Q018 保証人の立場は相続されるのか(保証債務と相続)

【Question】

父は生前、電子部品を製造する会社の代表取締役でした。
新しい製造ラインを構築するため、3年前に会社が銀行から5,000万円を借り入れ、代表取締役であった父がその連帯保証人 になっていたのですが、その後まもなく体調不良のため代表取締役を辞任し、昨年亡くなりました。相続人は私と弟の2名です。
今のところ新社長による会社経営は順調で、借入金の返済も滞りないようです。
そこで質問ですが、
1)この保証債務は、相続税の計算上債務控除できますか?
2)もしも会社の返済が滞った場合、この連帯保証債務はどうなりますか?

【Answer】

1)原則として、保証債務の額は相続税を計算するうえで債務控除することはできません。
2)ご質問のような連帯保証債務は相続されます。連帯保証債務については相続分に従って債務を相続し、その債務の範囲内で債権者に対し連帯保証債務を負うことになります。つまり、ご兄弟それぞれが2,500万円ずつ連帯保証債務を相続し、その範囲で債権者に対し連帯保証人となります。

 

【Reference】

ひとことで保証債務と言っても、内容はさまざまです。
相続とはプラスの財産もマイナスの財産もいっさいがっさい受け継ぐことですので、一般的には保証債務も相続の対象になるのですが、身元保証や根保証については例外があります。
ここでは、これらについてひととおり説明した後、最後に少しだけ税のことについて触れます。

一般の保証債務・連帯保証債務

他人の特定の債務(借入金など)について保証人になる(=保証債務を負う)と、もしも本来の債務者が返済できなくなれば代わりに支払わなければなりません。
これが”連帯保証人”になると、連帯保証人は「先に本来の債務者に請求して下さい」と債権者に求めることができないなど、さらに責任が重くなるのですが、現実の世界では保証人を立てる場合はこちらの連帯保証である場合がほとんどです。

一般の会社が金融機関から融資を受ける際には、代表取締役が連帯保証しているケースが大半です。

一般の保証人でも連帯保証人でも、代わりに返済した部分は本来の債務者に請求できます(求償)。
けれども本来の債務者が返済できないからこそ債権者は保証人に支払いを求めたわけですから、現実的には回収は困難です。

さて、このように法律上とても重い保証人・連帯保証人の地位は、相続によって消えることはなく、原則どおり相続されます。保証人になりたくなければ家庭裁判所で相続放棄の手続きをとるほかありません。

相続人が2名以上いる場合には、保証債務は法定相続分によって分割して承継されます。
連帯保証債務も同様ですが、相続した保証債務の範囲内で債権者に対し連帯保証債務を負うことになります。

身元保証の場合

身元保証とは、ある人が会社に勤める際に、その人の行為によって雇い主が受けた損害について代わりに賠償をする約束のことで、いわば将来の債務の保証ともいえます。

このような身元保証の契約は、もしも雇われた人が会社に大損害を与えるようなことがあれば、身元保証人が支払う金額はとても高額になってしまうかもしれません。その意味では、雇われた人と身元保証人の間に強い信頼関係がないと成り立たない契約であると言えます。
そこで、過去の裁判例では、身元保証人の地位は亡くなった身元保証人に専属するもので、相続の対象にはならないとされています。

ただし、雇われた人が会社に損害を与えた後に身元保証人が死亡した場合には、すでに発生した損害賠償債務を保証する立場になっていますから、一般の保証債務と同様に相続人が引き継ぐことになります。

賃借人の保証人の場合

アパートを借りるようなときには、ほとんど保証人を求められます。
借り主が賃料を支払わなかったり、借り主の行為によってアパートに損害を与えた場合に、代わりに保証人に賠償してもらうためです。

身元保証の場合と異なり、こちらの保証人が負うことになる債務がとんでもなく高額になるとは考えにくいです。そのため賃借人の保証人の地位は原則どおり相続によって相続人に引き継がれます。

なお、最初にアパートを借りる契約をするときには保証人を求められることが多いですが、その後の更新契約のときには特に何も言われないことが多いものです。しかし、このような場合にも、特殊な事情がない限り、契約更新後も賃借人の保証人としての責任は免れないとされています(平成9年11月13日最高裁判決)ので、保証人になっていた父親が更新契約のときには判を押していなくても、相続人は保証債務を負います。

根保証の場合

根保証とは、継続的な取引関係から将来にわたって生じる不特定で増減する債務を、まとめて保証する契約です。

以前は、保証人が債務者の借り入れを金額無制限・期間無制限で保証する『包括根保証』契約も有効でしたが、商工ローン業者がこれを悪用し、社長が国会に呼ばれ大きな社会問題となりました。
そこで民法465条の2以下を追加して『貸金等根保証契約』として一定の制限をする改正が平成17年から施行され、包括根保証の禁止・限定根保証の原則化が実現しました。

この改正により、一般的な金融機関との間の取引については、ほとんどが新しい『貸金等根保証契約』による制限を受けることになりました。
その主な特徴は、
(1)書面によって極度額の定めをしないと契約自体が無効になる(金額の制限)
(2)契約で定めた5年以内(定めがなければ3年)の期間に発生した債務しか保証の範囲にしない(期間の制限)
(3)主たる債務者または保証人が死亡したら、それ以降に発生した債務は保証の範囲外とする
というものです。

もしも根保証していた方が亡くなって相続が発生した場合には、根保証人としての地位そのものが相続されるのではなく、相続開始時点で現存する債務についてだけ相続人は保証責任を負うにとどまり、相続発生後に実行された融資等については相続人は保証債務を負いません。この点が通常の相続の考え方と違います。

ただし、改正民法の『貸金等根保証契約』は、
・債務の範囲に金銭の貸渡しまたは手形割引による債務である場合で、かつ
・保証人が個人である場合
に限定されているので、このような取引に含まれないものには適用がなく包括根保証も禁止されていません。
『貸金等根保証契約』に含まれない根保証契約については、原則どおり保証人の地位を相続人が承継することになります。

保証債務と相続税

保証債務については、相続債務として控除することはできません。
なぜなら、保証債務を履行した場合には、本来の債務者に求償できるというタテマエになっているので、債務として確定できないためです。
ただし、本来の債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、本来の債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除することができます(相続税基本通達14条の3)。

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Q017 遺言で金銭債務を承継する相続人が指定されていたら

 

【Question】

父が2年前に亡くなりました。相続人は母、兄、私の3人です。 父の遺産は自宅の土地・建物(時価4,000万円)、アパートの土地・建物(時価8,000万円)、預貯金(2,000万円)がありましたが、アパート建築資金として銀行から借りたローンが6,000万円残っていました。
父は生前に遺言公正証書を書いておりまして、その内容は次のように財産を相続させるというものでした。

母:自宅の土地・建物(時価4,000万円)
兄:アパートの土地・建物(時価8,000万円)、ただしアパートローン全額(残6,000万円)を承継させる
私:預貯金(2,000万円)

遺産の名義変更も終わりホッとしていたところ、最近になって銀行から私に通知書が届き、アパートローンのうち1,500万円を支払うように求められました。 兄に確認したところ、どうやらほとんどローンの返済をしていないようです。 遺言で兄がアパートの土地・建物を相続する代わりにローンを承継することになっているのですから、私に支払い義務はないと思うのですが…

 

【Answer】

金銭債務のように分割できる債務(可分債務)は、相続と同時に当然に、法定相続分に応じて分割されます。
遺言書で特定の相続人に債務を承継させるという記載があったとしても、その遺言は債権者である銀行の関与なしに作成されたものですから、銀行は遺言の内容に拘束されません。
銀行は遺言の趣旨に従って全額をお兄様に請求することもでき、法定相続分で分割されたものとして各相続人に請求することもできるのです。

したがって、今回の銀行からの請求には応じなければなりません。
遺言でお兄様がアパートローンを承継することになっていても、それは相続人の間では有効ですが、銀行に対してその内容を主張することはできないのです。

このような遺言の記載内容を銀行に認めてもらうには、債権者である銀行も交えて、お兄様がローンを引き受けてお母様とあなたがローンから離脱する契約(免責的債務引き受け契約)を締結する必要があります。

『免責的債務引き受け契約』を銀行との間で締結していなければ、お父様が遺したローンについては法定相続分にしたがって分割した額を、各相続人が負担することになります。

そのため、銀行からの請求を拒むことはできませんが、あなたが銀行に支払った分は、遺言公正証書の記載内容に基づいてお兄様に求償することができます。

 

【Reference】

 

金銭債務を特定の相続人に承継させる遺言がある場合

死亡により相続が開始すると、故人の債務は法律上当然に分割され、各共同相続人がその法定相続分に応じて承継するというのが一貫した判例の考え方です(詳しくは『借金も相続財産になるのか』をご覧ください)。

ご相談者のように、特定の相続人に金銭債務すべてを承継させる内容の遺言があった場合でも、債権者に対してはそれを主張することはできません。

それはなぜなのでしょうか?

もしもこのような遺言が債権者に対しても有効となってしまうとすれば、資力のない相続人に債務をすべて負担させ、その他の相続人がプラスの財産を相続させることができてしまいます。それでは債権者はたまったものではないからです。

だからと言って、このような遺言の内容が無効というわけではありません。遺言の中で誰かが債務を引き受けるという記載があれば、それは相続人の間では有効です。 そのため、債権者の取り立てに応じて債務を返済した相続人は、債務を承継することになっている相続人に対して返してくれるように請求できます。これを『求償』といいます。

相続税対策としてアパートを建築したり、故人が事業を営んでいたりすると、遺産の中に借入金がある場合が少なくありません。プラスの財産については、遺言があればその趣旨に従って相続手続きを進めることになりますが、同時にマイナスの財産である借入金も適切に処理する必要があることはもちろんです。

このような場合には、相続発生後に債権者の承諾を得て、『免責的債務引き受け契約』を締結します。そうすれば、債権者が他の相続人に返済を求めることはできなくなります。 ただし、債務を引き受ける相続人に資力があるかどうか、債権者による審査が入ります。

全財産を特定の相続人に相続させる内容の遺言があるが、債務について記載がない場合

全財産を特定の相続人に相続させるという内容の遺言は、実務上多くあります。
このような遺言がある場合で、もしも遺言書には記載されていない多額の借入れがあったら、どうなるのでしょうか?

もし、債務については原則どおり法定相続分で分割されてしまうとすれば、遺産の相続を受けない相続人は借入金だけを負担することになってしまいます。

しかし、故人の意思としては、プラスの財産だけではなくマイナスの財産も含むすべてを特定の相続人に承継させる意図であっただろうと推測することができます。

そこで最高裁では、遺言書にプラスの財産について特定の相続人に相続させるという記載しかない場合、特殊な事情がない限り、マイナスの財産であるすべての債務を同じ相続人に負担させるものと解釈するという判断をしました。

この場合でも、債権者から請求を受けたならば各相続人はそれに応じる義務があるという点は本事例と同じですが、遺言に債務に関する記載がなくても、各自が支払った部分は全財産を相続する相続人に求償できることになりました。比較的最近の最高裁判例ですが、明快かつ画期的な判断だと思います。

平成21年3月24日最高裁判決
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解するべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。
もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(相続債権者)の関与なくされたものであるから、相続債権者にはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられない」

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Q016 ローンなどの金銭債務は遺産分割協議で分けられる?

【Question】

父が2年前に亡くなりました。相続人は母、兄、私の3人です。
父の遺産は自宅の土地・建物(時価4,000万円)、アパートの土地・建物(時価8,000万円)、預貯金(2,000万円)がありましたが、アパート建築資金として銀行から借りたローンが6,000万円残っていました。
そこで、3人で遺産分割の話し合いをし、次のように遺産を分割して協議書に署名捺印しました。

母:自宅の土地・建物(時価4,000万円)
兄:アパートの土地・建物(時価8,000万円)、アパートローン(6,000万円)
私:預貯金(2,000万円)

ところが最近になって銀行から私に通知書が届き、アパートローンのうち1,500万円を支払うように求められました。
兄に確認したところ、どうやらほとんどローンの返済をしていないようです。
兄はアパートローンを引き受けることを条件にアパートの土地・建物を相続したのですから、私に支払い義務はないと思うのですが…

 

【Answer】

債務は遺産分割の対象にならないので、銀行からの請求には応じなければなりません。

遺産分割協議書でお兄様がアパートローンを引き受けることになっていても、その約束は相続人の間で有効なだけであり、銀行に対してその内容を主張することはできないのです。

このような約束を銀行に認めてもらうには、債権者である銀行も交えて、お兄様がローンを引き受けてお母様とあなたがローンから離脱する契約(免責的債務引き受け契約)を締結する必要があります。

『免責的債務引き受け契約』を銀行との間で締結していなければ、お父様が遺したローンについては法定相続分にしたがって分割した額を、各相続人が負担することになります。

そのため、銀行からの請求を拒むことはできませんが、あなたが銀行に支払った分は、遺産分割協議での約束に基づいてお兄様に求償することができます。

 

【Reference】

 

どうして債務は遺産分割の対象にならないの?

死亡により相続が開始すると、故人の債務は法律上当然に分割され、各共同相続人がその法定相続分に応じて承継するというのが一貫した判例の考え方です(詳しくは『借金も相続財産になるのか』をご覧ください)。

ご相談者のように特定の相続人が債務を引き受ける約束をしたり、法定相続分とは異なる割合で債務を相続する内容の遺産分割協議をしたりしても、債権者に対してはそれを主張することはできません

それはなぜなのでしょうか?

もしもこのような約束が債権者に対しても有効となってしまうとすれば、資力のない相続人に債務をすべて負担させ、その他の相続人がプラスの財産を相続することができてしまいます。それでは債権者はたまったものではないからです。

だからと言って、このような遺産分割協議が無効というわけではありません。遺産分割協議の中で誰かが債務を引き受けるという約束は、相続人の間では有効です。
そのため、債権者の取り立てに応じて債務を返済した相続人は、債務を引き受ける約束をした相続人に対して返してくれるように請求できます。これを『求償』といいます。

故人が多額のローンを残して亡くなった場合、そのローンを引き継ぐ相続人を決め、その代わりにその相続人がプラスの財産を多く相続することが通常です。

このような場合には債権者の承諾を得て、『免責的債務引き受け契約』を締結する必要があります。そうすれば、債権者が他の相続人に返済を求めることはできなくなります。
ただし、債務を引き受ける相続人に資力があるかどうか、債権者による審査が入ります。

 

昭和37年4月13日東京高等裁判所決定
「遺産分割の対象となるものは、被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によって分配せられるものではない」

 

住宅ローンの場合

住宅ローンの返済中に債務者が亡くなり、自宅不動産を相続することがあります。
もっとも住宅ローンの場合には、住宅ローン契約と同時に団体信用生命保険や生命保険付きローンに加入しているケースが大半です。この場合には保険金が債権者に支払われるので、住宅ローンについては相続の問題にはなりません。

もしもこのような団体信用生命保険等に加入していなければ、ご相談者と同じようにローンは各相続人に引き継がれることになります。

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Q015 借金も相続財産になるのか

Q 2ヶ月前に父が亡くなりました。
父にはこれといった遺産もなく、特に相続のことは気にしていなかったのですが、昨夜兄から電話があり、カードローンの残高が300万円あるので兄弟2人で150万円ずつ支払わなければならない、と言われました。これは本当ですか?

 

A お兄様が話したことは本当です。借金も相続財産になり、ご兄弟でそれぞれ150万円ずつ支払う義務があります。
もっとも、あなた方の場合は家庭裁判所で『相続放棄』の手続きをすることによって支払いを免れることができそうです。

借金も相続財産になる

遺産のことを相続財産ともいいますが、相続”財産”という言葉からは現金や不動産、預貯金などが連想され、借金のようなものは含まれないと思われるかもしれません。
しかし、日本の民法では、『相続』とは被相続人の財産に属する一切の権利義務を承継することをいいます(被相続人の一身に専属するものは除きます)。つまり、故人が借金や未払い金を残して亡くなった場合には、他の遺産もひっくるめて相続財産となるのです。

それでは、被相続人が借入金を残していた場合など、金銭債務を負ったまま亡くなった場合、この金銭債務は相続人にどのように引き継がれるのでしょうか?

債務というものは、計算すれば分けられる『可分債務』と、計算しても分けられない『不可分債務』に分類できます。
借入金のような金銭債務は、計算すれば分けることができるので『可分債務』です。
金銭債務は可分債務であることから、相続開始とともに法律上当然分割され、各共同相続人がその法定相続分に応じて承継するというのが、一貫した判例の考え方です(昭和34年6月19日最高裁判決)。

従いましてご相談者の場合、相続人はご兄弟お二人だけで、相続分は各2分の1ですから、被相続人であるお父様が遺した300万円のカードローンについても2分の1の150万円ずつを分割して承継することになります。

(債務の相続は結構複雑です。『相続債務は遺産分割の対象になるのか』や『相続債務と遺言書の関係』など、しばしばいただくご質問については、最近の判例も交えてあらためて別記します)

家庭裁判所で『相続放棄』の手続きをすると

ご相談者の事例のように遺産が借金しかない場合や、プラスの相続財産よりマイナスの相続財産が多い場合には、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所で『相続放棄』の手続きをし、これを受理する審判を得ることによって、その相続については始めから相続人とならなかったものとみなされ、支払い義務を免れることができます。
(債権者に『相続放棄します』という内容証明を送っても効果はありません。必ず家庭裁判所の手続きが必要です)

ただし、相続放棄は相手方である債権者(本事例ではカードローン会社)に与える影響が大きいので、手続きをすることができる期間に制限があり、自己のために相続があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続を承認するのかそれとも相続放棄するのかを決めなければなりません(この3ヶ月の期間を『熟慮期間』といいます)。
ご相談者の事例ではお父様が亡くなったことを知った時から3ヶ月以内、ということになります。
もし3ヶ月以内に決断できない事情があれば期間延長の申立てをする方法があり、また3ヶ月経過してしまっても事情によっては相続放棄を受理される可能性もありますので、司法書士に相談してみてください。

注意点としては、相続放棄の手続きをする場合は、他の相続財産には手をつけないようにしてください。
相続放棄をする前に遺産の一部を処分すると相続を承認したことになり、相続放棄ができなくなります(法定単純承認、民法921条1項)。

なお、『死亡保険金』『死亡退職金』『遺族年金』『香典』は相続人固有の財産ですので、相続放棄しても受け取ることができます。

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Q014 事実婚(内縁関係)でも遺族年金は受給できるか(遺族年金の受給要件)

本ページは、修正作業中です。
法改正を反映していません。

Q 私と夫は、事情があって入籍しておりません。
夫に万一のことがあると私は相続人になれないということは知っておりますが、遺族年金も受給できないのでしょうか。

 

A 事実婚(内縁関係)の場合であっても、『生計維持関係』等の受給要件を満たしていれば、遺族年金の受給資格があります。

 

1.遺族年金は相続財産にあたるか

家計を支える大黒柱が亡くなったとき、国がご遺族の生活を支えるための制度が遺族年金です。
故人がご加入されていた年金制度に応じて、『遺族基礎年金』『遺族厚生年金』『遺族共済年金』として支給されるものです。

結論からいえば、公的な遺族年金や遺族扶助料のような遺族給付は、相続財産ではありません。
公的年金の遺族年金などは、それぞれの年金法で受給権者が決まっており、受給できる順位も決められています。どの制度においても、入籍していない事実婚の配偶者も受給権者として認められています
故人が受け取って遺族が承継するものではなく受給権者固有の権利ですから、相続財産にはならず、遺産分割の対象にもなりません。
相続財産ではありませんから、相続放棄をしても堂々と受給することができます

遺族年金制度は受給者の生活を保障するための制度ですから、過去の裁判例は一貫して相続財産にも特別受益にもならないとしています。

 

2.年金は請求しないともらうことができない

遺族年金に限らず年金というものはすべて、請求しないともらうことができません。
請求手続きが遅れた場合でもさかのぼって5年間分は支給されますが、5年を過ぎてしまうと時効となり、もらうことができなくなっていまいます。

なお、国民年金から支給される『死亡一時金』のほうは2年で時効となり、2年を過ぎるともらえません。

 

3.『遺族基礎年金』の受給資格

主に故人が自営業者等の場合に支給される『遺族基礎年金』の受給要件は次の通りです。

(1)遺族基礎年金をもらう人の要件

①遺族基礎年金を受給しようとする方の年収が850万円未満であること(注1)
②亡くなった方と生計維持関係があったこと(注2)
③子のある妻、または、子であること(注3)

(注1)現在の年収が850万円以上あっても、退職などにより5年以内に850万円未満となる見込みがある場合は受給資格があります。この場合、退職年齢を明らかにするために会社の就業規則などを提出して証明します。
(注2)故人の収入にすべて依存していなくても、一部でも受給資格があります。共働きでも受給資格があります。
(注3)妻については転給制度がないため、再婚などによって受給資格を失うともらえなくなります。
子については、以下の場合に限り受給資格があります。以下の年齢を過ぎたり、結婚したりすると受給資格を失います
・18歳になった年度の3月31日まで
・障害年金の障害等級1級または2級に該当する20歳未満の子

(2)遺族基礎年金の、亡くなった人の要件

①国民年金の被保険者が死亡したとき。
②過去に国民年金の被保険者であった方(国内居住)で、60歳以上65歳未満の方が死亡したとき。
③すでに老齢基礎年金を受給している方が死亡したとき。
④すでに老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている方が死亡したとき。

(①または②に該当する場合は、次の遺族基礎年金の保険料納付要件を満たす必要があります。)

(3)遺族基礎年金の、保険料納付要件

①原則
死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があるときは、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が、被保険者期間の3分の2以上あることが必要です。

②特例
死亡日が平成28年4月1日よりも前で、65歳未満で亡くなった方の場合は、①の納付要件を満たしていなくても、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料納付済期間と保険料免除期間以外の被保険者期間(すなわち保険料未納期間)がない場合は、遺族基礎年金が支給されます。
(平成28年4月1日までは、過去1年間に滞納期間がなけれなければOKになっています。ただし、『死亡日の前日において』となっていますから、亡くなってからあわてて納付しても手遅れです)

 

4.『遺族厚生年金』の受給資格

 主に故人が会社員等の場合に支給される『遺族厚生年金』の受給要件は次の通りです。

(1)遺族厚生年金をもらう人の要件

①遺族厚生年金を受給しようとする方の年収が850万円未満であること(注1)
②亡くなった方と生計維持関係があったこと(注2)
③以下の条件に該当する遺族(配偶者と子、父母、孫、祖父母の順位)であること(注3)

(注1)現在の年収が850万円以上あっても、退職などにより5年以内に850万円未満となる見込みがある場合は受給資格があります。この場合、退職年齢を明らかにするために会社の就業規則などを提出して証明します。
(注2)故人の収入にすべて依存していなくても、一部でも受給資格があります。共働きでも受給資格があります。
(注3)下記のような年齢要件があります。
(a)妻(事実婚含む):年齢要件はありません(ただし、30歳未満の場合は5年間の有期年金)。転給制度がないため、再婚などによって受給資格を失うともらえなくなります。
(b)夫、父母、祖父母:55歳以上であること(ただし、支給開始は60歳からとなります。それまでは十分働けるからです)。転給制度はありません。
(c)子については、以下の場合に限り受給資格があります。以下の年齢を過ぎたり、結婚したりすると受給資格を失います。
・18歳になった年度の3月31日まで
・障害年金の障害等級1級または2級に該当する20歳未満の子

(2)遺族厚生年金の、亡くなった人の要件

①厚生年金の被保険者が死亡したとき。
②過去に被保険者であった間に初診日がある傷病により、初診日から5年以内に死亡したとき。
③障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき。
④すでに老齢厚生年金を受給している方または老齢厚生年金の受給資格期間を満たしている方が死亡したとき。

(①または②に該当する場合は、次の遺族厚生年金の保険料納付要件を満たす必要があります)

(3)遺族厚生年金の、保険料納付要件

(遺族基礎年金と同じです。)
①原則
死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があるときは、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が、被保険者期間の3分の2以上あることが必要です。

②特例
死亡日が平成28年4月1日よりも前で、65歳未満で亡くなった方の場合は、①の納付要件を満たしていなくても、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料納付済期間と保険料免除期間以外の被保険者期間(すなわち保険料未納期間)がない場合は、遺族基礎年金が支給されます。 (平成28年4月1日までは、過去1年間に滞納期間がなけれなければOKになっています。ただし、『死亡日の前日において』となっていますから、亡くなってからあわてて納付しても手遅れです)

 

5.遺族共済年金の受給資格

主に故人が公務員等の場合に支給される『遺族共済年金』の受給要件は次の通りです。

(1)遺族共済年金をもらう人の要件

①遺族共済年金を受給しようとする方の年収が850万円未満であること(注1)
②亡くなった方と生計維持関係があったこと(注2)
③以下の条件に該当する遺族(配偶者と子、父母、孫、祖父母の順位)であること(注3)

(注1)現在の年収が850万円以上あっても、退職などにより5年以内に850万円未満となる見込みがある場合は受給資格があります。
(注2)故人の収入にすべて依存していなくても、一部でも受給資格があります。共働きでも受給資格があります。
(注3)下記のような年齢要件があります。
(a)妻(事実婚含む):年齢要件はありません(ただし、30歳未満の場合は5年間の有期年金)。転給制度があるため、再婚などによって受給資格を失うと、その遺族共済は次順位の受給権者に引き継がれます。
(b)夫、父母、祖父母:年齢制限はありませんが、支給開始は60歳からとなります(それまでは十分働けるからです)。転給制度があります。
(c)子については、以下の場合に限り受給資格があります。以下の年齢を過ぎたり、結婚したりすると受給資格を失います。
・18歳になった年度の3月31日まで
・障害年金の障害等級1級または2級に該当する子(こちらは年齢制限なし)。

(2)遺族共済年金の、亡くなった人の要件

①共済年金の組合員が死亡したとき。
②過去に共済年金の組合員であった間に初診日がある傷病により、初診日から5年以内に死亡したとき。
③障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害共済年金、または旧制度の障害年金の受給権者が、死亡したとき。
④すでに退職共済年金を受給している方または組合員期間が25年以上ある方が死亡したとき。

(3)遺族共済年金の、保険料納付要件

遺族共済年金については、保険料納付要件はありません(滞納期間が無いため)。

 

6.『寡婦年金』

第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除期間を含む)が25年以上ある夫が亡くなった場合、10年以上継続して婚姻関係にあり、生計を維持されていた妻に対して、60歳から65歳になるまでの間『寡婦年金』が支給されます。

  • 年金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3。
  • 亡くなった夫が障害基礎年金の受給権者であった場合や、老齢基礎年金を受けたことがある場合は支給されません。
  • 妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けている場合は支給されません。

 

7.死亡一時金

第1号被保険者として保険料を納めた月数(4分の3納付月数は4分の3月,半額納付月数は2分の1月,4分の1納付月数は4分の1月として計算)が36ヶ月以上ある方が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった時、その方によって生計を同じくしていた遺族(1・配偶者、2・子、3・父母、4・孫、5・祖父母、6・兄弟姉妹の中で優先順位の高い方)に支給されます。

  • 死亡一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて120,000円~320,000円です。
  • 付加保険料を納めた月数が36ヶ月以上ある場合は、8,500円が加算されます。
  • 遺族が、遺族基礎年金の支給を受けられるときは支給されません。
  • 寡婦年金を受けられる場合は、どちらか一方を選択します。
  • 死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から2年です

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Q013 死亡退職金は相続財産として遺産分割の対象になるのか

Q 夫が二か月前に死亡し、勤めていた会社から死亡退職金が支払われてきました。
私たち夫婦の間に子はおらず、相続人は私と夫の弟だけです。
死亡退職金は夫の遺産として、義弟と分けることになるのでしょうか?

A 死亡退職金は受取人固有の財産ですので、相続財産ではなく、原則として遺産分割の対象にはなりません。
あなたが全部を取得して問題はありません。

 

死亡退職金は受取人固有の財産

死亡退職金は、故人が在職中に亡くなった場合に勤務先から支給されるもので、呼び方は『退職金』『功労金』など様々です。

死亡退職金は公務員の場合は法律で、会社の場合は就業規則や退職金規程などで定められた人に対して支給され、その目的は故人の遺族などが生活に困らないようにすることにあります。そのため受給権者の範囲や順位はそれぞれの決まりの中で定められていることが大半です。

たとえば、国家公務員の場合は国家公務員退職手当法第2条の2で遺族の範囲と順位が定められており、内縁の妻が受け取ることができるほか、亡くなった職員の収入によって生計を維持していた人に対し優先的に死亡手当が支給される決まりになっています。

このように、死亡退職金は故人が受け取った上で遺族に引き継がれるものではなく、受取人固有の財産と言えますので、相続財産には当たらず遺産分割の対象にはなりません(昭和55年11月27日最高裁判決)。
遺産ではありませんから、相続放棄しても受け取ることができます。

死亡退職金の受給権者に関する決まりがない場合でも、財団法人の理事長の事例で、法人が配偶者に支給した死亡退職金について「相続という関係を離れて・・・個人に支払われたもの」であるとし、相続財産性を否定した最高裁判決があります(昭和62年3月3日)。

もっとも、「退職した後に亡くなった」場合には、退職金(または退職金の請求権)は本来、退職したときには健在だった故人が受け取るべきものということになりますので、これは相続財産になります。

 

死亡退職金は特別受益にあたるか?

このように死亡退職金は相続財産にはあたらないわけですが、状況によっては、相続人の1人が受給権者である場合に他の相続人に対して不公平になる可能性もあります。複数の相続人が故人の収入で生計を立てていたようなケースです。
この場合、生命保険金の場合と同じように、受け取った死亡退職金を『特別受益』と同様に扱い、遺産分割においてその金額を遺産に持ち戻して遺産分割をしなければならないのではないか、という意見があります。

この点について、はっきりとした裁判例はなく、家裁の審判例でも結論は分かれます。
現実的には、故人の収入に対しどのていど生計を依存していたか、その度合いをもとに個々の事例に応じて判断されているものと考えられますが、受給権者が内縁の妻であればそもそも特別受益の問題になりようがなく(特別受益の持ち戻しは相続人間の遺産分割の際に生じます)、死亡退職金は特別受益にあたらないと考えるのが主流だと思われます。

 

死亡退職金と相続税

死亡退職金は相続財産にはなりませんが、故人の死亡によって遺族が財産を取得するという点では本来の相続財産と類似しているため、『みなし相続財産』として相続税の課税対象になります。
みなし相続財産として課税の対象となるのは、故人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金ですので、まず当てはまります(仮に3年を超えて支給されたら、受給者の一時所得として所得税等の課税対象)。

相続税の課税対象にはなりますが、幸いなことに相続税の基礎控除とは別枠で非課税枠が設けられており、受取人が相続人である場合には 「法定相続人の数×500万円」まで、は受け取った死亡退職金から差し引くことができます。
差し引いた後の残額と他の相続財産の価額を合計して、基礎控除の範囲内であれば相続税は0円です。

また、会社などから「弔慰金」「葬祭料」などの名目で現金を支給されることがありますが、これは通常は相続税の対象となることはありません。
しかし、このような「弔慰金」等が高額で、実質上退職手当金等に該当すると認められる部分については相続税の対象になります。
具体的には、次の金額を超える部分に相当する金額は、退職手当金等として相続税の対象となります。
(1)故人の死亡が業務上の死亡であるとき  故人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する額を超える部分
(2)故人の死亡が業務上の死亡でないとき  故人の死亡当時の普通給与の半年分に相当する額を超える部分
(注 普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。)

同族会社では、これをうまく活用すれば相続税対策になります。

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Q012 死亡保険金は相続財産として遺産分割の対象になるのか

Q 先日、夫が亡くなりました。夫は再婚で、先妻との間に娘さんが1人いますが、後妻である私との間に子供はいません。
夫は自分を被保険者とし、受取人を私に指定した死亡保険をかけていました。
この保険金は手続きをして私がすでに受け取っているのですが、やはり先妻との間の娘さんと話し合って分割しなければならなのでしょうか。

 

A このケースならば、よほど不公平でない限り、この生命保険金はあなた自身の固有の財産として受け取ることができます。遺産には含まれず、先妻との間の娘さんと話し合う必要もありません。

 

生命保険金は相続財産として遺産分割の対象になるのか

生命保険金は、『保険金受取人』が誰かによって、相続財産に含まれるのか含まれないのか(遺産分割協議の対象になるのかならないのか)が変わってきます。

 

(1)故人が、契約者=被保険者=保険金受取人の場合
相続財産になります
この場合は、故人が自分のためにかけた保険であると言えます。
そのため、このような生命保険金は故人の相続財産(遺産)に組み込まれ、遺産分割の対象となり、各相続人は、遺言や相続人の間でまとめた遺産分割協議に従って生命保険金を取得することになります。
定期保険や終身保険のような『死亡保険金』では、このような契約は通常考えられません。しかし、たとえば医療保険やガン保険の『入院保険金』などを、被保険者の死後に遺族が受け取るような場合がこのケースにあたります。

 

(2)故人が契約者=被保険者で、保険金受取人に『特定の人』を指定していた場合
相続財産になりません
この場合、生命保険金は故人の相続財産に組み込まれず、保険金受取人として指定された『特定の人』が固有の保険金請求権を持つことになり、『特定の人』が生命保険金を受領することになります。よって遺産分割の対象になりません。
相続財産ではないので、家庭裁判所で相続放棄の申述を受理された場合でも受け取ることができます。

今回のご相談者の事例はこのケースになります。最近の死亡保険では、このように『特定の人』が死亡保険金の受取人として指定されるのが通例です。

とはいえ、相続人のうちの1人が『特定の人』として生命保険金全額を受領した場合に、それが他の相続人から見て明らかに不公平なケースでも、遺産分割の対象にしなくていいのでしょうか?

この点については、「それでも遺産分割の対象にする必要はない」というのが答えです。

ただし、「遺産に占める生命保険金の割合がすごく高かったり、再婚してからの同居期間が短いなど、被相続人との関係が薄いのに保険金をたくさん受け取ったりしていると、遺産分割の際に分け前が減ったりゼロになったりすることがある」ということができます。これは「死亡保険金は特別受益となるか」という問題で、この点についてはQ067 死亡保険金は特別受益にあたるのかで詳しく解説します。

なお、生命保険金は遺留分算定の基礎にも含まれません(平成14年11月5日最高裁判決)。

 

(3)故人が契約者=被保険者で、保険金受取人が単に『相続人』の場合
相続財産になりません
少し古い生命保険契約では、死亡保険金受取人に特定の人が指定されず単に『相続人』となっている場合があります。
このような死亡保険契約は、「私が死んだら、その時点の相続人に保険金を払ってください」というものですから、やはり相続財産に組み込むのは不自然です。したがって各相続人が固有の保険金請求権を持つことになります。
相続財産ではないので、家庭裁判所で相続放棄の申述を受理された場合でも受け取ることができます。

この場合、その受取割合については、次の順番で考えることになります。

1)保険会社の契約約款で定めている割合
『均等割合』とされていることが多いようです。この場合、相続分とは関係なく、単純に保険金額を相続人の人数で割った額になります)

2)契約約款に定めがなければ、原則として相続分(法定・指定)に応じて分割
(平成6年7月18日最高裁判決)
「保険契約において保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の『相続人』と指定した場合は、特段の事情がない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれていると解するのが相当である」

生命保険金の受取りは”税”のことも気にしなくてはなりませんが、長くなりましたので別の機会に改めて記事にしたいと思います。

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Q011 遺産になるもの・ならないものとは(相続財産)

Q 夫が亡くなり、遺産の整理を始めるところです。
遺産を分けるには相続人全員で協議する必要があると聞いているのですが、どこからどこまでの財産を遺産として分けるのか、よくわからずに困っています。

A  我が国では、故人の遺産はプラスの財産もマイナスの財産も、いっさいがっさい相続人が引き継ぐ仕組みになっています。
ただし、「法律上は遺産にならないけれども、相続税の計算では遺産として考えるもの」もあれば、反対に「法律上は遺産として考えるけれども、相続税の計算には含めないもの」もあり、正確に理解するには骨が折れます。

とはいえ、遺産をきちんと整理するためには、遺産になるものを洗い出して、これを時価評価し、目録(遺産目録)にすることが欠かせません。遺産目録があれば遺産分けの話し合いもしやすく、相続税の手続きが必要かどうか判断するのにも役立ちます。

基本的なことについては、当相続あんしん相談室ホームページで記事にしていきますが、 遺産の範囲について迷ったら、弁護士や司法書士に相談されると良いでしょう。

 

相続財産(遺産)とは

遺産相続は、被相続人の死亡の時からはじまります。
そして、その死亡の時を基準として、被相続人が保有していた財産のことを『相続財産』とか『遺産』といいます。

日本の民法では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています(民法896条・包括承継主義)。わかったようなわからないような文章ですが、ポイントは、被相続人の死亡時を基準として、相続人は、権利だけではなく義務も承継するという点です。

つまり、相続財産には、土地やマンションなどの不動産・現金・預貯金や株式などのプラスの財産だけだけではなく、借金や税金等の支払い義務や、保証人としての義務も含まれており、いっさいがっさい、相続人はこれらを承継することになるのです。

相続財産の例(遺産)相続財産の例(負債)

 

相続財産(遺産)に含まれないもの

遺産相続が、”いっさいがっさい権利も義務も承継する”といっても、民法上、相続財産から除外されているものもあります。

1)墓、位牌、仏壇など
→祭祀を承継する者が引き受けることになり、相続財産には含まれません。

2)一身専属権(いっしんせんぞくけん)
→一身専属権とは、ある人しか権利を持つことが性質上できない権利のことをいいます。遺産相続には性質上合いませんので、そもそも除外されています。
この具体例としては、年金請求権や扶養請求権、生活保護受給権などがあります。

3)身分上の権利
→婚約していた相手が亡くなったような場合に、当たり前のことですが、婚姻する権利を相手の相続人に請求するようなことはできません。このように、財産権ではない身分上の地位や権利については、そもそも遺産相続の対象になりません。

 

法律上は遺産にならないけれども、相続税の計算では遺産として考えるもの

下記の財産は、法律的には相続財産(遺産)ではないため、原則として遺産分けの対象にはなりませんが、相続税の手続きでは相続財産に含めて計算します。

1)税法上のみなし相続財産
代表的なものが『死亡保険金』と『死亡退職金』です。
どちらも原則として「受取人固有の財産」とされ、本来の相続財産からは除外されるため遺産分割の対象になりませんが、相続財産に準じるものとみなされて相続税の課税対象にはなるので、(税法上の)『みなし相続財産』と呼ばれます。

もっとも全額が相続財産になるわけではなく、非課税限度額を超えた部分だけが相続財産に加算されます(詳細は別の記事で・・・)。

なお、死亡保険金は、契約形態によっては本来の相続財産に含まれてしまい、遺産分けの対象になることがあります。

2)生前贈与された財産のうち一定のもの
故人の死亡時にすでに生前贈与されていた財産は、本来、相続財産(遺産)には含まれませんが、贈与財産のうち次のものは相続税の課税対象になります。
もっとも、贈与時に納付済みの贈与税があれば相続税から差し引くことができ、納付済みの贈与税が相続税額よりも大きければ、差額は還付されます。

(a)死亡前3年以内に贈与されていた財産
たとえ年額110万円以内の贈与で贈与税が課税されないものであっても、それから3年以内に贈与者が死亡した場合には、相続税の課税対象になってしまいます。

ただし、『居住用不動産にかかる贈与税の配偶者控除』を受けた財産の場合には、死亡前3年以内にもらった場合でも相続税の対象にはなりません。

(b)相続時精算課税制度によって贈与された財産
相続時精算課税制度の届出をしていた贈与財産は、相続税で贈与税を精算しますので、相続税の課税対象になります。

 

法律上は遺産として考えるけれども、相続税の計算には含めないもの

相続人の中で、故人から特別の利益を受けていた人がいる場合には、これを遺産の前渡しとして贈与価額を相続財産の価額に加えて、そのうえで遺産分けをします。これが民法で『特別受益の持戻し』と言われているものです。

この特別受益の持戻しは、贈与者の死亡よりもかなり前に行われていた場合でも対象になるため、相続税の課税対象にはならない場合でも遺産分けのときには考慮する必要があります(特別受益を受けた相続人は、すでに贈与済みの財産を返す必要はありません。遺産の取り分が減るだけです)。

本来の相続財産にこの特別受益の持戻しを加えたものを、(民法上の)『みなし相続財産』といいます。

『みなし相続財産』には、税法上のものと民法上のものと二通りあり、実にややこしいですね。

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