Q029 遺産分割協議の前に、相続財産の不動産を売却したい

【Question】

父の遺産についての遺産分割協議は、これからです。
私は、父の面倒をみるために父の家で同居していたのですが、今後はこの家も必要がないので、早く売却してしまいたいと考えています。もちろん売却代金は兄弟で公平に分けるつもりです。
弟たちには相談しないで、父と同居していた私がこの家を売却しても、かまわないのでしょうか。

 

【Answer】

まず、遺言が無く、2人以上の相続人がいる場合には、相続人全員が相続財産を共有(共同所有)することになります。
ご尊父のお住まいについても、同居していたか同居していなかったかに関係なく、相続人全員の共有となりますので、相続人1人で売却することはできません。
お1人で売却するには、ごきょうだいでの遺産分割協議をすることが欠かせません。

もし売却をお急ぎならば、共有のまま共同で売却します。
この場合には不動産登記も、いったん相続人全員で共有名義にしてからでなければ、第三者に所有権を移転できない仕組みになっています。

なお、相続税が課税されるようなケースでは、被相続人の自宅の敷地については、相続開始前から同居していた親族は『小規模宅地の特例』によって一定面積まで80%の評価減を受けることができます。ただし、相続税の申告期限まで居住し所有を継続することが適用条件(配偶者を除く)となっていますので、申告期限前に転居・売却してしまうと、この特例を受けることができません。ご注意ください。

 

【Reference】

相続人が2人以上いる場合のことを共同相続といい、この場合には相続財産はいったん相続人全員の共有となり(民法898条)、遺産分割の手続きをしてようやく、最終的に個々の相続財産を各相続人の単独所有にすることができます。

 

共同相続した相続財産の変更行為・処分行為

遺産分割が終わるまでは相続財産は共有になるわけですが、共有財産について形や性質を変える行為をするには、他の共有者全員の同意を得なければ、することができません(民法251条)。

家を例にするならば、増改築のような変更行為や、売却取り壊し担保に入れるなどの処分行為をする場合(売却も、「お金に変える」という点で、性質を変える行為です)には、他の共有者全員の同意を必要とします。

裏を返せば、他の共有者が全員同意してくれれば、共有物の変更行為・処分行為をすることはできるわけですから、共有状態の相続財産も、相続人全員が同意すれば、売却したり壊してしまったりすることができます。
相続人が1人でこのような行為するには、遺産分割協議によって共有状態を解消するほかありません。
また、多数決で決めてもダメで、必ず相続人全員の同意が必要です。

 

相続税における『小規模宅地の特例』

相続や遺贈によって取得した、被相続人等の自宅や事業用建物・事業用構築物の敷地については、一定面積までの部分については財産評価額が安くなります。これは『小規模宅地等の特例』などと呼ばれ、評価額が80%減となる大きな特例です。

なぜこのような特例があるかといえば、自宅や事業用敷地にドカンと多額な相続税がかかると、そこに住み続けたり、そこで事業を継続したりすることが、できなくなってしまうからです。

ところが税制改正により、2010年(平成22年)4月1日以降に発生した相続については、相続開始前から同居している相続人等が相続税の申告期限まで居住・事業継続をし、かつ、継続所有しなければ、本特例の適用対象から除外されてしまいました。(ただし、配偶者に対しては継続居住・継続所有の条件はなく、すぐに売却しても特例を受けられます)

そのため、小規模宅地の特例を利用して相続税を抑える必要がある場合には、このような土地をあわてて売却してしまうと特例を受けられなくなってしまいますので注意が必要です。

小規模宅地の特例については、相続税のところであらためて触れます。

 

なお、相続財産を売却し、その売却代金を分割することを『換価分割』といいます。換価分割についてはQ037をご覧ください。

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