Q110 「相続分がないことの証明書」「特別受益証明書」とは

【Question】

半年前に父がなくなりました。
父の遺産を一番上の兄が相続することに、私としては異議がないのですが、その兄から「相続分がないことの証明書」というものが郵送されてきました。

兄の話では、これに署名して実印を押し、印鑑証明書を添付して送り返してほしいということですが、書類の意味が良く分からず、署名捺印するべきか悩んでいます。

 

【Answer】

その書類は、あなたがお父様から生前に前倒しで財産をもらいうけていて(生前贈与)、その生前贈与財産の価値が本来の相続分を超えてしまっているので、今回の相続については取り分が残っていないことを認めます、という書類です。

法定相続分を超えるような生前贈与を受けていたのが事実であれば問題ありませんが、そのような事実がないのであれば、事実に反する書類に署名捺印することには、やはり問題があります。

遺産を相続するおつもりがないとのことですし、お兄様にも悪意はないのだろうと推察しますが、トラブルを防ぐためにも『遺産分割協議書』等の正当な書類に替えてもらうように働きかけてみてください。

また、遺産の中に債務(負債)が多いようなら、『家庭裁判所での相続放棄』手続きを検討すべきです。

 

 

【Reference】

故人から相続人へ土地や建物の名義変更(相続登記)をする目的で、相続人の一人が他の相続人に、『相続分がないことの証明書』とか『特別受益証明書』という書類に署名捺印するように求めることがあります。

この書類があれば、家庭裁判所の相続放棄手続きや遺産分割協議を省略して、相続による不動産の名義変更ができてしまいます
そこで、手続きを簡単にするという目的のために利用されているケースが少なくありません。

しかし、その書類の内容を大まかにいえば、「(故人の)生前に相続分を超える財産の贈与を受けていたので、相続分はありません」というものです。これは何を意味しているのでしょうか。

民法には、生前贈与を遺産の前渡しとする考え方があり、これを特別受益といいます。

この特別受益について、民法903条2項では、「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」と定められており、遺産の前渡しとして生前贈与された財産が本来の相続分よりも多ければ、当然ながら相続の際に取り分は残っていないということになります。

『相続分がないことの証明書』・『特別受益証明書』は、この仕組みを利用しているわけです。

実際に相続分を超えるような生前贈与を受けているならば別ですが、贈与を受けていないのに贈与を受けたとして署名捺印することには、相続人間のトラブルや、相続債権者からの取り立てを受ける等のリスクを伴います。

痛くもない腹を探られないためにも、正式な遺産分割(または家庭裁判所の相続放棄)の手続きをとることをおすすめします。

 

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