Q134 母が遺言を書いてくれないのですが (死因贈与契約)

【Question】

私と同居している母は今年で90歳になります。
自宅の敷地は母が所有しており、建物は私が所有しています。
私は長男で、妹が2人います。

相続でもめたくないので、母に遺言書を書いてほしいと頼んでいるのですが、
「縁起でもない。今は元気なので必要ない」
「公証人なんて会いたくない」
などと言い、どうしても聞き入れてくれません。

せめて自宅の敷地だけは、私に名義が書き換わるようにしておきたいのですが、なにか方法はありますか?

 

【Answer】

どうしても公正証書遺言を書いてもらえないのならば、次善の策として『死因贈与契約』を利用する方法があります。

死因贈与契約は、公証人が作成する公正証書にしておくのが望ましいです。
しかし、ご高齢の方の中には、知らない人と話したり、面倒な手続きをしたりすることを避けたがる方も少なくありません。

このような場合、一般の私製契約書(私署証書)で死因贈与契約を締結する方法が考えられます。

ただし、不動産の死因贈与契約を私製契約書によって行う場合、下記のような点に注意が必要です。
(1)死因贈与契約執行者を決めておく。
(2)死因贈与契約書にはお母様に実印を押印してもらい、お母様の印鑑証明書・登記済権利証(登記識別情報)とともに大切に保管しておく。

この(1)(2)両方をきちんとやっておけば、万一の際でも、他の相続人である妹さんの関与を最小限にすることができます。

ただし死因贈与契約は、不動産登記手続きの際の登録免許税が遺言を利用したケースより高く・不動産取得税がかかるなど、コスト的には不利になります。また、登記簿上の地目が農地(田・畑)である土地を死因贈与する場合、登記手続きに際して農業委員会の届出・許可を必要とします。

なお、遺言と同様、遺留分等に対する配慮は避けることができません。

 

 

【Reference】

 

遺言を書いてもらえなくても死因贈与なら…

最近は遺言の効用が少しずつ認知されてきましたが、まだまだ『遺言を書く』という行為に抵抗を持つ方が大半です。
一般的には、『遺言』は人生の最後に作るもの、というイメージが強いのだと思います。

そのような場合に、『死因贈与契約』という方法なら、意外と抵抗なく受け入れてもらえるケースがあります。
『死因贈与契約』は、贈与者の存命中に「私が死んだらこの財産をあげる」という約束だけをしておき、贈与者が死亡してはじめて効力が生じる贈与契約のことを言います。

遺贈と死因贈与の違い等については、Q119もごらんください。

 

死因贈与契約を利用する場合の注意点

不動産についての死因贈与契約においては、次の点にご注意ください。

(1)できるだけ公正証書で行う。公正証書によらない場合は下記を参照。
(2)死因贈与契約執行者を定めておく(他の相続人の協力が不要になるので)。
(3)遺言による場合と異なり、受贈者が贈与者の相続人であっても不動産取得税がかかる
(4)登記の際の登録免許税が高い(税率は固定資産税評価額の2%)。
(5)登記簿上の地目が農地の場合、農業委員会の許可・届出を要する。

 

私製契約書(私署証書)で不動産の死因贈与契約を締結する場合のポイント

私製契約書(私署証書)で不動産の死因贈与契約を締結し、その中で死因贈与契約執行者が指定されている場合、その不動産登記手続きは、もらった人(受贈者)と執行者の共同申請で行います(登記研究322・73、447・83)。

この場合、契約の当事者である贈与者はすでに死亡しています。そこで、契約が真正なものであることを証しだてるために、贈与者の相続人全員の印鑑証明書付き承諾書を添付する扱いになっています(!!)。
しかし、もう一つ方法があり、死因贈与契約書に贈与者が押印した印鑑につき贈与者の印鑑証明書を添付すれば、相続人側の印鑑証明書付き承諾書は不要になります。この印鑑証明書は、もちろん3ヶ月以内という制限はありません(登研566・131、566・132)。

死亡届が提出されると故人の印鑑証明書は取得できなくなりますから、契約時に印鑑証明書を用意してもらい、死因贈与契約書・登記済権利証(登記識別情報)の3点セットで大切に保管しておくことが、重要なポイントです。

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2014年12月11日 | カテゴリー :