい。被保険者ではない保険契約者が先に死亡した場合、掛け捨てではない生命保険契約には財産的価値があるので相続財産にあたります。
したがって、遺言が無ければ、誰が引き継ぐのかは相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めることになります。
もちろん、相続税の計算の上でも課税対象になります。

 

【Reference】

生命保険の被保険者が亡くなった場合には、死亡保険金が支払われます。これは受取人固有の財産であって相続財産ではなく、遺産分割の対象ではありません。

いっぽう、受取人が生命保険の被保険者(上記の事例では『母』)よりも契約者(同じく『父』)が先に死亡した場合、保険金の支払事由が発生したわけではないので1円も受け取れません。

しかし、この生命保険契約には財産的価値があります(掛け捨て保険を除く)。
例えば、契約者はいつでも契約を解約して解約返戻金を受けとる権利を持っています。保険契約の内容によっては、満期保険金を受け取る権利がある場合もあります。もちろん、将来、保険金支払事由が発生すれば保険金を受けとる権利もあります。
このような生命保険契約にそなわる様々な権利のことをひっくるめて、『生命保険契約に関する権利』と呼びます(ずいぶんセンスのない呼び方ですが、昔からこうなっておりますので仕方ありません)。

契約者(保険料負担者)がなくなったときには、この『生命保険契約に関する権利』にも財産的価値がある以上、相続財産のひとつに違いはありません。従いまして遺産分割の対象となり、遺言がなければ相続人全員の話し合いで権利承継者を決めることになります。

相続税の計算をする場合も、これを”本来の相続財産”として課税対象にします。

生命保険に関する権利1

 

『生命保険契約に関する権利』はどうやって評価する?

さて、このような『生命保険契約に関する権利』も相続財産であり、相続税の対象になるならば、財産評価して価値を算出しなければなりません。では、どうやって価値を算出するのでしょうか。

答えは簡単です。契約者が亡くなった日時点の、解約返戻金の額で評価します。
これは、現在では相続税評価の場合も同じです(財産評価基本通達214条)。裏を返せば、解約返戻金の無い掛け捨て保険は評価対象になりません。

契約者はいつでも保険契約を解約して解約返戻金を受け取ることができるわけですから、「保険会社に貯金しているのと同じ」と考えることができるからです。

 

契約者と保険料負担者が違う場合

上記の例は、契約者と保険料負担者が同じ人(夫)の場合でした。

しかし、「保険契約は妻の名前で契約するけれども、保険料は夫の口座から引き落とし」というケースが多々あります。
つまり、契約者と保険料負担者が違う場合です。
生命保険に関する権利(みなし相続財産)

この場合、生命保険契約それ自体は受取人だけを変更すればよく、契約そのものに変動はありません。

しかし「税法」上は、相続税法3条1項3号のケースに該当することになり、1項本文の規定により、契約者(妻)が相続または遺贈によって生命保険契約に関する権利を取得したものとみなされて、解約返戻金相当額が相続税の対象になります(注1)。
なお、夫が負担していた保険料が一部だけなら、負担割合に応じた額になります。

いっぽう、「民法」的には、保険料の支払い時に保険料負担者と保険契約者との間で贈与契約が成立していると解釈できる場合を除き、夫の本来の相続財産に該当すると考える他にないのではないかと思います(私見です)。生命保険金を受け取る場合と異なり、原則として遺留分算定の基礎となると考えられます(これも私見です)。

(注1)考え方としては「保険料相当額が夫から妻に贈与されたものとみなして、保険料負担時に贈与税を課税する」という考え方もあるが、相続税法3条1項3号があることによって、税法上はこの考え方を採用していないと解される。

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Q035 お香典は遺産に含まれるの?

【Question】

父の葬儀で、長男である私が喪主を務めました。
参列者の方からいただいたお香典を葬儀費用にあてようと考えていましたが、きょうだいから「お香典は亡くなった父が頂いたものだから、遺産に含まれ、きょうだいで分けるのではないか」と言われました。葬儀費用の支払いをしなければならないので、どうすればいいか困っています。

 

【Answer】

香典は法的にも税務的にも喪主に贈与されたものと考えられています。遺産に入れ戻す必要はなく、したがって遺産分割の対象にする必要はありません。
なお、香典は喪主に贈与されたものですが、贈与税の非課税財産となっておりますので、原則として課税されません。

 

【Reference】

現在の日本では、仏式等の葬儀の際には、金銭で香典を霊前に供えることが多いと思います。 この香典は、法的には、被相続人の葬儀に関連する出費に充当する事を主たる目的として、葬儀の主宰者(喪主)に対してなされた贈与の性質を有する金銭で、遺産には属さないものと考えられています( 香典の本来の意味は故人に供物を捧げるということにありますが、これが金銭で行われるようになったのは、葬儀を行う家に対する経済的援助という意味を含むようになったからなのでしょう)。

そのため、香典は、香典返しはもちろんのこと葬儀費用そのものにあてることができ、むしろそうすることが当然、ということになります(注1)。

葬儀代を差し引いて残った香典がある場合には、儀式の主宰者(喪主)のものとなります。相続財産に入れ戻したり、相続人に分配したりする必要はありません。

反対に、香典等を葬儀費用に充当してもなお不足している場合や、そもそも金銭による香典をいただかない葬儀の場合に、その不足している葬儀費用を誰が負担するかについては、はっきりした決まりがありません。
葬儀の主宰者(喪主)が支払うとする見解や、まず遺産から支払うとする見解、相続人各自が負担するとする見解など様々です。この点については次のQ036で検討します。もっとも、執り行われた葬儀が身分不相応に費用をかけたような場合には、不足分は喪主が負担することになります。

香典は、葬儀の主宰者に対してなされた『贈与』ではありますが、贈与税の非課税財産とされています。 それは、上記のような意味がある以上、香典に課税するというのは社会通念に反するから、と説明されています。

ただし、贈与税が非課税とされるのは、あくまでも社会通念上適正な香典である場合です。香典というのが名目に過ぎず、その額が高額である場合には、贈与税の課税について検討する必要があるでしょう。

また、故人の勤務先から、勤続年数や死亡時の賃金に応じて『弔慰金』が支給された場合には、これは香典ではなく実質的には死亡退職金ですから、会社の内規に従って決められた受取人固有の財産です(Q013)ので、葬儀費用に充てることはできません。

 

(注1)以前、次のような相談を受けたことがあります。
「弟が、勤務先の人々から香典を集めてきたのだが、『自分で香典返しをするから』と言ってその香典を持ち帰ってしまった」というものです。これでは香典を葬儀費用に充当することができませんから、弟さんの主張はまったく擁護できるものではありません。

 

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Q022 借家権は相続されるか(公営住宅の場合)

【Question】

私は、夫の名前で借りた市営住宅に夫婦2人で25年にわたって居住していましたが、その夫が先日亡くなりました。
残された私も高齢なので今のまま住み続けたいのですが、立ち退きを求められるようなことはないのでしょうか。

 

【Answer】

市営住宅などの公営住宅法にもとづいて建てられている公営住宅については、入居者(借主)がお亡くなりになった場合には相続の対象にならず、その相続人が同じ住宅を使用する権利を当然に承継することはできません。
しかし、入居者がお亡くなりになった時に1年以上同居していた方は、収入条件をオーバーしていたり不正入居や家賃の滞納のような明け渡し事由に該当していない限り、事業主体の承認を受ければ引き続き住み続けることができるようになっています。
あなたの場合は、まず大丈夫ですよ。

 

【Reference】

公営住宅は、住宅に困っている所得の少ない方を対象として、安い賃料で住宅を提供することによって国民生活の安定と社会福祉の増進をはかることを目的とするもので、公営住宅法という法律や自治体の条例に規定があります。
(自治体の中には、比較的収入が高い層に賃貸住宅を提供しているところがありますが、こちらはここでいう『公営住宅』とは別物です)

公営住宅の入居者は法令によって決まっています。
そのため、入居者がお亡くなりになった場合には、公営住宅の使用権は被相続人の一身に専属するものと考えられ、相続の対象になりません(平成2年10月18日最高裁判決)。そのかわり、一定の条件を満たし、事業主体の承認を受ければ、住み続けることができるしくみになっています。

その一定の条件とは、次のすべての条件をクリアすることです(公営住宅法施行規則11条を簡単にしました)。

1)入居者との同居期間が1年以上あること
2)収入が一定の金額を超えないこと
3)不正入居でないこと
4)家賃を3ヶ月以上滞納していないこと
5)住宅や施設を故意に破壊していないこと
6)公営住宅法27条の義務(無断転貸の禁止など)や条例違反がないこと

なお、病気などの特別な事情があれば、これらの条件を満たしていない場合でも承認されることがあるようです(施行規則10条2項)。

 

-参考判例-
平成2年10月18日最高裁判所第一小法廷判決
「公営住宅法は 、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより 、 国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって ( 一条) 、 そのために、 公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し( 一七条) 、 政令の定める選考基準に従い 、 条例で定めるところにより、 公正な方法で選考して 、入居者を決定しなければならないものとした上( 一八条 ) 、 さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には 、 その入居年数に応じて 、 入居者については 、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨 ( 二一条の二第一項) 、事業主体の長については 、 当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨 ( 二一条の三第一項 )を規定しているのである 。 以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば 、入居者が死亡した場合には、 その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである。」

 

-参考条文-
・公営住宅法27条6項
公営住宅の入居者が死亡し、又は退去した場合において、その死亡時又は退去時に当該入居者と同居していた者は、国土交通省令で定めるところにより、事業主体の承認を受けて、引き続き、当該公営住宅に居住することができる。

・公営住宅法施行規則11条
事業主体は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、法第27条第6項 の規定による承認をしてはならない。

一  当該承認を受けようとする者が入居者と同居していた期間が一年に満たない場合(当該承認を受けようとする者が当該入居者の入居時から引き続き同居している親族(婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者その他婚姻の予約者を含む。)である場合を除く。)
二  当該承認を受けようとする者に係る当該承認の後における収入が令第9条第1項 に規定する金額を超える場合
三  当該入居者が法第32条第1項第1号 から第1号 までのいずれかに該当する者であつた場合
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Q021 借家権は相続されるか(民間アパートの場合)

【Question】

母が亡くなりました。相続人は兄と私の2人です。
私は母の名義で借りた民間アパートに、母と2人で同居していました。
できればこのまま今のアパートに住み続けたいのですが、再契約しないと住み続けられないのでしょうか?

 

【Answer】

亡くなられたお母様が借りていたのは民間アパートですから、相続人が賃貸借契約の借主の地位を相続しますので、今までどおり住み続けることができます。
住み続けるにあたって、家主さんや管理会社の承諾は必要ありません。
 家主さんから『再契約』『契約の更新』『名義変更』などの名目で金銭の支払いを求められても、それに応じる必要はありません。ただし必要な届出は済ませておきましょう。

 

【Reference】

民間アパートの場合、アパートを借りる代わりに家主さんに賃料を支払っているので、『賃貸借契約』の借主の地位を相続できるかどうかという点がポイントになります。
もしも家賃の支払いがないか、または家賃が非常に低額な場合には、『使用貸借契約』の問題となり、結論が逆転します。

賃貸借契約の場合

家賃を支払う代わりに一般のアパートを借りる場合、賃貸人(家主)と賃借人との間で賃貸借契約を締結します。

相続が発生すると、相続人は、被相続人の一身に専属する権利を除いて被相続人の権利義務いっさいをそのまま承継します。
アパートを借りる権利(=借家権)も被相続人の財産であり相続の対象となりますので、何ら手続きをしなくても相続人が承継します。
アパートの使用目的が居住用でも事業用でも同じです。

相続人は被相続人の権利義務いっさいをそのまま承継しますので、借家権を第三者に譲渡・転貸するわけではありませんから、家主さんの承諾は必要ありません。

遺産分割が終わるまでの間は、借家権は相続人の間で共有(準共有)することになり、相続人全員が相続分に応じてアパートを使用する権利がありますので、ご相談者はお住まいのアパートに住み続けることが可能です。 もちろん遺産分割が成立すれば、借家権を相続した相続人が単独でアパートを使用することができます。

よくある話として、借家の相続人に対し家主さんから再契約を求められたり、『名義変更料』『更新料』などの名目で金銭を請求されたりすることがあります。 これは法律的にはまったく根拠がありませんので、請求に応じる必要はありません。応じなくても違法ではありません。

もちろん、家賃はきちんと払わなければ家主さんから契約を解除され、アパートを明け渡さなければなくなってしまいます。 遺産分割協議が成立するまでは相続人各自が賃料全額を支払う義務があります。

なお、家賃を払っているといっても、その家賃が非常に低額で固定資産税に相当する額・建物維持費の程度であれば、それは後で解説する『使用貸借契約』と考えられ、結論は正反対になります。 使用貸借による借主は借用物の通常の必要費を負担するものとされており(民法595条1項)、その場合にはアパートについて固定資産税に相当する額程度は借主が負担するのが通常であるからです。 これは名目ではなく実質で判断しますので、家賃として払っているけれどもその額が固定資産税の額程度ならば、それは賃貸借ではなく使用貸借として扱われます。

使用貸借契約の場合

親族から住居を借りているような場合では、賃料を支払っていなかったり、支払っていてもごくわずかであったりするケースがあります。このようにほとんど無償で借りているような場合の契約を『使用貸借契約』といいます。

使用貸借契約は、貸主と借主の特別な関係によって成立する契約ですので、借主の一身に専属ずる権利と考えられており、相続の対象となりません。借主の死亡によって当然に契約が終了してしまいます。

まずは家主さんに今までどおり使用貸借させてもらえるよう交渉し、それが受け入れられなければ賃貸借契約に切り替えてもらうか、または転居先が決まるまで待ってもらうようにお願いするしかありません。

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Q020 借地は相続できるか

【Question】

先月、夫が亡くなりました。相続人は妻である私・長男・長女の3人です。
夫の遺産は自宅の建物だけで、土地は借地です。
この家に済んでいるのは私一人だけですが、私は今までどおりこの家に住むことはできますか。

 

【Answer】

まず、借地が『賃貸借契約』の場合(相応の地代を払っている場合)には、今までどおり住み続けることができます。
地主さんの承諾は必要ありません。

注意点としては、借地が賃貸借契約の場合には借地権にも財産的価値があり、その価値が高いこともありますので、遺産分割で問題になることがあるという点です。
遺産分割が終わったら、建物について相続登記(名義変更)をします。賃借権も登記されている場合には登記が必要です。

もしも、借地が『使用貸借契約』の場合(地代を払っていない場合)には、地主さんから建物の撤去・土地の明け渡しを要求されるかもしれません。
使用貸借契約では地主さんから明け渡しを請求されたら住み続けることはできませんが、交渉の余地はあるかもしれません。

なお、賃貸借契約でも、地代が非常に低く固定資産税の額程度の場合には、実質的には使用貸借契約と言えますので、明け渡しに応じなければならないこともあります。

 

【Reference】

借地の借主が亡くなった場合には、地主さんに対する地代の有無によって結論がまったく異なります。

賃貸借契約の場合

相続人は、被相続人の一身に専属する権利を除き、被相続人の権利義務いっさいをそのまま承継します。
借地権(賃借権・地上権)も被相続人の財産であり相続の対象となりますので、何ら手続きをしなくても相続人が承継します。
借地の使用目的が居住用でも事業用でも同じです。

相続人は被相続人の権利義務いっさいをそのまま承継しますので、借地権を第三者に譲渡するわけではありませんから、地主さんの承諾は必要ありません

遺産分割が終わるまでの間は、借地権は相続人の間で共有(準共有)することになり、相続人全員が相続分に応じて借地を使用する権利がありますので、ご相談者は自宅に住み続けることが可能です。
もちろん遺産分割が成立すれば、借地権を相続した相続人が単独で借地を使用することができます。

よくある話として、借地の相続人に対し地主さんから『名義変更料』『更新料』などの名目で金銭を請求されることがあります。
これは法律的にはまったく根拠がありませんので、請求に応じる必要はありません。応じなくても違法ではありません。

もちろん、地代はきちんと払わなければ地主さんから契約を解除され、土地を明け渡さなければなくなってしまいます。
遺産分割協議が成立するまでは相続人各自が賃料全額を支払う義務があります。

なお、地代を払っているといっても、その地代が非常に低額で固定資産税の額程度であれば、それは後で解説する『使用貸借契約』と考えられ、結論は正反対になります。
使用貸借による借主は借用物の通常の必要費を負担するものとされており(民法595条1項)、その土地の固定資産税は借主が負担するのが通常であるからです。 これは名目ではなく実質で判断しますので、地代として払っているけれどもその額が固定資産税の額程度ならばそれは賃貸借ではなく使用貸借として扱われます。

借地権の遺産分割

注意点としては、借地上の建物が古くほとんど価値がない場合でも、借地権は意外と財産的価値が高いという点です。
借地権の価額は、土地の更地価額の50~70%で評価されるため、遺産分割の際に問題になることがあるのです。

ご相談者のように借地上の建物を利用したい相続人がいる場合で、相続人全員による遺産分割がすんなりとまとまらなければ、次のような方法で遺産分割協議を成立させていくことが考えられます。

1)建物と借地権の現物を取得する相続人が、代わりに法定相続分を超える部分の価額に相当する金銭を他の相続人に支払う(代償分割)

2)地主さんや第三者に建物と借地権を買い取ってもらって、その代金を相続人で分ける(換価分割)

使用貸借契約の場合

土地を無償で借りているような場合を『使用貸借契約』といいます。

使用貸借契約は、貸主と借主の特別な関係によって成立する契約ですので、借主の一身に専属ずる権利と考えられており、相続の対象となりません。借主の死亡によって当然に契約が終了してしまいます。

そのため、地主さんから明け渡しを請求された場合には、それに応じなければならなくなります。 しかも、地主さんは借主に対して建物を解体した上での土地明け渡しを請求できますので、相続人が解体費用を負担しなければならなくなります。

そのため、まずは地主さんに今までどおり使用貸借させてもらえるよう交渉し、それが受け入れられなければ賃貸借契約に切り替えてもらうか、または転居する代わりに建物解体費用を負担してもらうかを交渉していくことになるでしょう。

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Q019 墓地や位牌はどのように相続するか(祭祀の承継)

【Question】

父が昨年亡くなりました。相続人は私と、私の姉の2人です。
私は30年前就職のため上京し、今も都内に住んでいますが、姉は地元で結婚し、今も実家の近くに住んでいます。
私は今後も地元に戻るつもりはないので、姉が遺産の大半を相続することに異論はないのですが、姉から、先祖代々の墓地や仏壇は、長男である私が引き継ぐべきではないかと言われて困っています。

 

【Answer】

お父様が、口頭でも書面でも、墓地や仏壇を誰に承継させるかを指定していればそれに従いますが、そのような指定がなければ相続とは無関係にその地方の慣習に従います。
あなたの地元にそのような慣習が残っていればあなたが墓地や仏壇を承継することになりますが、特に慣習がなければまずはごきょうだいで話し合い、それでも解決しなければ家庭裁判所の調停や審判で定めることになります。

 

【Reference】

家系図や仏壇・仏具、神棚・神具、墓地・墓石など、祖先の祭祀を行うために必要な財産のことを『祭祀財産』といいます。

ときおり非常に財産的価値が高いものが含まれることもありますが、祭祀財産は相続財産には含まれません。そのため、高額な祭祀財産を承継したからといって遺産分割のときに相続分が減らされることもありません(祭祀財産を承継するとなにかとコストがかかりますので、遺産分割協議でそれを考慮するかどうかは相続人間の話し合いによります)。
相続財産ではありませんから、祭祀財産を承継するのは相続人とは限りません。内縁の妻が承継することもあります。
また、仮に家庭裁判所で相続放棄の手続きを取ったとしても、これらの祭祀財産は引き継ぐ余地があります。

祭祀財産は、原則として相続税の課税対象にもなりません(非課税財産)。墓地や仏壇に相続税をかけることは国民感情として受け入れられないと考えられているからです。
ただし、これを逆手にとって純金製の豪華な位牌を作ったり、不必要に広大な墓地を購入したりしたような場合には、投資目的や相続税逃れの目的があると考えられますので相続税の課税対象になります。

 

祭祀承継者の決め方

祭祀財産は相続財産に含まれませんから、祭祀財産を承継する人(祭祀を主宰すべき者、祭祀承継者)は相続とは別の考え方で決めます。
誰が祭祀承継者になるかは、次の順番で決めます(民法897条)。
第1 被相続人の意思
第2 地方の慣習
第3 家庭裁判所の決定(調停など)

まず、被相続人の意思があれば、それを優先します。
これは書面でも口頭でも良く、もちろん遺言でも有効です。
余談ですが、遺言公正証書を作成する場合、祭祀の承継に関する事項を本文に入れてしまうと公証人手数料が11,000円余計にかかるので、それとなく付言事項に盛り込んでおくようなテクニックがあります。

被相続人の意思が明確ではない場合は、地方の慣習によって祭祀承継者を決め、そのような慣習もなく相続人間の意見もまとまらなければ、家庭裁判所に調停の申立てをすることができます。調停もまとまらない場合は家庭裁判所の審判で決まります。
祭祀財産の承継は、通常の遺産分割調停・審判と異なり相続とは別問題ですから、家庭裁判所で相続放棄の手続きを取っていたとしても調停手続きの当事者となります。

遺骨・遺体について

遺骨についても、判例は祭祀承継者に帰属するものとしています(平成元年7月18日最高裁判決)。遺骨や遺体は祭祀財産ではありませんが、それに準じるものとして考えられ、所有権は祭祀承継者に帰属することになります。

もっともこのような場合、『分骨』などの方法で解決することもあります。

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