Q023 遺言のメリットとデメリットは?

【Question】

定年退職した会社のOB会に出席したときに、同期の友人が「遺言書を作ったので、とても安心しているよ」と話していました。遺言書を作ることにはどのような意味があるのですか?

 

【Answer】

『遺言』は、いつやってくるかわからない自分の万一のときに備えて、財産の分け方や認知などの身分事項について自分の希望が実現できるように、民法の決まりにしたがって作成しておくものです。

自分の心情を書き記しておく”遺書”とはちがい、遺言に書き記したことが法律的に有効になって、遺族や第三者が遺言書の内容に拘束されます。

具体的には、次のようなメリットがあります。
1) 家族の実情にふさわしい財産の配分ができる
2) お世話になった人や団体に、財産を分け与えることができる
3) 残された家族・親族の手続き上の負担を軽くすることができる

ただし、遺言は法律上の形式に従って適切に作成しなければ、かえってデメリットを生み出すこともあります。
たとえば、
1) 遺言の記載があいまいだったことが原因で、かえって争いの元になってしまうことがあります。
2) 法律の決まりに従って書かれていないと、希望どおりにならないことがあります。
3) いくら自分の希望が優先するといっても、あまりに実情を無視した内容では大きな紛争を引き起こします。

なお、余計なことかもしれませんが、法律家は『遺言』を『いごん』、『遺言書』を『いごんしょ』と呼びます。一般の方は『ゆいごん』『ゆいごんしょ』と呼ばれることが多いと思いますが、もちろん決して間違いではありません。ちなみに筆者は、専門用語が大キライなので、一般の方と同じく『ゆいごん』『ゆいごんしょ』と呼んでいます。

 

【Reference】

遺言を書いておくことの利点を、もう少しくわしく見てみましょう。

 

・家族の実情にふさわしい財産の配分ができる

「自宅は妻に残して生活の場を確保しておきたい」
「経営している会社の株式は、後継者である長男にすべて与えたい」
「介護に尽くしてくれた長女に財産を多く残したい」
「障がいのある子には、生活できるだけの資産を残したい」

このような希望を実現するための方法の1つが、『遺言』です。

万一のことがあったとき、故人が遺言をのこしていなければ、遺産は法定相続人全員による話し合いで、だれがどのように引き継ぐかを決めます。これが『遺産分割協議』です。
遺産分割協議には、すでに天国にいる故人が口をはさむことは、もちろんできません。

遺言をのこしておけば、基本的には遺言の記載内容が優先され、遺言の内容によっては遺産分割協議そのものが省略されることになり、遺言を作った人の希望が達成されるのです。

また、遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所での調停・審判となり、家族の間で骨肉の争いになることもあります。
適切な遺言書を残して財産の分割方法を指定しておけば、このような相続争いを防いで円満な家族関係を保つことができるという効用もあります。

 

・お世話になった人や団体に、財産を分け与えることができる

「苦労して世話をしてくれた息子の嫁にも財産をのこしたい」
「内縁の妻にも遺産を渡したい」

遺言がなければ、故人の財産はすべて相続人が承継することになりますが、遺言があれば、遺言者の意思にもとづいて相続人ではない人に財産を残す(遺贈)ことができます。
遺贈の場合は、生前贈与に比べて税負担などのコストが大幅に少なくなることもメリットになります。

また、団体に対して財産を残すことも可能ですので、「遺産を寄付して世の中に役立てたい」という希望もかなえることができます(ただしもらった法人には法人税、あげた遺贈者にはみなし譲渡所得課税の問題があります)。

 

・相続人の負担を軽減できる

相続手続きを経験されたことがある方でしたら、遺産分割とは大変面倒で、相当な量の事務作業を必要とするものであると痛感されたのではないでしょうか。

遺産を分割するには、まず前提として故人の遺産を調査してまとめ、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を揃えて相続人を確定するという作業を行う必要があります。遺産分割協議が成立するまでの間、故人の銀行口座は凍結され、自由に引き出すこともできません。

ところが、法的に間違いのない遺言書があれば、相続人が行うこのような作業を大幅に軽減することができます(公正証書遺言の場合)。
たとえば戸籍謄本については、故人の死亡記載のある最終の戸籍謄本と、実際に財産を引き継ぐ相続人の方の戸籍謄本があれば足り、預金口座についてもすぐに凍結を解除することが可能になります。

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2013年11月16日 | カテゴリー :

Q024 遺言に書くことができる内容とは?

【Question】

遺言は法律で形式が決まっていると聞きましたが、どのような内容を書くことができるのでしょう?家族への気持ちのようなことを書いてはいけないのですか?

 

【Answer】

遺言の内容は基本的に自由にですが、相手方の承諾を必要としないために、書くことができる内容は自然と法律によって認められたものに限られてきます

もっとも、法律に定められたものではないことを記載しても遺言自体が無効になるということはありません。たとえば「私の亡きあとも兄弟仲良く暮らしてください」と書いてもかまいません。これを『付言事項(ふげんじこう)』といいます。
当事務所では、遺言を作成される方には必ず付言事項を加えることをお勧めしています

なお、遺言に書くことで法律上の効力を生じさせることができる事項(遺言事項)は、次のとおりです。
単なる法律用語の羅列ですし、中には理解が難しいものもありますが、気にしないでください。

第1 遺言でしかできない行為
(1)相続分の指定・指定の委託(民法902条)
(2)遺産分割方法の指定、指定の委託(民法908条)
(3)遺産分割の禁止(同)
(4)遺産分割における共同相続人間の担保責任の定め(民法914条)
(5)遺言執行者の指定・指定の委託(民法1006条1項)
(6)複数の遺贈がある場合の、遺贈の減殺割合の指定(民法1034条但書)
(7)未成年者の後見人・後見監督人の指定(民法839条,848条)

第2 遺言によっても生前行為によっても、どちらでもできる行為
(1)遺贈  (民法964条。ただし、生前行為の場合は”贈与契約”となり、相手方の承諾が必要)
(2)財団法人設立のための寄付行為(民法41条2項)
(3)信託の設定(信託法3条2号)
(4)認知(民法781条2項)
(5)推定相続人の廃除・廃除の取消し(民法893条,894条2項)
(6)特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
(7)祖先の祭祀主宰者の指定(民法897条1項)
(8)生命保険金受取人の指定・変更(保険法44条)

 

【Reference】

上記の『遺言事項』は法律用語の羅列ですし、中にはほとんど利用されることがない事項もあります。
ここでは、重要なポイントだけを少し説明します。

 

・遺言に書く『財産の分け方』は、基本的に2つの方法がある

相続人に対して遺言で財産の分け方を指定するには、基本的に2つの方法があり、どちらの方法も必ず遺言で指定しなければいけません。

1つは、法定相続分と違った割合で、相続の割合を定める方法で、これが民法902条の”相続分の指定”です。
たとえば、長女に3分の2、次女に3分の1を相続させるというようなものです。
具体的な財産については指定していませんから、指定された相続分に基づいて遺産分割協議を行う必要があります。

もう1つは、ある程度財産を特定して財産の分け方を指定する方法で、これが民法908条の”遺産分割方法の指定”です。
遺産の目録を作ってそれぞれの取得者を指定する厳格なやり方もあれば、「預金は全部、妻に相続させる」というような、内容が不明確でない程度ならば大まかな指定でもかまいません。
「家と田畑は長男に、その他の財産は長女に」という指定も有効です。

 

・『遺贈』にも、2つのやり方がある

遺言で、相続人ではない人や団体に財産を与えると書けば、それは『遺贈』になります。遺贈にも2つの方法があります。

1つは、「Aさんに遺産の2分の1(あるいは全部とか3分の1とか)を遺贈する」というように、割合で定めて一括して与える方法で、これを”包括遺贈”といいます。
包括遺贈を受けた人(包括受贈者)は、相続人と同じ権利義務を負い、他の相続人とともに遺産分割に参加し、遺言で定められた自己の割合を主張することになります。もめることが当然に予想されますので、他に相続人がいる場合にはあまり利用されません。
また、遺言者に借金などのマイナスの財産があれば、包括受遺者も遺贈の割合に従ってこれを負担しなければなりません。

もう1つは、「Bさんにどこそこの家屋を遺贈する」というように具体的な財産を指定して遺贈する方法で、これを”特定遺贈”といいます。

なお、”相続人に対する遺贈”も間違いではありません。遺贈は、相続人ではない人に対しても相続人に対しても行うことができます。
もっとも、相続人に対して特定遺贈をした場合には、実質的には民法908条の遺産分割方法の指定として扱われます(ただし、不動産登記の手続きは遺贈の方式による)。

 

・付言事項はとても大切!

『遺言書』そのものは、遺産の配分をあなた自身で決めるための法律文書ですので、どちらかというと堅苦しい文書です。
しかし、内容や形式が法律上有効な遺言であれば、財産に関すること以外の内容を盛り込むことができます。これを『付言事項(ふげんじこう)』といいます。

たとえば、
・家族への気持ちや感謝の言葉
・遺言書を書いた理由や、財産配分の理由
・財産以外のことについて、頼んでおきたいこと
このような内容を盛り込んでおくことで、遺言者の想いを残された方々に伝えることができます。

想いが込められた付言事項があれば、残された方もきっと遺言者の気持ちを真摯に受け止めることでしょう。
財産の配分に不満があっても理解してくれる可能性がずっと高まり、それがひいては円満な相続を実現することになるのです。

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2013年11月17日 | カテゴリー :

Q025 遺言に書いてはいけないこととは?

【Question】

自筆で遺言を書こうと考えていますが、遺言書に書いてはいけないことはありますか?

 

【Answer】

遺言の内容は基本的に自由にです。
法律に決められている『遺言事項』以外のことでを書いてもかまわないのですが、遺言事項以外のことを書いても法的な効力はありません。
もっとも、内容によっては、相続人が意思をくみとって実現に向けて努力してくれるかもしれませんから、希望があれば書き遺しておくと良いでしょう。

もちろん、遺言は法律に基づいて作成する文書ですから、法律や公序良俗に反する内容は無効になります。
また、トラブルを起こす引き金になりそうな内容や表現は、絶対につつしむべきです。

 

【Reference】

遺言に書くことが法律上認められている事項以外のことを書いても、法的な効力はなく、相続人や第三者がそのような遺言に拘束されることはありません。
たとえば「株式全部をAに相続させる」という内容の遺言は有効ですが、「その株式を売却して家をリフォームしてください」と書いても、相続人がそれに縛られることはありません。

とは言え、そのような希望も、書いておくことによってかなえられる可能性がありますから、まったく無駄というわけではありません。希望したいことがあれば、遠慮なく書いてみるのも一つの方法です。

 

ただし、遺言を書く場合には、次のような内容や表現は避けるべきです。

1)法律や公序良俗に反するもの
このような内容はそもそも法律で禁止されており、遺言の記載事項としても無効となります。

2)相続人等やその家族・親族に対する誹謗中傷
このような人々への誹謗中傷(悪口・罵言)は、トラブルの原因となりますので避けるべきです。立つ鳥跡を濁さず、です。
ただし、遺言で相続人を廃除する場合には、廃除事由について詳しく記載しておくべきですが、こちらは誹謗中傷とは別の問題です。

3)日頃の言行と一致しない内容
常日頃から「この土地は長男のお前に継がせる」と言っていたのに、いざ遺言書を開封してみたら「次男に相続させる」「孫に遺贈する」などと書かれていれば、当然、相続人の間に混乱を招きます。
「他にも遺言があるのではないか」「遺言書そのものが無理やり書かされたものなのではないか」など、大きな紛争につながる危険をはらんでいます。このような遺言は現実に結構あるのですが、遺言を書く際には特に注意してください。

4) 後継ぎ遺贈
「財産をXに遺贈する。X亡きあとはYに遺贈する」というように、財産をもらいうけた人がさらに亡くなった後に受け継ぐ人まで遺言で決めておくことを『後継ぎ遺贈』といいます。

このような後継ぎ遺贈は、上記の例では前半のXに対する遺贈の部分は有効ですが、後半のXからYに対する遺贈の部分は原則として無効と考えられています。Xの財産処分の自由を侵害することになるからです。

このような後継ぎ遺贈を実質的に可能にするには、『信託』という仕組みを活用する必要があります(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)。これについては、いずれ別の機会に触れることにし、ここでは深く立ち入りません。

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2013年11月19日 | カテゴリー :

Q092 遺言を書くにはどうすればいいの?

【Question】

子供が3人おりますが、長女から、「弟や妹と相続で争いたくないので、遺言を書いてほしい」と言われています。

家族の仲は良いほうだと思うので、遺言が必要だとは思わないのですが、もしも遺言を書くとしたらどうすれば良いのでしょうか。

 

【Answer】

一般的に利用される遺言は、大きく分けて2種類あります。
公証人に作ってもらうもの公正証書遺言)」と、「自筆で書くもの自筆証書遺言)」との2種類です。

遺言を作成する方法は、民法に細かい決まりがあり、形式違反があると無効になります。
公正証書遺言ならば、公証人が作成するので非常に安心です。
公正証書遺言には他にもさまざまなメリットがあり、遺言を作成するならばできるだけ公正証書遺言の利用をおすすめします。

ただし、公証人に作ってもらうのですから、多少費用がかかります。

いっぽう、自筆証書遺言は、自分で作るものなので費用はほとんどかかりません。

ただし、前記のとおり形式違反があると無効になってしまいますから、ある程度自分で勉強をする必要があります。
紛失や破損のおそれがあり、家庭裁判所の検認手続きが必要になるなどの問題点もあります。
自筆証書遺言をご利用される場合は、デメリットの面に十分ご注意いただきたいと思います。

なお、公正証書遺言も自筆証書遺言も、いつでも何度でも書き換えは可能です。

蛇足ですが、仲の良いきょうだいでも、相続をきっかけに関係が冷え込んでしまったという事例は、数多くあります。
「遺言書さえ残しておいていただければ・・・」といったケースを、私たちも数多く目にしてきました。
ご長女さんの懸念を解消するために、遺言を作成されてみてはいかがでしょうか。

 

【Reference】

公正証書遺言とは

要するに、各地の公証役場にいる『公証人』が”清書”してくれるタイプの遺言書だ、とお考えください。

公証人の仕事はあくまでも”清書”ですから、(下書きまでは必要ありませんが)依頼する側が内容をある程度決めておく必要があります。
公証人は数が少なく非常に多忙なので、きめ細かいアドバイスは期待しないほうが良いでしょう。なお、そのようなアドバイスは、私たちのような司法書士の役割になります。

公正証書遺言の作成に当たっては、2人の証人が必要になります。
遺言者の家族等は、利害関係がからんでしまうので、証人になることはできません。
ご友人等に証人を依頼するのも手ですが、プライバシーをさらけ出すことになりますから、おすすめはしません。司法書士などにアドバイスを受けた場合は、その人に証人になってくれるよう依頼してみても良いと思います。なお、証人になってくれる人を手配してくれる公証役場もあります。

作成する遺言の内容を公証人に伝え、公証人のほうで清書の準備が整ったら、指定された日時に公証役場に行きます(日当・交通費を出せば出張してもらうことも可能)。2人の証人も同席します。

作成当日は、通常、次の手順で進みます。

1)遺言者が、公証人に、遺言内容を伝達する。
2)公証人が内容を筆記して(実際は、事前の打ち合わせで原稿はすでにできあがっていますが)、これを遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させる
3)筆記が正確であることを承認した遺言者と証人が、公正証書の原本に署名押印
4)費用を支払って、公正証書の正本と謄本を受領

 

公正証書遺言のメリット

・形式不備で無効になる可能性はほとんどゼロ。安心度が高い。

・公正証書の原本は遺言者が120歳になるまでは保管されていて、近い将来に電子化される予定。
遺言者が受け取った正本や謄本を紛失しても、手数料を払えば再発行してもらえるので、紛失や破損のおそれがない

・公証人が関与しているので、遺言が適切に成立したかどうかについて、相続人間で争いになる可能性は低い。

・自筆証書遺言とは違って家庭裁判所の検認手続きが不要。すみやかに財産の名義変更や預金の解約ができる。

 

公正証書遺言のデメリット

公証人に支払う手数料が必要。財産の額や内容、財産を渡す相手の人数にもよるが、通常は3~8万円程度必要。

・公証人によるきめ細かなアドバイスは期待できない。

・戸籍謄本等の提出が必要。不動産があれば登記事項証明書(登記簿謄本)も提出する。そのため、手間がかかる。

 

自筆証書遺言とは

遺言者が内容の「全文」と「日付」・「氏名」を自筆で書き、印を押して作成するタイプの遺言書です。
パソコンで作ってプリンターで出力したものではダメです。

書き方や訂正の仕方は、民法に細かい定めがあります。

用紙は、はがきでも便箋でもチラシの裏でもなんでも良く、印は三文判でもかまいません。

 

自筆証書遺言のメリット

・ほとんど費用がかからない

・公証人や証人が関与しないので、完全に内容を秘密にできる

 

自筆証書遺言のデメリット

民法上の要件を満たしていないと遺言が無効になる。

あいまいな内容表現や不正確な記述によって、遺言としての効力が認められないケースが、大変多い

遺言の成立について、争いになる可能性が高い
(たとえば、「遺言者の自筆ではない」とか「誰かによって無理やり書かされたものだ」など)

・紛失や破損のおそれがあるので、保存方法に頭を悩ませる

・何者かによって破棄・変造・隠匿される危険性がある

・遺言者が死亡した後、家庭裁判所の検認手続きが必要検認を受けないと財産の名義変更や預金の解約ができない
⇒ 検認とは、遺言の偽造・変造を防ぎ、遺言書を確実に保全するための手続き。遺言をあるがままの状態で保存しておくことが目的なので、遺言が有効か無効かを判定する手続きではない
⇒ 検認は、戸籍謄本などを全部そろえて家庭裁判所に検認を申立て、相続人全員が家庭裁判所に呼び出されて行う

 

秘密証書遺言について

『自筆証書遺言』『公正証書遺言』の他に、『秘密証書遺言』という方式があります。

自己または第三者が作成した遺言内容を記した証書に遺言者が署名・捺印の上、封筒に入れて封印しこの封書を公証人1人証人2人以上の前に提出し、「これは私の遺言書です」と申述する(遺言の内容には触れなくてよい)方式です。

遺言者が署名捺印さえすれば、内容自体は第三者が書いてもパソコンで作成してもかまわないという点や、内容を完全に秘密にできるという点に特徴があります。

しかし、
・結局、公証人の世話にならなければならない。
・にもかかわらず秘密証書遺言は公証役場で保管してくれないので、保管場所に悩まなければいけない。
・家庭裁判所の検認は、やはり必要
・・・ということで、自筆証書遺言のデメリットが解消されておらず、ほとんど利用されていません。

 

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2014年5月12日 | カテゴリー :

Q093 夫・妻のいる人が遺言書を作る場合に、気をつけたいこととは

【Question】

私の家族は妻・長女・長男の4人で、家族の仲は悪くありませんが、万が一にも相続争いにならないように、遺言を準備しようと考えています。

財産のリストも漏れがないように作りました。いつでも遺言を作る準備はできています。あとは何を準備すればいいでしょうか。

 

【Answer】

お連れ合いが健在な方が遺言を作る場合には、気を配るべき注意点が多く存在します。意外と、結構なボリュームになることも多いです。

できるだけ、遺言に詳しい(遺言作成の経験が浅いとダメ)司法書士や弁護士などの専門家のサポートを受けることが望ましいです。

 

(1)遺言はなるべく夫婦で作る

ご夫婦の仲が悪くないのであれば、なるべく奥様も一緒に遺言を作ることをおすすめします。

理由は2つあります。

1つめの理由は、『二次相続』の問題に配慮する必要があるからです。

奥様ご自身にあまり財産が多くないとしても、あなたに万一の事があれば、遺言に基づいて奥様があなたの財産を相続することになるでしょう(一次相続)。

そして、さらに奥様も他界したとき、2人のお子様が一切の財産を承継します(二次相続)。

この二次相続のとき、遺産の配分をどうするかを、あなたが遺言であらかじめ決めておくことはできません(後継ぎ遺贈の禁止)。二次相続の対象となる財産は「奥様のもの」だからです。

そこで、将来的に子供たちにどのように財産を承継させるか、よくご夫婦で話し合い、お二人で遺言を作るのが理想なのです。

 

2つめの理由は、奥様が先立つ可能性も十分にあるからです。
どちらが先立つか、誰にも予測はできません。

奥様自身の財産は、奥様が先立った場合には、当然その相続財産となります。
たとえば、家や土地がご夫婦共有になっていれば、その共有持分が相続の対象です。
そう考えると、ご夫婦の片方だけが遺言を書くだけでは、いかにも不十分です。

「妻の財産なんてほとんどないよ」とおっしゃるかもしれませんが、それでも預金口座の1つや2つはあるでしょう。今は無くても、これから作るかもしれません。

最近は、女性の社会進出に伴い奥様がそれなりの財産をお持ちであることが多く、やはり財産の多少にかかわらず、奥様も遺言を作成したほうが良いでしょう。

 

なお、ご夫婦で遺言を作る場合、夫・妻がそれぞれ1通作ります。
夫婦が連名で、共同名義の遺言を作ることはできません

 

(2)連れ合いが先立った場合に備えた遺言にする

これには2つの意味があります。

1つは、たとえば「妻に自宅を相続させる」という遺言を書いておいただけでは、先に妻が亡くなってしまえば、その遺言の意味がなくなってしまうので、それに備えるという意味です。

このような場合には、妻が先立った場合には代わりに誰に財産を残すのかを、遺言の中で決めておきます。これを『予備的遺言』といいます。

もちろん、妻に先立たれたあとで遺言を書きなおせば済むのですが、手間もかかりますし、そのときに自分が元気であるという保証はありませんので、予備的遺言は必ずしておくべきです。

 

もう1つは、お連れ合いが先立ったことにより相続した財産についても、可能な限り配慮する必要がある、という意味です。

これは、将来財産を引き継いでもらう対象者が2人以上いる場合には、重要な意味を持ちます。

具体例を出してみましょう。

たとえば、夫がA市に土地を、妻がB市に土地を持っているとします。

夫はその全財産を妻に相続させ、妻が先に死亡している場合には長男Xに相続させるという遺言をしました。
妻はその全財産を夫に相続させ、夫が先に死亡している場合には長女Yに相続させるという遺言をしました。

夫はその財産を将来は長男Xに継いでもらいたいと考えており、妻は長女Yに継いでもらいたいと考えているわけです。

これで妻が先立ったら、B市の土地を含む全財産を夫が相続します。そのままの状態で夫が亡くなれば、A市の土地もB市の土地もすべて長男Xに行き、長女Yには遺産が行きません。遺留分を主張できるだけです。
これではせっかく遺言を書いた妻の意思が反映されません。

不都合が生じれば遺言は書き換えることができますが、いざそうなると面倒なものです。そこで、遺言を最初に作るときに、夫婦どちらが先立っても、それぞれの気持ちを反映するような遺言を作っておくということが大切になります。

 

(3)連れ合いに遺産を残したくないケースでは

夫婦も様々ですから、「私は夫(妻)に遺産を残したくない。ある団体に全部寄付(遺贈)したい」というケースもあります。

配偶者にも遺留分がありますから、全財産を誰か特定の相続人に相続させたり、全財産をある団体に遺贈したりすることは難しいのですが、それ以前の問題として、このような遺言を作った場合にその遺言書を誰に保管してもらうのか、実際に遺贈の手続きを誰に進めてもらうのかを考えておかないと、夢物語で終わってしまいます。
もしもこのような遺言をお連れ合いが見つけたら、その遺言が闇に葬られる可能性は高いでしょう。

このような場合には、必ず、遺言の中で、信頼できる人や団体を遺言執行者に指定しておきます。そして、その遺言執行者に遺言を託すことになるでしょう。

 

 

【Reference】

遺言を作るとき、その作成時点における遺言作成者の財産だけを対象にしていることがほとんどです。専門家が関与した遺言でも、そのような内容が多いのが実情です。

しかし、遺言を作成する時点でお連れ合い(さらにはその親)が健在の場合や、遺言者の親が健在な場合などでは、それぞれ相続が発生することによって結果的に遺言作成者の財産が増加し、遺言作成時とは大きく財産状況が変化することがあります

このような事態になったら、遺言を書きなおすということが選択肢になりますが、そのときに遺言者自身が元気でいるかどうか、誰にも予測できません。そうでなくても遺言の書きなおしというのは面倒で、つい後回しにしてしまいがちです。

新しく財産を購入したり、宝くじにあたって財産が増えたりしたならば、遺言を書きなおすのは仕方がないかもしれません。しかし、配偶者や親の相続というのは、遺言作成時にあらかじめ予測できる事柄です。それならば、あらかじめ書き直さないで済むような遺言書を作っておくのがベスト、ということになります。

遺言書作成に精通した専門家なら、遺言に関係なさそうな親族についても、必ず細かに聞き出そうとするはずです。

 

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2014年5月15日 | カテゴリー :

Q095 判断能力が落ちていても遺言は書けるか

【Question】

このごろ母は物忘れ・置き忘れなどが多く、もしかして初期の認知症なのではないかと、私(長女)は心配しています。

私の末の弟(二男)は、母とも私たち姉兄とも、かなり以前から交流を絶っています。
そんなこともあって、私は、母に遺言を書いてくれるよう、以前から頼んでいました。

しかし、もしも母が認知症であると診断されたならば、遺言を書くことはできないのでしょうか。

 

【Answer】

仮にお母様が初期の認知症であるとしても、まったく遺言を書けないわけではありません。
物事にたいする一応の判断能力(意思能力)があるのならば、自筆で遺言書を書いてもただちに無効になるわけではありません。また、公証人も公正証書遺言作成に応じてくれます。

問題は、お母様が亡くなった後で、「遺言作成者は、遺言作成当時すでに認知症であり、意思能力のない状態で作成された遺言なので無効である」と主張して、遺言の効力を争ってくる相続人が現れてくることです。
お母様が認知症であるとすれば、遺言が有効か無効か、争いになる可能性は決して低くはありません。

そこで、できるだけ認知症の専門医にかかって診断をしてもらい、認知症かどうか診断をしてもらうべきです。
かかりつけのお医者さんでもいいのですが、専門医のほうが、紛争になったときの証拠力は高いです。

 

認知症ではないと診断されたならば、問題はありません。お元気なうちに遺言を作成するべきです。
この場合、なるべく公正証書遺言にすることをおすすめします。公証人と2名の証人が関与しますので、意思能力について争いになる可能性が低くなります。その際、診断書を公証人に提出しておけば、後日の証拠になるのでベストです。

 

もしも認知症であると診断されても、軽度であって意思能力があるならば、遺言を作れます。
こちらの場合には、自筆証書遺言は避け、必ず公正証書遺言にするべきです。自筆証書遺言では遺言者の意思能力を証明できません。公正証書遺言ならば公証人と2名の証人がいます。

また、認知症の方の遺言書は、内容を簡潔にするしかないでしょう。
たとえば、あるていど認知症が進行しているにもかかわらず、「土地をAに、○○銀行の預金をBに、それぞれ相続させる」という内容の遺言を作ったら、これは無効になる可能性が高くなります。このような内容の遺言は、「全ての財産をAに相続させる」というような単純な内容よりも、高度な意思能力が必要であると考えられるからです。

そのほか様々な手法で、意思能力があったという証拠を残しておく必要があります。
遺言を作れるかどうかは、結局は意思能力次第です。診断書を取ったうえで司法書士にご相談ください。

 

【Reference】

遺言を作成するためのハードルは低い

遺言は、ある人の最後の意思表示ですから、可能な限り尊重されなければなりません。

そこで民法の上では、
(1)未成年者でも15歳に達した者は、遺言をすることができる(民法961条。つまり親権者の同意は不要)。
(2)成年被後見人でも、事理を弁識する能力を一時回復した時には、2人以上の医師の立会いのもと、遺言をすることができる(民法973条)
とされているだけで、遺言を書く人がこれらにあてはまらなければ、法律上の制限はありません。

たとえ遺言者に保佐人・補助人がついていたとしても、その同意等は必要がありません(民法962条)。

 

意思能力だけは必要

しかし、遺言も意思表示の一つですから、事物に対する一応の判断能力意思能力)が必要であることはもちろんです。

意思能力がないのに書かれた遺言は、さすがに無効です。

認知症でも意思能力があると認められれば、公証人も公正証書遺言の作成を拒むことはできません。
さらに公正証書遺言の場合には証人も2人必要ですから、意思能力について争いになる可能性は、自筆証書遺言よりも公正証書遺言のほうがずっと低いことは間違いありません。

 

意思能力があるかどうかの基準は

認知症患者が激増し、2013年度に462万人を突破したとの厚生労働省の発表がありました。
遺言作成時の意思能力についての争いが、今後増加していくことは確実です。

遺言作成時の意思能力を客観的に判断するのはなかなか難しい問題ですが、よく裁判で引き合いに出されるのが、『長谷川式認知症スケール(HDS-R)』です。

認知症であるかどうかを診断するために行われるテストの一つで、30点満点中20点以下の場合に認知症の疑いがあるとされているものです。

長谷川式スケールは認知症の有無を判別する基準の一つにすぎず、得点による重症度の分類はしません。
しかし、点数が低いほど症状の重い傾向があることから、遺言作成時の意思能力が争いになった場合、それに近い時点で長谷川式スケールの検査を受けていれば、その検査結果が裁判において重要な資料のひとつになっていることは間違いありません。もしも10点以下ならば、遺言能力が認められる可能性は、非常にきびしくなります。

とはいえ、長谷川式スケールのようなスクリーニングテストの点数がすべてではありません。遺言作成時の状況や経緯、遺言の内容等を吟味したうえで結論が出されます。そのため、遺言の効力を争われるおそれがある場合には、意思能力があったことを証明するための資料を残しておくことが大切です。

(なお、長谷川式認知症スケールは、医師や臨床心理士等が使うか、あるいはその指導によって利用されるものとされています。一般人が利用しても正確さは期待できませんので、ご注意ください)

 

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2014年5月23日 | カテゴリー :

Q096 遺言書はいつ書くか?

【Question】

遺言を書いたら、すぐに死んでしまいそうで、どうも気が進みません。
遺言を書くのは、どのくらいの年齢の人が多いのですか?
どういうタイミングで作成するのがおすすめですか?

 

【Answer】

遺言は、退職のような人生の節目の時期に作る方や、古希や喜寿のようなご長寿のお祝いをきっかけに作る方が多く、ある程度お年を召された方が多いのは確かです。

しかし、遺言は15歳以上であれば誰でも作れますので、中にはお若い方もいらっしゃいます。
実例を下のReferenceでご紹介します

 

『遺言』とは、死期が間近な人が書くものであるというイメージが強く、なかなか気が向かないのはよくわかります。
また、自分の財産も増えたり減ったりしますから、なるべく間際になってから書きたいというお気持ちもわかります。

しかし、人の寿命はわかりません。
ぎりぎりになってからでは、遺言書を書こうにも書けないほど急に病気が悪化するかもしれませんし、不慮の事故に出遭うかもしれません。

ぎりぎり遺言をのこせたとしても、遺言の内容に不服がある相続人が、死亡直前に作成された故人の遺言は、すでに正常な判断能力を失った状態で書かれたものであるので、無効である」と主張して、争いになるケースが多いのです。

無理に今すぐ遺言を書きましょうとは申しませんが、もし遺言を書くならば、元気なうちに、思い立った時に書くのが、タイミングとしては最善だと思います。

 

なお、遺言は、
(1)一度書いても、何度でも書きなおしができます

また、
(2)遺言を書いても、あなたの財産はあなたの自由にしてかまいません
たとえば、「A市B町の土地を長男Xに相続させる」という遺言を書いたからと言って、その土地を絶対にご長男に残さなければいけないということはありません。
あなたの財産なのですから、他人に売ってしまっても、まったく問題はありません。

 

 

【Reference】

 

ある若いご夫婦の『遺言書』

以前、ある手続きで、お二人とも30歳に届かない若いご夫婦から、自宅マンションの権利証をお預かりしたときのことです。

権利証の中に2枚の紙が挟まっていました。
普通の便箋の半分くらいの、小さな紙でした。

2通ともタイトルは『遺言書』となっていて、1通はご主人が、もう1通は奥様が書いたものでした。
そして、その内容は、どちらも「私は、自分の全財産を妻(夫)に相続させる」という内容だったのです。
メモ用紙のような小さな紙で、封もされていませんでしたが、法律上の自筆証書遺言の要件をみたした、正真正銘の『遺言書』でした。

我々のような専門家から見れば、内容的には不十分な遺言かもしれません。
しかし、このような遺言があるということによって、万一のことがあっても、お連れ合いの法律上の立場がより強く安定したものになることは、間違いありません

 

遺言をあまり重く考えすぎず、この若いご夫婦のように、『道具』として考える

それくらいが、遺言の作り方としては「ちょうどいい」のかもしれません。

 

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2014年5月27日 | カテゴリー :

Q097 遺言を書くべき人、書いたほうがいい人

【Question】

私は、ずっと遺言書はお金持ちのためのものだと思っておりましたが、 先日、保険会社主催の相続セミナーに参加して、財産があまり多くない場合でも相続争いになることがあると聞いて、遺言を書くかどうか迷っています。

家族は、妻の他に子供が二人おり、息子は、結婚後も私たちが住む家の近くに別の家を買って住んでいます。いっぽう、娘は他家に嫁いで、離れた所で暮らしています。

財産としては、自宅のほかには、預金が人並みにあるくらいです。

息子も娘も、孫を連れて時折帰ってきますし、ありがたいことに家族の仲は悪くないと思います。それでも遺言はのこすべきでしょうか。

 

【Answer】

息子さんも娘さんも実家を出て、それぞれ自分たちの家をお持ちということですから、個人的な意見ですが、必ずしも遺言はのこさなくてもいいと思います。

法律を飯のタネにしている専門家の大半は、ここで「それでも遺言書は必要です!」と力説するのでしょうが、私は変わり者なので、このようなケースでは遺言をおすすめしません。

ただし、遺言が必要ないのは、「ご夫婦ともに、二人のお子様を平等に扱っており、今後もそうである場合」です。
ご夫婦のどちらかが、たとえば次のように考えていらっしゃるならば、遺言によって手当てをしておいたほうがいいでしょう。
1)どちらかの子供に、自宅を継いでほしいと考えている
2)どちらかの子供に、老後の面倒を見てもらいたいと考えている
3)片方の子供にだけ家を買った時に資金援助した、というように、二人のお子様が平等に扱われていない

 

【Reference】

このご相談のケースでは、
(a)子供たちが二人とも実家から独立していて、戻る予定もない。
(b)家族の仲が良い。
(c)不動産が自宅のみで、収益物件や田畑・事業用地がない。
(d)家を継いでほしいとは思わない。自分たちが先立ったら、売却して良い。
…ということで、遺言作成をおすすめしませんでした。

このようなケースで遺言をのこすと、かえって良好な家族関係が崩れる可能性があると考えます。
最近では、両親が二人とも他界した暁には、実家は売却してその代金をきょうだいで等分するというケースが多いように思います。

 

絶対に遺言を書くべき人とは

一般的に、次のような方は、絶対に遺言を書くべきです。

(1)推定相続人の人数や、財産の種類・数が多い方

このような場合には、遺産をめぐって話し合い(遺産分割協議)が長引きがちです。
だれが何を取得するかについて明確にしておけば、紛争防止になります。

 

(2)子供がいない方

子供がいない場合、相続人はお連れ合い(配偶者)とあなたの両親(直系尊属)、あるいはお連れ合い(配偶者)とあなたの兄弟姉妹となります(Q003)。
親子間での相続と異なり、遺産分割協議は、なかなか円満に進みません。

 

(3)再婚をしている方

先妻の子供がいる場合、後妻・後妻の子供とトラブルになりがちです。

 

(4)病弱あるいは障害者の家族がいる方

生活弱者に対しては、経済的に困らないような配慮が必要です。
場合によっては、『信託』という仕組みを活用することがあります。

 

(5)個人企業の経営者、農業経営者

相続によって事業用資産が分散すると、事業を承継できません。

 

(6)推定相続人の中に、行方不明者や浪費家がいる方

財産を渡せない・渡したくない相続人がいる場合には、遺言を活用すべきです。

ただし、『遺留分』に対する配慮は必要です。

 

(7)推定相続人ではない人に、財産を残したい方

息子の嫁や、特別に看護にあたってくれた人などに財産を残すには、遺言(遺贈)か死因贈与という方法があります。遺言(遺贈)のほうが拘束が少なく使いやすいと思います。

 

(8)事実婚の方

入籍していないお連れ合いは、遺言がないと相続権自体がありません。

 
(9)死後は自治体・公益団体に財産を寄付したいとお考えの方

慈善団体やNPO法人などへ、死後に財産を寄付したい方。
 

(10)推定相続人がいない方

身寄りのない方の財産は、遺言がない場合には、原則として国庫に帰属してしまいます。

 

 

 

遺言を書いたほうが良いケース

次に、「どちらかというと遺言を書いたほうが良いケース」です。
遺言以外の方法を採用する場合もあります。

(1)相続財産を均等に分けない(または均等に分けることが難しい)場合

現在の民法では、均分相続という考え方が採用されており、同順位の相続人が複数いる場合、その相続分は均等です。
たとえば子が複数いる場合、 それぞれの子の相続分は、原則として均等です。

そのため、子が複数いるのに「家は長男に継いでほしい」というように、相続財産を均等に分けない(または均等に分けることが難しい)場合には、遺言を活用するケースが多いです。

多少、『遺留分』に対する配慮は必要です。

 

(2)親元に同居の子と、別居の子がいる場合

この場合、同居の子が老親の世話をしたり介護にあたったりすることが多いと思います。お墓などの祭祀を引き継ぐことも多いでしょう。
このようなケースでは、遺言によってあらかじめ財産を割り振っておいたほうがいいでしょう。

 

(3)特定の子に対してだけ、生前贈与等が多い場合

きょうだいの間に不公平があると、遺産分けのときに、「特別受益」をめぐって争いになることが多いです。
遺言で「持ち戻し免除の意思表示」をするのも、ひとつの方法です。

 

 

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2014年5月30日 | カテゴリー :

Q098 自筆証書遺言を書くときの注意点とは

【Question】

今月、私は喜寿を迎えました。この機に、遺言書を書きたいと思います。

まずは自筆で書こうと思いますが、どのような点に気を付ければいいでしょうか。

 

【Answer】

遺言者が内容の「全文」と「日付」・「氏名」を自筆で書き、印を押して作成するタイプの遺言書のことを、自筆証書遺言といいます。

遺言の形式は民法で定められており、形式違反があると無効になってしまいます。
また、内容が不明瞭・あいまいだと、書かれている内容をどのように解釈するかで争いが生じたり、登記所や銀行で手続きができず役に立たなかったりすることが大変に多いです。

自筆証書遺言は、保管方法が難しい・家庭裁判所の検認が必要など、多くの欠点があります(詳しくは、Q092 遺言を書くにはどうすればいいの? )。
なるべくなら、公正証書遺言をお作りいただきたいと思います。

どうしても自筆で、ということでしたら、以下の点にご注意ください。

 

【Reference】

(1)ご夫婦で作る場合、それぞれ別に作る必要があります。夫婦共同の遺言は無効です。

 

(2)「全文」・「日付」・「氏名」を、必ず自筆で書いてください。
そしてなるべく、氏名に「住所」も併記してください。

次のようなものは無効で、法律上は何の効力もありません。
・代筆による遺言
・パソコンで作って印刷した遺言
・ビデオや録音による遺言

 

(3)日付は、和暦でも西暦でもかまいませんが、作成日をカレンダーで特定できる必要があります。
「吉日」というふうに書いてしまうと、作成日を特定できないので無効になります。

 

(4)氏名の後に必ず印鑑を押してください。印鑑は三文判で大丈夫ですが、シャチハタは消えるので不可です。

 

(5)訂正する場合にも決まりがあります。間違えた場合には、書きなおしたほうが無難です。
訂正方法は、別の記事で説明します。

 

(6)必ずしも封筒に入れる必要はありませんが、改ざん・変造を防ぐため、封筒に入れて封印したほうが望ましいです。
封印の仕方は、別の記事で説明します(Q099 遺言書の封印と保管はどうするか)。

 

(7)「財産を残したい相手」が親族であるならば、「妻○○」「長女××」のように記載すれば、自筆証書遺言では十分です。
親族でないならば、少なくとも相手の方の氏名・住所・生年月日を記載しておかないと、相手が特定できないおそれがあります。

 

(8)財産を残したい相手が先に亡くなってしまったときに、誰に残すかを書いておくほうが望ましいです(予備的遺言)。

 

(9)財産を残すときは、なるべく財産を特定すべきです。
「3分の2は妻に、3分の1は長男に相続させる」という内容でも無効ではありません。しかしこれでは、個々の財産を実際にどう分けるか、残された側が話し合わなければならないので、遺言のメリットが活かされません。

なお、特定の仕方ですが、不動産については登記簿の記載どおり、金融機関については少なくとも銀行名・支店名で記載するとのがセオリーです。

 

(10)遺言に含まれていない財産についてはどうするか、記載しておくべきです。

 

(11)遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。

 

(12)財産を配分した理由や経緯なども書いておくと紛争防止になります。

 

以上が、自筆証書遺言を作成する場合に注意すべき点です。自筆ではこれくらいが限界だと思います。

なお、財産が増えたり変わったりした場合には、すみやかに書きなおしをするようにしてください。

 

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2014年6月3日 | カテゴリー :

Q099 遺言書の封印と保管はどうするか

【Question】

自筆で遺言書を書きました。

書きあげた遺言書は、封筒に入れておくのが一般的なのでしょうか。

また、保管場所は、どこにすればいいでしょうか。

 

【Answer】

遺言書は、封筒に入れなくても有効です。無効ではありません。
しかし、自筆証書遺言の場合には、封筒に入れて封印することをおすすめします。
変造や改ざんを防止するためです。
方法は下記をごらんください。

遺言書は、(特に自筆証書遺言の場合には)保管場所をどうするか、頭を悩ませるところです。

誰にもわからない場所では、見つけてもらえないので意味がなくなってしまいますし、反対に誰にでもわかる場所では、何者かに破棄されたり変造されたりするおそれがあります。

遺言書の保管方法としては、

「自宅の金庫に保管しておき、信頼できる人に保管場所を伝えておく」

か、または

「信頼のおける第三者に遺言書自体を預け、保管を依頼する」

などの方法が考えられます。
信頼のおける弁護士・司法書士などに預けておくと、守秘義務もあるのでさらに安心です。

なお、遺言書は、銀行の貸金庫に保管してはいけません(重要)

あなたに万一のことがあると、銀行はあなたの預金口座を凍結し、貸金庫もひらけないようにしてしまいます。
いつでも貸金庫を開けられるよう、家族等に代理人カード・代理人鍵が発行されている場合でも、契約者が死亡した場合は開けなくなります。

このようにして 閉鎖された貸金庫を開いて遺言書を取りだすには、相続人全員の同意が必要になってしまい、大変面倒なことになります。

しかも、面倒な手続きをしてようやく貸金庫を開いて遺言書を見つけたとしても、それが自筆証書遺言ならば、さらに家庭裁判所の検認を受けなければなりません。これはもう悲劇です。

自筆証書でも公正証書でも、遺言は、銀行の貸金庫には入れないでください。

 

 

【Reference】

 

遺言書の封印

遺言書を封筒に入れるか入れないかは、遺言者の自由です。

しかし、遺言書が自筆証書遺言である場合には、他の人が手を加えて改ざんするおそれがあります。そのため、できるだけ封筒に入れて、下記のように封印しておくと良いです。
遺言書の封印表側遺言書の封印裏側

なお、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができません(民法1004条第3項)。
もしも家庭裁判所ではないところで開封してしまったら、遺言が無効になるわけではありませんが、5万円以下の過料という罰則があります(民法1005条)。
そのため、相続人が遺言書を開封してしまわないように、上図のような注意書きを入れておくと良いでしょう。

 

遺言書の保管

公正証書遺言ならば、公証役場から受け取った遺言書の「正本」「謄本」を紛失しても、再発行してもらうことが可能です。公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているからです。
改ざんされるおそれもないので、公正証書遺言を作ったことだけを相続人に伝えておけば、それほど保管場所に神経を使わなくても大丈夫です。
(遺言者が存命中は、公証役場が推定相続人に遺言の内容を開示することはありません。公正証書遺言を書いたことを相続人に伝えても、内容が漏れることはありませんのでご安心ください。)

いっぽう、自筆証書遺言の場合には、次のような点から、保管場所は大きな問題です。
(1)原本は1通しかないので、紛失・棄損すると取り返しがつかない。
(2)誰も見つけることができなければ、遺言の意味がない。
(3)誰にでもわかるようなところに保管しておくと、何者かが破棄・改ざんする危険性がある

そこで、金庫に保管するか、信頼のおける第三者に預けておいて、保管場所を相続人に教えておくことが多いようです。

 

遺言書を貸金庫に保管してはいけない

ところで、「遺言書を銀行の貸金庫に保管しておく」というのが安心のようにも思われますし、そのようにすすめている書籍も少なくないのですが、遺言書を遺言者ご自身の貸金庫に保管することは避けましょう!

貸金庫の借主が亡くなった場合、相続人全員が借主の地位を承継することになり、貸金庫の中身は相続財産になります。

相続が発生したことを察知すれば、銀行は、預金口座と同様に貸金庫も凍結します

こうなると、相続人の一人だけで貸金庫を開けることは困難です。
理由は、銀行が相続人個別の預金払い戻し請求に応じないのと同じ理由です(Q039)。
中身を見せてくれることがあっても、中身を取り出すことまで認めてくれる可能性は低いとお考えください。

凍結された貸金庫を開けるには、相続人全員で、あるいは相続人全員が特定の代理人を選任して、貸金庫の相続手続きをする必要があります(遺言執行者が指定されていれば、執行者が単独で貸金庫を開けれられます。しかし、遺言執行者を指定した肝心の遺言書が貸金庫の中ですから…)。

家族が貸金庫を開けられるように、代理人カード・代理人鍵が交付されている場合でも、故人が契約していた貸金庫は開けられないことが多いので注意が必要です。
これは、契約者本人が死亡した場合には代理人の権限も消滅するという規定が、民法にあるためです(民法111条)。

自筆証書でも公正証書でも、遺言は、銀行の貸金庫には入れないでください。

 

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2014年6月5日 | カテゴリー :