Q104 ペットに遺産を残すには? (負担付遺贈等)

【Question】

私には子供がおらず、私が亡き後は、すべての遺産を弟が継ぐことになっています。

気がかりなのは、何よりもかわいい3匹の猫ちゃんです。
弟はマンション暮らしで、猫に興味がありません。

私が元気な間は、できるだけ猫ちゃんと一緒に暮らしたいと希望しています。
そして、私が亡き後はこの猫ちゃんに私の遺産を残して、誰かに可愛がってもらいたいと考えています。

何か良い方法はないでしょうか。

 

 

【Answer】

ペットなどの動物や植物は、財産を所有できません。

そのため、直接猫ちゃんに遺産を残すことはできませんが、信頼できる人に遺産をのこし、その代わりにペットの面倒を見てもらう方法があります。

その方法としては、

(1)「負担付遺贈」
(2)「負担付死因贈与契約」
(3)「信託」

という方法をあげることができます。

これらについて詳しくは下に解説しますが、方法よりも何よりも大切なことは、「万一の際にはあなたの期待にこたえ、確実に猫ちゃんの世話をしてくれる人を見つけておけるかどうか」にかかっています。

ペットの里親を探してくれる団体もありますが、里親さんがあなたの期待にこたえてくれる人かどうかわかりません。
また、このような団体はほとんどがボランティアです。できる限りボランティアの皆さんに負担はかけたくないところです。

ボランティア団体にお世話になる前に、まずは自力で猫ちゃんの面倒を見てくれる人を探してみるほうが、猫ちゃんたちにとって幸せだろうと思います。

そのうえで、方法を検討してみてはいかがでしょうか。

 

【Reference】

 飼い主さんからの相談は、意外と多い

「私の亡き後、ペットをどうすればいいでしょうか?」
というご相談をいただくことは、案外多いものです。つい先日も電話でお問い合わせをいただきました。

ペットは家族の一員だ、という表現があります。
しかし、家族と異なり、動物や植物は財産を所有できず、遺産をもらうことができません。
そこで、ペットに遺産を残すには、信頼できる人にペットの世話を頼み、代わりにその人に遺産を残しておくという方法が基本になります。

そこで、ペットに愛情を注いでくれる、信頼できる人を見つけることができるかどうかが大切になりますが、ここではそのような人が見つかったとして、それを実行に移す方法を検討してみます。

 

(1)負担付遺贈による方法

負担付遺贈とは、飼い主さん(遺贈者)が遺言書を作り、特定の人(受遺者)に遺産をわたす代わりに、条件としてペットの世話を負担してもらう方法です。
負担付遺贈によるメリットには、次のようなものが考えられます。

  1. 老いじたくとして最適
    遺言書なので、ペットに関する負担付遺贈のほかにも、土地建物や預貯金等の遺産を誰に承継させるかなど、さまざまな内容を盛り込むことができる。
  2. 次順位者を指定できる
    ペットの世話を約束してくれた人が先に亡くなってしまった場合等に備え、第2順位の受遺者を指定しておくことができる(予備的遺言)。

反面、デメリットとして、次のような点に注意が必要です。

  1. 遺贈は自由に放棄できてしまう
    遺言は、受遺者の承諾を受けることなく、遺言者の単独で作成できてしまうので、受遺者には遺贈を放棄する権利があります。ペットの世話をしたくないなら遺贈を放棄してしまえばよいので、負担付遺贈は確実性という点で若干劣ります。
    これを避けるには、信頼できる人に遺贈するということはもちろん、あらかじめ相手方の承諾を得ておくことが大切です。
  2. 遺留分に対する配慮が必要
    遺留分を主張することができる相続人が存在する場合、遺留分を侵害しない範囲で遺贈しないと、受遺者が遺産争いに巻き込まれてしまいます。
    (なお、次の「負担付死因贈与契約」や「信託」の方法を利用しても、遺留分に対する配慮が欠かせないという点では変わりません)
  3. 財産の多い方は相続税に注意
    相続財産が相続税の基礎控除を超える場合、相続税の問題が生じます(受遺者が法人でなく個人の場合)。
    受遺者にも相続税がかかりますので、注意が必要です。
    (この点も、次の「負担付死因贈与契約」や「信託」の方法を利用しても同じです)

なお、遺言の中で必ず遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
受遺者がお金だけ受け取ってペットの世話をしないような場合、遺言執行者から受遺者に対しペットの世話をするように請求できます。それでも受遺者が義務を果たさない場合には、家庭裁判所に遺贈の撤回を申し立てることができるので、より安心です。

 

(2)負担付死因贈与契約による方法

飼い主さんが、相手方との間で、ペットの世話をすることを条件として、自分が死亡したときには遺産の全部または一部を贈与するという約束(契約)をする方法です

(1)の負担付遺贈と異なり、お互いの間で『約束』があるという点に大きな違いがあります。約束ですので、一方的に変更・撤回することはできません。

(贈与する人(贈与者)が、贈与を受ける人(受贈者)にタダで財産をあげる約束の事を贈与契約といいますが、「贈与者が死亡したらあげる」という条件がついていると、これが死因贈与契約になります。
さらに、贈与者が受贈者と何らかの義務を果たしてもらう約束をつけると「負担付」となります。わかりにくいですね。)

負担付死因贈与契約によるメリットには、次のようなものが考えられます。

  1. 確実性が高い
    (1)の負担付遺贈と違い、贈与する人ともらう人との間に『約束』があるので、守ってもらえる可能性が高いといえます。
    この契約は口約束でも成立しますが、間違いを避けるためには契約書という形で書面を取り交わしておくべきであり、また相続人とのトラブルを避けるためにも公正証書にしておくことをおすすめします。

 

反面、デメリットとして、次のような点に注意が必要です。

  1. 相手方から必要以上に警戒される
    「契約書に署名捺印する」「公正証書を作る」というのは、普通の人は嫌がります。「そんなことするくらいならお断りします」と言われてしまうかもしれません。
  2. 遺留分に対する配慮が必要
    遺留分を主張することができる相続人が存在する場合、遺留分を侵害しない範囲で贈与しないと、受贈者(相手方)が遺産争いに巻き込まれてしまいます。
  3. 財産の多い方は相続税に注意
    相続財産が相続税の基礎控除を超える場合、相続税の問題が生じます。受遺者にも相続税が2割増しでかかりますので、注意が必要です。
    なお、名前は「死因贈与契約」でも、かかるのは贈与税ではなく相続税です。

なお、死因贈与契約には遺言の法律が適用されるので、(1)の遺言執行者に相当する死因贈与執行者を指定しておくことをおすすめします。
受贈者がお金だけ受け取ってペットの世話をしないような場合、執行者から受贈者に対しペットの世話をするように請求できます。それでも受贈者が義務を果たさない場合には、家庭裁判所に死因贈与の撤回を申し立てることができるので、より安心です。

 

(3)「信託」による方法

一部の司法書士・行政書士が、「ペット信託」という商標まで取って商品化しているようですが、結論から申し上げれば、お勧めしません。

かなり資産がある方やペットがたくさんいる方にはいいのかもしれませんが。

 

管理会社を設立して、信託契約書や遺言書を作る…etc
専門家にはわかる話でも、一般の方には理解しがたい複雑な話です。
古今東西、仕組みが複雑な商品が、良い商品とは限りません。

費用もかなり高額のようですし。

信託を設立したことで遺留分を侵害された相続人は、遺留分減殺請求権を行使できます。

 

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2014年6月25日 | カテゴリー :