【Question】
相続税対策として現金を生前贈与する場合、毎年少しずつ実行することによって大きな節税効果があると聞きました。
そこで、三人の孫(二十歳は超えています。)に、それぞれ毎年100万円程度の現金を、5年間、生前贈与しようと思います。どのような点に注意すれば間違いないでしょうか。
【Answer】
何は無くとも贈与契約書
まず、暦年課税制度による贈与の場合、贈与契約書を、毎年、贈与の都度作成し、贈与者(あげる人)・受贈者(もらう人)の両方が署名捺印することが重要です。
贈与契約は書面を作らなくても法律的には有効に成立するので、特にご親族の間で金銭を贈与する場合に、書類を作成しないケースも多々あります。
しかし、書類をきちんと取り交わしていないと、そのお金がもらったものなのか、それとも借りたものなのかが明確ではなくなる等々、相続のときに法律的な争いを招いたり、税務トラブルを生じたりする原因になります。
「親しき中にも礼儀あり」ではありませんが、相手が身近な人であるからこそ、きちんと契約書を交わすことがトラブル防止につながります。
贈与契約書を作成するにあたってはさまざまな注意点がありますが、あなたのように贈与税の暦年課税制度を利用して、毎年110万円の基礎控除枠をフル活用する場合には、毎年その都度、贈与契約書を取り交わすようにしてください。
何故かと言うと、
「毎年100万円を贈与するという約束をして、それを5年間繰り返す(A)」
のと、
「100万円を5年間毎年贈与する約束を、最初の年にまとめてする(B)」というのとでは、少しニュアンスが違うのです。
Bのパターンのような贈与契約を『定期贈与契約』と言いまして、1年ごとに贈与を受けたと考えるのではなく、『定期金に関する権利』(5年間にわたり毎年100万円ずつもらう権利)を、最初の年に一度に贈与されたものとみなされてしまう可能性があり、初年度にドンと贈与税が課されられるおそれがあります(有期定期金の評価についてはQ060)。
そこで、数年にわたる贈与契約を締結する場合には、Aパターンのように、毎年その都度、契約書を作成しておくのが安全です。
(実質的に定期贈与を内容とする契約が締結された場合に、税務上、本当にこのような扱いがなされているのかどうか確認はしていませんが、このような課税が実際になされたとすれば、個人的には非常に違和感があります)
また、契約書に署名することを面倒に感じる方が多いのですが、贈与契約があなたとお孫さんとの間で間違いなく成立したということを証明するため、署名だけは必ず自分で署名するようにし、できれば実印も押印しましょう。これもトラブル防止のためです。
あげる側のあなたばかりでなく、もらう側のお孫さんも署名してください。
贈与は「契約」の一つと考えられていますから、あなたの「あげます」という意思とお孫さんの「もらいます」という意思とが一致しなければ成立しません。あげる側の一方的な意思だけでは贈与とはならず、もらう側の了解が必須です。
なお、余計なお世話ですが、契約書には200円の収入印紙と消印をお忘れなく。そして、無くさないように大事に保管しておきましょう。
贈与の証拠を残す!
次に、贈与があったという事実を明確にするために、金銭を贈与する場合には、契約書を作るだけではなく、贈与者の通帳から受贈者の通帳に送金する等、誰が見ても疑いないような証拠を残します。
これは、贈与があったという事実ばかりではなく、それがいつ実行されたのかという証拠になるので、税務当局対策としても相続対策としても、非常に重要です。現金を手渡しして領収書を受け取るだけでは、領収書の日付などは後からどうにでもなりますから、証拠力としては弱いのです。
なお、贈与財産が現金でなく、不動産のように登記・登録を要する財産である場合には、ただちに登記・登録をします。税務上の考え方では、登記・登録をしたときに贈与があったものとして扱われるからです(後記Reference)。たとえ契約書に確定日付を取っていてもダメです。
財産は受贈者に管理させる
三番目に、贈与財産については完全に受贈者が管理するようにします。贈与財産をお孫さんの口座に送金しても、その通帳や届出印をあなたが管理していたのでは、贈与があったと認めさせることはできません。このような預金は「孫名義だがあなたが所有する財産」と見られてしまい(名義預金)、相続税対策としての贈与は失敗してしまいます。
基礎控除額を超えたら贈与税の申告・納税
最後に、暦年課税制度による生前贈与では、贈与財産の合計が年110万円を超える場合には、受贈者であるお孫さんが贈与税の申告をして納税する必要がありますので、贈与者であるあなたの側からお孫さんに注意を促しましょう。
合計が110万円以下であれば、もちろん申告は不要です。
なお、贈与税は原則として受贈者が支払うべきものですから(受贈者が無資力の場合を除く)、贈与税をあなたが払ってあげると、これも贈与とみなされる可能性があります。
【Reference】
『贈与』に対する考え方は、法律と税務では異なる
意外に思われるかもしれませんが、『生前贈与』という契約について、法律上の考え方と税務当局の考え方には大きな隔たりがあります。
たとえば、「生前贈与契約は、いつ効力を生じるか」という点を挙げることができます。
法律(民法)的には、原則として、贈与契約が成立したときに効力が生じると考えられています(民法176条)。
契約書を交わすことは必要条件ではないので、口約束でも、約束したその時に贈与の効力が生じます。これが法律の考え方です。
ところが、税務の世界ではこうではありません。
税務上、生前贈与がいつ効力を発生するかを見てみると、次のようになります(相続税基本通達1の3・1の4共-8、同1の3・1の4共-11)。
(1)書面による贈与 :贈与契約の効力が発生した時
(2)書面によらない贈与:履行の時
(3)所有権が登記・登録の対象となる財産:登記・登録の時(特に反証がない場合)
どうしてこうなっているのかというと、簡単にいえば、「贈与税は高い税率の累進課税だから、もらった人に贈与税を払ってもらうには、現実に贈与財産を手にした後でないとおかしいよね。財産をもらう前に高い税金払えとは言えないなぁ」という考え方が、税を徴収する側にあるからなのです。
このように、生前贈与では、法律の考え方と税務上の考え方が一致するとは限りません。
生前贈与は、特別受益や遺留分という形で相続争いの原因となることがあるので、法律的に問題が生じないように予防しておかなければなりません、
いっぽう、生前贈与の成否は贈与税や相続税にダイレクトに影響してくるので、こちらに対する気配りも欠かすことができません。
そして、これらを同時並行で行わなければならないところに、生前贈与の難しさがあります。
法律の上でも税金の上でも、失敗するとダメージが大きいのが生前贈与なのです。なるべくなら、税務と法務の専門家の助言を受け、適切に実行するようにお願い致します。
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