【Question】
2ヶ月前に、父が亡くなりました。相続人は、母・私・妹の3人です。
父は、「全財産を妻に相続させる」という遺言公正証書を残していました。
妹は遺留分を請求しないと話しているのですが、妹が請求しないぶん、私の遺留分が増えることになるのでしょうか。
【Answer】
遺留分権利者のうちの1人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分には影響しません。
したがいまして、妹さんが遺留分を放棄したからと言って、あなたの遺留分が増加することはありません。
【Reference】
遺留分は放棄できる
相続が開始した後は、遺留分権利者は自由にその遺留分を放棄することができます。特に手続きは必要ありません。
いっぽう、相続が開始する前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法1043条1項)。
これは、親が子に、夫が妻に圧力を加えて遺留分放棄を強要するおそれがあるので、どのような事情があって相続発生前に遺留分を放棄するのかを、きちんと家庭裁判所で審査することになっているのです。
それでは、どのような場合に、家庭裁判所は相続開始前の遺留分放棄に許可を出すのでしょうか?
家庭裁判所が相続開始前の遺留分放棄を許可する要件は、次の3点とされています。
(1)遺留分権利者の自由な意思に基づくものであること(外部からの強制ではないこと)
(2)遺留分放棄に合理性があること
(3)遺留分放棄の代償が支払われていること
相続が発生すらしていないのにもかかわらず、わざわざ家庭裁判所で遺留分放棄の手続きをするというのは、ほとんどの場合、自発的なものであるはずがありません。「誰かから頼まれている」のが通常であって、遺留分の事前放棄にあたっては、何かしらの対価が手渡されていると考えるのが自然です。そこで(3)が要件に入っているわけです.
このように、ある推定相続人に対して、相続開始の前に遺留分を放棄してもらうには、結局のところ財産をあらかじめ渡しておく必要があります。
現実に代償が渡される必要がありますから、「5年後に1,000万円渡す」という約束では、遺留分の事前放棄は許可されません。
なお、遺留分を放棄してもらうためにあらかじめ渡された財産は『贈与税』の対象になりますから、一度に大きな財産を贈与できる『相続時精算課税制度』等がしばしば活用されます。
このように、遺留分放棄には家裁の許可が必要ですが、それでも許可を受けさえすれば、相続が開始する前に遺留分を放棄できるわけです。
この点では、『家庭裁判所の相続放棄手続き』が、相続開始前には一切認められていないのと大きく違っています。
なお、事前に遺留分を放棄しても、故人が遺言を書いていないならば、相続開始後に相続人として自己の相続分を主張することはできます。
遺留分放棄によって他の相続人の遺留分は増加しない
遺留分権利者のうちの1人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分には影響しません。
誰かが遺留分を放棄したことによって得をするのは、遺贈や贈与によって財産を取得した人だけで、他の遺留分権利者ではないのです。
遺留分を放棄した相続人も、債務は承継する
遺留分を放棄しても相続権を失うわけではありませんから、被相続人が債務を残して死亡した場合、遺留分を放棄した相続人も、故人の債務を法定相続分に応じて当然に分割承継することになります。これを回避するには、相続開始後に家庭裁判所で相続放棄の手続きを取る他にありません。
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