【Question】
私の家族は妻と子3人です。遺産争いで家族の関係が悪くならないように、遺言書を作ることを検討しております。
遺言の中で、家族への遺産の配分の他に、ある福祉団体に現金を寄付したいと考えています。
このような場合には遺言執行者を決めておくとよいと聞いたのですが、どのような人を遺言執行者に指定すればいいのでしょうか。また、遺言執行者はどのような仕事をする人なのでしょうか。
【Answer】
ご相談者様の場合、相続人に対する遺産分割方法の指定と、福祉団体への遺贈(特定遺贈)とが、遺言の主な内容になると考えられます。
相続人以外の個人や団体への遺贈がある場合、相続人ではない第三者を遺言執行者に指定しておくことをおすすめします。なぜなら、第三者への遺贈は、相続人と利害関係が対立するからです。
相続人全員が協力して遺贈を執行してくれるならば、遺言執行者は必ずしも必要ありません。しかし、寄付(遺贈)の実行を確実にしたいなら、第三者を遺言執行者にするのが一番です。
遺言執行者になってくれそうな人には、あらかじめ就任を承諾してもらうことが大切です。あなたに万一の際、すみやかに遺言執行者の職務を果たしてもらうためです。
なお、このような遺言執行では法律的知識を要しますので、弁護士や司法書士を指定することが多いです。
【Reference】
遺言の執行とは
遺言の執行とは、遺言の効力が発生した後(つまり遺言者の死亡後)、その遺言の内容を実現する手続きのことです。
遺言事項 の中には、執行を必要としないものもありますが(たとえば「相続分の指定」)、執行を必要とするものも数多くあります(たとえば、「子の認知」「推定相続人の廃除や廃除の取消し」「特定遺贈」など)。
遺言執行者とは
上記のような遺言の執行をするために、特に選任された人のことを遺言執行者といいます。
遺言事項のうち、次の内容については、遺言執行者が必須になっています。これは、相続人が執行するのが適切ではないからです。
(1)子の認知(民法781条2項)
(2)推定相続人の廃除や廃除の取消し(民法893条、894条2項)
これ以外の内容(たとえば遺贈)については、必ずしも遺言執行者を必要としません。そこで遺言執行者がいない場合には、共同相続人全員が協力して遺言を執行することも可能です。しかし、遺言の内容は相続人が利害関係を有することが多く、なるべく遺言執行者によって執行されることが望ましいと言えます。
遺言執行者の選任・解任・辞任
1.遺言執行者の選任
(1)遺言による指定・指定の委託
遺言者は、遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項)。
遺言で遺言執行者として指定された人は、引き受けるかどうかは自由です。
ただし、相続人その他の利害関係人(受遺者や相続債権者等)は、遺言執行者を引き受けるかどうか、相当の期間を定めて催告することができ、期間内に返答しない場合には引き受けた(承諾した)ものとみなされます(民法1008条)。
(2)家庭裁判所による選任
次のような場合には、利害関係人の請求によって、家庭裁判所が遺言執行者を選任します。
(a)遺言執行者がいない場合
(例)
・遺言で指定された人が引き受けを拒絶した
・認知のように、遺言執行者が必要なのに指定されていない
(b)遺言執行者がなくなった場合
・死亡・解任・辞任など
(3)遺言執行者の資格
未成年者または破産者(復権していない者)は、遺言執行者になれません(民法1009条)。
それ以外には特に制限がありません。相続人のうちの一人でも良いです。
ただし、相続人間の関係が良くない場合や、受遺者と相続人とで利害関係が対立する場合には、相続人を遺言執行者に指定するのは避けたほうが無難です。
この場合、第三者として法律専門家(弁護士か司法書士)を遺言執行者に指定すると良いでしょう。
なお、遺言で遺言執行者を指定する場合には、遺言執行者が代理人を選任できるという条項を入れておくと便利です。
なぜかというと、 遺言執行者は遺言者や家庭裁判所から信任されて選ばれるので、誰かに遺言執行者の仕事を代わってほしいと思っても、基本的には許されません。
しかし、やむをえない事情があるか、あるいは遺言で許されていれば、これが可能になるのです(民法1016条)。これは、特に相続人の中の一人を遺言執行者に指定した場合に、非常に役に立ちます。
2.遺言執行者の解任
遺言執行者がその任務を怠ったとき、その他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができます。
遺言に不満がある相続人によって勝手に解任されるという心配はありません。
3.遺言執行者の辞任
遺言執行者を引き受けたら、病気などの正当な事由があって、さらに家庭裁判所の許可を得ないと辞任することはできません。
遺言執行者の地位
遺言執行者は、相続人の代理人とみなされます(民法1015条)。遺言者はすでに亡くなっているので、遺言者の代理人ではないのです。
しかし遺言の執行は、たとえば遺贈のように、相続人と利害が対立することが多いのが現実です。そこで、遺言の執行が円滑に進むように、遺言執行者には次のような強力な権限が与えられています。
・遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を与えられています(民法1012条1項)。
・相続人は、遺言執行者による遺言の執行を妨害する一切の行為をすることを禁止されます(民法1013条)。
遺言執行者の職務
1.財産目録の作成義務
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付する義務があります(民法1011条)。
遺言執行者の責任において、専門家(弁護士か司法書士)に目録作成を依頼することも可能です(これは履行補助者という考え方です)。
2.相続財産管理・執行
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
(a)相続財産の管理・執行
・遺言の内容が特定遺贈である場合には、預貯金の解約払い戻しや不動産の登記手続き、目的物の引渡し等をする義務があります。
・遺言の執行に関する訴訟では、遺言執行者が訴訟当事者になります。
・相続財産の管理については、民法の委任の規定が準用されており(民法1012条2項)、次のような義務を負い、権利を有します。
- 善良な管理者の注意義務もって、遺言執行の事務を処理する義務
- 相続人の請求があるときは、いつでも事務処理状況を報告し、事務処理終了後には遅滞なくその経過及び結果を報告する義務
- 遺言執行事務にあたって受け取った金銭その他の物を相続人に引き渡す義務、等
- 事務処理にあたって立て替えた費用等を請求する権利
(b)身分上の行為に関する遺言執行
・子の認知については、就任後10日以内に戸籍届出をします。
・相続人の廃除および廃除の取り消しについては、家庭裁判所に請求します。
遺言執行者の報酬
・遺言執行者の報酬は、 遺言中に定めがあれば、それに従います。
・遺言に記載がない場合には、相続人全員と遺言執行者との協議で決定します。
・協議で決まらないときは、相続財産の状況 その他の事情(事案の複雑さや執行に費やした時間・手間など)を考慮して、家庭裁判所に決めてもらうことができます (民法1018条)。
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