Q032 遺言の内容と異なる遺産分割協議は可能か?

【Question】

昨年、母が亡くなりました。相続人は兄(長男)、私(長女)、妹(二女)の3名です。
母は遺言を書いており、その内容は次のようなものでした。
・長男に自宅の土地建物を相続させる
・長女と二女には預金を2分の1ずつ相続させる

ところが、長男である兄から、家は持っているのでいらない、私に引き継いでほしい、と言われました。
母が書いた遺言の内容とは違ってしまいますが、きょうだいで話し合って、私が自宅不動産を相続し、兄と妹が預金を相続するという内容の遺産分割協議書を作ってもいいのでしょうか?

 

【Answer】

いくつか注意点はありますが、相続人全員(相続人以外の受遺者を含む)が合意の上で、遺言書と異なる内容の遺産分割協議を成立させることは可能です。

子供たちが相続でもめないように、お母様が配慮して遺言を書かれたのですから、結果的にごきょうだいでもめることなく遺産分割協議がまとまるのならば、お母様の意思は十分伝わったと言えるのではないでしょうか。

 

【Reference】

本来、遺言と異なる遺産分割はできません。
とはいえ、『受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる』と民法で定められています(986条)。
遺言を書いた人の意思が優先されるとはいえ、遺贈を受けることまで強制することは、さすがにできないわけです。

遺贈の放棄があると、遺贈ははじめからなかったものとみなされ、原則どおり、その財産は相続財産として相続人全員が共有するものとなります。受遺者全員が遺贈を放棄すれば、すべての相続財産は共同相続人全員のものになるので、結果として遺言がなかったのと同じことになります。

こうして、相続人全員で遺言とは異なる内容の遺産分割協議を行うことができるようになります。現実的にもけっこう行われています。
ただし、下記のように、いくつか注意点があります。

 

遺言で、遺言執行者が定められている場合

この場合、遺言と異なる遺産分割協議を行うには、遺言執行者の同意が必要です。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持っています(民法1012条1項)。
そして、遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言の対象となった相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる一切の行為が禁止されます(民法1013条)。

遺言執行者は、遺言内容を粛々と実現することが職務です。そのため、相続人全員が同意して遺言内容と異なる遺産分割協議をしても、遺言執行者の職務執行をさまたげることはできません。

 

遺言で、遺言と異なる遺産分割が禁止されている場合

この場合、遺言と異なる遺産分割協議を行うことはできません。

遺言で、最大5年間は遺産分割を禁止することができるようになっています(民法908条後)。
また、特段の事由がある場合には、家庭裁判所の審判で遺産分割を禁止されることがあります。

 

すでに遺言に従って遺産を分けてしまっている場合

この場合、課税の問題があります。

被相続人の死亡により、遺言はただちに効力を有し、受遺者に対し権利が移転します。不動産の名義変更(登記)や預貯金の払い戻しも可能になります。

あとから相続人全員が話し合って遺言と異なる内容の遺産分割協議を成立させた場合には、すでに受遺者に権利移転の効力が生じている以上、新たに受遺者から交換・贈与されたものとして贈与税・所得税などの課税が発生します。

遺言と異なる遺産分割協議を成立させるには、遺贈を放棄した上で行うようにしてください。

 

相続人の一部が遺言を隠していた場合

相続人の一部が遺言を隠していた場合、相続人間で遺産分割協議を成立させても、遺言書の存在を知らなかった相続人に錯誤があるので遺産分割協議は無効となります。そして、遺言を隠していた相続人は相続欠格となり、相続権を失います。

遺言書と異なる内容の遺産分割協議を行うには、まず相続人全員が遺言の存在と内容を知っている事が大前提になります。

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