Q102 遺言に書いた財産を売却したくなったら

【Question】

8年前、自宅を長男に、賃貸アパートを次男にそれぞれ相続させるという内容で、公正証書遺言を作成しました。

しかし、近頃、私の足が不自由になってきたので、アパートを売却して有料ホームに入ることも検討しています。アパートを売却するには、公正証書遺言を撤回しなければならないのでしょうか。

 

 

【Answer】

遺言を撤回しなくても、売却できます。

遺言書に書いた財産を売却した場合、遺言書のその部分については、売却によって自動的に撤回されたものとみなされます
遺言の他の部分には、影響ありません。

したがって、アパートを売却する前提として遺言を撤回・変更する必要はありません。

ただし、売却によって、推定相続人の間に不公平が生じることが考えられます。
ご相談者の場合、次男さんに相続させる財産がなくなってしまうので、その遺留分を侵害してしまいます。
遺留分をめぐって、兄弟間でもめてしまう可能性があります。

この不公平を是正するには、遺言書の撤回・変更をするか、あるいは不利益を受けた推定相続人(次男さん)に生前贈与等で手当てをしておくことが考えられます。

 

【Reference】

 

遺言を書いても、遺言者は自由に財産を処分できる


「遺言を書いたら、財産が自分のものではなくなってしまう」というのは、大きな誤解です

財産の引き継ぎ方を遺言で定めたとしても、遺言者が健在である限り、すべての財産は遺言者のものです。煮ようが焼こうが、すべて遺言者の自由です(本当に焼いちゃいかんですが)。

遺言は、しょせん万一の事態に対する備えに過ぎません。「遺言を書いたからには、きっちり残しておかなければ…」などと考えるのではなく、人生のために有意義に、どんどん使っていただきたいと思います。

 

遺言と矛盾する生前行為があった場合、どうなるか

遺言を作成した後、遺言に記載した財産について、遺言者が売却・生前贈与・寄付・破毀などの生前処分を行うと、遺言の内容と遺言者の生前処分とが矛盾します。
このような矛盾がある場合、遺言より後になされた生前処分が遺言に優先し、その生前処分に関する部分についてだけ、遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。

したがって、遺言者が売却等の生前処分をするにあたって、遺言の撤回・変更の手続きをとる必要はありません

 

遺留分には注意が必要

このように、遺言を書いた後でも、財産は自由に処分できます。

しかし、気をつけなければならないのは、生前処分によって推定相続人の遺留分を侵害する可能性がある、という点です。

遺産をめぐる争いを防ぐために遺言を作成したのだとすれば、明らかに遺留分を侵害するという事態は避けたいところです。

売却等の生前処分によって推定相続人の遺留分を侵害することが明らかである場合には、遺言書そのものを見直して撤回・変更するか、あるいは生前贈与によって手当をするか、いずれかの対策が必要になるでしょう。

 

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2014年6月17日 | カテゴリー :