Q085 交通死亡事故の損害賠償金は相続されるの?

【Question】

夫を交通事故で亡くしました。おなかの中に子供がおり、将来が不安です。

これから損害賠償をどうするか考えますが、そもそもわからないところがあるので質問します。

(1)被害者である夫が死亡しているので、その損害賠償を請求する権利は私が相続することになるのでしょうか。
それとも、すでに受け取っている死亡保険金のように、私自身の固有の財産になるのでしょうか。

(2)損害賠償を請求する権利が相続されるものだとしたら、やはり相続税の対象になるのでしょうか。

(3)父親を失ったおなかの中の子供のために、慰謝料を請求できますか。

 

【Answer】

(1)死亡事故による損害賠償請求権には、相続するものと、あなた自身に固有のものと、両方あります

まず、死亡した被害者自身が生きていたら請求するであろう損害の賠償については、相続の対象となります。
たとえば、次のようなものが考えられます。
治療費  ②死亡による逸失利益  ③死亡に対する慰謝料 など

この他、あなた自身も事故によって精神的に傷つけられていますから、
①あなた自身の固有の慰謝料
も、同時に請求する事ができます。

なお、交通事故については、専門の弁護士に相談してみることをおすすめします。保険会社の基準よりも大きい損害賠償を引き出せる可能性があります。

(2)死亡事故による損害賠償金には、相続税も所得税も課されません

(3)死亡事故のような「不法行為に基づく損害賠償請求権」では、胎児も生まれたものとみなされます(民法721条)。
したがって、おなかの中のお子様も亡くなった父親の損害賠償請求権を相続することはもちろん、胎児にも固有の慰謝料請求権があります。

ただし、胎児である今の時点では請求できません。生まれた後、法定代理人(母親)であるあなたが代わりに請求することになります。

 

【Reference】

不法行為に基づく損害賠償請求権は、相続財産

交通事故(人身事故)があった場合、その加害者は被害者に対し、原則として『不法行為責任』という責任を負います。

そして、被害者の方は、加害者に対して不法行為責任を追求して損害賠償を請求する権利を取得します。この権利のことを『不法行為に基づく損害賠償請求権』と呼んでいます。

この 『不法行為に基づく損害賠償請求権』は、被害者が生存していれば当然その被害者が請求します。
では、被害者が死亡してしまっている死亡事故の場合はどうなのかというと、死亡した被害者が『不法行為による損害賠償請求権』を取得し、それを相続人が相続するという考え方で、裁判所などの法律の実務に争いはありません(学者の世界ではいろいろとありますが)。

交通死亡事故で、遺族が請求できる損害賠償の内容は、次のようなものが考えられます。
治療費
葬儀関係の費用
③死亡による逸失利益・・・生きていれば得られたはずの将来の収入等のことです
④死亡に対する慰謝料・・・精神的損害に対する賠償金のことです。たとえ即死であっても、被害者自身が精神的損害を受けたものとして慰謝料を請求する権利が発生します。
⑤弁護士費用     など

なお、慰謝料とは精神的損害に対する賠償金ですから、被害者自身のものばかりではなく遺族固有の慰謝料もあわせて請求することができます。こちらは相続財産ではありません。

 

損害賠償金には相続税も所得税もかからない

被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません

いっぽう、前記のとおり損害賠償金には遺族の所得になる部分もあるわけですが、遺族に所得税はかかるのでしょうか?
結論からいえば、所得税もかかりません。非課税規定があるからです(所得税法9条1項17号など)。

『相続税』のほうは、損害賠償金がどうして非課税になるのか、何度条文・通達を読んでも根拠がわかりません。
いろいろと考えてみたのですが、死亡事故による損害賠償金は、前記のとおり「相続する部分」と「遺族固有の部分」があるものの、これを厳密に区分するのが困難であるという形式面の事情と、死亡事故の遺族に支払われる賠償金に税金を課すのは、やはり心情的に許されない、という実質面の事情とがあるからだと思われます。

ただし、損害賠償金を受け取ることが被害者の生存中に決まっていたのに、それを受け取らないうちに死亡してしまった場合には、その損害賠償金を受け取る権利が相続財産となって、相続税の対象となります。

 

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