Q042 遺産分割協議をやり直しできるか(相続人の合意による場合)

【Question】

先日、遺産分割協議がまとまって分割協議書への署名捺印を済ませました。
しかし、協議の中で長兄(A)が取得することになった貸駐車場については、諸事情から次兄(B)が継いだほうがいいのではないかという話が持ち上がっています。これについては他の相続人の間でも異存はないのですが、一度決まった遺産分割協議をやり直しても問題はないのでしょうか。
なお、その貸駐車場を含めて名義変更はすべて終わっています。

 

【Answer】

法律上は相続人全員の合意があれば遺産分割協議のやり直しは可能なのですが、税務上は原則として兄Aから次兄Bへの贈与として贈与税(または譲渡所得税)が課税されます。贈与税は税率が高いため、合意による遺産分割協議のやり直しを行う際には慎重にならざるをえません。

贈与税などの課税問題がクリアできれば再び遺産分割協議を行いますが、本件の貸駐車場は長兄Aへの名義変更(相続を原因とする所有権移転登記)を完了していますから、いったん長兄Aへの所有権移転登記を抹消し(所有権抹消登記または更正登記)、再度次兄Bへの名義変更をすることになります。登記申請に伴う登録免許税についてももう一度納付しなければなりません。

 

【Reference】

遺産分割をやり直したいというご相談は意外とあります。その理由は、次の2通りに大別できます。

(1)相続人全員の合意によって遺産分割の一部または全部を変更したいというケース
この場合、法的には「一度成立した遺産分割協議を合意解除し、再び遺産分割協議をする」と考えます。「すでに成立した遺産分割協議を変更する」とは考えません。

(2)遺産分割協議に無効の原因があるケース
たとえば、一部の相続人が価値の高い相続財産を隠していて、遺産分割協議が終わった後にその事実が明るみになった場合、もしもその相続財産の存在を他の相続人が初めから知っていたならばそのような遺産分割協議は成立しなかっただろうと考えられるような場合があります。
この場合には、遺産分割協議において重要な部分に錯誤がありますから、相続人は遺産分割協議の錯誤による無効を主張し、再び遺産分割協議を行うことができるでしょう。

なお、「単に一部の相続財産が協議から漏れていた」という場合には、後から発見された相続財産について追加的に遺産分割協議をすれば良いだけの話ですから、すでに成立した遺産分割協議の無効を主張することはできません。

本件のご相談は(1)のケースですので、ここで解説します。(2)のケースは次のQ043で解説します。

 

合意による遺産分割協議のやり直し

相続人全員の合意によって遺産分割協議のやり直しができるかどうかについては最高裁判決があります。

「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく・・・」(平成2年9月27日最高裁判決)

法律的な言い回しでわかりにくいですが、合意による遺産分割協議のやり直しは「できる」という判断です。
これを受けて、たとえ不動産の所有権移転登記を済ませてしまっていた場合でも、これをいったん抹消して再分割後にあらためて所有権を移転することができるようになっています。

このように司法の判断や手続きでは問題ないのですが、いざ相続人間の合意によって遺産分割協議のやり直しをすると、思いもよらぬ課税問題に直面することになります。
と言うのも、遺産分割協議のやり直しによって相続人間で配分し直した財産は、『贈与』『交換』『売買』など、遺産分割以外の方法によって取得したものとして取り扱われ、贈与税や譲渡所得税がかかってきてしまうのです(相続税法基本通達19の2-8より。本ページ末尾に記載)。

その理由は、このような合意による遺産分割のやり直しによる再配分が「一般的には、共同相続人間の自由な意志に基づく贈与又は交換等を意図して行われるものである」から、なのだそうです(名古屋国税局回答事例より。国税庁の言いたい事はなんとなくわかりますが、論理は成り立っていませんね・・・)。

従いまして、相続税を納めている場合には、それとは別に贈与税や譲渡所得税がかかってきてしまいます。
そうでなくても贈与税は税率が高いため、基本的には合意による遺産分割協議のやり直しは避けるべきであり、そのためにも最初の遺産分割協議をくれぐれも慎重にまとめることが大切なのです。

もっとも、(よほど)やむをえない理由があって遺産分割協議の合意による解除をする必要がある場合には、多少お目こぼしはあるようですが・・・

 

ご参考 相続税法基本通達19の2-8
「ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。(昭47直資2-130追加、昭50直資2-257、平6課資2-114改正)」

 

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