Q107 「Aに相続させる」という遺言があるが、Aが先に亡くなったら?

【Question】

祖父Xは、「長男Aにすべての財産を相続させる」という遺言を残して亡くなりました。
長男Aは私の父であり、Aの相続人は私一人だけです。

しかし、祖父が亡くなった段階で、すでに私の父Aは亡くなっていました。発見された遺言書には、Aが先に亡くなった場合にどうするか、指示されてはいません。

祖父には、私の父A以外にも数人の子がいるのですが、私は父Aを代襲して、遺言により祖父のすべての遺産を代襲相続できるのでしょうか?

 

【Answer】

原則としては、「相続させる」という遺言代襲相続は適用されません

したがいまして、遺言によってあなたがご祖父様の全遺産を代襲相続することにはなりません。その遺産はその相続人が共同で相続し、その帰属は遺産分割協議によって決められることになります。

なお、あなたは亡きお父様の相続人としての地位を代襲するのみで、その限りで遺産分割協議に参加することができます。

ただし、遺言書のその他の記載や遺言作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などから、ご祖父様があなたに代襲相続させる意思があったとみられる特段の事情があると認められる場合には、例外的に、あなたが全遺産を代襲相続できるとする余地があります(遺留分の問題は別)。

 

【Reference】

『「相続させる」遺言』と『遺贈』

遺言の中である人に対して遺産を与えると記述する場合、その表現としては、「遺贈する」と書く方法があります。『遺贈』は民法986条以下に定めがあります。

しかし、遺産を与える相手が相続人以外の第三者というケースはどちらかというと少なく、実際の遺言では、遺産を与える相手が推定相続人の一人であるケースのほうがずっと多いです。

このようなケースでは、一般的には「・・・に相続させる」という表現が使われます。これが『「相続させる」遺言』と呼ばれるものです。

いかにも法律家的な発想なので恐縮なのですが、法律の世界では、『「相続させる」遺言』と『遺贈』とを厳密に区分します(Q024)。
民法の条文上も、『「相続させる」遺言』は908条(遺産分割方法の指定)で、『遺贈』は民法986条以下、という具合です。

どちらでも同じだろうと思われるかもしれませんが、『「相続させる」遺言』には、『遺贈』にはない次のようなメリットがあります。

(1) 不動産について、相続人だけで登記を申請できます。
(2) 不動産について、登記しなくても第三者に対抗できます。
(3) 農地の場合、農地法の届出・許可が不要です。
(4) 借地や借家の相続の場合,賃主の承諾が不要です。 (以前は不動産登記の登録免許税も違ったのですが、現在は大差ありません)

そこで、相手が相続人である場合には、「遺贈する」ではなく、「相続させる」という表現が多く使われるわけです。

 

  『「相続させる」遺言』は代襲されない

『遺贈』の場合、受遺者(遺贈する相手)が遺言者よりも先に亡くなった場合、受遺者の相続人が受遺者の地位を代襲することはありません(これについてはQ106をごらんください )。これは民法994条1項によってはっきりしています。

では、『「相続させる」遺言』ではどうでしょうか。こちらは条文がありません。

この点については、代襲を認める考え方と認めない考え方の両方があり、裁判所の扱いも分かれていましたが、平成23年2月22日最高裁判決で、「原則として代襲を認めない」という結論が出ました。

代襲を認めない理由は、『遺贈』の場合とほぼ同じです。
たとえば、長男に遺産を「相続させる」という遺言があって、その長男が先に亡くなってしまった場合、その長男の子(遺言者の孫)が何人かいるとしたら、孫のそれぞれに平等に相続させたいのか、それともその中の一人に相続させたいのか、はたまたまったく別の人に相続させたいのか、遺言者の意思がわかりません。そこでこのような場合には、その「相続させる」遺言を無効として扱うことにしたのです。

ただし、同判決は、例外として、遺言書のその他の記載や遺言作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が代襲者その他の者に相続させる意思があったとみられる特段の事情があると認められる場合には、代襲の余地を認めています。

しかし、この「特段の事情」は、裁判手続きの中でごく例外的に認められるに過ぎません。代襲を認めないというのが原則的な考え方である以上、遺言作成の段階であらかじめ備えておくことが大切になります。遺言作成について、専門家のアドバイスを受けたほうが良い理由の一つが、ここにあるのです。

 

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2014年7月3日 | カテゴリー :