Q092 遺言を書くにはどうすればいいの?

【Question】

子供が3人おりますが、長女から、「弟や妹と相続で争いたくないので、遺言を書いてほしい」と言われています。

家族の仲は良いほうだと思うので、遺言が必要だとは思わないのですが、もしも遺言を書くとしたらどうすれば良いのでしょうか。

 

【Answer】

一般的に利用される遺言は、大きく分けて2種類あります。
公証人に作ってもらうもの公正証書遺言)」と、「自筆で書くもの自筆証書遺言)」との2種類です。

遺言を作成する方法は、民法に細かい決まりがあり、形式違反があると無効になります。
公正証書遺言ならば、公証人が作成するので非常に安心です。
公正証書遺言には他にもさまざまなメリットがあり、遺言を作成するならばできるだけ公正証書遺言の利用をおすすめします。

ただし、公証人に作ってもらうのですから、多少費用がかかります。

いっぽう、自筆証書遺言は、自分で作るものなので費用はほとんどかかりません。

ただし、前記のとおり形式違反があると無効になってしまいますから、ある程度自分で勉強をする必要があります。
紛失や破損のおそれがあり、家庭裁判所の検認手続きが必要になるなどの問題点もあります。
自筆証書遺言をご利用される場合は、デメリットの面に十分ご注意いただきたいと思います。

なお、公正証書遺言も自筆証書遺言も、いつでも何度でも書き換えは可能です。

蛇足ですが、仲の良いきょうだいでも、相続をきっかけに関係が冷え込んでしまったという事例は、数多くあります。
「遺言書さえ残しておいていただければ・・・」といったケースを、私たちも数多く目にしてきました。
ご長女さんの懸念を解消するために、遺言を作成されてみてはいかがでしょうか。

 

【Reference】

公正証書遺言とは

要するに、各地の公証役場にいる『公証人』が”清書”してくれるタイプの遺言書だ、とお考えください。

公証人の仕事はあくまでも”清書”ですから、(下書きまでは必要ありませんが)依頼する側が内容をある程度決めておく必要があります。
公証人は数が少なく非常に多忙なので、きめ細かいアドバイスは期待しないほうが良いでしょう。なお、そのようなアドバイスは、私たちのような司法書士の役割になります。

公正証書遺言の作成に当たっては、2人の証人が必要になります。
遺言者の家族等は、利害関係がからんでしまうので、証人になることはできません。
ご友人等に証人を依頼するのも手ですが、プライバシーをさらけ出すことになりますから、おすすめはしません。司法書士などにアドバイスを受けた場合は、その人に証人になってくれるよう依頼してみても良いと思います。なお、証人になってくれる人を手配してくれる公証役場もあります。

作成する遺言の内容を公証人に伝え、公証人のほうで清書の準備が整ったら、指定された日時に公証役場に行きます(日当・交通費を出せば出張してもらうことも可能)。2人の証人も同席します。

作成当日は、通常、次の手順で進みます。

1)遺言者が、公証人に、遺言内容を伝達する。
2)公証人が内容を筆記して(実際は、事前の打ち合わせで原稿はすでにできあがっていますが)、これを遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させる
3)筆記が正確であることを承認した遺言者と証人が、公正証書の原本に署名押印
4)費用を支払って、公正証書の正本と謄本を受領

 

公正証書遺言のメリット

・形式不備で無効になる可能性はほとんどゼロ。安心度が高い。

・公正証書の原本は遺言者が120歳になるまでは保管されていて、近い将来に電子化される予定。
遺言者が受け取った正本や謄本を紛失しても、手数料を払えば再発行してもらえるので、紛失や破損のおそれがない

・公証人が関与しているので、遺言が適切に成立したかどうかについて、相続人間で争いになる可能性は低い。

・自筆証書遺言とは違って家庭裁判所の検認手続きが不要。すみやかに財産の名義変更や預金の解約ができる。

 

公正証書遺言のデメリット

公証人に支払う手数料が必要。財産の額や内容、財産を渡す相手の人数にもよるが、通常は3~8万円程度必要。

・公証人によるきめ細かなアドバイスは期待できない。

・戸籍謄本等の提出が必要。不動産があれば登記事項証明書(登記簿謄本)も提出する。そのため、手間がかかる。

 

自筆証書遺言とは

遺言者が内容の「全文」と「日付」・「氏名」を自筆で書き、印を押して作成するタイプの遺言書です。
パソコンで作ってプリンターで出力したものではダメです。

書き方や訂正の仕方は、民法に細かい定めがあります。

用紙は、はがきでも便箋でもチラシの裏でもなんでも良く、印は三文判でもかまいません。

 

自筆証書遺言のメリット

・ほとんど費用がかからない

・公証人や証人が関与しないので、完全に内容を秘密にできる

 

自筆証書遺言のデメリット

民法上の要件を満たしていないと遺言が無効になる。

あいまいな内容表現や不正確な記述によって、遺言としての効力が認められないケースが、大変多い

遺言の成立について、争いになる可能性が高い
(たとえば、「遺言者の自筆ではない」とか「誰かによって無理やり書かされたものだ」など)

・紛失や破損のおそれがあるので、保存方法に頭を悩ませる

・何者かによって破棄・変造・隠匿される危険性がある

・遺言者が死亡した後、家庭裁判所の検認手続きが必要検認を受けないと財産の名義変更や預金の解約ができない
⇒ 検認とは、遺言の偽造・変造を防ぎ、遺言書を確実に保全するための手続き。遺言をあるがままの状態で保存しておくことが目的なので、遺言が有効か無効かを判定する手続きではない
⇒ 検認は、戸籍謄本などを全部そろえて家庭裁判所に検認を申立て、相続人全員が家庭裁判所に呼び出されて行う

 

秘密証書遺言について

『自筆証書遺言』『公正証書遺言』の他に、『秘密証書遺言』という方式があります。

自己または第三者が作成した遺言内容を記した証書に遺言者が署名・捺印の上、封筒に入れて封印しこの封書を公証人1人証人2人以上の前に提出し、「これは私の遺言書です」と申述する(遺言の内容には触れなくてよい)方式です。

遺言者が署名捺印さえすれば、内容自体は第三者が書いてもパソコンで作成してもかまわないという点や、内容を完全に秘密にできるという点に特徴があります。

しかし、
・結局、公証人の世話にならなければならない。
・にもかかわらず秘密証書遺言は公証役場で保管してくれないので、保管場所に悩まなければいけない。
・家庭裁判所の検認は、やはり必要
・・・ということで、自筆証書遺言のデメリットが解消されておらず、ほとんど利用されていません。

 

厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂厂
厂厂厂厂
厂厂厂  ©司法書士法人ひびき@埼玉八潮三郷
厂厂          お問い合わせはこちら
厂               無断転載禁止

2014年5月12日 | カテゴリー :