Q058 生前贈与なのに相続税?

【Question】

相続税対策になるからという理由で、父は私に、贈与税の基礎控除額以内で毎年財産を贈与してきました。
ところが、父に相続が起きた場合に、生前贈与された財産も相続税がかかることがあると聞きました。これはどのような意味ですか?

 

【Answer】

相続税対策をする上で、連年贈与の活用はとても有効です。

ただし、相続開始前3年以内の贈与については、贈与税を払っていても払っていなくても、相続税の課税対象として加算することになっています。逆にいえば、3年より前の生前贈与は相続税の対象に加算しません。

従いまして、連年贈与で相続税対策をするならば、早ければ早いほど効果が大きくなります。

 

【Reference】

死亡前3年以内に贈与されていた財産は、贈与税でなく相続税

被相続人が亡くなった時点ですでに生前贈与されていた財産は、当然、もらいうけた人の財産であって故人の遺産(相続財産)ではありません。

ところが、亡くなる前の3年以内に被相続人が贈与した財産については、”相続税”がかかる場合があります。 どのような場合かと言うと、生前贈与を受けた人が、贈与した人の相続人(包括受遺者を含む)でもある場合です。

「贈与税の間違いじゃないの?」と思われるかもしれません。ごもっともです。
どうして生前贈与なのに、贈与税ではなく相続税がかかるのでしょうか?

もしも相続税という制度だけがあって贈与税という制度がなければ、相続税を逃れるためにはバンバン生前贈与してしまえばいいことになります。 このような相続税逃れを防ぐために、贈与税という仕組みを用意し、あえて相続税より高い税率にしているのです。
しかし何でもかんでも高い贈与税がかかるのでは納税者もたまりませんから、毎年110万円までの贈与ならば、贈与税は非課税とされています(暦年課税)。ここがポイントです。

もしも、余命わずかと宣告された後に、この毎年110万円の贈与非課税枠をフル活用して駆け込み的に生前贈与すれば、それによって遺産が少なくなりますから、意図的に相続税を減らすことができてしまいます。 反対に、高い贈与税を払って財産をもらいうけたのに、その後まもなく贈与者が亡くなってしまったならば、「亡くなるまで待って相続でもらっていれば、税金が生前贈与よりも安かったのに・・・」ということで不公平感が強くなってしまいます。

そこで、相続人となる人が、被相続人が亡くなる前の3年以内に遺産とは別に生前贈与を受けていた場合には、贈与税を払っているかどうかに関わりなく、すべて相続税の対象にすることにしました。 また、もし生前贈与を受けた時に納付した贈与税があればこれを相続税から差し引くことができるようにし、さらに納付済みの贈与税が相続税額よりも大きければ差額を還付することができるようにして、不公平を解消することにしたのです。

ただし、一つ例外があります。
居住用不動産にかかる贈与税の配偶者控除』を受けた財産の場合には、あげた人(贈与者)がその後3年以内に亡くなった場合でも相続税の対象にはなりません
この制度は、20年間連れ添った配偶者に居住用財産を贈与する場合には、一定額まで無税とすることで内助の功に報いるための制度です。そのため、贈与者がその後まもなく亡くなったからといって「やっぱり相続税を払ってください」とは、さすがの税務署も言えないわけです。

 

生前贈与の相続税加算をするときの注意点

死亡前3年以内の贈与財産を相続税の対象に加える場合、いくつか注意点があります。

(1)被相続人からの贈与財産のみが相続税の対象になる(相続税法19条)

被相続人以外からの贈与は対象になりません。
たとえば、毎年、父と母の双方から贈与を受けていた人がいて、ある時、父が亡くなった場合には、亡くなる前3年以内に父から受けていた贈与だけが対象になり、母からの贈与は対象になりません。

 

(2)対象になるのは『贈与の時における価額』(相続税基本通達19-1)

相続税に贈与財産を加算する場合には、相続発生時ではなく贈与時の時価を加算します。
たとえば、贈与時には価額が500万円だったが、相続時には600万円に値上がりしていた贈与財産については、相続税の対象として加算するのはあくまでも贈与時の500万円です。

 

(3)「相続開始前3年以内」とは、亡くなった日から3年前の同じ日以降を指す(相続税基本通達19-2)

たとえば、平成26年1月30日に亡くなった場合、平成23年1月30日以降の贈与が対象になります。

 

(4)被相続人から相続や遺贈で相続財産やみなし相続財産(死亡保険金等)を受け取らなかった者への贈与は、対象にしない(相続税基本通達19-3)

たとえば、父が子に贈与し、その後3年以内に父が亡くなった場合でも、子が家庭裁判所で相続放棄の手続きをするなどしてまったく相続財産を受け取らなければ、相続税の対象にはなりません。贈与税だけで完結してしまえばいい話だからです。

 

相続時精算課税制度によって贈与された財産は相続税の対象

相続時精算課税制度の届出をしていた贈与財産は、そもそも相続税で贈与税を精算することを予定していたものですので、相続税の課税対象になります。
ただし、亡くなった日の時価ではなく、生前贈与した時の時価で評価します。

 

 

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2014年2月3日 | カテゴリー :